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SS 最強の冒険者ナナ登場

ゾザデット帝国、ルデルーザの町冒険者ギルド。

そのクエストボードの前で一人の少女が佇んでいた。



※※※※※



メインキャラクターの一人、最強の冒険者ナナ。

侯爵家ご令嬢にして世界で唯一のSSSランクの少女。


シナリオでは帝国歴30年に登場する彼女はその時22歳。


テイムした風のエンシャントドラゴンを伴い、圧倒的な力でハインバッハを討伐する。

この世界で唯一『勇者』の称号を得て、ダブルホルダーになる少女だ。


本来どのシナリオでもまだ彼女は登場しない。


速度を増す世界。

物語はすでに美緒の想定を超えていた。



※※※※※



「……エンシャントドラゴンの脾臓石の確保、または伝説のソーマ草の入手!?」


つい口からこぼれる言葉。

ナナは改めて詳細に視線を向ける。


「……クエストランクSS推奨、ドラゴンについてはマギ山山頂付近の祠にて目撃情報多数。ソーマ草は魔導国ザナンテスで2年ほど前噂あり、か」


大きく息を吐く。

久し振りの大物だ。


「……依頼期限は……緊急!?――報酬は……金貨10万枚」


頷くナナ。

緊急での依頼にかなりの大金。

ワクワクと瞳を煌めかせる。


「…依頼の発注は……皇帝?!……うん?……他の部位については……討伐者の自由にしてよい!?」


ナナはクエストボードの前で興奮する彼女。

依頼の内容に、思わず小さくガッツポーズをしてしまう。


攻略対象の魔物はエンシャントドラゴン。

そもそもの個体数の少ない伝説級の魔物だ。

国によっては信仰の対象になりうる高レベルの存在。


何より非常に強い。


そのブレスはオリハルコンですら溶かし、長寿の個体は人語を理解し古代魔術を操る頭脳を持つ。


体は常時発動する障壁でまさに鉄壁。

中級の魔法やミスリル製の武器ですら傷ひとつつける事が出来ない。


実際に討伐するなら国家レベルの戦力が必要になる程の大物だ。

この街での高レベルクエスト自体も非常に稀だった。


彼らほどの存在になると体内に魔力の結晶体である宝石が生成される。

今回のクエストはそれを指定されていた。


(……これ、何系なのかな?)


ナナは以前討伐した同じタイプの、土属性のエンシャントドラゴンを思い出しながら腕を組み考える。


流れるような軽くウエーブのかかった青色の髪。

同じ色のすっと引かれたようなバランスの良い眉毛の下には美しいルビーのような赤い瞳が煌めいている。


整った高い鼻、美しい唇はまるで汚れを知らぬ乙女のようだ。


色白で非常に目を引く美少女が、白銀煌めくセパレートタイプの軽鎧を纏い佇んでいた。

背中にはアンバランスな見たことの無い様なごつい剣を装着。


控えめな胸がまた彼女のチャーミングさを引き立てている。

彼女のその様子は、まさに戦乙女のようで美しく――


そして可憐であった。


知らないものが見ればため息をつくであろう。


だが実際は……


(この前土属性のドラゴンは美味しかったよね。あの魔力を含むお肉……思い出すだけでよだれが……)


