第十七話:交渉の余地
邂逅した新たな人間。まぁ……道中でもすれ違ってるかもしれませんがね……(笑)
よし、そんな人たちはいなかったことにしておこう( ゜Д゜)
「で、俺達に何の用だァ?」
リーダー格らしき青年は、右肩に金属バットを担ぎながら言い放った。
その鋭い眼光が諸星たちを射抜く。
石川は思わず震えあがった。
その隣では、小谷が冷や汗をかいていた。
その二人を庇うように、諸星が一歩前に出た。
「俺達は偶々ここに寄っただけです。他意はありません」
「……それを俺が信じると思うか?」
「信じるも何も、すぐに出て行くつもりです。問題ないでしょう?」
諸星が冷静に返すと、彼は口端を吊り上げ鼻で笑った。
「……ハッ。お前みたいな理屈をコネるやつはキライだ。信用もねぇ」
彼は吐き捨てるように言うと、金属バットの先を諸星達へと振り向けた。
「お前らぁ! こいつら捕まえるぞ!」
号令と共に、取り巻きの青年達がバールやバットを構えて諸星達へとジリジリと迫ってきた。
交渉の道が初っ端から頓挫した諸星は、思わず冷や汗をかいた。
まさかここまですぐに状況が変化するとは、と思った。
「これは……困りましたね」
「困るってレベルじゃないだろ、諸星!!」
「ひぃぃぃい……!どうか私の命だけはぁぁあ!」
追い詰められた状況の中、諸星は素早く判断を下した。
「仕方ありませんね。――一視界を潰しておきましょうか!」
懐から素早く何かを取り出し、床へと勢いよく投げつけた。
瞬間、白煙が辺りを濃く満たした。
「なぁ! 煙とか卑怯だろうが! 正々堂々しろやぁ!」
白煙の中、リーダーの青年が怒りを滲ませた声で叫ぶ。
「――貴方がそれを言える立場であるとは驚きです」
煙の中から諸星の声。
次の刹那、諸星は彼の懐に姿を現した。
「チィッ! 正面から来やがったな!」
叫びながら、彼が勢いよくバットを振り下ろす。
「貴方の動き、読みやすいですね!」
しかし、諸星は紙一重でそれを躱し、態勢の悪い彼へと鋭いアッパーカットを放つ。
弱い力ながらも正確無比の一撃は、彼の顎を正確に撃ちぬいた。
「―――ッガ!」
彼の首が大きく仰け反る。
そこまでは諸星の想定内だった。
しかし、そこで想定は実現しなかった。
本来なら確実に気絶させる諸星の本気の一撃は、彼を気絶させるに至らなかった。
「……なッ!?」
彼が痛みの中、反撃のバットの一撃を、しかし、誰が予想できたであろうか。
諸星の脇腹へと、綺麗に吸い込まれるように突き刺さった。
ドガッ――――――ッ!
「グッ……!!」
凄まじい衝撃に、諸星の身体は宙を舞い、10メートルほど後方へ吹き飛ぶ。
「ぐ、ふぅ……何という、馬鹿力……ですか……」
痛みに晒されながらも、諸星は視線を前へ向けた。
先ほどの白煙が晴れていく―――。
諸星の視線のその先で、彼は堂々と立っていた。
その様は、まるで全てを従えんばかりの迫力だった。
「……さっきのは中々効いたぜぇ。だが、こんなんじゃ俺は倒れねぇよ」
「……あれは、確実に……気絶させれる………一撃だった、はずなのですがね………」
諸星が苦し紛れに言い放つと、彼は鼻で笑ってみせた。
「俺はなぁ、人より硬ぇし、力もつけたしなぁ。向かう所敵なしってわけだ!」
「……そう、ですか」
「じゃ―――とっ捕まえるかぁ」
近付く足音。
その時、諸星が痛みを堪え、薄く笑みを浮かべた。
「あん? 何だ……?急に笑いやがって」
訝しげに諸星を見つめる彼。
その中、諸星は口端を少し上げながら言い放った。
「よかったですね……次の向かう所で、貴方は……無事敗者となれますよ」
* * * *
「おらよ。暫くここで大人しくしてろ!」
諸星達は、チェーンや手錠で縛られ、ある一室へと放り込まれた。
リーダーらしき青年は苛立ち気味に吐き捨てると、乱暴に扉を閉めた。
扉の軋む音が重く、大きく響いた。
静寂の中、諸星は身を起こし、頭を傾けたりすることでずれたメガネを直す。
ピントの合った視界には、同じく捕まった小谷の姿が写った。
彼も同様に手錠が掛けられていたが、諸星よりも緩い縛り方だった。
「貴方も捕まりましたか」
「そりゃそうだろ。いくら視界がないっつっても、囲まれてるんだぜ?」
小谷が肩をすくめる。
「ということは……石川さんも?」
諸星が一種の不安を感じながら聞くと、小谷は苦笑した。
「いや、アイツは逃げ切ったみたいだぜ。まったく、とんだ逃げ上手だぜ」
「それは良かったです。一人でも逃げ切れれば、これからが少し楽になるというものです」
そう言って柔和な表情を浮かべる諸星に、小谷は思わず眉を顰めた。
「おいおい、どこからその安心がでてくるんだ? ここは敵の本陣だぜ?」
「ええ、しかし―」
諸星はゆっくりと笑みを深める。
「こちらには、まだ戦力が豊富にありますから―――」
その時の諸星の表情を、小谷は生涯忘れないだろう――
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