第48話 上に立つ者の器
「そんなことよりも……お爺様はポールとライラの子をどうなさるおつもりなのですか?」
「あれはシュナイダー公爵家に養子に入れることにした。母共々、英才教育を施すつもりだ」
産まれたばかりの子供ならともかく、今さらライラのあの性格を矯正できるのだろうか。
「心配はいらぬ。あやつは殊の外若い嫁を気に入ったようだからの」
「まぁ、伯父様が?」
ライラはシュナイダー公爵となった伯父の元に嫁がされたと聞いていた。
気の優しい伯父が、ライラの我が儘に振り回されていないか心配に思っていたアンドレアだ。
「娘と孫が同時にできたようだと、いたく喜んでおったわい」
「ふふ、伯父様らしいですわね」
穏やかな伯父の元でなら、ライラも良い方向に変わってくれるかもしれない。
正しい知識を与えられず育ったライラも、ある意味被害者と言えるのだろう。
(だからといって、ライラのすべてを許す気にはなれないけれど……)
ポールは立場に溺れて、ライラは状況に溺れて、周りを見ようとしないままふたりは底辺に堕ちていった。
無知も傲慢も、すべては視野の狭さからくるものだ。
流されて、人に委ねて、こんなはずじゃなかったとすべてを他人のせいにして。
他責思考の人間は、これからもずっと被害者を生きることになる。
それは学ぼうとしない者の特徴であり、己に起こることすべてが自業自得のことだとアンドレアは思っている。
「それで、エドガー・シュミット。いい加減、腹は決まったか」
「その話は既にお断りした筈ですが……」
「何のお話ですの、お爺様?」
難しい顔でにらみ合うふたりを、不思議そうにアンドレアは交互に見やった。
「再三にわたり王位を継げと言っておるのだが。こやつは一向に首を縦に振らぬ」
「まぁ、エドガーが国王に?」
「もう勘弁してください。俺はシュミット侯爵家とアンドレアを守るので手いっぱいだと、何度言えば分かっていただけるんですか」
困り果てているエドガーを見る限り、祖父は冗談で言っているわけではないようだ。
「でもお爺様、エドガーの王位継承権は七位でしたわよね。他の方たちはどうなさったの?」
「全員が全員辞退しおったわ。わしがポールに下した処罰に尻込みしての。情けないことに、調べられたら痛い腹があるようじゃ。王位に就くにあたって身辺調査は必須だからのう」
「では、俺もそんな感じでお願いします」
「お主ほど正攻法に拘る人間はそうはおらぬぞ?」
「ぐっ」
探られても腹が痛まないのはエドガーくらいしかいないらしい。
祖父の諦めが悪くなるのも仕方ないといえそうだ。
「ですが俺は帝王学を学んでいません。国をまとめ上げる器ではありませんよ」
「お爺様の下でこれから学べばいいじゃない。シュミット家はわたくしに任せてくれればいいのだし」
「アンドレアまで何を言い出すんだ……」
どんどん怪しくなる雲行きに、エドガーの顔色までも怪しい色になってくる。
「ふむ、それも一案だが……いっそのことアンドレア、お前が王座に就くというのはどうだ?」
「わたくしが?」
「我が国初の女王誕生だ。どうだ、悪くなかろう?」
「絶対に駄目ですっ、そんなこと!」
「まぁ、なんだか楽しそう。国を治めるだなんて、領地経営よりもずっとやり甲斐がありそうですわ」
「うわぁ、勘弁してくれ、アンドレア!!」
頭を抱えるエドガーを見て、アンドレアはくすりと笑みをこぼした。
「冗談に決まっているじゃない。ね、お爺様」
「いや、アンドレア以上に人の上に立つ器を持つ者はおらぬやもしれぬな」
祖父は国王の顔のまま、真剣に考え込んでいる。
「知識欲、行動力、洞察力、視野の広さに視座の高さ、下の者に慕われる人柄、適材適所の見極め、そして他人を信頼し任せられる度量。どれをとっても抜きん出ておる」
指折り数えながら、祖父は満足そうに頷いた。
しかしアンドレアは首をかしげた。
これまでアンドレアは、自分ひとりの力ではなく、周りに支えられて生きてきたのだから。
「ですがわたくし、シュナイダー家の一件はお爺様のお力添えなくしてはどうにもできませんでしたわ」
そして、エドガーやエリーゼ、マリーたちの協力も大きかった。
今こうして穏やかに過ごしていられるのは、多くの者の助けがあったからこそ。
アンドレアひとりきりでは何ひとつ成し得なかったことだろう。
「そうやって奢らぬところもまた然り。己の限界を知り、できぬところは潔く人に頼る。それをするにも信頼できる相手が必要だ。また、人を惹きつける魅力も上に立つ者の条件と言えよう。力になりたいと思う者が後を絶たないカリスマ性を、アンドレアは十分備えておるからな」
祖父はどこか誇らしげだ。
大好きな祖父に、そして尊敬する国王に、これまでの努力を認められたように感じてアンドレアもうれしくなった。




