第七話:同級生の奇人と
少しずつ改稿中。
「ふぅん……面白いね」
杏花が口角を上げて、楽し気に呟いた。
「え?……え? ちょっ……それどうなってんの⁈」
伽那は目を見開き、戸惑いを隠せずにいた。
落ち着かない視線が宙を泳ぐ。
やがて降ろされた言社の右手は、みるみるうちに元の細く白い手に戻っていった。
「私は……動物の力が使えるように、作られたんです……」
紡ぎだされた言葉は、しかし、乾いた紙が震えるように響いた。
「動物の……力を?」
伽那が息を吞む。
「はい……」
頷く言社の視線は、公園の、地面一面に広がる土に落ちている。
感じる土の匂いは、どこか安らぎを言社へと感じさせる。
「……ライオン、ってこと? 色が似てるし」
杏花が首を傾けて尋ねると、言社は小さく頷いた。
「そんなことができるんだ……」
伽那が驚きを隠せない様子で呟いた。
「……だから知ってたんだね、色々」
公園のまわりに冷たい風が吹き抜ける。
木々や草草がざわめき、影が揺れた。
しかし、不思議とその風は言社にとって心地よく感じられた。
伽那と杏花は、疲れたように溜息混じりにベンチへと腰を下ろした。
「まさか、そんな秘密を抱えていたなんてね。大変だったでしょ?」
言社は何も言わず、静かに頷く。
「……もしかして、お姉さんも同じなの?」
再び言社が静かに頷く。
「うん……? お姉ちゃんいるの?」
杏花が尋ねると、伽那がコクリと頷いた。
杏花はその事に、片眉を上げながら「ふーん」とだけ呟いた。
「……逃げたから、追われてるの?政府に」
伽那が控え気味に尋ねると、言社はただ静かに頷く。
「私は……ずっと、白い部屋にいました。一人で、ずっと……」
言社の声が紙が引き裂かれていくように、擦り切れるように掠れていく。
言葉を紡ぐたびに、言社の頬にほんの一筋の熱いものが走る。
落ちた雫が、土へと吸い込まれ、黒色の水玉模様を描く。
自分が泣いている、と気づいた時には、言社はすでに温かいものに包まれていた。
伽那が優しく、力強く抱きしめていた。
「大丈夫だよ。ここは白くはないし、
孤独でもないからね」
言社はその温かさに深く深く沈んでいった。
その沈みに抵抗はしなかった。
南中した太陽が世界を照らし、影のなくなった空間に光を落としていた。
しかし――影は消えたわけではなかった。
* * * *
「どう? 落ち着いた?」
伽那が微笑みかけながら尋ねると、言社は少しはにかみながら頷いた。
「はい……すみません……」
「いいよいいよ。ぶっちゃけ、僕達も元々よそ者だったし」
「……よそもの?」
言社が首を傾げて聞き返す。
伽那はその様子を見ながら、微笑んで空を見上げた。
「そう。あの家――山の上の家に引き取られたんだ。
あんまり覚えてないけどね」
そう言い放った伽那は言社の方を向き、ニッと笑った。
「だからこそ、なんだよね」
「そうなんですね……」
しばらくの静寂の後、言社は静かに目を伏せた。
「でも、私にはお姉ちゃんがいてくれました」
伽那は何も言わず、穏やかに頷く。
今度は暖かいような、柔らかいような風が辺りを吹き抜け、
草木がさらさらと揺れた。
「よく遊んでくれて、優しくて……」
言社の顔が少し緩む。
「だから、お姉ちゃんを探そうとしてるんだね」
その問いに、言社ははっきりと頷いた。
すると――ねぇねぇと杏花が割り込むように声を上げた。
「それはさておき、じゃない? 今は現状を知るのが先じゃない?」
伽那は少しの間を置いた後、小さく息を吐き、頷いた。
「……確かに。それもそうだね。現状把握をしないといけないね」
「じゃあ、取り敢えず街を一通り見ていくっていうのでどう?」
杏花が人差し指を上げながら聞きかける。
「流石に広すぎない?時間かかりそうだよ」
「じゃあ、住宅街辺りを見て回るのは?あっちはまだ行ってないでしょ?」
「いいね。近いし」
伽那が軽くサムズアップしながら立ち上がる。
「それじゃ、いこっか」
伽那達が公園から出ようと動き出した、その瞬間―――
「――あ! かなちじゃん!!」
遠くから声が飛んできた。
視線を向けると、遠くに二人の人影がこちらへと駆け寄ってくる。
よく目を凝らすと、それは高校生らしき少女達だった。
一人は少しメラニンの抜けたセミロングの髪の少女。
黒のラインの入った白いスウェットを身につけ、元気に手を振り、
一直線に伽那へ走ってきた。
「会えてよかった!!」
力強く抱き着かれた伽那は、苦笑しつつも抱き返す。
「こっちこそ! ナナ!」
二人は抱き合い、楽し気に笑いあっている。
その一方でもう一人――
珍しい銀髪のロングヘアを揺らし、
グレーのパーカーの上に白衣を羽織り、安全メガネを額に乗せ、
あたかも研究者を想起させるような恰好をしている少女は、じっと三人を見据えていた。
視線が交わった瞬間、杏花は何か嫌な予感を感じた。
その様子を見た銀髪の少女は、クスリと笑った。
杏花が怪訝そうに銀髪の少女を見ると、
銀髪の少女は唇を吊り上げた。
「やぁやぁ、初めまして」
その声は、やけに甘く、そして不穏でもあった。
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<補足>
かなち:伽那のあだ名です。