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第69話 再会

「……ん……あ、れ?……わ、私……っ!?ロッドは?」


魔力を使い果たし意識を失ってしまった私はベッドから飛び起きた。


時計を見る。

さっきからまだ数分しか経過していないことに安堵の息を吐いた。


「美緒さん」

「美緒殿、いきなり動かない方が良い。今特製の栄養剤を処方した。飲むといい」


「あ、ありがとう……ロッド…覚醒したのね……良かった」

「う、うん。……美緒さんのおかげだよ?……ありがとう」


ロッドランド、顔つき変わった……

ゲームの時の陰のある顔じゃない。

充実した良い顔だ。


私は見つめ、思わず顔を赤らめてしまう。


「っ!?美緒さん?大丈夫?か、顔、赤いよ?」

「う、うん。何でもないよ」


(うわー、ロッドメチャクチャいい男になっちゃってるじゃん!?……もともと中性的で可愛かったのに……凄いイケメン……ふあー、マジでヤバイね)


私はごまかすように、何も気にせずマールが渡してくれたコップをあおった。

そして訪れる激マズ地獄。


「!???????!!!!!」


おもむろに私の口を押えるマール。

なんか喜んでない??


「おっと、吐き出してはいかん。不味いがよく効く秘伝の薬。直に魔力も回復するであろう。まあ、不味いがな」

「~~~!!!?????!!」


何で2度言った?!

私は違う意味で意識を失いそうになった。



※※※※※



「ふむ。問題なく回復したようであるな。流石はゲームマスターといったところか。すでに底が見えぬ」

「…………ありがと」


「なに、謝辞はいらぬ。当然のことだ」


むう。

確かにそうだけど……


今度アルディにも飲ませよう。

そうしよう。


(――美緒、今良いか?)


そんなことを考えていたらザッカートから念話が届く。


(っ!?う、うん。どうしたのザッカート?何か問題起きちゃった?)

(いや、大丈夫だ。侯爵を押さえた。ただ……美緒に、ゲームマスターに会って渡したいものがあると言っているんだが……ちょっとやべえ気配があるんだ)


(やばい気配?)

(……例の神様?関係かもしれん。……リンネ様が来るまで待つか?)


私は今、魔力を消耗している。

マールにはああ言ったけど……実は半分も回復してない状況だ。


(……リンネすぐ戻れるのかな?)

(分からん。俺らからは念話できねえからな。何故かエルノールにはつながるんだが……美緒から繋いでみたらどうだ?)


そうだよね。

私が直接話せばいいだけだ。


ちょっと混乱しているみたい。

……きっと薬のせいだ。

うん。


(う、うん。そうしてみるね……怪我とか…みんな大丈夫?)

(ああ、ばっちりだ)

(よかった。じゃあ私リンネとお話してみるから)

(分かった……美緒?)

(ん?)


(そ、その……お前は…………声も…可愛いな)

(っっっ!?????)

(じゃ、じゃあな)


は?

今……なんて?


私は顔を染め、思わず膝から崩れ落ちる。

驚くロッドランド。


何故かマールはニヤニヤしてるけど?

まさか念話、聞こえているんじゃないでしょうね!?


「ど、どうしたの美緒さん?大丈夫?」

「う、うん。ごめんなさい、何でもないの」


いきなりなに?

声も……か、可愛い?


