プロローグがてらデスゲーム 〜鏡のドッペルゲンガー〜
ふと目を覚ましたら鉄格子の中にいた。
冷たい床。ゆっくり起き上がる。
ここはどこ?
鉄格子の向こうに誰かがいる。
その人は私と同時に起き上がっていた。
私たちはお互い目を見開いた。
何故なら私たちは全く同じ顔だったから。
「目が覚めましたか?」
声が聞こえた。そちらを向くと、白衣を着た男が立っていた。明るい緑の髪、ピンクのメッシュ。水色の瞳。黒縁メガネ。
何だか目立つ要素しかなさそうな人である。
その男は言葉を紡いでいく。
「あなたたち2人のうちのどちらかは、どちらかは我々が鏡から産み出したドッペルゲンガーです」
私たちは鉄格子の両側で顔を見合わせる。全く同じ顔。まるで本物の鏡みたい。
「どっちがドッペルゲンガーか分かったらそこのボタンを押してください」
部屋の構造。部屋の真ん中が鉄格子で区切られている。その区切られたうちの、部屋の出入り口がない方が真ん中でさらに区切られている。もちろん鉄格子で。そしてできた二つの部屋に、私たちは1人ずつ入れられている。
「ドッペルゲンガーが本体に触れると、本体が死亡します」
そして、もう一つの部分に白衣の人がいる。ボタンは三つの部屋のちょうど境目の位置にぶら下がっている。手を伸ばせば誰にでも届きそうだ。
「正解ならどちらも解放してあげます」
なるほど……
「不正解ならどちらも死んでもらいます」
え……
「では」
そう言って白衣の男は部屋から出て行ってしまった。
どうしよう、これデスゲームじゃん。理不尽なんだけど。
「「こんにちは」」
鉄格子の向こうの私に声をかけた。同時に向こうからも同じ言葉が返ってきた。
本当に、私と同一人物なんだ。
「「あの……」」
二言目も被ってしまった。本当に鏡だ。
実はただの鏡っていう落ちはないだろうか?
私はいきなりジャンプした。
向こうも同時にジャンプした。あ、これ鏡だ。
そして私はボタンを押そうと歩く。しかし、向こうの私は動いていなかった。
あ、これ鏡じゃない。私は慌てて元の位置へ戻る。
「あの、私、本物だと思います。以前の記憶とか全部あるので」
向こうの私がそう言った。
「記憶なら、私もあります」
私は言葉を返す。
不思議な気持ちだ。もしかしたら、自分がドッペルゲンガーかもしれないのだ。
「右を指さしてください」
向こうの私はそう言った。私はそれに従い、右を指差す。
私たちは同じ方向を指差した。鉄格子ごしに向かい合っているにも関わらず。
鏡のように動いたのだ。
「ねえ、『あ』って空中に書いて」
私はそう言った。私たちの指の動きは鏡のように一致する。
「「これじゃ全く分からない」」
私たちは同時に呟く。
「お互いに触ってみるっていうのは?」
「確かに、ドッペルゲンガーじゃない方は死ぬらしいね」
「なんか、やだね」
「死にたくもないし殺したくもない」
「だったら推理しないと……」
「私たちで話してても手掛かりはない」
「外から手掛かりを得るしかない」
「でも得られる手がかりも特にない」
「いや、一つだけ」
独り言のようで、ちゃんと2人で会話している。自分でも、どっちが自分でどっちが向こうの私なのか分からなくなってきた。
声まで同じだし。
お互いに全く同じこと考えてんだもん。
向こうの私がボタンを押した。
私たちはさっきの白衣の男を呼ぶ。そこから手掛かりを探す。
だってあの人が、唯一の、鉄格子の外の情報だから。
しばらくした後、さっきの白衣の男がやって来た。
私たちはその人をじっくり見つめる。
その人の胸。
名札だろうか?
とにかく、文字?が書いてあった。
どうしてだろう?
うまく読めない。
1文字目は……ウ、多分。
そうじゃなくてさ。
左右反転している。
ここが大事なポイント。
つまり、私が……
私と向こうの私は顔を見合わせてうなづいた。
私たちの顔には笑みが浮かんでいた。
何だかとても心強かった。
これで解放。チョロいゲームだった。
「自分がドッペルゲンガーだと思うという方は挙手してください」
白衣の人がそう言った。
私は手を上げた。しっかりと、はっきりと。
自信を持って。
「不正解です」
私は、いや私たちは耳を疑った。
「「どうして……?」」
私たちは同時に呟く。
白衣の男は不思議そうな顔をしたあと、思い出したかのように自分の名札を見る。
「ああ、そういうことですか。それなら答えは簡単です。私もまた、鏡から来たドッペルゲンガーだからですよ」
目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
不正解だった。つまり私たちは殺される。
目の前の男がドッペルゲンガーだなんて、誰が想像できるだろうか?
「冥土の土産に少し教えてあげましょう」
白衣の男が語り出すが、内容は頭に入ってこない。
「私は、本体とドッペルゲンガーで接触することで、本体を死亡させました。そしてボタンを押し、ドッペルゲンガーとして挙手し、鉄格子から出していただきました」
死ぬって言われても……
「でも、解放されることはなかった。今もこうして、働かされている」
私、どうしたらいい……?
「ここで死ねるのは幸運なことですよ。では、さようなら」
その瞬間、床が抜けた。私たちは落ちる。
その下には炎の海が広がっていた。