第二十話:燃え盛る闘争心の中で
伽那達は入ってすぐに青年達に囲まれていた。
「どうやらここには先客がいたようだ」
久遠が白衣の裾を整えながらも、余裕の表情を崩さず言う。
「そうみたいだね。どうする?」
「催涙ガスくらいならあるが?」
久遠が白衣のポケットから丸い何かを取り出す。
「なんでそんなの持ってるの……?」
ナナが引き気味の表情で声を上げる。
と同時に、張り上げた声がモールに響いた。
「お前らぁ! ここは俺達のナワバリだぁ!」
声の主は勿論、肩に金属バットを担ぐリーダーの青年であった。
「とっとと出て行くか、ボコされるかぁ。好きな方を選べぇ」
リーダーの前に、伽那が出る。
「出て行くから、さっき捕まったはずの友達を返してくれないかな?」
「それは無理な相談だなぁ。ナワバリに勝手に侵入したんだ。当然だよなぁ」
「返して貰わないと僕としても困るんだ」
伽那が真剣にそう言うと、青年が笑い声をあげた。
「そうか。そうか。なら、やることは決まってるよなぁ?」
「やること?」
伽那が首を傾げると、リーダーの青年は大仰にバットを振り上げ、伽那へ向けた。
「戦って勝つ! これこそが全てだろぉがよぉ!」
リーダーの青年は獰猛な視線を加那に向けた。
「誰かが俺と戦ってタイマンしろぉ!ボスの俺が戦って負けたら、大人しく返してやるよぉ」
数舜の後、伽那は頷いた。
「いいよ。ただし、諸星達はちゃんと返して貰うからね」
「お姉ちゃん、やるの?」
様子を見ていた杏花が真剣な表情で近寄る。
「うん。結果論、こうなるかもって思ってたし」
「分かった。じゃあ私が―――」
「いや、今回は僕がやるよ」
伽那が決意したような表情で言い放つ。
「え? 素手でやるの?」
「いや、僕は素手が苦手だから、念のためにバスに木刀を入れてきたんだ」
「そうなんだ。知らなかった」
「じゃ、取ってくるよ」
そう言って伽那が振り返ると、木刀を持つ那岐の姿があった。
『必要になると思っててね。バスから出るついでに持って来たんだ』
そう言って、那岐は伽那に木刀を渡す。
受け取った加那は、僅かな笑みを浮かべた。
「有難う、那岐さん」
『気にしなくていいさ。存分にいじめてくるといい』
「そんな人聞きの悪いこと言わないで欲しいね」
伽那が肩を竦めながら言うと、那岐は笑った。
『フフフ。剣道でならあの人にも勝つ君が何を言ってるんだい?さ、行っておいで』
* * * *
モール中央の広場にて。
今、伽那とリーダーの青年が向かい合う。
その周りを、杏花達と青年達が取り囲む。
「準備はいいかぁ?」
リーダーの青年はバットをぶんぶんと勢いよく振りながら問いかける。
「いいよ。いつでも初めて。僕も本気で行くから」
対する伽那も、木刀を流れるような、美しいフォームで持った。
「じゃあ――――行くぜぇ!!」
瞬間、青年が勢いよく飛び出し、伽那に向かってバットを振り下ろす。
しかし、伽那は呼吸を整えると同時に見事に受け流す。
金属の甲高い音と、木刀の軽くも重い音が重なる。
振り終わって態勢の悪い青年の脇腹を加那の木刀が横薙ぐ。
ガンっ!!
一撃は、リーダーの青年を少しだけ後ろへ吹き飛ばした。
「チッ……うぜぇなぁ」
打たれた脇腹を一瞬押さえていた彼だったが、笑みを浮かべてまたすぐにバットを構えた。
「だが、これくらいじゃ効かねぇよぉ!」
再び突っ込む青年。
だが。
「同じ攻撃は通じないよ」
伽那は今度はスライドするように横へと移った。
同時に、バットは空を切り、地面をたたき割った。
重い音と共に、地面に大きな罅が入る。
砕けた床材が、二人の間を舞う。
その隙に伽那は彼の顎を正確に木刀で打った。
カンッ――――――!!
仰け反る彼。
だが、また一瞬にして伽那に視線を戻す。
「……異常に力が強くて頑丈だね」
伽那が思わずそう呟くと、観戦していた石川が叫んだ。
「そ、その人、滅茶苦茶頑丈で力が強いですぅぅぅうう!!」
聞いた伽那は少し苦笑した。
「なるほどね。確かに一筋縄ではいかないかもね」
リーダーの青年がバットで連撃を繰り出し、伽那がそれを上手くいなす。
その間隙を縫って伽那が彼を打つ。
しかし、一瞬よろけるだけで、直ぐにまたバットを振りかざしていた。
「こりゃ時間かかりそうだね」
少し距離を置いた伽那が真剣にそう呟くと、リーダーの青年が血を流しながらも獰猛な笑みを浮かべた。
「それまで俺の攻撃を防げるといいなぁ!」
また金属と木のぶつかる音が鳴った。




