表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジーン・ウォーズ  作者: おおは
序章
2/18

第二話:始めの時を刻む(改)

えー二話目も改稿しました。恐らく来月になりますが、3話目もリニューアルオープンします。

翌朝。

言社(いと)はベッドに横になっていた。

大方体調も良くなってきていたが、まだまだ万全とは言えなかった。

外からはしとしとと雨が降り、雨粒が窓に当たると共に、静かな部屋に音を鳴らした。

雨音はまるで、微かな感情を揺らすように――

その時、部屋の扉がガチャリと開かれた。

 「おはよう~。どう?昨日はゆっくり眠れた?」

明るめの声が、部屋で雨粒よりも響く。

部屋へと入ってきたのは、伽那(かな)だった。

伽那の右手には、ペットボトルが握られている。

 「……はい。かなり、良くなりました」

言社はベッドから身を起こしながら答える。

 「それは良かった。でも、まだ安静にはしないといけないよ」

そう言いながら、伽那はベッド近くの椅子に座った。

そして、近くに置かれていたコップを手に取り、ペットボトルの水を注ぐ。

コップには注がれてすぐに、水滴が付きだした。

 「はい、お茶。一息つきなよ」

言社は一瞬視線を泳がせたが、やがて頷いてコップを受け取った。

受け取った瞬間、言社の手に、冷たさが伝わってくる。

言社は、コップを傾け、ゆっくりと水を口に含んだ。

伽那は満足気に数回頷いたが、次の瞬間には、真剣な表情を浮かべていた、

 「それで、突然にはなるんだけど……言社は本当にどこから来たの?

