ロリコン魔王と変態勇者
若干、下ネタ要素が入っていますので、そういうのが苦手な方、想像力が豊かな人は注意してください。
満月があたりを照らす夜。だが、村人達にとってはこの日ほど"闇夜"という言葉がふさわしい日は無かっただろう。
栄華極まる都会の地からはるかに離れた過疎地域の村、ヨージョリアス。数日前、この地に、世界を支配しようとする魔王が手下を従えて足を踏み入れ、村を荒らしていったのだ。
姿形は若い男。だが、その頭には立派な角が生えており、口元からはすべてを引き裂かんとする牙が生えていた。その姿に村人は怯え、村長は"何でもするから村を攻撃するのはやめてくれ"と懇願した。その言葉を聞き、魔王は手下を引き上げさせた。そして、村長の言葉を受け、一つの要求を差し出した。
「7日後の満月の夜、生贄の祭壇に生贄を差し出せ。条件は、この村でもっとも若い女性だ」
そういい残し、魔王たちは去っていった。
そして、今日がその生贄をささげる日である。魔王の生贄ともなれば無事に戻ってこれるはずは無いだろう。村での話し合いの結果、生贄には婚礼を間近に控えた、15歳の少女が選ばれた。当然のように婚約者の少年は泣きながら断固反対したが、「村がなくなってはどうにもならない」と、少女は生贄となる決心をした。
満月の夜という名の闇夜に照らされた生贄の祭壇。普段は村の祭事として使用される。当然人間を生贄に差し出すということはせず、多くは村で取れた農産物を、豊作祈願や収穫のお祝いとして大地の神にささげるためのものだ。
それが、このようなことに使われると誰が予想しただろう。村人たちは、怯えながら祭壇に向かう少女の姿を、何かに祈りながら見守っていた。少女が祭壇の生贄台に付いたころ、雲が月を隠し、あたりが暗くなる。
もう日が変わろうかという時間。暗くてはっきりとは分からないが、とうとう、魔王が以前連れてきた手下と共に、生贄の祭壇へ近づいてきた。静寂の夜にザッ、ザッという足音が響く。その足音一つ一つが、村人に恐怖という形で心に響いてくる。
やがてそれらの百鬼夜行が祭壇の前に到着したと同時に、足音がしなくなった。それを合図としたか、村長が百鬼夜行に向かって告げる。
「約束どおり、生贄は準備しました。これ以上の村への攻撃はやめてくだされ」
震える声が、あたりに響く。その声を聞き、震えていた体をさらに震えさせる者、涙すら流すものが現れる。
「私が、あなた様への生贄となる者です。お願いですから、これ以上村を荒らすのはやめてください」
闇夜に響く、透き通るような少女の声。再び、足音が祭壇に向かう。
数歩の足音が聞こえた後、その足音はぴたりと止んだ。それと同時に、雲に隠れていた月が再び、徐々にあたりを照らしていく。その月明かりが、少女のシルエットを徐々にフルカラーへと彩っていく。少女は俯いていたが、その表情は恐怖に怯えるでもなく、観念した様子でもなく、あくまでも、覚悟を決めた凛とした姿。
魔王は生贄の少女を嘗め回すようにじろじろと見る。貧しさを示すかのような、ところどころ穴の空いた古着に、かすかなふくらみ、そしてやや焼けた肌に、つややかな黒髪。顔を見られたとき、少女は目をそらしたが、お構いなしに魔王は少女の顔を見る。
しばらくすると魔王は少女の観賞を止め、振り返って言葉を発した。
「……これではダメだ」
その一言に、ざわめく村人達。少女も、一体何がダメのかわからず、あっけに取られている。
「まだだ、もっと若い娘を差し出せ」
「で、ですがその娘はこの村で一番若い娘です。これ以上は……」
村長は必死で魔王を説得する。一応、子供の女の子はいるにはいるが、子供を生贄に差し出すわけにはいかない。
「いいか、私が好きなのは齢10にも満たぬ幼女だ。次の満月の夜までに準備しろ!」
そういうと、魔王は手下を連れて引き下がった。途中、なにやら本を落としたようだが、それには気が付かなかった様子。
生贄候補の少女はそれに気が付き、本を手に取った。表紙を見て、いろんな意味で顔面蒼白する少女。
「そ、村長、これを……」
あわてて村長に、拾った書籍を手渡す。
「こ、これは……」
村長も、その表紙を見てある意味顔面蒼白。
「週刊ロリ☆通信」
「特集!性の低年齢化~9歳の少女のとある記録~」
タイトルを見た村人達も、いろいろと顔面蒼白した。
