第7話 黒髪黒目の少女は仲間を得る
能力向上に努める毎日。
けれど、もう一つの目的――『コーディネーター捕獲作戦』を進めるには、私たちだけでは手が足りない。
だから仲間を増やすことにした。
今の私は“知識チート”ではあるけれど、実力が伴っていない。
魔法系ジョブを習得したおかげで魔力と魔法戦闘はそこそこ形になったけど……体力は全然。
それに、私たちの人数があまりにも少なすぎる。
作戦を立てても、実行する前に詰む。
だから――蛇の道は蛇。
選べるメインキャラクターのひとり、盗賊団の頭領ザッカートを仲間に引き入れることにした。
※※※※※
彼らはギルド本部のあるこの地から二国ほど離れた場所で活動していた。
私はその座標まで把握していたので、エルノールにお願いして転移してもらったんだ。
……彼、本当に有能です。
そして私の“知識チート”でザッカートの抱えていた問題を即解決。
さらに創造神リンネの説得で、快く仲間に加わってくれた。
ゲームでは、彼の妹が数年にわたり酷い目に遭って心を壊してしまうルートがあった。
何事もなく助けられて、本当に良かった。
エルノールのジト目は、見なかったことにしよう。
……うん。
ザッカートたちは本来、もっと後半で登場するキャラ。
“文献を守りし一族”としては言いたいこともあるのだろう。
ごめんなさい。
※※※※※
そんなこんなで仲間になった彼ら。
今、私はサロンでザッカートさんと向かい合っている。
「俺たちは、何をすればいい？」
真剣なまなざし。
数日前、彼は仲間十九名と共に試練を突破してこの地へ来た。
ここは禁断の地リッドバレー。
許可なく入ることはできない。
だから私は、スキル『鑑定』で彼らの適性を確認した。
この世界では『鑑定士』スキルを持つ者は多いけれど、人物まで見抜けるのはどうやら私だけらしい。
『さすがは我がマスター』
エルノールのキラキラエフェクトがすさまじい。
いちいち顔を赤らめはしなくなったけど……心臓に悪い。
コホン。
結果、彼らは驚くほど有能。
私は“同期スキル”で必要最低限の情報を共有した。
そして――同期完了。
※※※※※
しばらく目を閉じていたザッカートが、静かに息を吐いた。
「……アルディ、ね。カシラ、俺たち、そいつを知ってるぜ」
「っ！？」
「ふん、怪しいとは思ってたが……そうか。納得だ。
で、生きたまま捕獲って言ったが――あいつ、多分とんでもなく強いぞ？ 正直、手に余る」
仲間たちも一斉にうなずく。
ザッカートは現在レベル57、ジョブは義賊。
アルディはレベル75、精霊魔術師にして召喚士のサブジョブ持ち。
……正直、ガチンコでは勝てるわけがない。
それに、あの男は“偽りの言霊”スキルを持つ。
一言で相手の思考を狂わせるチートスキル。
うん、無理ゲーだね。
「……残念だけど、そう。だから――少し“ズル”をする」
ザッカートの眉がぴくりと動く。
義賊の彼は、嘘やごまかしが大嫌いだ。
「気持ちは分かるつもり。でもね、これは絶対に失敗できないの。
あなたたちにしかできない作戦があるの」
私は隣にいた少女へ視線を向けた。
「ミネアちゃん、力を貸してほしい」
「にゃっ？ うち？」
猫耳がぴこぴこ動く。
――はうっ、可愛い。反則級。
……いやいや、今は真面目な作戦中！
コホン。
彼女は猫獣人族とヒューマンのハーフで18歳。
ジョブは踊り子、サブジョブは誘惑者。
つまり、めっちゃ色っぽい。
「アルディは見た目こそ美少年だけど、中身は2000歳のエロジジイなの。
女の敵、ってやつね」
私はにやりと笑った。
「「「「……っ！？」」」」
――無自覚に怖い笑み。
その場にいた男たちは一斉に背筋を震わせた。
※※※※※
俺が“カシラ”と出会ったのは、一週間ほど前のことだ。
俺たちはデイブス連邦国を根城にしてた。
だが、油断が祟って妹のルルーナが奴らに捕まっちまった。
俺たちは義賊だ。
腐った貴族や悪徳商人を相手にしてはいたが、弱者を食い物にしたことは一度もねえ。
だが、そのせいで恨みは買ってた。
奴ら――リーディル商会騎兵団。
権力者の犬どもだ。
「親方、すまねぇ。俺が付いていながら……」
「気にすんな、ナルカ。あれは俺の油断だ」
くそ……何が義賊だ。
妹一人、救えねえで。
嫌な汗が流れる。
アイツらはクズだ。
きっとルルーナは…
そんな時だった。
“カシラ”が妹のルルーナを連れて、アジトに現れたのは。
※※※※※
「礼を言う。助かった」
「いえいえ」
にへらと笑う女。
妙に人懐っこい笑顔に、毒気を抜かれた。
一緒にいたのは、10歳くらいの少女と、やたら色気のある青年。
……あの青年、やばい。
笑ってるのに目が笑ってねぇ。
背筋が凍るとはこのことだ。
「それで？ この恩、どう返せばいい？ タダじゃねぇだろ？」
体が震える。
だが、ここで怯えた顔は見せられねぇ。
俺は十九人の仲間を率いる頭領だ。
女はそんな俺をちらりと見て、にっこり笑った。
……やめろ、可憐すぎる。
「実はね、仲間を募集してるの。みんな――うちに来てくれる？」
※※※※※
その後の展開は、驚きの連続だった。
誰が想像する？
創造神様が、目の前にいるなんて。
誰が気づく？
あの禁忌地リッドバレーを治める当主だなんて。
そして――誰が信じる？
美緒が、伝説の“ゲームマスター”だなんてよ。
俺たちは全員一致で、カシラについていくことに決めた。
どうやら、俺たちはもう普通の世界には戻れねぇ。
でも、後悔なんてあるわけねぇ。
あの女――いや、俺たちのカシラに賭けてみる。
この時、俺はそう決めたんだ。
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