貴族らしく振舞った結果
学園にて平民から男爵家に引き取られた庶子の令嬢が、第一王子やその周りの高位貴族の令息、王室御用達の大商会の跡取り息子と友人を超えた親しさで交流していた。その中には何と若手の教師すらいたのだ。
彼らには婚約者がいたのだが、彼女達は蔑ろにされた。
嫉妬など醜い、とか散々な事を言われもした。
下位貴族の令嬢達は、男爵令嬢に嫉妬もしたがそれと同時に夢を見た。高位貴族の令嬢を押さえて自分達がその立場になれる、と。
第一王子の婚約者は、男爵令嬢の被害者の令嬢を集めて冷静に言った。
「わたくし達は貴族です。貴族らしく対処いたしましょう」
男爵令嬢へ加害する事はなく、婚約者に直接物申すこともなく。彼女達はごく当たり前に「貴族らしく」振舞った。
まず、教師が解雇となった。
当然である。彼の恋愛対象がまだ成人前の少女だと露呈したのだ。仮に年の離れた婚約者だったとしても、学びの場でそれを分かりやすく露呈させるべきではないのに、彼は他に歳の近い婚約者がいながら成人前の少女をその対象としたのだ。
教師として不適切である。それが解雇理由だった。
次に大商会の跡取り息子が退学となった。
彼は平民である。婚約者が伯爵家の令嬢だからこそ推薦を貰って入学出来た。その推薦を取り消された結果、彼には貴族の保証が無くなった。
それだけでない。彼の振る舞いや言動も問題だった。
王室御用達というのはありとあらゆる調査が行われ、顧客情報の取り扱いにも厳重な注意を必要としていた。
それなのに、彼は男爵令嬢に貢ぐ為に商会の商品を無断で持ち出しただけでなく、それがとある令嬢が求めたもので、商会として何とか取寄せた一点物だった。それを勝手に男爵令嬢に渡したのだ。
学園でそれを見た令嬢からの問い合わせに、彼の親は激怒した。
令嬢は「信頼出来ませんわ」と王宮にこの件を通達して王室御用達の看板を剥奪されたのだ。
彼を退学させた事や度重なる商会からの謝罪を令嬢に行う事で何とか許しを貰い、王室御用達の看板はおろされたものの商会としての存続は保たれた。ただ、一度ついた傷は消えることはなく、規模は縮小せざるを得なかった。
次に騎士団長の息子が家に呼び出されて学園に戻らなくなった。
騎士団長の息子だからと言ってもその地位は世襲制では無い。実力こそが全てであるにも関わらず、彼は己を未来の騎士団長だと宣い横柄な態度に出ていたのだ。
他にも騎士団に所属する身内は学園にいる。彼らからの手紙で事情を知った騎士団長は恥ずかしさに見舞われた。何の実績もない子供が、親の力を自分の力のように利用したのも、未来の配偶者を守るどころかこき下ろしていることも何もかもが彼には許せなかった。
騎士団長は王城ではなく王都の外などでの活動を主とする第四騎士団に彼を放り込んで叩きのめして良いからとことん鍛え上げてくれと頼んだ。
王都の外には危険が多い。そして第四騎士団とは下位貴族の嫡男以外や平民が多い。騎士団長自らの頼みで扱いは平民と同じで良いとの許可を得ていたので、学園のことを考えられないほどに訓練漬けにされた。
他にも多くの子息が順に学園からいなくなり、最後に残った第一王子は忙しくて中々会えない父の国王陛下に呼び出された。
謁見の間には高位貴族の当主が集まり、婚約者の令嬢だけでなく、恋人となっていた男爵令嬢もいた。
前々から父には彼女を妻にしたい、今の婚約を無くしたいと願っていた。
もしかして、彼女を婚約者に変えてくれるのか、など自分の都合の良いことを考えていた第一王子はそこに、双子の弟である第二王子や神官長がいる事には気付いていなかった。
「アンドリュー。そなたは本日をもって王位継承権を剥奪する。ヨラダ領を治めよ。ナトーレ男爵家のアデル嬢との婚姻を王命にて決定とする。神官長、誓約書を」
「こちらでございます」
「また、アンドリューの有責により現在の婚約は解消。セレスティア嬢は第二王子マクシミリアンの婚約者となる」
第一王子アンドリューには父が何を言っているのかわからなかった。
アデルとの結婚はいいが、王位継承権を剥奪?ヨラダ領を治める?何故だ?セレスティアがマクシミリアンの婚約者に?何故?
「な、何故、私が?」
「分からぬのか?そなたは婚約者を蔑ろにした。つまりは公爵家を蔑ろにしたのだ。普通ならば後ろ盾となる婚約者を誰よりも大事にするものだが、そなたはそれを理解していなかった。
メルデルク公爵家は派閥を有している。その規模は大きく、その全ての家がそなたを支持出来ぬと余に宣言した。
貴族の支持を得られぬ者を王に出来るわけ無いだろう?それに、王家に嫁ぐ妃には幾つもの厳しい条件があるのに、そなたはその娘を妻にすると言ったのだろう?