それって…


ううー、何よもう、いきなり……

顔赤くなっちゃった。


も、もう。



※※※※※



その後深呼吸をし、どうにか心を落ち着かせた私はリンネと念話を試みた。

無事繋がりお互いの状況をリンクし合い、同じタイミングで侯爵の部屋へ転移することで合意した。


「時間だね」


私はマールとロッドランドを伴い、侯爵の部屋へと転移した。



※※※※※



「美緒!」

「ルルーナ、無事?」

「もちろん」


転移し私は、目の前に居たルルーナに抱き着く。

可愛い大切な親友。

そしてほぼ同時に転移してきたリンネとエルノール。


私はリンネの瞳を見て頷いた。


「美緒、こちらも問題ないよ。……あとで相談したいことがある。……あなた、大丈夫?ずいぶん消耗してるみたいだけど…」


「う、うん。さすがだねリンネ……分かるんだ」

「まあね。……で?そこの侯爵様?美緒に――ゲームマスターに何の用?」


じろりと視線を投げるリンネ。

そして私の肩をそっと支えてくれるエルノール。


ああ、なんて心強い。

気持ちが落ち着いていく。


「ふん。貴様がゲームマスターか……確かにすさまじいな。……手をほどいてくれぬか?これでは渡すものも渡せん」

「ダメだ。ありかを言え。俺が渡す」


すかさず間に入るザッカート。

警戒している様が伝わってくる。


「ふん。無理だな。……“悪魔の眷属”でなければ取り出せん」


「っ!?……あなた……“憑かれて”いるの?」

「憑かれて?……ふはは、そういう認識か……あながち間違いではない。だが私はこの街の領主、ゾルナル・リッケル侯爵だ。悪魔ごときにつまらぬ邪魔はさせん。……どうした?早く解け。……まさかここまでのメンツを揃え、恐い訳ではあるまい?」


侯爵は面倒くさそうに吐き捨てる。

でも……なんだろう、違和感?


「分かった。少しでもおかしな真似をしてみやがれ。その首、すぐに刎ねてやる」

「好きにするがいい」


腕の縄を解くザッカート。

この領主、ただの悪人ではない。


良くも悪くも人の上に立つ人間。

肝が据わっている。

そういうオーラがある。


それにあの目……


「ふん。強く縛りおって……痛くてかなわん……どれ」


そう言うと侯爵は小さく印を結ぶ。

ジンワリとまるであぶり出しのように現れる小さな窓。


侯爵はその中におもむろに手を入れた。


「……在った。これだ……」


そしてカギのような物を取り出す。

私に投げてよこす侯爵。


「美緒、といったか?私は反省などせぬ。確かに貴様らから見ればひどい領主かもしれん。だがわしはわしなりの矜持の上行っていた事だ。貴様らが理解する必要なぞない。……だが約束は守ろう。か弱く儚い、だが強い精神を持つ、妖精との約束だけはな。――貴様ロッドランドか?」


