第83話 動き始める英雄たち1
南方の孤島。
人知れずひっそりと存在する地中深くまで続く大穴。
その奥で伝説の龍人族の末裔、後に竜帝としてその力に覚醒する英雄アランの目がゆっくりと開かれた。
恐らく何者かによって封印されたのだろう。
衰弱し動くこともままならない彼は遥か昔の記憶を思い出そうとまるで靄にかかっているような頭を働かせ、思考を巡らせていた。
「……ここ、は……そう…か……龍の墓場……俺、一人……か…」
徐々に浮かぶ過去の記憶。
恐らく300年ほど彼は封印されていた。
むしろ目覚めたこと自体が奇跡の様なものだ。
「……なぜ…俺は……生きている?……」
瞬間、彼の頭に聞きなれない電子音が響く。
『……ザザ…ザ……ゲーム…マスター…ザザ……龍姫……生存……封印……ザザ……』
「………ゲームマスター……なんだ?……龍姫?……エスピア?……」
刹那光が彼を包み込む。
力があふれ出す。
「お、おおおっ?!!……なんだ?……フフ、フハハッ、そうか、そういう事か……俺にはまだ……使命があるという事か」
立ち上がるアラン。
そして前を真直ぐに見つめる。
「ふむ。まずは飯だな。……そして取り戻せねばな。……戦う力を」
そして彼は300年ぶりに歴史の表舞台へと姿を現すことになる。
※※※※※
極東の地ジパング。
かつて多くの命を吸った怪物、オロチと呼ばれる大蛇が封印されていた地だ。
おそらく数千年前。
かの地は災いに包まれていた。
西にオロチ、東に死霊の頭領マサカド、北に魔獣ウロトロス、そしてその妖魔の大将九尾。
伝説の時代、ジパングは住む民にとって地獄だった。
だが当然だが抗う力が生まれる。
全てを切り裂きし妖刀。
意志を持つそれは多くの英雄を導き、それらを封印していった。
人ではなく刀。
まさに八百万の神がいるとされるジパングならではの物語であろう。
現在にまで伝わるその刀。
首都である大江戸。
その領主の館の宝物庫でそれは怪しい光を纏っていた。
まるで目覚めたかのように。
新たな宿主、メインキャラクターである十兵衛。
その邂逅の日は、すぐそこまで近づいていた。
※※※※※
北方の地シベリツール。
厳寒なこの地は住む者はいないとされている魔境の一つだ。
ツンドラに支配され白銀に覆われた地。
その深い森の中に1軒の洋館がひっそりとたたずんでいた。
その地下3階。
大きな棺の中でその美しい少女は深い眠りについていた。
かつて神話の時代、その圧倒的力で大陸を支配した吸血鬼の最期の姫。
英雄王アザーストにより封印されし伝説。
時が止まっていた彼女。
まるで目覚めるかの如く静かに脈を打ち始める魔核。
メインキャラの一人、真祖マキュベリア。
彼女の目は間もなく開かれる。
伝説は間もなく幕を開ける。
ゲームマスターである美緒へ絶対の忠誠を誓う日は近い。
※※※※※
「ふむ。ゲームマスターが降臨されたか……」
古代エルフの王国ブーダ、国王の執務室。
現王であるハイエルフのルイデルド・ルスニールは大きく息を吐きだした。
「まさか生きているうちにこの日が来るとはな…」
実はヒューマンに伝わる伝承よりもさらに古いものを彼らは知っていた。
現王は今3231歳。
彼は創造神ルーダラルダより、直接その話を聞いていた数少ない人物だ。
「世界が動く……なれば我らも覚悟を決めねばならぬな」
森の賢者と謳われる彼らは本来他の種族との交流を積極的には行わない。
余りにも寿命が違うため、親密になることを避けていた。
『いいかいルイ。あんたたちは賢いが強くはない。だからもしゲームマスターが降臨したらその指示に従うんだ。いいかい?あんたたちはそのための種族だ。間違えるんじゃないよ』
脳裏によぎる創造神の言葉。
そしてその時に託された神器。
ルイデルドは小さく頷いた。
「誰かあるか」
「はっ、ここに」
王国の諜報部の責任者で忍のジョブを持つカゲロウが姿を現す。
彼はハイエルフと魔族のハーフ、現在832歳。
この国一番の実力者だ。
「カゲロウよ」
「はっ」
「ゲームマスターが降臨された」
「っ!?」
「時が来たのだ……世界が動く」
「……承知しました。……マルレットは既に仕上がっております」
「うむ。……あの娘には褒美をやらんとな……」
「もったいないお言葉……すぐに連れてまいります」
「頼む。おそらく近々、かのものは訪れよう」
「承知」
一瞬で消えるカゲロウ。
その様子にルイデルドは思わずつぶやいた。
「世界の闇に潜む虚無神……ついにこの時が来たのだな……たどり着くゲームマスター、か」
※※※※※
「勝者!ランルガン!!」
俺は審判のコールを聞き、攻撃していた腕から力を抜いた。
崩れ落ちる相手。
わりいがもう名前すら俺の記憶にはねえ。
50回を迎える記念すべき武闘大会の決勝戦だが、正直物足りねえ。
そもそもコイツら程度じゃ本気を出すまでもねえんだ。
それにしてもこの国の奴らは阿呆なのか?
