第一話
はらり。
舞う花びらをそっと掌に受け止め、私は目を閉じた。
陽光の感覚が閉じた瞼の奥に感じられて、なんだかそこはかとない生に対する感覚を同時に受け取った。
暖かい。
そうか。また、春がきたのか。
そう他人事のように心の奥で呟く。
そして心から湧き出る何かが、意に反して目頭を熱くする。
こんなところで心と体の導線を繋がなくていいのに。
ふわ…っと風が通り過ぎた。
甘い香りと、スパイシーな風の香りが同時に嗅覚を刺激してなんだか、ここは地球の料理場のようだ。
周りを憚らず、でも人通りの少ない場所で私は独り芝生に寝転んでいる。
言いようのない寂しさと、孤独と、多幸感。
本当、人間の心って複雑だな、とつくづく思う。
そんな私は、もう既に齢40を間近にした所謂いい歳をした女という生き物であった。
ざくっ…と土を踏みしめる音がして、誰かが私のパーソナルスペースに入ってきた。
思わず出た小さな舌打ち。
一人の空間を邪魔されることへの苛立ちを覚えながら、薄く目を開け様子を伺う。
どうやら誰かが通り過ぎようと近づいてきたようだが、それを再び閉じた目の奥で感じつつ早く立ち去れと願いながら息を殺す。
ざくっ、ざくっ。
スニーカーか?だとすると男か。
まぁどっちでもいいけれど、とっとと居なくなってよね。
私は空気、と言わんばかりの微動だにしない姿勢のまま暫く待つと、そのままその足音は遠ざかっていった。
ふぅっ…と大きくため息が漏れる。
人は、好きじゃない。
というより、寧ろ嫌い。
私に近づかないで。
再び取り戻した静寂の中で私は半身を起こし、タイトデニムのポケットに忍ばせていたアイコスを取り出して口に咥えた。