「奴は本気で子供に手を出そうとしているのか……?」
この本のせいで、せっかく1000文字以上かけた登場シーンが台無しだ。
夜明けを向かえ、ヨージョリアスの村人は、昨夜のいろんな意味での悪夢をおのおの思い出していた。
あのロリコン魔王には子供を差し出さなければならない。そして、差し出してしまえば最後、一体、どのような目に遭わされるかわからない。一体どうしたものか。そう考えながら村人たちは働いていた。
そのとき、遠くから一人の男がやってきた。片手に剣を持ち、多くの荷物を抱えている。歳は20代前半といったところだろうか。
「あれは、まさか……」
村長がその屈強な体を目の当たりにしたとき、救世主が現れたと思い喜んだ。そう、きっと彼は村のピンチを救ってくれる「勇者」なのだと。
若者が一歩、また一歩と近づいて来るたびに、いつ歓迎の挨拶を向けようかとタイミングを計る。やがて、誰もがその存在に気がつき、絶望の顔は一気に希望へと変わっていった。
若者が立ち止まる。村長はそこでその若者に近づきながら、歓迎の挨拶を差し向ける。
「ようこそ、ヨージョリアスの……」
「早く……俺を風俗に連れていけ……」
気が付くと村長は、手にしていた鍬を若者の頭上に振りかざしていた。
「……ここは……?」
気が付くと、若者は布団に寝かせられていた。
「そうか、俺はあの時欲望に駆られ、キャバクラから脱出して山奥に逃げたところだったんだっ!」
国王より命じられた悪魔退治の長旅の疲れで空腹に耐え切れず、不意に頭を殴られたような衝撃が走って倒れたことを思い出した。
「ごめんなさいね、おじいちゃん、せっかちだから」
15歳ほどの少女が、若者の額に濡れタオルを乗せる。ほてった体に冷たいタオルが心地よい。
どうやらここは村長の家であり、介抱してくれた少女は村長の孫娘らしい。
ヨージョリアスの村は農業で成り立っている。民家はほとんどがダイニング1部屋だけで、そこで家族で寝て暮らしている。村長といっても、その家は他の民家と大きくは変わらない。
囲炉裏で炊かれている焚き木の焼けるにおいがあたりに広がる。その火のぬくもりが、やや離れた場所にある布団のところまで伝わってくる。
「そろそろ行かないと、やつらが……うっ……」
「だめよ、おじいちゃんのスナイパー鍬スマッシュを受けたら、なかなか直らないんだから」
どうやらこの村長、来客で不審な点があるたびに鍬の一撃を浴びせているらしい。そんなもてなしでこの村は大丈夫なのだろうか。
「あ、そうだ。おじいちゃんが、勇者様が起きたら話があると言ってたわよ。落ち着いたら、おじいちゃんを呼んでくるから」
そういうと、少女は外に出て行った。
「……そうか……俺が勇者か……フッ……」
ただの旅人だった自分が勇者……そう考えながら、家の高い天井を見つめた。
まだ打たれたところの痛みは残っているものの、ようやく動けるようになったため、若者は村長に会う事にした。村長は他の村民と共に、秋の収穫を行っていた。
とはいっても、先日やってきた魔王にめちゃめちゃにされたばかり。収穫というより、田畑の修復作業がメインとなっているようだ。
昨夜の悪夢が嘘のような快晴の空。時折吹く強風が肌寒いが、その寒さも太陽のぬくもりで和らいでいるような気がした。
「村長は……あなたか?」
勇者と呼ばれた若者は、近くで鍬を振るっている男性に声をかけた。
「いえ、村長はあちらです」
男性は、別の畑で収穫を行っている村長のほうに目を向けた。
「そうか……あの鍬の振るい方、進入角度、間違いないと思ったのだが……」
謎の迷言を言うと、勇者と呼ばれた若者は村長のほうに足を運んだ。
村長はしばらく農産物の収穫を手伝っていたが、ふと若者が来ることに気が付くと、重い腰を上げた。
「おお、気が付かれましたか。ここでは何ですので、わしの家まで来ていただけないかな」
そういうと、村長は自分の家に案内した。案内されずとも、先ほどまで寝ていた場所なのだが。
途中で「きゃっ」という声が聞こえたが、村長は気にしていないようだ。
村長の家に上がると、「さあ、どうぞ」と囲炉裏の前に座布団を敷き、若者を誘導した。
指定された座布団に腰を下ろすと、先ほどの娘がお茶を差し出した。
「改めまして、ようこそ、ヨージョリアスの村へ。所有されている剣を見るに、この地域を放浪する勇者様とお見受けしますが、お名前は何と申されますか?」
