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第67話 ウィリナークの街攻防戦

少し時は(さかのぼ)る。

リンネたちが打ち合わせを始める少し前。


リッケル侯爵邸前の広い公道。

そこにザッカートたち11名が鉢巻をし、横断幕を掲げシュプレヒコールを行っていた。


「侯爵の横暴を許すな―」

「「「「許すな―」」」」

「恥を知れ、侯爵!!」

「「「「恥を知れ、侯爵」」」」

「この卑怯者のあんぽんたん!!」

「「「「この卑怯者のあんぽんたん!!!」」」」


あんぽんたんって……

ザッカートの語彙力、まあね。


突然騒ぎ出す一団。

周りの民衆が集まり始め、興味深げに様子を伺っていた。


「うわあ……あの人たち、殺されちゃうよ……」

「侯爵様……きっと許さないだろうねえ」

「……でも…私もそう思う…」


「っ!?お、おいっ、めったなこと言うな」

「ご、ごめん」


当然だが、これは不敬罪に該当する行為だ。

慌しく出てくる侯爵家の私兵たち。


私兵とはいえ訓練されている精鋭だ。

しかも数も多い。


あっという間に1個中隊規模――およそ120名前後が隊列を組みザッカートたちを威圧する。


「散れっ。侯爵様は寛容だ。今すぐ解散するなら命だけは助けるとお約束してくださった。だが、抵抗するならそれはもはや謀反と変わらぬ。国家反逆罪は……一族郎党縛り首……死罪だ」


1人隊列から一歩前に出て、勝ち誇り顔をいやらしくにやけさせる隊長らしき男。

とても戦えるとは思えぬほどだらしなくだぶつく顔。


その目がミネアの姿を捕らえ、固定される。


「……そこの獣人」

「んにゃ?うちの事にゃ?」


「ふん。ずいぶんと上玉だ。……私が“特別に”閣下へ話を通してやろう。なあに、心配はいらん。私たちでたっぷりと可愛がってやる。どうせ貴様らは全員殺すのだ……良い取引であろう?」


