第68話 サンテス無双
一個中隊を無力化したザッカートたち。
すでに気を失い、虫の息の男たちを束縛の魔刻石で雁字搦めにして正門から堂々と侯爵の館へと入っていった。
一応虫を除去する魔刻石も使用済みだ。
二次被害などシャレにならなさすぎる。
※※※※※
「まあ、まだ居るわな。……流石は侯爵様だ…強えぞ、あいつら」
彼ら11人の前にいきなり音もなく現れた5人の男たち。
明らかに纏うオーラがまともではない。
「ふん。負ける気はしねえが……手間を喰いそうだな…おい、ルルーナ、ミネア」
「うん」
「はいにゃ」
「お前ら先に行け。侯爵を捕らえておけ。すぐに追いつく。ああ、そうだレイルイド、お前もだ。二人を守れ。まあ、ルルーナもミネアも強いが……『一応女』だ。頼んだ」
「おう。任せろ。二人とも、ついてこい」
「もう。一応って何よ。じゃあね兄さん」
「お先に行くにゃ」
踵を返し違うルートへと進む3人。
刺客であろう5人は微動だにしない。
「ずいぶんとお優しいねえ。なんだ?侯爵のところに居る奴はそんなに強えのか?」
「ふん。愚かな。我ら『覇天の嘶』……聖王国最強の冒険者パーティーよ。侯爵には俺らのリーダー『竜殺しゾードグ』がついている。レベルは何と75だ。哀れだな。3人は地獄を知ることになる」
「それはご丁寧に説明痛み入るねえ。お宅らが御高名の冒険者パーティー?知らねえがな。……まあクソみてえな侯爵の肩を持つ時点でお察しだ。……おしゃべりに来たんじゃねえ。掛かってきな」
「愚弄するか?貴様楽には死ねんぞ?……貴様の妹か、さっきの女。……ふはっ、決めた。貴様は殺さん。無力化した貴様の前でさっきの嬲ってやる。俺たち6人でなあ。くくくっ、どんな顔で懇願するんだろうな?興奮しちまう」
「安心した。てめえらがクズで。……心置きなく殺せるわ」
「だまれっ!!」
一瞬で姿がぶれる大きな長刀を持つ男。
ザッカートの首が吹き飛ぶ。
「ふん。口ほどにもない……っ!?な、なんだと?!」
長刀がボロボロと崩れ落ち、驚愕する男。
ザッカートは当然だが無傷だ。
「大振りすぎだ。欠伸が出ちまう。サンテス、任せていいか」
「問題ねえ。活躍の場を……ありがてえ。……3分、てところか」
「おう。後で美緒にたっぷりおまえの活躍、聞かせてやるさ。見せてみろ鍛錬の成果を」
「おうっ!!……おらっ、相手してやるよ。5人まとめてかかってこいやっ!!」
そう言い大盾を構えるサンテス。
おもむろに口を開く。
「アーツ……『ハンマーコック』」
「アーツ……『蟻地獄』」
「アーツ……『金剛無双』」
アーツの3重同時解放。
今これが出来るのは地道な努力を続けたサンテスだけ。
美緒に成長した姿を見せたい。
それだけを想い彼はまさに血反吐を吐きながら鍛錬に励んでいた。
サンテスは既にマールのもたらしていた修行、5倍までをクリア済みだ。
彼の努力、まさに驚愕に値するものだった。
いずれ彼が得る称号。
『金剛無双』
その一端が今開かれた。
※※※※※
なんだ?
なんだこれは?
ちくしょう、どうなっていやがる?!