「俺は、このあたりを放浪している、山田……いや……」
どうせなら勇者っぽい名前がいいなと思い、とっさに出てきた名前を口にした。
「エルセルード・カウクスと言う者だ」
「ほほう、エルセルード殿……実はそなたの実力を見込んでお願いがあるのじゃが……」
何の実力を見込んだのかは不明だが、村長はエルセルードに昨夜起こった襲撃事件の話をした。
「……なるほど、つまりその魔王はロリコンだったと」
「いえ、重要なのはそこではなく……あ、一応重要なのは重要じゃが……」
「事情はわかった。とにかく、そのロリコン魔王を倒せということだな。だが、ただというわけには行かないな」
早くしないと借金の取立てがやってくることを心配し、さっさと報酬を頂戴して、場合によっては逃走も考えていた。
「おお、そうですな。では魔王討伐に成功したあかつきには、この村の蓄えの半分を差し上げましょう」
「ふむ……まあいいだろう。だが、それだけでは足りないな。この村で一番若い娘を貰おうか」
エルセルードの言葉に、村長も村長の孫娘も驚きの表情を見せる。
「な……それではあの魔王と同じに……いや、魔王の手に渡るよりは……」
魔王の手に渡るとなれば、何をされるか分からない。それならば、この村を救った英雄と結ばれるほうがよいだろうと、村長は考えた。
「わかった。では魔王を見事討伐してくだされば、わしの孫娘を差し上げましょう」
村長の言葉に、孫娘も覚悟の表情を見せる。これで村が平和になるのであれば……
「いいや、その娘ではダメだ。もっと若い女を出せ!」
どこまでもあの魔王と同じことをいうのか……と村長は思ったが、ふと一つの考えが浮かんだ。
「し、しかしわしの孫娘より若いのは、村の男の子数人だけじゃ」
それを聞いて、エルセルードはあごに手を当てる。村長は、孫娘より若い娘がいないと知れば、さすがに諦めるだろうと考えた。が……
「……なるほど、それは悪くないな」
あまりに斜め上を行く反応に、村長は腰を抜かす。
「最近男の娘というものがあるではないか。つまり開発してやれば立派に……っと、まあ報酬の話は討伐してからでいいだろう」
エルセルードの言葉にひっかかりを覚えながら、村長はようやく報酬の話が終わったかと安堵した。
「魔王か……この俺が討伐してくれよう!わが愛剣・ディアブレードと共に!」
「……魔王の城は東の森の奥深くにあるといわれておる。必要なものは何でもおっしゃってくだされ」
「ではまずタバコと酒を……」
言いかけた瞬間、目の前を暗闇が襲った。
ヨージョリアスの東の森。昼間だというのに生い茂る木々に覆われてあたりは薄暗い。
道というほど整備されていない、とりわけ獣道に近いような、わずかにある人が通った跡を頼りに進むしかなかった。
時折聞こえるざわめく音。それは風の音か小動物が通る音か、はたまた魔物の類か。そんな不安を感じるのは、やはりこの道が魔王の根城に通じているからだろうか。
しかし、恐怖や不安も、時々開かれた場所に差し込む光が払拭してくれる。その場所を通り過ぎ、再び薄暗い森の中を進む。確実に、一歩ずつ近づく魔王の本拠地。
ふと、ざざっと何者かが通り過ぎる音がする。その方向に向かって剣を取るが、ただのゴブリンだったことを確認すると、剣を引っ込めて蹴りを一発入れた。
そんな不安定な道を、勇者エルセルードは通っていく。
「ちっ、全く、もう秋だっつーのに何でこんなに蚊が多いんだよちくしょう」
それは秋だというのに半そで姿なのが問題なのだろう。鎧の一つくらい装備すればよいものを。
時に愛剣・ディアブレード(笑)で草を刈り、時に強敵(主に蚊)と戦闘を繰り返しながら先に進む。すると、急に大きく開けたところに出た。そこには一軒の小さな小屋が建っていた。
「……ここは……?」
一見しただけでは、一体どのような建物かは分からない。洋菓子店のようでもあるし、あるいは武具店のようでもある。もしかすると、単なる民家なのかもしれない。
エルセルードが建物の入口に近づくと、なにやら看板のようなものが入口の壁に掛けられていた。
「……幸運販売代行店?」
どう考えてもうさんくさい店だが、あまりに気になったので入ってみることにした。魔王の城に向かっている途中にこんな寄り道をしても良いのだろうか?
