BULLET:11
「降ろせって言ってるだろ、なんで遠ざかるんだよ!」
窓にべったりと張り付いて、ムツキは降下していくヘリに歯ぎしりをした。
巨大なオイルタンカーが、速度を落として、ヘリを迎え入れようとしている。
デッキにはまばらに人影が見えた。どれも銃を持っている。
深緑色の海は、真上からでは平坦に見えて、スケール感を狂わせる。
「降りろってんだよ! でなきゃ跳び下りるぞ!!」
「やってくださいよ、勝手に!」
ヘリの着艦に合わせて、タンカーが速力を上げ始めた。
「あれにどうやって降りろってんですか!?」
パイロットが悲鳴を上げる。
「向こうのヘリはちゃんと降りただろうが!」
「じゃあなんであっちのに乗らなかったんです!」
「ヘリ飛ばすだけでも税金使ってんだ! 犯人捕まえなきゃ、なに言われるかわかんねぇだろ!」
ムツキは怒鳴りながらも、座席の下や背もたれの後ろを漁るように、がさごそとやり始めた。
「ちっ、何もないのかよ、このヘリ……」
見つかるものと言えば、予備のショットガン程度である。
「ナパームぐらいつんどけよ」
げっそりとする。
「警察のヘリになに期待してるんです」
「ライフルとショットガン、それに予備の弾……。お、催涙弾あるじゃねぇか」
やたらと大きな弾を見つける。
「マスクと、防弾チョッキもあるな?」
「ええ」
「お前も着ろ」
「ええっ!?」
勘の良いパイロットは嫌な予感に襲われた。
「突入する気ですか!?」
「ヘリを下ろすだけでいい、船内ハッチに取りつくまで盾になってくれ」
「嫌ですって!」
「早くしろ!」
チョッキを着込んだムツキは、強引に操縦桿を奪い取った。
代わりにチョッキを押し付ける。
「レバーは俺が持っててやる!」
「もう!」
その場の勢いと言うものかもしれない。パイロットの彼は、本当にレバーを預けてチョッキに腕を通した。
マジックテープだ、体の前面で重ね合わせるように止める。
すぐさま操縦桿を取り返し、深呼吸一つで下方にあるタンカーを見据えた。
「いいですか! タッチアンドゴーで行きますよ!」
「わかった!」
「行きます!」
レバーを押し込む、ヘリは急降下爆撃機のような勢いで突っ込んだ。
「ひゃーっほぉ! 騎兵隊ってこんな感じだよな!」
「知りませんよ!」
何処か楽しそうな返事に苦笑する。
(結構ノってんじゃねぇか!)
ギリギリの機首が引き揚げられる。ゴンという震動は、パイプか何かに足の当たった音だろう。
「グッドラック!」
「幸運がありゃあ、こんな国に生まれてねェよ!」
ニヤリと笑って、ムツキは跳び下りた。三メートルほどの落下で、着地の際に足が痺れたが、そうのんびりとはしていられなかった。
チュンと、真近くて銃弾が跳ねたからである。
それを皮切りに、集中砲火がムツキを襲う。
「くそ!」
駆けながら、隠れられそうな場所を探す。五メートルほど先にタラップがあった。
警察のヘリの外装甲は、基本的に防弾使用となっていた。が、ガラスはそうはいかない。
撃たれてひび割れが走ったように、防弾効果は薄いのだ。
所詮はヘリである。装甲車のように盾となれる堅さはない。
それでもムツキのために、敵を追い散らそうと、滞空してくれていた。
(無理しやがって!)
「おおおおっ!」
恐怖からつい声が出てしまう、ムツキは身を低くして駆け抜けた。
右手にライフル、左手には催涙弾の詰まったごつい銃、ショットガンは肩にかけている。
フル装備だった。
「早いって!」
ヘリが上昇して逃げにかかった。善意で残ってくれていたとはいえ、やはり文句は出てしまう。
タラップの後ろにハッチがあった。しかも開け放たれていたので、ムツキは迷わず飛び込んだ。
「ていっ!」
シュポン、シュコンと間抜けな音を立てて催涙弾が転がっていく。
簡易マスクとゴーグルのセットを着けて、突入する。白い煙の中、船員たちがうめき声を上げて転がっていた。
「そこだ!」
ムツキは何の躊躇もなくライフルを撃った。ゴーグルのために視界は悪いが、通路は広くない。
避けようもなく、肩や足に銃弾を受けて、赤き陽の昇る国の構成員は転がった。
これがただの船員であったなら? ムツキはそんな事を考えてかぶりを振った。
奴らは銃を持っていた、と。
「さてと」
換気の都合で、ガスの薄れは早かった。
もう視界は晴れ出している。
「……こういう時、大将はブリッジに居るもんだって、相場は決まってるんだよな」
ムツキの計画はずさんであった。
「で、ブリッジってどう行くんだ?」