※※※※※
『覇天の嘶』
聖王国冒険者最強パーティーである彼ら5人は、訳も分からずただ単純にアーツにより守られたびくともしないサンテスの大盾にのみ攻撃を集中させていた。
1対5。
圧倒的有利。
それは位置取りが大きなアドバンテージになるからだ。
正面以外からの攻撃、特にタンクであるサンテスは守りに特化している反面、多方向からの攻撃に対応しきれない。
だというのに……
「お、おい!シーマス、貴様は回り込んだはずだろうが!!邪魔だ!!」
「うるせえ、俺だって意味わかんねえんだよ。くそがっ」
すでに彼らは特殊なアーツ『蟻地獄』に囚われていた。
攻撃の方向性を著しく制限するアーツ。
つまり正面からしか攻撃ができない縛りを彼らは受けていた。
魔法も紡げない。
しかも逃げることもかなわない。
そして同時に発動している『金剛無双』
まさに今サンテスは鉄壁となっていた。
その様子を遠巻きに見ているザッカートたち。
もっともただ見ていたわけではない。
すでに屋敷の使用人たち、抵抗しないものは厨房へ避難するように指示を出し、いたずらに被害が拡大することを避けていた。
レルダンは武者震いしてしまう。
「素晴らしい……皆見るのだ。サンテスの覚悟、そして美緒に対する心からの忠心を。ああ、俺は誇らしいぞ」
「すげえ」
そして宣言通り3分。
もう一つのアーツ『ハンマーコック』の条件を満たす。
多くの制限のあるアーツ。
何しろ待機時間3分。
戦闘におけるその時間はまさに絶望に他ならない。
だがその威力は。
受けたダメージをすべてまとめ3倍にして放つ防御無視の究極の破壊の力。
耐えられるものは……存在しない。
そして証明される。
大盾を構えながら右腕の肘を直角にし、あり得ないほど膨張するサンテスの右腕。
しっかりと引き絞り、アーツ発動のすべての準備が整う。
そして圧倒的破壊の力が解き放たれた。
蟻地獄に囚われている彼らは逃げる事が出来ない。
5人が激しい悪寒に包まれる。
「『ハンマーコック』!!発動!!うおおおおおっっっ!!!!!」
「ひぐうっ?!!!!ひギヤアアアアアアアあああああ―――――――――――――」
3分間の5人による純粋な破壊の力。
それが全てまとまりさらに3倍になる。
その瞬間のサンテスの破壊力。
実に250万を越えていた。
彼らはチリひとつ残さず、完全にその体を消滅させていた。
壁には大きな穴が開き、地平線のかなたまでその衝撃波が蹂躙。
裏手が深い森であったことにザッカートたちは安堵の息を吐いていた。
(ハンマーコック……やばすぎるだろ!??)
「おうっ!?やべえ。……どうやら巻き込んでかなりの魔物倒しちまったみたいだ……へへ、俺っちタンク……カンスト…した……わ……」
そう言いながら力尽き倒れるサンテス。
さらなるステージへと、彼はその資格を獲得していた。
※※※※※
「遅かったね」
侯爵の執務室。
すでにリッケル侯爵はぐるぐる巻きにされ捕縛されていた。
その横で白目をむき倒れている男。
さっき言っていた竜殺しのなんちゃらだろう。
「親方、ルルーナもやべえが……ミネアえぐすぎだろ?一撃とか。しかも……急所」
「あー、まあな。……ミネア、よくやった」
「うにゃん♡よゆーよゆー」
ミネアがかつて自力で獲得した一撃に特化した攻撃。
ジョブが変わっても続けていた鍛錬。
その一撃が火を噴いていた。
倒れ伏す男。
男の象徴、あるものを抉り取るかのように大きな穴が開いていた。
さらには止まらない出血。
もう助からないことは一目瞭然だった。
それを見たザッカートたち。
無意識にある場所が『ヒュン』となってしまっていたのは仕方のない事だろう。
※※※※※
味方に一人の犠牲者も出さず、無傷でとらえた侯爵。
さらには街の掃除を済まし、伯爵夫妻を無事救出。
まさに完全な勝利。
彼らは街の希望となった。
そしてこれは、この世界の摂理を深く理解していた、一人の男のシナリオでもあったのだった。
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