そっと扉を開けると、入口のベルがちりんと鳴った。
「いらっしゃいませ♪、さあ、こちらにどうぞ~」
女の子にしては少し背が高く、すらりとした姿の少女が、エルセルードを入口近くにあるテーブルへ招き入れる。
「えっと……ここは一体?」
「おや、知らないで入ったのですか?ここは幸運販売代行店という、運と寿命をやりとりするお店ですよ?」
「え、運と寿命?」
さっぱりわからんといった表情で、店員の少女を見つめるエルセルード。運と寿命のやり取りなんて、聞いただけで意味が分からないのは当然だろう。
「そうですね……このカタログをご覧下さい」
そういうと、店員の少女は「幸運カタログ」なるあやしいカタログを持ってきた。そこには金運、仕事運、恋愛運などの商品と、その"値段"が一覧されていた。
「例えば、お客様がお金持ちになりたいと思うのであれば、こちらの金運を、仕事をうまく進めたいのであれば仕事運をと、様々な運を得ることが出来ます。ただし、その対価としまして、お客様の寿命を求める運の量によっていただく、というシステムなのです」
「なるほど、わからん。例えば女の子にもてたいと思ったら恋愛運でいいのか?」
エルセルードは幸運カタログの「恋愛運」の欄を指差した。
「そうですね、恋愛運にも色々ありまして、例えば一途な恋をしたいとか、いろんな恋をしたいとかありますので、それによって価格は変わってきますね」
「ふむ、なるほど……よし、ならば俺は小さな女の子に持てる運をもらおう!」
突然エルセルードは立ち上がり、「これだっ!」という顔で店員の少女をじっと見た。
「ち、小さな女の子ですか……では免許書か保険証か、本人が確認できるものはございますか?」
「免許書……ちょっとまて、俺のサインでどうだ?」
そういうとエルセルードは、持っていた自分の名刺に、サインをして渡した。
「あ、名刺ですか?こちらでも結構ですよ。では手続きをいたしますので、こちらの書類に必要事項の明記を……」
「アティカお姉ちゃん、前頼まれてた設定資料集の件で、お客さんから電話が入っているでふよ?」
奥から別の女性の声がした。声からして、アティカと呼ばれた接客している店員よりも年下なのだろう。
「ちょっとまってカルチェ、すぐ行くから。……あ、では手続きに行ってまいりますのでしばらくお待ちください」
そういうと、アティカは店の奥に行ってしまった。
その間に、書類に目を通すエルセルード。名前を書く欄と、希望する運、買取か販売か、販売や買取によって生じる損害に関する免責事項などなど。とりあえずよく分からないので、名前の記入と「恋愛運」「販売」のところにチェックを入れ、再び「幸運カタログ」を読み始めた。
数分後、アティカが別の書類をもってやってきた。
「お待たせしました。ひとまず低年齢層からの恋愛運の上昇、ということで、25年4ヶ月の寿命をいただきますが、よろしいでしょうか?」
「なっ……もてるだけで25年も寿命が縮まるのか!?」
寿命のやり取りなど、非現実的だと思いつつ、いざ25年寿命が縮まると聞くとさすがに躊躇した。
「恋愛運ならこのくらいの相場ですよ。さてどういたしましょう?このまま帰られても100日の手数料がかかっていますが……」
もう既に入った時点で100日寿命が縮まっているということである。
「うぅ……しかたないな、では恋愛運、いただくぞ!」
さすがに取られっぱなしでは癪だと思ったのか、仕方なく契約書にそのほかの必要事項を記入していく。
「では最後にこちらに印をお願いします」
「……血印でもよいだろうか?あいにく印鑑というものを作って無くてな」
「血印ですか……まあ、良いでしょう」
エルセルードは自分の愛剣・ディアブレード(爆笑)で親指に傷をつけ、血印を押した。
「はい、契約は成立いたしました。これで自殺や事故などを起こさない限り、低年齢層への恋愛運は向上いたしましたので」
「うむ……イマイチ実感わかないが……まあいいか。では、先を急ぐのでこれにて失礼する」
「ありがとうございました~♪」
そういうと、エルセルードは荷物を取りまとめ、さっと店を後にした。
と同時に、店の奥から別の少女―カルチェが出てきた。
