SS 守った日常の一幕(団員視点)
ウィリナークの街、下町の空き地。
寒い冬だというのに白い息を吐きながらも子供たちの笑い合う姿が見える。
「すげえんだぜ!!あの兄ちゃん、軽く剣を振っただけで瓦礫の山が吹き飛んじゃうんだ。カッコいいよな」
「うん。一緒に居た妖精さんも、とっても可愛いの♡」
小さな子供たち。
数人が集まり興奮気味に目を輝かせ先ほど瓦礫の撤去を行った若き英雄のことを話していた。
「バカ。もっとすごいの俺知ってるもんね」
「ええ?なになに?」
「紫色の髪のねーちゃん。壊れた建物を一瞬で元に戻したんだ。キラキラ輝いて……はあ。本当にすごかった」
何故か顔を赤らめる10歳くらいの少年。
「むうっ、キルノのエッチ。ふんだ鼻の下のばしちゃってさ。確かにあのおねーちゃん、おっぱいとかすごく大きかったもんね」
「ば、バカ。だ、誰もそんな事……」
「いーっだ。知らないんだから」
微笑ましくも紡がれるありふれた日常。
そんな様子を横目で見やり、クロットとエインは顔をほころばせていた。
「子供たちが元気にしているのは良い事だな」
「まあな。ついこの前までは街全体がお葬式の会場みたいだったからな」
二人は今、捕らえられた侯爵一派だった商会の調査に赴いていた。
この街の人口は多い。
約20万人が生活をしている大きな街だ。
今までは侯爵の横暴によりこの街は確固たる身分差があらゆるところで人々の生活を縛っていた。
下手な事を言えば一家もろとも罪を捏造され処刑される。
そうでなくても権力者の横暴により常に住民たちはひっそりと暮らしていた。
侯爵が捕まりまだ数日。
すでにこの街はかつての暗い雰囲気が一掃されていた。
「トップが変わるだけで……ここまで変わるもんかね?」
「それだけじゃねえさ。美緒さまの指示とリンネ様の威光だよ。どうやら直々(じきじき)に聖王が視察に来るらしいしな」
「ほんと、俺達の上司、凄すぎだろ」
「まあな。何しろ伝説のゲームマスターと創造神様だぜ?当然っちゃ当然なんだろうな」
話をしながらも屋敷内で目を光らせる二人。
そして怪しい小部屋を探し当てていた。
「エイン」
「ああ。怪しさ満点だな……くそ、封印か?えっと…あった」
腰につけているマジックポーチをごそごそと漁り、小さな石を取り出す。
魔刻石の一種で解除魔法が付与されているものだ。
「……大体これも美緒さまの錬成の成果だろ?ホント凄すぎだわ」
かちゃりと音がし、扉が開く。
中には帳簿らしきものといくつかの財宝が無造作に置かれていた。
「ビンゴ。なあクロット。これも入るか?」
「ああ、問題ない。……あと100キロくらいはイケると思うぞ」
「じゃあ………よっと。これ入れてくれ」
「おう」
光も入らず薄暗くかび臭い小部屋。
二人は部屋を後にし、玄関先に魔術塗料で大きく丸印を記した。
「これでこのエリアは完了だな。……まだ時間あるな。飯でも食って帰るか?」
「そうだな。たまには娑婆の飯でも食うか。ギルドに居ると世界の常識が分かんなくなっちまうからな」
「ああ、俺達のギルド、飯とかうますぎるし、何より快適すぎるからな。感覚がおかしくなっちまうわ」
彼らは白い息を吐きながら実感していた。
ザッカートに、美緒たちについてきてよかったと。
特にクロットは以前別の盗賊団にいたこともある。
しみじみとその想いをかみしめていた。
彼は以前、まるでぼろ雑巾のような扱いを受けていた。
まだ小さく力もない12歳の時。
彼はその団の中で虐待を受け、意識不明の状態で森に投げ捨てられていた。
※※※※※
「……う……うあ…」
「ふん。役立たずが。最後まで足引っ引っ張りやがって……おらよっ!!」
男に蹴り飛ばされ、まさにゴミのように吹き飛ばされるクロット。
既に意識は混濁しており、微動だにせず倒れ伏してしまう。
「なあ、親方怒らねえか?実際に失敗したのは俺達だし…」
「ああっ?!心配すんな。このゴミがやったんだ。そうだろ?」
「あ、ああ」
「どうせもう助からねえ。さっさと行くぞ」
遠のく男たちの足音。
無くなっていく意識の中でクロットは以前の事を思い出していた。
※※※※※
自分が覚えている悲しい記憶。
心が死んだあの日の事を……
7歳の時の冬、村の収穫祭の夜―――
俺の住む小さな村は野党により襲撃され目の前で父さんが殺された。
母ちゃんは俺を産んでからすぐに亡くなっていたらしい。
だから俺の家は3人家族だった。
ちょうど家族で久しぶりの御馳走を食べ、2つ上の姉とかくれんぼをしている最中だった。
「へへっ、なんだよ、しけてやがる。安い酒だ。ったく、女もいやしねえ」
「おらっ、こっちにこい」
「い、いやっ、放してっ!!」
倒れ伏す父親を踏みつけテーブルの上の酒を男が煽っているところに、隠れていたはずの姉ちゃんが髪の毛を掴まれ連れてこられていた。
俺は暖炉の裏に隠れていて、それに気づいた姉ちゃんが小さく首を振ったんだ。
「痛いっ、放してっ!!……っ!?お、お父さん?!」
「なんだよ。ガキじゃねえか。母親はどうした」
男はちらりと姉を見て小さくため息をつく。
そんな男を姉ちゃんは睨み付けたんだ。
ガタガタ震えながら。
「……生意気な餓鬼だな……しょうがねえ、売り飛ばすか」
「っ!?」
「おい、黙らせろ。…殺すんじゃねえぞ?ちったあ金になんだろ。世の中には幼女趣味のくそじじいがいる。そいつらから金を巻き上げるとしよう」
飛び出せなかった。
姉ちゃん最後まで、俺の顔を見てた。
「出てきちゃダメ」
そう口を開いて。
声を出さずに。
そして男たちが立ち去った後、俺の家に火が放たれた。
俺は必死に逃げ出して家の外に出た。
村全体が燃えていた。
俺はその時、一生分泣いたんだ。
自分の力の無さを嘆いて……
※※※※※
途切れ行く意識の中、そんな情景が頭によぎる。
(ああ、結局……俺は何も救えず……何の役にも立たず…死ぬのか……)
涙が出た。
あの時以降俺は泣く事が出来なくなっていたのに。
どんなに酷い仕打ちを受けても、もう枯れ果てたと思っていたのに……
体中の感覚がなくなっていく。
(……死んだら…父さんに……あえるのかな……)
俺は意識を手放した。
※※※※※
……揺れている?