王家に相応しくない娘と婚姻するならばそれに見合った立場にそなたがなるしかない。
その前に何度か忠告もしたが、王としての言葉も父としての言葉もそなたは聞かなかった。故に判断した。
理解したな?では、誓約書に署名せよ」
婚約者であったセレスティアの冷たい視線がアンドリューに向けられていた。恋人のアデルを見ると顔を真っ青にして震えていた。
国王は淡々と決められたことを告げるだけでアンドリューの話を聞くつもりが無いことが嫌でもわかった。
確かにセレスティアを大事にせよ、婚約者でない女性との距離を間違えるなと言われたが。それならばもっときちんと言ってくれれば良かったではないか。
「陛下。アンドリューは陛下がもっと丁寧に説明すべきだったとのお考えのようですよ」
「ふむ。つまりそれは、己で思考出来ないと言う証明ではないか。何故注意されるのか、それを考える力が欠如していると自ら証明したに過ぎない。幼子でもあるまいし、婚約者を大事にし、そうでは無い女性とは適切な距離を保つと言うだけのことも出来ないならば、民を守る王など到底無理だな」
マクシミリアンに答えた国王の言葉にアンドリューはカッと顔を赤くした。大勢の前でこんな屈辱は初めてだった。
結局アンドリューは署名する事になり、アデルとはその場で夫婦となった。離婚は許されていない。
ヨラダ領は小さな領地で辺境ほど遠くはないが周りには何もない土地である。そこを治めると言ってもどうすればよいのかすらわからない。
アンドリューもアデルも、学園を退学し、夢見ていた輝かしい未来とは遠い現実を突きつけられながら、逃げられないように固められた護衛に囲まれた馬車に乗って去って行った。
第一王子の婚約者であったセレスティアは婚約者が変わっただけで立場は何も変わらなかった。
セレスティアは穏やかになった学園でお茶会を開いた。参加者は男爵令嬢の被害を受けていた令嬢達。セレスティアが過去に集めて貴族らしく振舞おうと告げた人々。
敵対派閥の令嬢もいた。
あの男爵令嬢は貴族においての派閥なども無視して声を掛けて侍らせていたのだ。節操が無さすぎた。
「この度はご協力ありがとうございました」
「本来ならばわたくしと貴方は相対する立場ですものね。けれど、そうも言ってられませんでしたわ」
「ええ。あの庶子はバランスなど考えておりませんでしたもの」
王子とその友人までならばまだ分かるが、あの娘は顔が良く金がある者ばかりを選んで、その家がどの派閥に所属するのかも一切知ろうとしなかった。
しかも、誰か一人を選ぶつもりも無さそうだった。要は、若い男を愛人にしている未亡人のように振る舞いたかったのだろう。それでいて王妃を狙うなど。
「王族に嫁ぐには身内を除いて親しい異性は婚約者以外に存在してはならないのに。親しい友人、と皆が言った時点で妃にはなれないとなぜ分からなかったのかしら」
「彼女の生まれがそうだからではないかしら。要は、父親が正妻以外に子を産ませて、それでも貴族になれたのだから、と」
「まあ。許されるはずないでしょう?そもそも庶子など本来は表舞台に出してはならないのよ。一夫一妻を尊ぶ女神教の国なのよ?」
「分かっていた人は近付かなかったというのに」
お茶を楽しみながら溜め込んでいた不満を語り合う。このお茶会が終われば、本来の立場に戻る令嬢達。
セレスティアの婚約がマクシミリアンに変わったように、全員の婚約者が変更となった。その家に適切な子供がいない為に新たに別の家の令息と婚約した者もいる。
「貴族らしく振る舞うだけで良かったのですから楽でしたわね」
「ええ。お手紙を差し上げる。父と母にそれぞれ報告する。これだけですものね」
「商会も大変ですよね。よりにもよってセレスティア様の所望品に手を出したのですから」
「良いのよ。別の商会にも声を掛けていましたもの」
セレスティアは小さく微笑みながら、男爵令嬢の影響で勘違いをしている下位貴族もそろそろ引き締めなければと考えた。
つくづく、あの娘は余計な事をしてくれたと思いながらも、普段なら立場的に話す事も余り出来ない令嬢と接する事が出来てその点は良かったと結論づけた。
婚約は家と家同士が結ぶもので、それに対して横槍を入れられたならば家が対処すれば良い。態々自ら手を出す必要などない。
明るく華やかな令嬢達の声を聞きながら、久しぶりに美味しく紅茶を飲めたセレスティアは満足であった。
婚約が政略的なもので、家同士が結んでいるならば、婚約者が不貞とかそれに類似した行動をしたら相手の家に連絡して注意してもらうのが正しいのでは、と。
婚約者は将来の伴侶だけど解消できる関係で、教育は家がすべき事。婚約者がなぜ子供でも分かるような常識を教えなければならないのか、と常々思っていました。
家で躾しろよ、と。
なので、令嬢達は全て家に委ねました。