「あら、お客さん帰ったでふか?そういえば変な指定をしていたでふね」
「そうそう、小さい女の子にもてるとか。全く変なお客ね」
「お姉ちゃんも相当変わっているでふがね。たしか恋愛運って、年齢指定できたでふよね。何歳から何歳にしたでふか?」
契約書を見ながら、カルチェは変わった客の注文への対応について聞いた。
「0歳以上3歳以下よ」
「……それは範囲狭すぎ、というか実行されたらやばいんじゃないでふか?」
「しらないわよ。ちゃんと低年齢層にもてるようにしたんだから。年齢を指定しない客が悪いのよ」
「東の森支店に来て早々これでふか。不実の告知か何かで訴えられないでふか?」
森を抜けると、突如巨大な建造物が現れた。
薄暗い森を抜けたというのに、あれほど晴れていた空は暗雲立ち込め、遠くでは稲光がいくつも走っている。
禍々しい雰囲気の洋風の城。時折、コウモリが数匹出入りする様子が伺える。間違いなく、魔王はこの中にいる。
そして、扉の前には、門番らしきモンスターが2体。この中に入ることすら、どうやら容易にはいかないようだ。
城壁には多数の苔が生えており、時折壁の破片がごろりと落ちる音がする。はるか昔には、もしかするとこの城にもここら辺を統治してた王が住んでいたのかもしれない。だが、今は魔王に占拠され、荒れ果てた風貌に成り果ててしまった。
エルセルードは城壁の外から、扉の様子を伺っていた。そのまま入れば、多数の魔物と対峙することになる。そうなれば、1人のこちらは不利だ。
「うむ……あんまり戦いたくないんだがなぁ。なんか、城を一撃で吹き飛ばすような魔法使える仲間でも連れてくれば良かったな」
そんな魔法があったら、RPGは成り立たないだろう。が、いざ魔王と対峙するとなれば、そのような心情にもなるのだろうか。
「……そういえば、ここの魔王はロリコンだったな。ということは、こいつが役に立つか……」
こっそりと荷物から取り出す"あるもの"。これが攻略のキーになるに違いない。それを手にすると、ゆっくりと門番が待ち構える扉に近づいた。
魔王城の中。その屋上階に鎮座するは、もちろん城主である魔王。
戦いが起こるまで、一体魔王は何をしているのか……RPGをしていれば、そういう疑問を持つ人もいるのではないだろうか。
仮にも"魔物の王"である。次なる攻略に向けての作戦を練っているのだ。
テーブルにマップを広げ、それをじっと眺める。そして、攻略に必要な情報を速やかに書き出していく。
攻略には最善の選択が必要だ。知将というものは、一つの選択肢を選ぶにも、次の、さらにその次の展開を見越すものだ。
それは、時には「人間」というものの心を読むことも必要となることもある。それは行動パターンや趣味趣向といったものまで把握することだ。こうして人間の心を読むことも、先の選択を行うことに必要不可欠な要素となる。
攻略に必要な情報を書き終わると、次は枝のように細い指を細かく動かし、攻略の糸口を探る。どうすれば、次を攻略できるか。それが、この魔王の指一本で決まってしまうのだ。
「なるほど。ならば、次の選択肢はこれだ!」
部屋にある小さなモニターから情報を読み取り、そしてその情報を元に最善の選択肢を選び抜いた。
そして、モニターには小さな文字でこんな言葉が。
「信じらんない!こんなの私が欲しいわけないでしょ!」
「ぐわっ、しまった、リンダちゃんはきのこが苦手だったんだ!」
……魔王はギャルゲーをやっていた。
急に、バタンと部屋のドアが開く音がする。使い魔が報告にやってきたのだ。
「へ、へんたいです!へんたいです魔王様!」
「うるさい、私は変態ではない。ロリコンだ」
息を切らしながらしゃべる使い魔に謎の突込みを施す魔王。
「……で、私に何の用だ?私はリンダちゃんの攻略に忙しいのだが?」
「勇者がこの城に侵入してきました!」
「何!?門番は何をやっているんだ!」
「それが……」
言うが早いか、再び扉を開ける音がした。
「くっ、お前か、勇者というのは」
「くっくっく、いかにも。俺が勇者だっ!」
エルセルードは剣を片手に掲げ、勇者のポーズ(?)を取った。
「ここまで来たということは……もしや私の手下どもは……」
「そういうことだ。お前の手下どもは俺の手に墜ちた」
