第91話 超チートスキル『時渡』と出禁になる伝説の男
取り敢えずレギエルデには食事をとってもらった。
彼、相当衰弱していて聞いたらここ3日間ろくに食事をとっていなかったようだ。
「ふう。ありがとう。生き返ったよ……それでどこまで話したかな」
「2チームのパーティーが壊滅していったん引き返したところまでですね」
彼等は探索中、かなり強い魔物に襲われていた。
そこで雇っていたパーティーの主力が負傷し、探索を中断。
取り敢えず死者が出る事はなく入り口にたどり着き、彼は気を抜いていたらしい。
「僕は気を抜いてしまったんだ。それで入り口付近にあるトラップを発動させてしまった。僕は一人飛ばされたんだ。最深部、あの邪竜フェブニールの住処に」
「それは……良くご無事で……」
「うん。まあ無事ではなかった。いきなり死にかけたしね。……僕は3日間、どうにか生き残ろうとあらゆるアーティファクトを発動させたんだ。必死だった。……だけど追い詰められて……使ってはいけない、禁忌の悪夢『アルティメットスライム』まで解き放ってしまった」
あの時邪竜フェブニールを覆っていた悍ましいスライム。
あれは彼が原因だったんだ。
「ゲームマスターである君なら知っていると思うが、僕は人ではなかった。そして調子に乗り今は何の力もない。でも僕はね、この星を、世界を愛しているんだ。だから彷徨った。幸い僕は年を取らない。時間はいくらでもある」
「……」
彼は宇宙の摂理に触れた。
そして刻まれる。
二度と解けない呪い、強烈な因果を。
私でも解呪できない呪いを。
「そんなわけで知り合った精霊王が困っていてね。僕は依頼を受けたんだ」
「どうして転移を?まさかフェブニールは使えないですよね」
「それについては僕にも分からない。僕はすでに気を失っていたしね。……君が呼んだのではないのかい?」
「えっ?……私が呼ぶ?」
「多分ね。……僕は魔力を見れば、その人の力が何となくだが分かるんだ」
「ええ。……『物見』のスキルと『解析』ですよね」
「はは、そこまで……ええ。それで少し無理があるけど……美緒はあの時、望んでいたのではないか?より強い、経験値になる獲物を」
確かに。
私はあと少しでカンストできる修行僧をやり遂げたかった。
あの時のジョブレベル93。
あと6レベル上げれば達成だったけど……必要な経験値は莫大だった。
「美緒は幸運値、異常に高いでしょ?同じ大陸でおそらくあの時美緒の希望に叶うのはフェブニールしかいなかった。きっと君は自分の知らないところで感知し、召喚した」
「私が?」
「これは想像だけどね。普通なら在りえないし不可能だ。でも。……今の君のその魔力、知ってしまった今、僕はそれしか思いつかない。……凄いな君は……きっとこの世界線…君はたどり着くのだな……虚無神に」
「っ!?レギエルデ……あなた……」
「おっと。今のは聞かなかったことに……って、無理か。うん、でも心の奥にひそめて欲しい、あいつの眷属はいたるところにいる。今の君を見ればわかる。あいつはまだ油断している。君の力を知らない」
気付けば―――
私とレギエルデ以外の、ルルーナとミネア、それにリア、リンネまでも。
彼女たちの時が静止していた。
「うん。『時渡』のスキルだよ。まだレベルは低いから止めるしかできないけど……美緒も獲得したんだね」
まさにチート。
自分たち以外の時を止める。
自分達のみ許された絶対的な領域。
私は自分が震えていることに気づいた。
やがて世界が動き出す。
まるで何もなかったかのように。
「コホン。まあ、そんな感じで僕は君に助けられた。ありがとう」
「い、いえ……無事でよかったです」
内心私は心臓がバクバク言っている。
在り得ない体験。
そして気付く可能性。
私はにっこりとほほ笑んだ。
「……君は美しいな。惚れてしまうよ?……ふう」
「っ!?うあ、え、えっと……」
「コホン。美緒?ちょっといいかな」
