デスゲーム ~デセプションシンク~ ②
「追放したい人に投票してください」
その声と共にモニターが切り替わる。
参加者全員の名前と、決定のボタン。
これ、自分も選べる感じなんだ。選ばないけど。
神託者を名乗った人はあんまり追放したくないから、他の人で考えよう。
だとすると……
優希、武、昭、夏美、光琉、大輔。
どうしようかな。
怪しい発言をした人。意図的に外させにかかっている発言。その他もろもろ。思い出せ……
私はボタンを押した。
夏美。
決定。
道化師がいるから、結構怖いけど。
「投票が完了しました」
白衣の人のその声で、場の空気が重くなる。
もしかしたら、追放されるのは私かもしれない。
「夏美、6票。武、3票。美香、1票」
そうなるか……
夏美と武は怪しかったからな。
「えっ!あーし!?なんで?」
夏美は動揺している様子だ。
私に票が入ったのはなんでだろう。まあ、いいか。
「来たー、私の出番!待ってました!」
賑やかな声と共に、1人の人物が現れた。
桃色の髪をツインテールにした緑の瞳を持つ少女だ。ひらひらでふりふりの衣装を纏う、アイドルのような少女だ。
一点を除けば。
少女は大きな斧を担いでいた。
「みんな元気ー?こんにちは!処刑人のミューちゃんでーす」
……なるほど、死刑執行人といったところだな。
「さー、夏美ちゃん、おいでよ」
とても明るい雰囲気で話すのが逆に不気味だ。
夏美は座ったまま震えている。椅子がガタガタと揺れ始めるほどに。
「んー?来てくれないの?寂しいなー」
震えているのは夏美だけではない。それほどまでに、恐ろしい状況だった。
「じゃー、こっちからいくよ!えーい」
それは一瞬の出来事だった。
少女が斧を振る。
首が、飛んだ。
物理的に。
ドサッ
その首が地面に落ちる音は、重く響いた。
本当に、殺されるんだ。
その事実は、私たちに重くのしかかった。
というか、匿名投票だった。つまり、欺瞞者が探究者っぽい人に票をまとめて探究者を追放することが可能だ。まあ、不利になるから絶対口に出さないけど。
「2問目に行きます」
何事もなかったかのように白衣の人から告げられた言葉。
しっかりしないと。
またモニターが切り替わり、問題とタイマーが表示される。
『第2問:県庁所在地の名前が県名と一致しない県は?』
げ、いっぱいあるやつだ。
「優希だよ。ちょっと、問題の前に神託者の話を聞きたい」
それもそうか。
結局夏美は何だったんだろう。道化師ではないはずだけど。
「真由美です。神託者です。武が欺瞞者と……」
「!?」
真っ先に発言した真由美に、明らかに動揺した武。これはどっちの反応だ?欺瞞者だと言い当てられた時の反応なのか、探究者なのに欺瞞者って言われた時の反応なのか……
「綾子だよ。神託者だから大輔が欺瞞者ってなった」
「誠です。綾子が欺瞞者でした。偽物っぽいです」
さらなる情報が加えられる。
大輔は無表情で、綾子は納得したようにうなずいている。いまいち真偽が分からない反応……
「綾子だよ。対抗者を欺瞞者っていうのは当然だからね、そういってる誠のが怪しいかな」
「誠です。これ制御できるもんじゃないので対抗者がたまたま出ちゃったのも仕方ないじゃないですか」
対抗者は、同じ役職を名乗ってる別の人をさしてるね。
なんか複雑な状況だけど、神託者は一旦追放しないでおいていいだろう。
「優希だよ、確認も済んだし、問題を考えよう。悪いが僕は地理が苦手だ。余計に混乱させそうだから黙るよ」
優希が手をたたきながら場を収める。頼もしいな。
「美香です。北海道は札幌、沖縄は那覇だと思う」
私は積極的に議論に参加する。気がかりなのは、私に入っていた一票。意図は分からないけど、なんか怖い。
「武だ。栃木は宇都宮、滋賀は大津、静岡が浜松か……」
「光琉だよ〜。石川は金沢で~、岩手は盛岡~」
「真由美です。兵庫の神戸と香川の高松、島根の松江がありますね」
「大輔です。愛媛が松山……忘れたんですけど宮城県も違った気がします」
「綾子だよ。宮城は仙台だね、神奈川の横浜と山梨の甲府もある」
「昭ですが、茨城の水戸、愛知の名古屋があります。あと、しれっと紛れ込んでる静岡は静岡で、県庁所在地が県名と一致してるかと……」
「誠です。群馬の前橋、三重の津、そして微妙ですが埼玉。静岡が不正解なのは同意見です」
出そろったかな?私はこれ以上思いつかない。
「優希だよ。まとめると、北海道、沖縄、栃木、滋賀、石川、岩手、兵庫、香川、島根、愛媛、宮城、神奈川、山梨、茨城、愛知、群馬、三重?埼玉と静岡はどうする?」
優希がまとめてくれる。凄い記憶力だな。素直に尊敬する。
「美香です。埼玉は入れていいと思う、静岡は違う」
私は意見を言う。静岡って静岡市だった気がするんだよな。
「光琉だよ~。うろ覚えだから自信はないけど、それでいい気がするよ~」
「真由美です。いいと思います。時間もないですし」
モニターを見ると、残り10秒を切っていた。3分って短いんだな。
「時間切れです。解答お願いします」
いつのまにか真ん中に戻ってきている白衣の人がそう言う。
「北海道、沖縄、栃木、滋賀、石川、岩手、兵庫、香川、島根、愛媛、宮城、神奈川、山梨、茨城、愛知、群馬、三重、埼玉」
またもや優希が回答してくれる。
「正解です」
優希もすごいけど、一気に答え言われて正誤判定できる白衣の人もすごいんだな。
「追放したい人に投票してください」
もう誰に投票するかは決めている。
神託者に欺瞞者認定され焦りを見せた人物。
クイズの答えにダミーを混ぜた人物。
指摘されても弁解をしなかった。
これで道化師だったら天晴って感じだけど、多分欺瞞者だろう。
武。
決定。
ボタンを押した後、ふと思い出して周りを見渡してみたが、首が飛んだ夏美はどこかへ消えていた。
空飛ぶモニターがあるわけだし、これも超ハイテクの産物だ、と無理やり納得する。
「投票が完了しました」
やっぱりこの言葉にはドキッとするな。自分が追放されるかもしれない。
いつの間にか椅子の中央に移動した白衣の人、その隣にいる斧持ちアイドル?
「武、5票。大輔、2票。 優希、1票。 美香、1票」
まあ、武だろうな。欺瞞者が結託して探究者に入れる、とかしなくて良かった。
相変わらず私は1票入っている。不穏だな。
「なんでこんなゲームで死ななきゃいけないんだ……」
武が悔し気に俯いている。
「ミューちゃんの出番だね」
そんな武に斧持ちアイドルは容赦なく刃を振りかざす。
ドサッ。
重く響く音。
何の音なのかは説明したくもない。
ただ恐ろしい現実が目の前にある。
ちょっと違えば、私がそうなっていたのだ。
「3問目に行きます」
何事もなかったように進められるゲーム。なんだか、もう疲れたよ。いや、でも頑張らないと。