どういうことだ……そういう表情のままたじろぐ魔王。
「どうやらこいつが役に立ったようだな」
片手に持った"あるもの"を突きつけるエルセルード。
「そ、それは……」
「お前にも覚えがあるだろう?」
エルセルードが手にしているもの、それは「週刊ロリ☆通信」と書かれた雑誌だった。そう、あの時魔王が落としたアレである。
「主がロリコンだからもしやと思って門番に見せたのさ。そしたらどういうわけか意気投合してしまってね。中のやつらとも語り合ったものだ」
まさか自分の手下が勇者の手に墜ちているとは。しかも、自分が落とした雑誌のせいで。
「うおぉぉぉ!」
自分の情けなさと手下の堕落にやるせなさを感じ、咆哮を上げる魔王。
「くっくっく、私をここまで本気にさせたのは、どきどき☆ロリスタジアム以来だな。ここまでされてはお前を倒すしかないようだ」
「フッ、望むところだ。俺の名はエルセルード・カウクス。魔王よ、覚悟してもらおう」
「なるほど、名は聞かせてもらった。私は魔王鈴木……ではなく、ディグドレイ。いざ、尋常に勝負!」
お互い名乗りを上げたところで、お互いが自らの愛剣を敵に差し向ける。すぐにも動きそうな、だが戦闘の構えからなかなか動かない両者。使い魔も、異様な雰囲気に動けずにいる。お互い、動くタイミングを図っているのだろう。
しばらく続いた静寂の後、城内を照らす稲光、続いて雷鳴が鳴り響く。それを開戦の合図と取ったのか、まず仕掛けたのは魔王・ディグドレイ。
「まずは挨拶代わりだ!」
手にした剣を思い切り振り下ろし、その衝撃波をエルセルードに叩きつける。一瞬反応が遅れたか、エルセルードはその衝撃波を剣で受け止めるのが精一杯。
ついで、その衝撃波が壁にぶつかり、崩れ去っていく。土ぼこりが舞い様子は分からないが、手ごたえはあった。だが、油断は許されない。エルセルードがどこから攻めてきても良いように構えなおすディグドレイ。
「どうした、かかって来い!」
徐々に土ぼこりが晴れていく。だが、晴れた後には既に姿が無いかもしれない。次に目の当たりにするのは正面攻撃か、上からの奇襲か、あるいは背後を取られているかもしれない。様々な攻撃を予想しながら、警戒は怠らない。
完全に土ぼこりは落ち着いたが、エルセルードの姿はない。まさか後ろか。そう思った瞬間、そこには倒れた勇者エルセルードの姿があった。
「わっはっは、勇者ともあろう者が、この程度とはな!」
当然、本心ではこうは思っていない。当然、倒れたとしても、立ち上がって歯向かうのが勇者というものだ。実にうっとうしい。台詞では隙を見せながらも、実は警戒している姿は、魔王の鑑と言ってもいいだろう。
もう少ししたら立ち上がるに違いない……が、いつまでたっても立ち上がらない。それどころか、動く気配すらない。
「……おい、どうした?まさか本気で倒れたんじゃあるまいな?」
油断させているだけかもしれない。そう思いしばらくまったがやはり反応がない。
「おい、ちょっと確認してみろ」
しびれを切らし、使い魔に勇者の状態の確認を命ずる。もしも相手に何らかの作戦があるなら、使い魔が触れた瞬間、攻撃を仕掛けるなり何なりの行動を取るだろう。
「……魔王様、この勇者、死んでいます。」
「……は?」
「脈がありませんし、心臓が動いていません。それに手首から大量の血が流れています。おそらくこれが致命傷かと」
たしかに、しばらく見ていると大量の血が流れているのが確認できた。本当に死んでしまったらしい。
「……どうしましょう?死んでいますが止めを刺しますか?」
あまりにあっけない勇者の死に、使い魔までも戸惑っている。
「……復活させてやれ」
「……は?わざわざ倒した相手をですか?」
「でなきゃ話が進まんだろう」
何故か物語の進行を気にする魔王ディグドレイ。その指示に従うままに、エルセルードに蘇生の術を施す使い魔。むしろ使い魔がこんな蘇生呪文なんて覚えていていいのだろうか。
しばらくすると流血は止まり、傷口はふさがり、脈が回復していく。使い魔が術を唱え終わり、その場から離れると、エルセルードはピクリと反応を示した。
「……くっ、うっかり不意を突かれてしまった」
「いや、別に不意は突いてはいないぞ」