「うん?リンネ?なに?」
「うん。こっち来て」
思わず見つめ合う私をリンネが呼ぶ。
皆から少し離れ、そして小声で私にささやくリンネ。
「……美緒今時間止めたでしょ」
「っ!?……え?リ、リンネ???」
「もう。だめだよ?気付かれちゃう。……あいつらに」
「っ!?」
「まあ、今のって彼よね。あなたは対応しただけ。だからいいけど。……たぶんあなたのだときっとものすごく効果が高いと思う。だから絶対に相談して?使うとき。私も一応神だから……力を貸せる」
「う、うん。……はあ、お姉ちゃんより頼りになる妹とか…もう」
「ふふ♡だって私、お姉ちゃん、大好きだもん♡」
「うん。私もリンネ大好き♡」
突然抱き合う二人に、皆は不思議な顔で視線を向けていた。
※※※※※
一方サロン。
多くの男たちが伝説の義賊、ノーウイックの話に夢中になっていた。
特にザッカートはあこがれの本人に、興奮した様子で話をしていた。
「すげえ、さすがはノーウイックさんだ。……そうか、そうやるんだな、うん」
まるで少年のようなザッカート。
思わずレルダンは優しい目で見てしまう。
「はっは、たいしたこたあねえ。ザッカート、見るにお前だって俺に近いレベルだ。お前はすげえ。このギルド、とんでもねえな」
「お、おう。……なんかあんたに言われると……照れくせえな」
見たことも無い様な素直なザッカートに団員は皆思わずぽかんとしてしまう。
「……お、おい」
「あ、ああ」
いつもどちらかと言えばクールを装うザッカート。
団員は何故か胸が熱くなっていた。
「ところで……なあ、ザッカート」
「ん?な、なんだ?」
「一つ頼みがあるんだが……」
そう言い、あたりを見渡すノーウイック。
女性がいないことを確認し、ザッカートに耳打ちをする。
「……娼館に連れて行ってくれ。美緒の許可は得ている」
「っ!?……い、今からか?」
「ああ、すぐだ。今スグにだ。……俺はもう100年封じられていた。それにさっき最上級の女に触れちまった。もう辛抱溜まらん。頼む。この通り」
「最上級の女?……あ、あんたまさか美緒に?」
「おっと、勘違いすんな。確かに美緒は最上級だ。だが俺の趣味じゃねえ。……リンネ様だ」
「っ!?……良く殺されなかったな」
「ん?まあ、多分死んでたかもな。殴られ過ぎて記憶ねえし……まあ、そんなわけだ。頼む」
思わず呆れるザッカート。
取り敢えず皇都へと二人、転移門を使い娼館へと消えていった。
そして伝説が刻まれることに誰も気付いていなかった。
※※※※※
後日、娼館の経営者は語る。
伝説の男――ゴッドフィンガーを持つ男、ノーウイックのことを。
「奴はやべえ。何しろあいつについた女は、全員しばらく使い物にならなくなっちまった。
心の底から、あの男に惚れちまったんだ」
タバコに火を点け、ふううーと煙を吐き出す。
「うちのナンバーワン、ミランダが俺に言ったんだよ」
男は眉をひそめ、どこか悲しそうに笑った。
「『もし次あの男が来たら、絶対に私につけろ』――
メチャクチャ満足げな顔でな。……くそがっ!」
つい漏れる悔しさ。
「……あいつはプロだ。筋金入りの。その女まで落としやがった」
遠い目をする。
かつて彼女に抱いた淡い憧れを思い出すように。
ポロリと、たばこの先の灰が落ちる。
「……一回だというのに、金貨十枚持ってきて十人だ。
最初は『コイツ、馬鹿か?』と思ったもんさ。……だが……」
タバコの煙が、ゆらりと立ち上る。
「あっという間に全員、天国に連れていっちまいやがった。
商売あがったりだ……ふう」
吸いかけのタバコを灰皿に押しつける男。
その目には、同じ男としての敗北感が滲んでいた。
恐るべし、ノーウイック。
――彼がしばらく出禁になったことを、ノーウイックが知るのは三日後のことだった。
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