ジュルリ。

思わず口を拭うナナ。


すでに心は討伐後の“お肉”に思いをはせていた。


現在午後の2時。

すでに多くの冒険者はクエストを受注し、ギルド内は閑散としている。


彼らは明日の学園からの依頼のため、早めに切り上げてきたのだが。


朝には無かったクエストだ。

よほどの緊急か、或いは……


実際このランクをクリアできる冒険者はこの町にはいない。

彼女たちを除いて。


「おい、ナナ。…お前まさかそれ“受ける”とか言わないよな?」


今にも飛び出していきそうなナナに、冷たい声をかけるルデルーザの町唯一のSランク『ブルーデビル』のリーダーであるエルフ族のルノーク。


実はギルドに入ったときにクエストには気づいていたのだが……

まあ確実に“自分たち用”のクエストではある。


それを面白そうに見つめるパーティーメンバーであるラミンダとゴデッサの二人と、使い魔である妖精龍ノロット。


「えー、面白そうじゃん。ナナ、勝てるでしょ?」

「うむ。ナナは無敵。ゆえにこれは我らの獲物じゃい」

「キューイ♡」


実はすでに今日のクエストをクリアした後だった。

ちょうど買取所に大量のデスウルフを納入したばかりだ。


「うん?だってこれ緊急だよ?報酬もまあまあでしょ。いつも通りお金はいらないから。――お肉は私がもらうけど」


「ぐう、だ、だけど、俺達今日はもうクエスト終了しただろ?皆疲弊している…」


リーダーであるルノークは慎重な男だ。

確かにナナが居れば問題はないのだろうが……


しかし以前、別の王都での指名依頼であった『土属性のエンシャントドラゴン』のクエストの時は討伐直前に放たれたブレスにより、ゴデッサが死にかけていた。


「えー?ねえ、疲れてないよね?」

「うん」

「問題ないぞい」


ナナの問いかけにラミンダとゴデッサが頷く。

これは“行く流れ”だ。


「ダメだ。大体ゴデッサ、お前この前死にかけただろ?……行くとしてもしっかり準備を整えてからだ。それにソーマ草でも良いと書かれている……まあ、あてはないけど…」


通常冒険者は名誉よりも金銭を求める場合が多い。


ゆえに無理をしてしまう事が多く、命を落とす場合も少なくはない。

しかし彼らは、ある事情により既に必要以上の金銭を獲得していた。


無理をする必要はないといつもルノークは思っていた。


「じゃあさ、私一人で行くよ。それならいいでしょ。大体ソーマ草なんて私達でも見たことないじゃん。ドラゴンを倒す方が確実」


とんでもない事を言い出すナナ。

しかし実はそれが一番勝率が高いのも事実だ。


ナナは個人でSSSランク。

冒険者の中での実質トップの実力者だ。


「なっ!?お、お前、ダメだ。万が一だってある。お前がいくら強くても一人で行かせるわけにはいかない」

「えー?じゃあどうすんのよ。ねえ、ルーザ、これって急ぎなんでしょ?」


ナナはカウンターで、彼らのやり取りに目を光らせていた受付嬢。

ナナたちのパーティー『ブルーデビル』専属に近いルーザに声をかける。


カウンターから出てきて近づいてくる彼女。

いつもの満面の笑みを浮かべている。


「ええ。是非お願いしたいですわね。何しろ皇帝様自らのオーダーです。どうやら秘薬をご所望の様子。ソーマ草に至っては見当もつきませんわね……何やら隣国の聖教会がらみでのゴタゴタも関係しているようですし?」