「ああ、すまん、晩飯のことを考えてしまってな」
なんともいい加減な理由で戦いの興をそがれてしまった魔王ディグドレイ。
「……というわけで仕切りなおしだ。でやっ!」
「ちょ、おま、まだ準備が……」
不意を突かれた魔王だったが、とっさに片手の剣を真一文字にし、エルセルードの攻撃を防ぐ。
攻撃が通じなかったエルセルードは、剣を弾く反動で元の位置へとすたりと戻った。
「おい、おかしいじゃないか!不意打ちしたのに何もダメージを食らわないなんて!」
「いやいや、何を言っているのだ貴様は」
「……まあいい、ではここからが本当の戦いだ!」
再び両者剣を構える。ピンと張り詰めた空気が、城内に漂っていく。膠着したような、しかし密閉された室内に風が吹いているような錯覚。
その空気の流れが変わったときが開戦の合図。今度仕掛けたのはエルセルード。片手の剣を真一文字に振り払う。が、大きなジャンプでそれを回避するディグドレイ。同時に、上空からの攻撃。振り下ろされた剣戟が風圧を生み、太刀筋とは別に真空波を生み出す。
剣本体の攻撃は同じく片手にした剣で防いだが、真空波によって着衣がびりびりと破けていく。
一旦間合いを取ったエルセルードは、邪魔だといわんばかりに敗れた着衣を破り捨てる。同時に、高速でディグドレイに突進する。横での攻撃が通じないと知れば次は縦に剣を振り下ろす。だが、それすらもいとも簡単に避わされる。
さらに回避と同時に行われた攻撃。真一文字の太刀を防ぐには、剣を立てた状態からのすばやい相殺。だが、剣のその一筋が重く、防いだはいいがその勢いで吹き飛ばされる。
何とか壁への激突は防いだが、もはや着衣はぼろぼろ、肉体への傷は軽微といえど、太刀を受けた右腕のダメージはなかなかの大きさだ。
しかし、そんな痛みにかまっているほどの暇は無い。片手に持った愛剣と、もう一つの短剣を相手にぶつけるべく、再び高速で向かっていく。衝撃波によってむき出しになった半身の肉体から迸る体液。次は回避されたと同時に追撃。短剣が避わされようとも、長剣の太刀は返せるか。その攻撃にあわせるように、ディグドレイもその長剣の太刀を同じく片手に持つ剣で防ぐ。
三度の攻撃も通らず、再び距離を置く。これだけの高速移動に相手の攻撃を受けては、さすがに息が切れてしまった。
「はぁ、はぁ……これほど攻撃しても当たらないとは……」
「……いいから新しいズボンを穿け。そんな粗末な短剣をこの身に当てたくはないわ!」
……せっかくのかっこいい戦闘シーンが台無しだ。そして下ネタになってしまったことをここに謝罪する。
「ちっ、しかたないな。だが貴様は運がいい。今日は泊まりだと思って着替えを持ってきていたのだ」
魔王の城にでも泊まる気だったのだろうか。最終決戦とは思えない速度で、ゆっくりと着替えをするエルセルード。
「三度仕切りなおしか。一体何度仕切りなおしすればよいのだ?」
「ふっ、そういっていられるのも今のうち……くっ……しまった、持病の中二病が……」
「いやいや、中二病って持病なのか?」
様子がおかしい勇者(?)エルセルードに思わず突っ込みを入れるディグドレイ。もはやどちらが勇者なのか分からない。
「ぐあぁぁ、邪気眼がぁぁぁ!」
「いや、そんな設定いいからさっさとかかって来い」
わけのわからないことをしているエルセルードに対して、何故か警戒するディグドレイ。さすがに魔王ならさっさと攻撃してほしいところだ。
「……ディーヴァ・エグルド・リーミスタ・マドティックァール・シヴィル……」
今度はわけのわからない呪文を唱え始める。
「くっ、こいつの中二病は……本物か!?」
とりあえず警戒するディグドレイ。もう何を警戒すればいいのか分からない。
「くっくっく、もう覚醒した我をとめることは出来ん!」
「よくわからんが、お前は止めさせてもらう」
「ふっ、おろかな……では我の奥義を食らうがいい。剣技・ディルス・リヴァスター!」
謎の中二必殺技名を叫ぶと、かつて見たことが無いような大ジャンプを見せるエルセルード。
「……!来るか!?」
改めて剣を構えなおすディグドレイ。さすがにこの攻撃は止めなければ。