「……ひでえことしやがる。おい、ポーションはもうねえのか?」
「親方、それで最後だ。アジトに行きゃああるはずだが…」
「ちっ、糞どもが……っ!?お、気付いた?……おい、お前、大丈夫か?」
「……う、……ああ……」
「っ!?す、すまん、しゃべんなくていい。……うなずけるか?」
誰?
でも……ここ数年感じたことのない、温かい気持ちが伝わってくる。
まるで……姉ちゃんや父さんと一緒に暮らしていた時みたいな……
俺は痛む体を我慢して小さく頷いたんだ。
「っ!?良かった……もう大丈夫だ。気をしっかり持てよ?」
「……う、ああ……あな、た…は…」
「お、おう。マジでしゃべらなくていいぞ?傷に響くからな。……俺はザッカートだ。まあ、なんだ。もう少しで俺たちのアジトにつく。寝れるなら休んでおけ」
「……う…ん」
俺は意識を手放した。
久しぶりに安心した気持ちになっていたんだ。
そして俺はザッカート盗賊団の一員になった。
※※※※※
白い息を吐きながら二人並んで街を歩く。
そんな当たり前がとても輝いて見えてしまっていた。
「……なあエイン」
「ああ?どうした。なんか食いてえもんでも決まったのか?」
「ははっ、そうじゃねえよ」
クロットはつい思い出していたことに思わず顔を赤らめてしまう。
何より今は信頼のおける仲間に囲まれているのだから。
「んん?どうしたよ?娼館の女のことでも思い出したのか?」
「あー、そう、だな。……おいエイン、皇都の娼館、マジですげえぞ?ミランダちゃん、めっちゃいい匂いでさ」
「さんざん聞いたわ。何度言うんだお前」
「そうだっけ?……おっ、食堂発見。エイン、入ろうぜ」
「おう」
わざわざ言う必要なんてない。
ザッカート盗賊団のメンバーはそれぞれ色々なものを抱えている。
そして誰もそれを拒絶なんてしない。
「はあ。本当に俺達、幸せだな」
「???変なもんでも食ったか?」
「今から食うんだろうが」
「それもそうだな」
※※※※※
いつも明るくムードメーカーのクロット。
彼の過去、実は皆知っていた。
そんな中ザッカートは全員に言っていたことがある。
「俺達は仲間だ。過去は関係ねえ。だがな、俺たちゃ生きている。だから当然感情も揺れ動くんだ。悲しい時や辛いときに思い出せ。俺達は一人じゃねえ。仲間がいる」
そして最後はにかっと笑う。
「なあに。生きてりゃいい事も悪い事もあるもんだ。だったら笑って生きていこうじゃねえか。……皆でな」
「ふん。だから貴様は甘いというのだ……だがその考え、嫌いではない」
そして副団長のレルダンがしめて一連の話は終了するんだ。
ああ、本当に。
この団に入れたこと、俺は運命に感謝していた。
※※※※※
やがて入った食堂。
多くの客であふれていた。
「いらっしゃい。好きな席に座ってくれ」
「おう」
店主だろうか。
威勢の良い掛け声に期待が膨らむ。
「兄ちゃんたち良い時に来たねえ。今この街じゃあ『再生祭』ってやつを計画しているところなんだ。沢山サービスするからな」
「なんだよ、良い事でもあったのか?」
「ああ、とびっきりのいい事さ。注文、決まったかい?」
「じゃあ……この『店主のおすすめ』ってやつ2人分頼む。大盛りでな」
「あいよっ」
明るく活気にあふれた店内。
お客も皆、明るく瞳を輝かせていた。
「なあクロット」
「ん?」
コップの水をあおりエインはゆっくりと口を開く。
「俺達は間違えなかったんだな」
「……なんだよ急に」
「お前も俺も、正しい事をしたってことだ。……過去は関係ねえ」
「っ!?……全く……感が良すぎるのもどうかと思うぞ?」
「何のことか分かんねえけどな。……まあ、美緒さまのおかげってことで」
「……そうだな」
二人は出された店主のおすすめのあまりの山盛り加減に驚きつつ、舌鼓を打った。
その味は、確かにギルドに遠く及ばないのだろう。
でも喜び溢れる店内の雰囲気が、今まで感じたことのない充実感を二人に与えていた。
「たまには……良いもんだな」
「ああ」
守られた町ウィリナーク。
確かな民衆の暮らしがそこには息づいていた。
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