先ほどとは言う事が違う。

まあ解っていた事だ。

彼らは最初から全員殺すつもりだ。


ミネアは大きくため息をついた。


「嫌だにゃ。お前らみたいな卑怯者、うちは許さないにゃ。ドルン」

「へっ、待ちくたびれたぜ。ほーら、特製の魔刻石、たっぷり味わいなっ!!」


ドルンは美緒とちょっと『おふざけ』で作った特製の魔刻石を一個中隊めがけ投入れた。


「みんな、下がってくれ。ありゃ、シャレにならん。まあ、殺傷能力は低いが……きっと全員戦闘不能にはなる」

「……おい、あれは何だ?」


ドルンの物言いに、激しく不安を募らしたザッカートが問いかけた。

ニヤリと悪い笑顔をするドルン。


一個中隊の上空で激しく魔力を吸収する怪しい色の魔刻石。


中心からは蠢く何かが、ゾワリとその姿を形成し始める。

顕現する悍ましいモノ。


まさに虫地獄。


ウネウネとうねる嫌悪感満載の、糸状の粘着性を持った虫。

牙を改良し、小型化した『いわゆる地球のゴキブリ』


人体に侵入し卵を産み付けさせるように改変していた。


まさに『最終兵器』


一個中隊は『悪夢の暴虐の嵐』に叩き落とされた。



※※※※※



ミチ…ギチイ…

グチャ……パキパキ…


ズズズッ――グチョオ…


思わず耳を塞いでしまう“身の毛もよだつ音”が、悲鳴にかき消されていく。


「ひぎいっ?!耳に、鼻に??!!!……ひぎゃああ―――??!」

「く、来るな、くるなあああっっ!?ひいいいっっ!!??」


阿鼻叫喚の地獄。

かつて経験したことのない気持ち悪さと激痛に、悶え苦しむ私兵たち。


その様子に口角をあげるドルン。

思い立ったように別の魔刻石に魔力を込めた。


「おっと、これも使わねえと。俺達もあぶねえからな。それっ」


もう一つの魔刻石をドルンが解放、清浄な空間にザッカートたちが包まれた。

その様子にザッカートはじめ皆が沈黙し、ふいに言葉が漏れた。


「「「「「「えげつなっ!!」」」」」」



※※※※※



――のちに一人の私兵は語った。


あの地獄。

きっと“天罰”だと。


夜な夜な見てしまう悪夢。

鼻の穴に入られ、想像を絶する痛みと恐怖――


故郷の畑を耕し、彼は思う。


「二度と悪さはしない」



あの“地獄”は――

多くの者の“救済”もしていたのだった。



※※※※※



数分後。

やがて恐怖の表情を顔に張り付け――


白目をむき痙攣し、意識を失う侯爵の私兵たち。

むわりと立ち込める嫌な臭い。


公爵家の一個中隊。


戦闘不能。



※※※※※



ほぼ同時刻。

公爵の屋敷の地下。


「ぐあっ?き、貴様ら……うぐあっ!??……」

「急げ。こっちだ……!?……いたぞっ!」


寒さに震え、耐えていた伯爵の耳に小競り合いの音が聞こえ始めた。

やがて見慣れた忍の装族に包まれた家臣であるミカが顔をほころばせる。


御屋形様(おやかたさま)!!ああ、なんてひどい扱い……もう大丈夫です!」


そう言い、鍵を開けるミカ。

後ろから数名の男も現れた。


「っ!?ミカ!?後ろ…」

「あ、えっと、大丈夫です。心強い、『ゲームマスター美緒様』の同胞の皆さまです」

「なんと……感謝申し上げる」


伯爵は冷えて動きの悪くなった体を伸ばし、優しく妻を立ち上がらせた。


「ミカ、街は?…領民たちは無事であろうか?」

「はい。問題ありません。坊ちゃん、ロッドランド様もご無事です」

「ああ、ロッド……良かった」


涙ぐむカナリーナ。

優しく抱きしめるラナント伯爵。


美しい夫婦愛。

皆はしばし、その時間を尊重し静かに優しい目を向けていた。



※※※※※



一方そのころ――

街の西方の酒場では、悪が蠢きだしていた。


「おい、てめえら。侯爵様のオーダーだ。へへっ、全部伯爵に『おっかぶせる』らしい。好きに暴れていいそうだ。ヒャハハ、興奮するねえ」


高級であるはずの酒場。


激しく荒れ果てた酒場にいる20人程度の男たち。

それぞれ目にいやらしくも悍ましい欲望の光を灯らせていた。


「な、なあ、お頭、じゃ、じゃあ、隣のパン屋の娘とか…た、楽しんでも良いのか?…ハアハア…メチャクチャにしてえ」

「好きにしろ。ったく。まだガキじゃねえか。変態野郎が……証拠は残すんじゃねえぞ?」


下卑た会話。

聞くに堪えない欲望を吐き出す男たち。


「じゃ、じゃあ、俺……あそこの洋服店の若女将、へへっ、いい女なんだ……ああ、泣き叫ぶ姿が目に浮かぶ……」


「おら、いつまでも妄想してんじゃねえ、得物を持て。行くぞっ」

「おうっ!!」

「ひひっ」

「はあはあ」


吹き抜ける一陣の風――


「……下種め。貴様らと同じ空気を吸うとか――吐き気がする」

「っ!?なっ?!……ひぎぅ、グギャ?!!」


はじけ飛ぶボスらしき男の頭。

むわりと鉄のような血の匂いが充満する。


あまりのことに、固まる男たち。


優秀なロッジノとミルライナの下調べ。

すでに侯爵の手の内は把握していた。


街にはびこる暴力。

絶対に使うと確信していた。


「ふん。コイツらは生かす必要ないのだろう?」


血に濡れたロングソードを振り払い、ミリナが獰猛(どうもう)にその顔を歪ませる。


「まあな。糞過ぎて鼻が曲がりそうだ。好きにしていいぞ?一応コイツらでも少しは経験値の足しにはなるだろ?」

「ナルカ殿、感謝を。いざっ!!!」


美しすぎる天使族の英雄、ミリナ・グキュートの翼が魔力の光を纏い煌めく。


始まる蹂躙劇。


反撃する事も出来ずに悉く倒される20人の悪党。

僅か1分後にはすでに酒場に動く者はいなかった。


「すげえな。……天使族、マジでパねえわ」


部屋を物色し金目の物を詰め込んでいたナルカの感嘆の声が響いていた。



※※※※※



ザッカートたちは事前に調査を行っていた5か所をそれぞれ2人ずつで襲撃を行っていた。

すでに侯爵の戦力は。


彼の邸宅、館内を残すのみ。


悪党を使い、街を暴虐(ぼうぎゃく)で支配し恐怖をあおる。

そしてその犯人に伯爵を仕立て、自身の地位を確立しようとしていたリッケル侯爵。


その目論見は被害を全く出すことなくザッカートたちによりつぶされた。

しかも悪党の掃除まで完遂(かんすい)するおまけ付き。


きっとこの街は良くなる。

街の悪を悉く撃ち滅ぼした伝説のギルドの鮮烈な輝き。


まさにそれを証明していた。



最終決戦が始まる。


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