「……はい」


「見違えたな……お前の“友人”は地下の隠し部屋だ」

「っ!?」


「心配するな。衰弱はしているが死んではおらん。ゲームマスターがいるのだ。問題はなかろう……貴様の聖気…わしにはまぶしすぎる。早くいくとよい」


そう言って目を閉じる侯爵。

この人は……たぶん……


「美緒さん?それ、……鍵、なの?」

「うん。行こうロッド。多分ティリミーナが待ってる」


「!?う、うん」


「みんな後の事は任せます。……ねえエルノール?」

「はい。大丈夫です。お供させてください」

「うん」


私とロッドランド、そしてエルノールの3人で侯爵の言っていた地下の隠し部屋へと向かった。



「……ったく。まだまだ勝てねえな……」


そうつぶやき、ザッカートは出ていく美緒を見つめていた。




※※※※※



地下の隠し部屋。

その一角に厳重に封じてある場所があった。


私は先ほど渡されたカギをかざす。


「凄い……美緒さん、これって魔法なの?」

「うん。結界魔法だね。……この鍵がトリガーになっているみたい…っ!?開くよ」

「うん」


何重にも厳重に封鎖されている扉。

トリガーによって見えない拘束が解除、やがてひとつずつ拘束が解除されていく。


そして最後の封が解かれ、扉が開く。


「……ティリ?」

「…?……その……声……ロッド?……本当…に?」


そこには……


両手両足を太い針で貫かれ、まるで標本にされているようなやせ細った妖精ティリミーナ。

呪言がびっしり記されている台座に張り付けられていた。


「っ!?酷い……」

「うあ、ティリ?……助ける……絶対に助ける!!美緒さんっ」


「っ!?」

「僕の聖気、どうすればいいの?」


そうだ。

(ほう)けている場合じゃない。


絶対に助ける。――誓ったんだ。


「エルノール、サブマスター権限『開錠』使って」

「は、はい……『開錠』……っ!?抵抗?……違う、そうか、これはっ!!」


「ロッド、あなたはこの部屋を聖気で満たしてティリの事を考えて!!助けるって、信じて!!」

「う、うん」


この台座は虚無神の渾身の呪物――ギルド本部の“システムの転用”だ。


侯爵じゃない。

こんな真似、普通の人にできるわけない。


周りを囲む解呪の品々……

彼は捕えたんじゃない。


守っていたんだ。


私は目を閉じ精神を集中させる。


ロッドランドからあふれ出す聖気が邪魔をする呪いと拮抗し――

どうにか干渉できる隙間を作ってくれていた。


見つけるんだ。

ほころびを。


……………………っ!?

あった!!!


「はああああああああああああっっっっ!!!!」


私は魔力を集中させる。

激しく吸収され、みるみる底をついていく魔力。


彼女の体を貫く針が、1本静かに抜けていった。


「あと3本……くっ、負けない……絶対にあきらめないっ!!はああああああっっっ!!!」


――頭が割れるようだ。

――吐き気もする。


でも……


2本目が抜ける。


「半分!……まだだっ!!……守山美緒っ、あなたはそんなものなのっ?!思い出してっ、誓ったじゃない!!」


私は自らを激励する。

もう魔力は底をついた。


でも……

――まだ“命”がある。


「3本目………あと……1本………」


――視界が情報を失う。

音が消え、自分の心臓の鼓動がだんだん遅くなっていくのが分かる……


ははっ、これが限界?

あと少しなのに?



――『絶対欲しいけどなかなか手に入らないものと、そんなに欲しくはないけど簡単に手に入るもの。あなたはどっちが欲しい?』



よぎるお母さんの言葉。



そんなの……




決まってる………





「絶対…諦めるもんかっ!!はあああああああっっっ!!!」


まぶしい生命の光――


ティリミーナを拘束する最後の針が抜け落ちた。

ロッドランドが解放された彼女を両手で優しく包み込み、聖気で保護する。


四肢の穴も徐々に修復され、青白かった彼女の頬がうっすらと上気し始めた。


「やった、ティリ?もう大丈夫だよ。……美緒さん、ありがと?!……えっ?……美緒さん?!」


まるで糸の切れた人形のように崩れ落ちる美緒。

慌てて抱き起すエルノール。


そして気付く。


美緒の心臓が完全に停止していることに。

そして徐々に美緒の体から熱が引いていく……


「美緒さま?……嘘だ……そんな……美緒さま―――――――――!!!!!!!」



※※※※※



ギルド本部。

美緒の寝室――


「ふむ。仮死状態。…いや、魔力が尽き、生命を変換し使用したようだな……全く無茶をする…リンネ殿、力を貸してはくれまいか?わらわの魔力だけでは足りん」


あの後歯を食いしばり、胸の奥から去来する絶望を撥ね退け。

エルノールは“最善の行動”をとっていた。


すぐにギルド本部、美緒の寝室に彼女を寝かせ、サブマスター権限でできる最上級の結界を構築。

転移しリンネ・ガーダーレグト・ロッドランドのおそらくカギになるであろう3人と、今回のキーとなっていた妖精ティリミーナを同行させていた。



「うん。……どうすればいい?」

「なに、わらわが主導権をとる。リンネ殿はただ魔力を揺蕩(たゆた)らせてくれればよい。エルノールの結界が役に立とう。必要なものはすべて使わせてもらう……そこの妖精の幸運もな――ロッドといったな」