   この辺り、結構な田舎というか、ポツンと一軒家なんだよね」

問いかけに、水を飲んでいた言社は一瞬動きを止めた。

水を飲み干し、口からコップを離した。

 「……色々、と」

小さな声で言社はそう言った。

未だ視線はコップから離れない。

 「そっか。まぁ、今はあまり聞かないでおくよ。安心して休んで」

伽那は笑顔でそう言うと、席から静かに立ち上がった。

 「お腹、空いてない? 朝ごはん持ってくるから食べるといいよ」

そう言い残し、伽那は静かにこの部屋を後にした。

数分すると、部屋のドアが再び開かれた。

 「お待たせ~。朝ごはん持ってきたよ」

伽那が静寂を破る声と共に、姿を現す。

その片手には、大きめの手持ちトレーが載せられている。

トレーの上には、温かそうな朝食が並べられていた。

湯気の立つスープ、焼き立てのきつね色のパン

――どれも、食欲を掻き立てるものだった。

 「はい。どうぞ」

渡されたトレーを、言社は少し戸惑いながらも、両手で受け取った。

両手に、ズシリとした重さが伝わる。

その重さは、まるで言社に現実感を与えるように、重かった。

 「……ありがとう、ございます」

言社は小さく感謝すると、朝食をじっと見た。

 「さ、召し上がれ。あと、何かあったらいつでも呼んでいいからね」

伽那は軽く微笑み、そのまま軽快な足取りで部屋を後にした。

代替するように、雨音がパラパラと室内に響き始める。

一人になった言社は、試しに、パンを手に取った。

温もりが手にしっかりと伝わってくる。

ゆっくり一口食べると、体中が幸福感みたいな衝撃が伝わった。

 「……美味しい」

思わずそう呟いた言社は、勢いよく食べ進めていった。

しかし、その満足感とは裏腹に、ふと天井を見ると、

そこに重なるように、思い出したくもない昨日の記憶が現れる。

光景――雨、薄暗い森。想定外に、追いかけられる自分。そして、倒れる自分。

そうして、遠ざかっていく姉。

言社の心には、刻一刻と焦りが生じていた。

尊敬する姉を、奴らよりも先に見つけたいと強く思う。

追いつけなかった自分に対しても――

外では、変わらず、雨が静かな音で降っていた。


*     *     *     *


少しすれば、トレー上の朝食は空になっていた。

言社はささやかな満足感に満たされていた一方で、

その事による、不安感を抱いていた。

そして、そのタイミングで部屋のドアが開かれた。

 「うんうん。ちゃんと食べれたみたいだね。良かったよ」

伽那が嬉しそうな表情を浮かべながら、言社へと近づく。

 「じゃあ、トレー貰っていくね」

トレーを受け取った伽那は、クルリと回って背を向けた。

 「じゃ、ゆっくりしてね。何かあったらいつでも呼んで」

そう言い残すと、伽那はまた部屋から出ていった。

しかし――開かれたドアが閉まるその瞬間、誰かがそれをそっと押し開けた。

閉まる音が鳴らないのを不思議に思った言社が視線を向けると、

ドア前には一人の赤髪の少女――杏花(きょうか)が立っていた。

 「初めまして。私は赤坂杏花」

杏花は無表情でそう言い、言社を見た。

言社は、昨日の伽那の発言から、杏花が伽那の妹だということを思い出した。

しかし、今、杏花は無言でじっと言社を見ていた。

 「……あの……何、ですか」

言社は思わず、小さく聞いた。

しかし、杏花は無言のままじっと言社を見たままだった。

すると、杏花は再び口を開いた。

 「どうして事情を話さないの?」

 「ッ……」

 「別にせめてる訳じゃないよ。ただ、君は私たちの保護下。

   そのせいで、お姉ちゃんにケガしてほしくないんだ」

言社は、僅かに唇を震わせる。

 「……私は――」

何かを言おうとしたその時だった。

 「――あ!杏花!何やってるんだよ!」

唐突な大声が、それを遮った。

杏花がその声を鼓膜で認識した瞬間、肩をびくりと震わせた。

視線をドアの方へと向けると、そこには、眉を顰めた伽那が立っていた。

 「……少し、聞きたい事があっただけ……」

 「はぁ……杏花のその遠慮のなさはホントに変わらないね……取り敢えず、こっち来て」

 「……分かった」

杏花は渋々といった表情で、伽那に続いて部屋を出ていった。

 「ホントごめんね~。気にせずゆっくりしてね」

ドアが、今度こそ、しっかりと閉じられた。


*     *     *     *


 「ダメじゃないか、言社はまだ元気とは言えないんだよ?」

伽那が軽く溜息を吐きながら、杏花をじっと見る。

 「……何か、大事な事を隠してるよ。絶対」

 「そりゃそうだけど、今じゃないでしょ。少なくとも」

 「でも……」

 「いいじゃない。兎に角、そういうのは、ちゃんとタイミングを見計らってね?」

伽那が続けて言う。

 「そういうのは、きっと自分から話してくれるよ」

杏花は暫く黙っていたが、やがて

 「……分かった」

と、小さく頷いた。

伽那はそれを見て、満足気に頷いた。


*     *     *     *


うす暗い廊下。無機質なコンクリートの壁が続き、冷たい空気が漂っている。

その中を、一人の男が悠然と歩いていた。

 「――あの実験体を逃がしたのか。それで、今どこにいるんだ?」

電話を片手に、男はコツコツと乾いた足音を響かせながら問いかける。

その声はただただ無機質だった。

 「ふむ……2032番――奴の妹共々行方不明……ね」

電話越しの報告を聞き終えた男は、少し考えるように目を細めたが、

すぐに薄ら笑いを浮かべる。

 「逃げれると思っているのか……まぁ問題ない。所詮、大局に影響はないさ」

そう呟いた男は廊下の終端で立ち止まった。そこは不気味で闇に包まれていた。

 「――ちょうど良い頃合いだ」

そう言い男は前方をじっと見据えた、その視線の先に現れたのは――

床から天井までを占める、巨大で異様な装置だった。

青白い光を放つパネルやケーブルが、そこかしこに無秩序に走り、

まるで一つの生物のようにうねりながら鎮座していた。

そして、それを見た男の唇が吊り上がった。

 「例の計画を実行する時がきた……さぁ、始めようじゃないか――」

さらに唇が吊り上がる。

 「――人類の新たなる進化を――」

低く蠢くその声が、不気味な空間によく響き渡った時、

その装置から、()()()が滲んでいた――



面白いと思ったらいいじゃんしてね!高評価よろしくお願いします。

ご感想あれば是非(⌒∇⌒)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