第十九話:進めば邂逅
伽那達は突然駆け込んできた存在に驚いていた。
何と石川が――たった一人で、しかも、大きく息を荒げた状態で必死に走ってきたのだ。
何かが起きたという結論に誰もが至るのは想像に難くない。
「いったい何があったの……?」
青ざめた顔で膝に手をつく石川に、伽那は眉をひそめて問いかける。
「ぜぇッ……ぜぇッ……」
しかし、石川は顔を下に向け、押すと倒れそうな小柄な体を激しく揺らしてただ荒い呼吸を繰り返していた。
暫時待つが、一向に収まる気配がない。
やがて、最も”待つこと”の嫌いな久遠が軽く溜息をついた。
「いつまでそうしているつもりだい……? いい加減、退屈になってきた」
抑揚の抑えられた声に、石川はまだ反応する余裕はなかった。
「はぁ……そこまで疲れているのかい? なら、これでも飲ませてあげよう」
久遠は嬉々とした様子で、白衣のポケットから試験管を取り出した。
中には得体のしれない紫色に光る液体。
その瞬間、石川は肩を震わせながら勢いよく顔を上げ、悲鳴にも似た声を上げた。
「な、何ですかぁぁぁああ、それぇぇぇええ⁈」
「何って、”疲れ吹っ飛ぶZE”だ。前に余った試薬で作ったのだよ」
「余った試薬で……? 凄いと思うと同時に寒気がするね、それ」
伽那が恐ろしいものを見る目で、試験管の中を蠢く液体を見る。
「なに、媚薬と大して変わらんよ。まぁ、副作用は―――気にするほどでもない」
「副作用の時の一瞬の無言が気になるね……」
ジッと見られ、久遠は楽し気に肩を竦めた。
「ま、冗談はさておき、これで話せるようになった」
そう言って久遠は、青ざめた表情のままの石川へと視線を向けた。
* * * *
「……それで、石川さんだけ逃げ延びた、と」
話を聞き終わった久遠が腕を組んで頷いた。
「そうです。……語弊が若干あるのは気のせいだと思いたいです……」
石川は弱弱し気に笑う。
「じゃあ、僕たちが行った方がいいね」
伽那が決意に満ちた表情で立ち上がると、ナナと久遠が同時に怪訝な表情を浮かべた。
「ねぇ、ほんとに行くの?」
「相手は未知数だぞ。しかも、相手とは交渉が難しい。
……荒事になるのは目に見えている」
「だから、じゃん」
そういう伽那の声には迷いがなかった
「僕たちは、荒事も得意なんだ」
隣では、杏花も同じ表情をしていた。そこはやはり姉妹だった。
「今更だが、赤坂は姉妹共に結構過激だな」
「あはは……多分、親――仮親だけど――の影響かな。あの人も結構素で過激だったし、ね?」
伽那が笑いながら言うと、杏花も苦笑しながら確りと頷いた。
「だからさ―――行こうよ」
そう言いながら、伽那はナナと久遠を見据えた。
その双眸は、自信と決意に満ち溢れていた。
「……仕方ないなぁ。ただし! 私もついていくからね!」
「なら私はパス――」
「よし!行こう!」
とナナが叫び、何かを呟こうとした久遠を遮り、腕を掴み、強引に歩きだした。
そして、そのままショッピングモールへと向かう。
伽那と杏花もそれに続こうとしたとき、背後から声がかかった。
「あの……」
振り返ると、そこには言杜が立っていた。
「私も何か……あの力で協力できれば……」
伽那と杏花は静かに首を横に振った。
「協力は必要ない。事足りてる」
「言杜は心配しなくてもいいよ。別に疎外しているわけじゃない。
その力、あんまり好きじゃないでしょ?だから、使わなくていい」
伽那は真剣な表情でそういったあと、口端を上げた。
「それに、僕はこれでも鍛えられてるからね」
そう言って加那は、腕をまくってみせた。
そして、背を向けて歩き出した――。
バットを担ぎながら、リーダーの彼は、モールの中央通路のど真ん中で仁王立ちをしていた。
先ほど、六人の集団がモールに侵入したと知らせがあったからだ。
このモールを管理している彼にとって、許容できるものではなかった。
得体の知れない部外者など入れる訳にはいかない。
だから、彼はトコトン見せてやろうと思った。
この法律の無き世界の一端を。
崩れ出している均衡を。
「……大きなハエは、全力を持って叩き潰さないとなぁ」
彼は怒りと――暗い笑顔を浮かべた。
――その笑顔の果てに、再び虚無へと堕ちることを知らないまま。
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