表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

BULLET:8

 山中の材木置き場にヘリが待機していた。

 報道用のヘリにカモフラージュしてはいるのだが、助手席側の隅に大口径のライフルが銃身を覗かせている。

 ローターが回転し、木屑を巻き上げて散布していた。

「ジムが来る、足留めを頼む」

「はい!」

 三人ほどがライフルを持って散って行く。

 それを見てから、スペンサーはヘリへと乗り込んだ。

 誰も疑問には思わなかった。殺せ、ではなく、足止めと口にした彼の心理に。

 そこには微妙な本音が見え隠れしていた。

 タイヤの軋む音が耳に聞こえる。

「頼んだぞ!」

 リーダーらしくない発破をかけて、スペンサーはパイロットに上昇を命じた。



 蜘蛛の巣状のヒビがフロントガラスに刻まれた。

 サムが急なハンドルを切る。

「「きゃあああああああ!」」

 少女達は伏せたまま、遠心力によってシートの上を転げ回った。

 どれが自分の手だか足だかもわからなくなるほどに絡まって。

「ジム!」

 ターン中に、ドアを開けて飛び出していった。

「無茶を!」

 車が半回転したところで、サムはアクセルを踏んだ。

 尻を晒して遁走にかかる。

「おじさん!」

「パパ!」

「ダメだ!」

 バックミラーで撃ち合いを確認できた。

 切ってしまうほどに唇を噛んで、サムは車を遠ざけた。



 ジムはコートの前を合わせ、腕を曲げて頭を庇った。

 そのまま身を低くして突っ走る。

 バスバスと何発か当たった。しかし防弾仕様のコートは、衝撃だけを体に伝える。

 懐から銃を抜き、曲げた腕の隙間から銃口を覗かせ、適当に撃つ。

 しかしその様に身を庇いながらでは、狙いも雑になってしまう。相手もそれをわかっているからこそ、材木の影に隠れもしない。

(奴は何処だ!?)

 ジムは、手短な木材の山に身を潜めた。

 走りながら、一通り目にした景色を、頭の中で反芻する。

 積み上げられた材木の山、砂砂利、プレハブの建物に、トラック。

 思い浮かべて、敵がどこを守ろうとしているか、当たりをつける。

 が、その思考を遮る爆音が轟いた。

「ヘリ!?」

 空を見上げると、低空をかすめるように、警察のヘリが通り過ぎていった。

 降下しかけたところで、何かを見つけ、追いにかかったようであった。

 ジムは勘を働かせた。

 舌打ちをする。警察が追ったのは、空を飛ぶ何かか、地面を走る物だと想像ができたからである。

 なら、スペンサーは、それに乗っているだろう。

「くそっ!」

 自棄になったジムの真近くに、敵からの銃弾がプレゼントされた。



「もっと寄せろ!」

 ムツキは、ライフルを構えながら、パイロットを叱り付けた。

 ヘリに乗っていたのはムツキであった。

 警察のヘリは、対空戦を行えるようにはできていない。

 ムツキは、安全を無視してドアを開けた。

 速度の都合で、抵抗が凄く、ヘリはバランスを失い、姿勢を崩す。

「空中戦なんて、無理ですよ!」

 パイロットが泣き言をわめく。

「閉めて下さい、落ちたいんですか!」

「やって見なきゃだろ! まだ一発も撃ってないんだ、横寄せろ!」

「車じゃないんですから!」

 ムツキは無視して、特製のゴーグルを目にかけた。

 その内側は特殊なディスプレイになっていて、ライフルのスコープと光ファイバーケーブルによって繋がれている。

 風速や距離なども表示されていた。コンピューターが自動的に、対象とするものを捉えて、照準位置を補正していく。

 絞るように、引き金の指に力を入れる。

「うわっ!」

 急にヘリを傾けられて、慌ててトリガーから指を外す。

「どうした!?」

「撃って来ました!」

「そりゃそうだろ!?」

 だが、突然として、正面のガラスにヒビが入れば、それは焦りもするだろう。

 割れたり、銃弾が飛び込んで来なかっただけでも、運が良かった。

 ムツキは毒づきながら、銃を納めた。

「やっぱ無理か」

「当たり前でしょう!?」

 ムツキが諦めてくれたことにほっとして、機体を遠ざけながら、パイロットは漏らした。

「何処へ行く気ですかね?」

「知るか!」

「……あのヘリなら、海を越えられるでしょうね」

「伊豆諸島へ渡る気か?」

 低空で飛ぶヘリを追跡できる様なシステムは警察にはない。

 それに、途中で船にでも乗り換えられたら、また厄介なことになる。

 伊豆沖の島には、ホームレスとも違った、独自のコミュニティが存在しているのだ。

 例え列島に戻ってくれたとしても、ムツキたちが持っているのは、ジャパンでの捜査権である。

 中国、ロシアの監督支配地域へと入り込まれたら、彼らには諦めるほか結論がなかった。

「厄介な……」

 上からの捜査打ちきり予告が、聞こえてくるようだった。

「その前に墜とぉす!」

「だからどうやって!?」

「知るか! とにかく逃がすんじゃねぇ! 絶対に追い詰めてやる!」

 パイロットの溜め息よりも、ムツキの鼻息の方が荒かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