……が、最高点まで到達し、剣を振るおうとした瞬間、魂が抜けたように全身から力が抜け、エルセルードはそのまま落下して地面に叩きつけられた。
「……まさかまた……おい、ちょっと見てみろ」
使い魔にエルセルードの様子を見させるディグドレイ。
「……やっぱり死んでます」
「手間をかけるな。蘇生してやれ」
再び蘇生の術を施す使い魔。
……が、今度は全く復活する兆候が現れない。
「おい、生き返らないじゃないか。どうなっているのだ?」
「……恐らく、寿命だと思われます。さすがに寿命では蘇生の術では復活できませんから」
ここにきてまさかの寿命。今までの戦闘とは何だったのか。
「うむ……ならば仕方ない。ではちょっと早いがヨージョリアスの村に幼女を貰いにいくか」
「いや、満月は来月でしょう……とりあえず、この勇者の死体を始末して……うわぁぁ!」
そういって使い魔が勇者の体を抱えようとした瞬間、急に使い魔が爆発した。
「な、何があったのだ!?」
硝煙の匂いが充満し、砂埃が舞い散る。あたりの様子が把握しきれず、ディグドレイは混乱していた。
と、同時にきりつけられるような痛みと、生暖かい感触。
「ぐっ、お、お前……」
「やはり……勇者が勝つのは当然だよなぁ……幼女は俺のものだ!」
愛剣・ディアブレイド(苦笑)が奥深く刺さり、ぐったりと横たわる魔王ディグドレイ。青い血の海の中、朦朧とした意識の中、勇者に何か言葉を投げようとするが、うまくいかない。
「やはり俺とお前には妙な趣味という点で共有できるものがあったようだな。お前が魔王でなく、俺が勇者でなければ、友達になれたのにな」
愛剣を引き抜き、滴る血のりを振り払い、剣を鞘に入れる。魔王のかすかな声を聞くまでも無く、エルセルードはその場を後にした。
「いや……それは……な…い……」
それが、魔王ディグドレイの最後の言葉だった。
幸運販売代行店の店内。ここでは姉妹が言い争いをしていた。
「いやいや、さすがに25年は取りすぎでふ。一瞬で死んでしまうではないでふか」
台帳を見ながら、カルチェはアティカに投げかける
「そう?妥当な価格だと思うけど?何しろ、3ヶ月ちょっと、幼女にもてるわけだから」
「それは可哀想すぎるではないでふか?……てか、3ヶ月って……」
すばやく計算を行う。この価格に手数料は含まれていない。
「……あ、そうか。100日って3ヶ月ちょっとだったわね。さすがにそれは取りすぎか」
「しかしこのエルセルードっていう人、来た時点で寿命がたったの26年8ヶ月って、短命すぎないでふか?」
「まあ、人によるわよ。昔は寿命40年とも言われていたしね。とりあえず5年ほど寿命は戻しておきましょう」
「……余命5年とは悲しいでふね……。まあ、こちらも商売なので仕方ないでふが」
ヨージョリアスの村。勇者が出て早1週間。さすがにこんなに短期間で戻ってくるとは思ってはいないが、村人の誰もが勇者のことを心配していた。
「……本当に勇者様は子供に手を出すつもりじゃろうか」
「心配要りませんよ、もしそんな要求を出してきたら、こちらでフルボッコにしますから」
村人たちは勇者の報酬について心配していた。
それを遠くから聞いていた勇者エルセルードは、置手紙をしてヨージョリアスから去ることにした。
「報酬は十分いただきました。あなたの笑顔は村10年分の蓄えの価値がある」
この手紙を拾ったのは、村長の妻であった。
なんか、後半息切れした感じです(汁
連載にしていろいろ話を膨らませても面白いと思うのですが、とりあえず思いついたのが魔王vs勇者戦のネタだけだったので、そこまでは本当に駆け足で適当な流れになってしまいました。変態勇者も変態というよりただの中二病勇者だったみたいで。やはりタイトル先行だとあまりいい結果になりませんね(汁
何故か幸運販売代行店との謎コラボ。ふと思いついただけで、寿命が来て死亡、というのは、書いている途中で思いついたのです。
なんとなくラストが不満。もう少し、ラストは盛り上げるべきなんですけどね。眠くてあまりきれいにまとまりませんでした。
悪いところとか誤字とか台詞がおかしいとか色々あるとおもいますが、そういったところは感想で指摘していただければ、と思います。
……短編なのに1万字超えてしまった……