第9話 黒髪黒目の少女は友達を得る
本当に、ザッカートさんたちは優秀だ。
あれからすぐに、アルディの居場所を突き止めた。
特に斥候のイニギアさんとロッジノさん。あの二人、まさにプロ。
ザッカートさんも誇らしげだった。
『アイツらは俺の自慢の仲間だ』って。
今は、奴を捕まえるための作戦会議の真っ最中。
名付けて――『誘惑大作戦』。
女好きのアルディを、ミネアちゃんとルルーナちゃんが酒場で誘惑。
お酒に薬を混ぜて眠らせ、捕縛。
その後、私の「解呪」で奴の称号を弱体化させ、できれば仲間に――という作戦だ。
最初は私も同行するつもりだったけど……全員から反対された。
うん、まあ……私、色気ゼロだからね。
(く、悔しくなんかないんだからねっ!)
作戦は単純。けれど成功率は高い。
エルノールには『危険です』と何度も止められたけれど――私はアルディを殺す気になれなかった。
確かに、彼はこれまで世界をかき回してきた存在。
でも――まだ、この時点では決定的な悪事を働いていない。
そして、何よりも彼は“運命に縛られた一人”なのかもしれない。
特別な使命を背負わされ、永い年月を孤独に過ごしてきたはず。
……そう思うと、放っておけなかった。
だけど、放置すれば未来の悲劇が起こる。
アルディが“悪神ガナロ”に出会う前に、なんとかしないと。
『帝国歴27年の春――約二年後。
彼は封印を解かれたガナロに『偽りの言霊』を使い、世界を狂わせる』
それが私の知る未来だった。
ガナロはリンネの弟で、極東の地“ジパング”に封印されているらしい。
……ジパングって。
もう名前からしてツッコミどころしかないよね。
(絶対“和の神”とか出てくる奴だ…コホン)
…でも、神様の理屈は私には理解不能。
生まれていないはずの存在が封印されてるなんて、どういうこと?
(あのノイズ……あれが関係してるのかな……?)
※※※※※
今ごろリンネはエルノールの転移で現地へ向かっている。
私もやれることをやらなきゃ。
僧侶のジョブを極める――それが今の私の使命だ。
※※※※※
コンコン、と扉を叩く音。
「はい、どうぞ」
「「失礼しまーす!」」「お邪魔するにゃ♪」
入ってきたのは、ミネアちゃん、ルルーナちゃん、そしてエルノールの妹レリアーナちゃん。
三人とも、この作戦の重要人物だ。
「いらっしゃい。ああ、もう……みんな可愛い♡」
本当に可愛い。
まるで花が咲いたみたいに、執務室が明るくなる。
しかも、全員私と同い年だなんて!
「「美緒さまのほうが可愛いです!」」「そうにゃ♡」
うあ?!…気遣いまで…
うん、本当にいい子たちだ。
「コホンーーそれで、どうしたの? 三人そろって」
思えば、こうやってゆっくり話すのは初めてかもしれない。
※※※※※
今このギルド本部で暮らすのは27名。
私とリンネ、エルノール兄妹。
ザッカート盗賊団の20名。
それに執事長ザナークさん夫妻と孫のハイネ君。
……女性は、たった6人。
だから、目の前の三人は私にとって特別だ。
友達になりたい――そう思っていた。
※※※※※
「美緒さま、ありがとう。私に希望をくれて……」
レリアーナちゃんが手を握ってきた。
涙ぐむ瞳に、胸がぎゅっとなる。
この子は、自分の“呪い”が運命だったことを知っていた。
「……もうすぐ死ぬんだって、諦めてた。でも美緒さまが助けてくれた。だから、私も力になりたいの」
「気にしないで? 私が勝手にやったことだし……でも、よかった。もう体は大丈夫?」
「はい、元気です♡」
本当に――助けられてよかった。
「美緒さまは救世主だよっ!」
今度はルルーナが抱きついてくる。
あの時の彼女を思い出して、胸が痛む。
あと少し遅れていたら、もう間に合わなかった。
「うん。ありがとう。……ね、お茶でも飲もうか?」
「「はい♡」」「にゃ♡」
※※※※※
みんなでお茶を飲みながら笑い合う。
なんだか胸の奥が温かい。
久しぶりに“楽しい”って思えた。
多分、小学生の頃以来だ。
中学に入って、私はあのゲームにのめり込み、誰とも距離を置くようになった。
――あの時から、この運命は決まっていたのかもしれない。
神様、ルーダラルダ様。
違うよね?
……私、本当は知りたくないです。
お父さんとお母さんのことまで、“予定通り”なんて言わないで。
お願い―――
※※※※※
「……美緒さま? 聞いてますか?」
「はっ!? あ、ごめんね」
いけない。
考えるのは今じゃない。
私は決めたんだ。『みんなを救う』って。
だから今は――この子たちと笑おう。
※※※※※
「ねえ、美緒?」
ミネアちゃんが真剣な顔で言った。
「同い年だし、呼び捨てでいいかにゃ? ……友達になりたいにゃ」
「わ、わたしも!」
「うん、なりたい! 美緒、私たちと友達になって!」
「……私なんかで、いいの?」
そんな言葉が口をついて出る。
でも、三人の表情は真っ直ぐで――優しかった。
我慢していた感情が沸き上がる。
「もう。“私なんか”なんて言わないの!」
ルルーナがそっと抱きしめてくれた。
「優しくて頑張る美緒が、大好きだよ。だから、もっと自信持って」
「美緒、一人じゃないんだよ?」
「そうにゃ。うちらがいるにゃ」
ああ――そうか。
私は、幸せになりたかったんだ。
諦めなくていいんだ。
望んでいいんだ。
本当はずっと、友達がほしかった。
泣いたり笑ったり、恋バナしたり。
そんな当たり前の時間を――もう一度…
溢れる涙が止まらない。
子どものように声を上げて泣いて。
それでも―――心の穴が埋まっていくようだった。
胸の奥が、あたたかい。
……ああ、これが“絆”
私は心の底からこの出会いに感謝していたんだ。
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