いつもの読めない笑顔で口を開く。

そして一瞬その目に欲がちらつく。


「……色々面倒になる前に手っ取り早く倒しちゃってくださいね?……勲章もつきますわ」


「「「勲章!?」」」


「はい。私の株も爆上がり。――ナナさん、お願い出来まして?」

「うん」


「お、おいっ!?」


どうやら商談成立のようだ。

ルノークは力なく膝から崩れ落ちた。


「ねえ、本当に私一人で良いよ?もちろんお金は要らないし」

「まてっ、行くよ、行く。……大体マギ山までだって3時間はかかるぞ?受けてもいいから、明日にしよう。なっ?」


「……明日?……えっと、あー、私無理。用事が……」

「あっ」


実はナナ。

今の姿はある魔術で変装をしている姿だ。

もっとも髪の色を変えているだけなのだが……

本来の彼女は青みのかかった銀髪だ。


実際の立場上、誰も気付かない。

いや、想定していない。


ナナの本名『エルファス・レリアレード』

帝国きっての切れ者として名をはせるレリアレード侯爵家、この国の宰相を勤める重鎮のご令嬢であった。


「ナナ、学園?」

「うん」


ラミンダがため息交じりに問いかける。


もちろんパーティーメンバーである彼らも、担当であるルーザ、そしてギルドマスターであるロッドウイックも承知している事ではあるのだが。


「ふう、困りますわね。……実はこれ、3日ほどしか余裕がないのですよ」

「3日!?」


ナナは学園での成績が非常に優秀なため、かなりの自由を勝ち取っていた。

だが絶対に出席しなければいけないカリキュラムもあるわけで。


実は明日から4日ほどは、冬季の実地演習が予定されていた。

彼らも、その行事関係で依頼を受けていたことを思い出す。


「ねえ、そもそも明日は学園の依頼受けてるじゃん。やっぱり私一人で討伐してくる。あとのことはお願い」


「で、でも……」

「やばそうなら逃げるから。ねっ、約束」


ナナの手から呪印が浮き上がり光を放つ。

簡易ではあるが契約魔法の一種だ。


この帝国の貴族は契約を重んじる。

これはナナの決意の表れでもあった。


大きくため息をつくルノーク。

実は彼女一人なら時間はあまり関係ない。


伝説といわれる『転移魔法』を習得しているためだ。

もちろん秘匿事項だ。

パーティーメンバー以外で知る者はいない。


「……分かった。じゃあ俺たちは受け入れる準備でもしておくとしよう。場合によっては鑑定も必要だろうからな。……納入は明日の朝で良いよな?ルーザ」


「ええ、問題ありませんわ。ふふっ、ナナさんなら安心ですわね」


「はあ……よし、じゃあ俺たちは鑑定士ギルドに顔を出してからハウスへ行こう。ああ、今日の報酬はいつもの口座へ頼む」


「はい。承知いたしました」


各自の行動が決まり早速ギルドを飛び出すナナ。

その様子をルノークはため息交じりに見送っていた。



※※※※※



Sランクパーティー『ブルーデビル』


ゾザデット帝国皇都のお膝元『ルデルーザの町』で実質トップに君臨する、多種族で構成している冒険者パーティーだ。


通常殆どのパーティーは同種族で組む。

どうしても種族特性による軋轢が生じてしまう事が多いためだ。


彼らは珍しいパーティーと言えよう。


この街の貴族街に近い一等地に、パーティーハウスを所持するほどの超優良パーティーで、蓄額も下手な大貴族よりも多く蓄えている。

何よりクエスト達成率が異常な数値、いわゆる100%だった。


リーダーのルノークはエルフ族。

現在78歳。

通常エルフ族は寿命が長く、個体差はあるものの200年から500年ほど生きる。

実際の見た目はヒューマンでいうところの20代半ばといったところだ。


薄い金髪に黄緑色の瞳、種族特性で優しい雰囲気のイケメンだが、生来の性格が何しろ非常に慎重なため、気付いた時にはリーダーを押し付けられていた。

もっとも他の者がリーダーではあっという間に死ぬか、それこそ伝説級まで駆け上がってしまうかの二択。


ナイス判断だと言わざるを得ない。


ジョブは狩人。

元々エルフ族の族長の甥にあたる人物で、生まれつき索敵のスキルを持つ。



※※※※※



「ねえ、どうせナナ、すぐに戻って来るでしょ?なんで納入明日にしたの?」


ナナと別れ白い息を吐きながらヒューマンと魔族のハーフであるラミンダがルノークに問いかけた。


「はあ。いつも言っているだろ?ナナのアレは秘匿事項だ。ふつう行くだけで3時間かかるんだ。往復で6時間。討伐だって普通は数時間かかるだろうが。今夜に納入とか、何か不正したか、秘密がありますって言っているようなものだろ!?」


「ああー、そういう。……流石リーダーだよね。私そんなことまったく考えてなかったよ」

「……あいつはただでさえ秘密が多いんだ。仲間である俺たちがちゃんとしないとな。大体ナナに抜けられたら、困るのは俺達だろ?」


大きく頷き同意するゴデッサ。

彼は58歳のドワーフ。

ドワーフ族も比較的長命な種族で、150年から200年ほど生きる種族だ。


「うむ。ナナが居なけりゃ俺たちせいぜいAランクどまりだ。ハウスなんて夢のまた夢だろうさ。……あいつ、本当に金銭とか興味ないからな。まあ、おかげでワシ等いい暮らしをさせてもらっている。ナナの希望は全力で叶える。当たり前の礼儀だ」


ナナを想い、顔を赤らめるゴデッサ。

ごついドワーフの赤ら顔は暑苦しい。


実はナナの事が大好きなゴデッサは、常にアプローチしているのだが……

妙齢の侯爵令嬢ともなれば当然婚約者がいる。

ナナの婚約者はグラード侯爵家の長男、ラギルード侯爵令息だ。


実際ナナは非常に可愛い。

実は冒険者界隈では有名人だったりする。


「ねえ、ゴデッサさ、あんた本当にナナのこと好きなのよね?……脈ないんじゃないの?あの子食べ物にしか興味ないし」

「うぐっ」


彼女には多くの秘密がある。

もちろんパーティーを組んでいる彼らも知らない事の方が多い。

何より強さが異常だ。


「まあ、いいんじゃないの?あの子取り敢えずしばらくは冒険者続けたいって言っているしね。何でも『伝説級の美食を求める』とか言っちゃってたしさ」


この世界、認知されているレベルの上限は99。

しかも到達者はいまだ確認されていない。


ナナは隠蔽のスキルで秘匿しているが、実はレベル上限を超えていた。

しかも確実にあり得ない高みに到達している。


「はあ。いったいどうすればあんなに強くなれるんだろ?……ねえ、本当は神様とかなんじゃないの?あり得ないくらい強いし」


「本人は普通のヒューマンだって言っているけどな。まあ普通のヒューマンの17歳の女の子が世界で一番強いなんて、一緒に居て実際に見ても信じられない」


「うむ。まったくだ。……それに、可憐だ」



※※※※※



ナナ、いや侯爵令嬢エルファス・レリアレード。


称号『ウルティメートプレデター』

究極の捕食者、を持つ。


食べることでその魔物の力を吸収する。

つまり経験値を通常の倍以上獲得できる特異能力者だ。


彼女はシナリオ上ではあるものの実は転生者だ。

そして彼女の目的は『最高にうまい魔物』を食らう事だった。




想定よりも早い、彼女の出現。

それはまさに新たな騒動の始まりだった。


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