全員が俺の勝利に賭ければいいものを……
この一瞬に大国の国家予算を上回る賭け金が動くらしいのだからな。
まあそうなれば賭け自体が成立しねえ。
そんなわけでなおさら俺は多少の手加減ってやつを覚えたみてえなもんだ。
相変わらず主催者のアイツは抜け目がねえ。
まあ俺は少しの退屈しのぎと小遣い稼ぎが出来りゃそれでいいがな。
大会8連覇を成し遂げたドラゴニュートの英雄。
俺の肩書が増えた瞬間だった。
俺達ドラゴニュートはいうなれば亜人だ。
見た目は二足歩行のドラゴン。
身長が2メートル程度だ。
まあ俺は3メートルを超えている。
先祖にエンシャントドラゴンがいたらしいが……
俺には関係ねえ。
ただ強く。
それだけだ。
ざわめく観衆に俺は軽く手を上げてやる。
反応するかのように一気に歓声に包まれる闘技場。
悪くねえ。
彼はこの称賛される瞬間が好きだった。
やがて控室へと戻ると同部族の仲間たちが待っていた。
(チッ……めんどくせえ奴がいやがる)
長老でもあり父親でもある、いまだに勝てねえ唯一の男、レイドルッドが鋭い眼光で睨み付けてきた。
「キサマ、手を抜きおって。いつものキサマであれば瞬殺であろうに。……なぜ力を抑える?」
「うるせえな。勝ったんだからいいだろうが。大体てめえはどうして出ねえんだよ。公衆の面前でぶち殺してやれたものを」
「ふん。貴様程度に後れを取るワシではないわ。さっさと里へ帰るぞ。賞金は半分でいい」
「は?なんで俺が稼いだカネをてめえらにくれてやらにゃならんのだ?脳みそ腐ってんのか?」
突然族長であるおやじからやばい気配が膨れ上がる。
……くそっ、確かに強ええ……だがっ。
「貴様……舐めるのもたいがいにしろ。……半分でもお前は得られる。感謝するんだな」
そう言って背を向ける親父。
いつもの俺ならここでおとなしく従うが……
今日の俺は違う。
魔力を練り上げ拳に込める。
俺の魔力に反応した親父だが一瞬遅え。
俺は渾身の一撃を親父の背中に叩き込み、そのまま控室を飛び出した。
後ろでごちゃごちゃ言っているがそんなことにかまっていられねえ。
俺はつい昨日『運命』ってやつに目覚めたんだ。
夢で見た圧倒的な存在―――
黒髪の少女、伝説のゲームマスター。
俺が仕える唯一の主だ。
何処でいつ会えるかは知らねえ。
でも眼に焼き付いたあの可憐な姿と圧倒的な力。
彼女に会えないのなら俺は生きている意味がねえ。
そのくらいの衝撃を俺は受けていたんだ。
俺の運命は今から始まる―――
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