「は、はい」


「貴様の魔力、聖気、美緒に貸してはくれまいか?」

「っ!?も。もちろんだよ……全部使って」


「ふむ。ならば“半分”使うとしよう。……もしも全部使えばわらわが後で美緒に怒られてしまうわ。……ではロッドも魔力を揺蕩らせてくれ……やるぞ」


創造神リンネ。

最強の聖騎士ロッドランド。


二人の桁外れな魔力が吹き上がり、美緒の自室を包み込む。


音を立て可視化できるほどの濃厚な魔力――

優しさと慈愛が色を成す。


「凄まじいな……なれば後はわらわの仕事だ。……4000年の長き間に到達せし我が研究の成果、存分に振るおうぞ……」


複雑な印を切る彼女。

その瞳が鋭さを増す。


「『秘術・転生復刻術』……ぐうっ?!……帰ってこい、美緒……そなたがおらねば……この世は意味がないのだ……皆、待っているぞ?……はあああああっ!!!!」


ガーダーレグトの体から見たことのないような赤を帯びた紫色の魔力が噴き出す。


余りの魔力圧に腕の皮膚が裂け血しぶきが舞う。

構わず印を結びさらに魔力を放出する。


複雑な文様が出現、幾何学的なそれに部屋を覆っていたリンネとロッドランドの魔力が混ざり、まるで大きな花のように形成され輝きだした。


「……まったく……そんなところに隠れておるでないわ……ほら、おいで……お姉ちゃんは、みんなは、誰も怒ってなぞ居ないぞ?――ふふ、捕まえた」


そして。

その花はさらに輝きを増し、眠っている美緒の中に吸い込まれていく。


美緒の自室を包み込んでいたすさまじい魔力。

全て一瞬で、まるで浄化されたがごとく消え失せる。


夥しい汗を額に浮かべ、すでに満身創痍。

天を仰ぐガーダーレグト。


そして大きくため息をつき、様子をうかがっていた3人に顔を向けた。


「……大丈夫だ。迷子の我が可愛い妹はここにおる。もう心配はない……まあ、目覚めたら“お説教”は必要だがな?」


膝から崩れ落ちるエルノール。

張りつめていたものが“美緒の生還”を確認し、ぷっつりと切れた。


涙があふれ出し止まらない。


リンネは涙を浮かべながらも美緒の寝ているベッドに腰を掛け、彼女の頬を優しく撫でる。

美緒の胸が緩やかに上下し、静かな寝息が規則正しく紡がれ始めた。


「もう、心配かけて……」


つぶやきリンネは美緒の手を握りしめた。


その様子をロッドランドは優しい目で見つめる。

ロッドランドの胸のポケットからティリミーナが顔をのぞかせた。


「レグさん?美緒さんは、もう大丈夫なのですか……」

「ロッド、美緒平気みたいだよ?今はね、寝ているだけ。うん、魔力も徐々にだけど回復しているみたい」


「えっ?ティリ、君分かるの?」

「ふっふーん。わたしこれでも特別な妖精なのよ?美緒には勝てないけど、凄いんだから」


「そ、そうなんだね」


ロッドランドの周りを飛び回り、キラキラ輝くティリミーナ。

その様子を見やりガーダーレグトがつぶやいた。


「ふむ。そういえば精霊王ファナンレイリから聞いたことがあったな。優秀だがわがままな妖精がいたと……貴様か?」


「うあ、今気づいた……あんたガーダーレグトじゃない。何でここにいるのよ?!」


「ふん。いまさら何を言う。最初からおったであろうに。……そう言えばディーネもどこか抜けていたな。…妖精族というのはどうやら“視野が狭く記憶力が低い”ようだな……興味深い」


その言葉に反応し、ガーダーレグトの周りを抗議するように飛び回るティリミーナ。


「ふむ。その行動も同じだな。やはり貴様ら……ハエなのか?」

「は、ハエ?な、な、なんて酷いこと言うのかな?ムキー、ロッド?こいつやっつけて!!」


「ハハハ、ハ。っ!?……ティリ、静かにしなくちゃ。美緒さんまだ休んでるんだから。レグさん?もその辺で」


「むうっ」

「うむ。そうだな」


どうにかロッドランドが宥め、ティリミーナはおとなしく彼の肩に座り込んだ。



※※※※※



「さて。とりあえず美緒は大丈夫そうね。ねえ貴方、ロッドランド?……色々話を聞きたいのだけれど。良いかな?」


「は、はい。えっと…」


「私はリンネ。創造神リンネよ」

「っ!?……か、神様?うあ、し、失礼を…」


あら、可愛い子ね。


ふーん。

これはエルノール達の新しいライバルかしらね?


リンネはにやりと少し悪い顔をしていた。




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