デスゲーム制作所 ~クイズ課~
「これで最後、鏡のドッペルゲンガーのデスゲームの実験は終了ですね」
明るい緑の髪にピンクメッシュの白衣のドッペルゲンガー、キョウはそう呟き、部屋を出る。
「どう?ダメだった系?」
そんなキョウに、鮮やかな赤い髪を靡かせ、黄色い鋭い瞳を獰猛に輝かせる白衣の女が声をかけた。
彼女はミラ。キョウと同じくドッペルゲンガーである。
「生存者は0です」
キョウはミラから若干距離を取りつつ、応答する。
キョウはミラを恐れている。キョウが今回のようにボタンの呼び出しに応じたところ、ミラは山勘でドッペルゲンガーを当て、鉄格子から出た直後、意図的に本体を死亡させている。この世に2人も私はいらない、と。
「ったく、餓死者だらけだよ。勇気はある奴らだったのか」
そう、どっちがドッペルゲンガーか分からず、かと言って消滅を恐れ、結局餓死する人が何組もいるのだ。
そして、このゲームの生存者は0。勇気を出してボタンを押した者たちも、みんなキョウの名札に惑わされる。
キョウはどこから来たのか?彼はこのゲームの最初の被害者である。以後働かされている。
なお、キョウとミラはドッペルゲンガーであるため生存者に入っていない。
キョウとミラは揃って建物を出る。
そして向かった先は、隣のビル。
ビルに入り、廊下を歩く。そして、一つの扉を開け、部屋に入る。
その扉に刻まれた文字は「クイズ課」
部屋に入ってきた二人に、一人の男が声をかける。黒髪黒目のスーツの男。紺色の眼鏡をかけている。彼はクイズ課の課長である。名前はエニグマ。
「鏡のドッペルゲンガーはどうだったかな?独特で、面白いクイズだったと思うんだけど」
説明しよう。ここはデスゲーム制作所だ。さまざまなデスゲームを作り、実験をしている。
目指すは最高のデスゲーム。
死にすぎてもダメ、死なな過ぎてもダメ。希望からの死亡は必須。
そして、ここはクイズ課。問題に答え、時間切れとか誤答とかで死ぬ系のデスゲームを作っている。他にも、競争課や人狼課とか、いろいろある。
「死亡率が高すぎます」
キョウは答える。
「生存者0はやばいっしょ」
ミラは強気だ。
「うん……やっぱりドッペルゲンガーが監督してるのはみんな想像できなかったか。名札を見て、手がかりを見つけた!って希望を与えた直後に死亡だから、そこは良かったはず……」
エニグマは落ち込んでいる。自信作だったようだ。
「じゃ、次いこう!ねぇ!早く!」
会話に新たな人物が加わる。水色の髪を2つに分け、三つ編みにした幼女。赤い眼鏡と桃色の瞳がよく似合っている。白衣を着ている彼女はラフィ。
「そうだね。じゃあ、つぎはあれにしよう。みんな集まれ!」
そう言ってエニグマは手をたたく。クイズ課のみんなの注目が集まる。
「次のゲームに移ろう。次はあのゲーム。あの、1問でも間違えたらスタートからやり直しな、制限時間付きクイズ……誰かなんかいい名前考えて」
ラフィが手をあげ、発言する。
「ループクイズ!何回も繰り返すから」
エニグマが満足げにうなずく。
「いいね、ループクイズだ。さて、ゲーマスは誰に頼もうか」
ゲーマスとは、ゲームマスターの略である。つまり、エニグマはこのゲームの実験の担当をさがしているのだ。
「ねえ、エニグマ。私、やりたいな」
ラフィが一歩前に出る。
「そうだね、ラフィに任せよう。準備の方も色々やってくれたし。あと、キョウを連れてってやれ。見学させるんだ。ラフィ、場所とか分かるか?」
エニグマが満足げにうなずいている。
キョウは思った。なんで、見学を……?
「分かる!やった!キョウ、行こう!」
やや強引にラフィに手を引かれ、キョウは連れていかれる。
そしてラフィとキョウが部屋から出ていく。
その後、ミラが口を開く。
「なんでキョウは見学してんの?」
エニグマはそれに笑顔で鍛える。
「彼にも早く、イカれて欲しいから。彼は絶対にいいデスゲーム制作者になる。これは期待だよ」
ミラは納得がいかない。じゃあ、私は?
エニグマは彼女の心を読んだかのように言葉を紡ぐ。
「君はもう十二分にイカれてるだろう!あと、別の仕事を頼みたい」
そしてエニグマは手招きをし、1人の人物を呼び寄せる。
淡い金髪をポニーテールにした碧眼の女性。何故か甲冑だ。銀縁の眼鏡をかけている。
「彼女はアイカ。アイカと一緒に、新しいデスゲームの設計をして欲しい」
アイカが頭を下げる。その所作は見惚れてしまうほど上品だ。
ミラはそんなことを意に介さず、声をかける。
「ミラだ。見ての通りドッペルゲンガー。よろしく」
ミラの鋭い瞳がアイカを捉える。
アイカはそんなことを意に介さず、言葉を返す。
「ご紹介に預かりました。アイカと申します。これからよろしくお願い致します」
アイカがミラを連れて、一つの机へ向かう。
その机の上に広がるのは資料。その資料には文字列。
ミラは顔を顰める。ミラからすると、この文字は左右反転していて、とても読みづらい。
ミラは読むことを放棄した。
「今何やってる感じ?」
アイカに問いかける。
「今、考えているのは、複数選択式クイズのゲームです。完答しないとダメ系なので、難易度高めです」
アイカが説明する。ミラが興味深げに笑う。
「面白そうだな」
そう言ったミラを、アイカが品定めするように見る。
「では、試しに一問解いていただけますか?じゃんけんにおいて、グーに勝てないものは?」
ミラはその問いに即答した。
「チョキだろ」
アイカが悪どい笑みを浮かべる。
「グーに勝てないもの、即ちグーに勝てるもの以外。つまりパー以外です。それ故、答えはチョキとグー。不正解です」
ミラは悔しげに俯く。本番はこれで殺されるのだ。
「死を目前にして焦った人間は、単純なことにも引っかかります。あなたは焦っていないというのに引っかかりましたけど」
アイカは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「要はこんな感じの妙な問題作りゃいいってことか?」
ミラはその笑みを完全にスルーして、問いかける。
「まあ、そういうことです」
アイカは若干不満げに答えた。
キョウはラフィに連れられ、部屋に入った。
そこにあったのは大きなモニター。それからカメラとマイク。
「もう、準備万端なんだよね」
ラフィがそう言いながら、眼鏡を外し、髪を下ろした。
そしてモニターをつけ、カメラの前に座る。
モニターには、知らない場所に戸惑っている1人の人物と、ループクイズのコースが映っていた。
「じゃ、始めるね」