第65話 ロッドランドの覚醒
「……っ!?……ここ、は……あっ、僕の腕……えっ?…治ってる???」
見たことのない天井。
それにもう冬のはずなのに凄く温かい部屋。
僕は自分の体を調べた。
「確か…店を出て……っ!?無いっ!!?……ペンダントが!!??うあ、あああ、無い、無いっ!!ど、どうしよう……ティリ……」
大切な友達。
妖精のティリミーナからもらった大切なもの。
もうすぐ会えると思っていた……
なのに……
目の前が真っ暗になってしまう。
体が震える。
「……ロッド?入ってもいい?」
「っ!?……美緒さん?……う、うん」
一瞬で現実に引き戻された。
僕は慌てて涙を拭いてベッドに腰掛ける。
ドアが開き美緒さんと知らない男の人が部屋に入ってきた。
※※※※※
「えっと、ロッド?その、腕……大丈夫?」
「う、うん。……美緒さんが治してくれたの?」
どうやら体は大丈夫のようで、私はロッドランドを見ながら安堵の息を吐いた。
「ねえロッド。ちょっと厄介なことになっているの。少しお話してもいいかな?」
「……もしかして、街の事?」
私は今さっき聞いた話を彼に教えた。
マールはただ黙って佇んでいる。
一通り話を聞きロッドランドは私の目を見つめる。
「いかなくちゃ。僕のせいだ。僕があいつらに……」
「違うよ?あなたは悪くない。だってあなた……全然手を出していなかったでしょ?それに今私の仲間たちが動いているの。きっと大丈夫だから」
「……美緒さん」
ロッドランドは大きく息を吐き、まるで別人のように鋭い眼光を私に向けた。
「取り返したいんだ。僕の大切な友達の――贈り物」
そして手で胸のあたりを押さえる。
「……ペンダント?」
「っ!?……うん」
※※※※※
そして語られるロッドランドと妖精ティリミーナとの出会い。
ペンダントの秘密。
私はやっと納得した。
彼らは生きている“実在する人”だ。
だから知っているはずのロッドランドの物語、私の知っている内容と大分異なっていた。
でもこれは創造神、ルーダラルダ様のシナリオ。
シナリオが動きだすまで、ゲームマスターである私には細かい所が感知できなかったのだ。
ここ最近。
彼の持っていたペンダント、実は光が瞬いていたらしい。
彼女、ティリミーナが近くにいる証拠だった。
私は思い出す。
ティリミーナが捕えられ、見世物にされ――いずれ命を失ってしまうことを。
彼女が実は“虚無神”によって呪われていたことを。
そして今捕らえ、保持している人物。
それこそが今回の騒動の中心――リッケル侯爵だった。
彼もまた…悪魔の眷属に憑りつかれている。
本来は来年の春、帝国歴26年に起こる物語。
(…ロッドランドの物語…早まっている?)
私の鼓動がトクンと跳ねた。
※※※※※
「ねえマール。私と一緒にロッドを助けてくれますか?」
「ふむ。承知した。だが……ロッドランドといったな。貴様はそれでいいのか」
「えっ?どういう……」
マールは私に視線を向ける。
「美緒殿。コイツは重要な人物なのだろう?しかもすでに『シナリオ』といったか?……動いているようだ。教えるべきだ。真実を。――我が“魔眼”もそう言っている」
「……真実?」
ロッドランドは不安げに視線をさまよわせる。
確かにロッドランドはこのイベントで覚醒する。
でもその覚醒には……
妖精ティリミーナの死亡が条件だ。
“もう一人の私”の時、それはすでに起こった後だった。
でも今回はその時よりも早く私はロッドランドに出会えた。
――間に合う。
彼の覚醒に必要なのかもしれないけど……
私は嫌だ。
絶対に救いたい。
ロッドランドは最強の聖騎士。
本来のシナリオではこのイベントの後、3年後から物語はスタートする。
つまり失われた後だ。
彼は圧倒的な力で狂ったハインバッハをあっさりと倒す。
だけど……
そう、彼はその後人知れず行方をくらましてしまう。
確かにロッドランドは世界の闇を払う。
でも彼にとっては“バッドエンド”でしかない。
すでに一番大切なティリミーナが失われた後の世界だからだ。
(そうだ。私は何を悩んでいたんだ。……決めたはずだ。全部救うって。……彼女を失って強くなるのがイベントの条件?そんなのくそくらえだ。私が彼を鍛えればいい。希望を胸に、彼の希望を叶えたうえで!!)
私は大きく息を吐き真直ぐロッドランドを見つめた。
「私はゲームマスターです。あなたの運命、私は知っている。今のままではあなたは二度とティリミーナとは会えない。――救えない」
「なっ?!……ど、どういう事?……な、何で?……酷いよ?!……ねえ」
涙を浮かべ嘆くロッドランド。
私は彼の手を強く握りしめた。
「でも私はそれを認めない。絶対に助ける。……だから……」
そしてもう一度彼の瞳を射抜き宣言する。
「開放しなさい。あなたの心の奥にある聖気を。……今、ここで」
「えっ?……聖気?……」
「今、私が彼女、ティリミーナの代わりに誘導します」
「っ!?」
私は自分の中にある、聖なる気を循環させる。
部屋があまりの魔力圧に軋みだした。
「ふむ。凄まじいな……これが美緒殿の……ふはは、我が魔眼も疼いておるわ。良いものを見れた」
「うあ、す、凄い……ぐうっ?!……うぐっ、うああ、あああああああああああああああっっっ!!!!」
「耐えるのっ、そして感じて!!……これはいわば邪道なの。正確には私とティリミーナとでは魔力の質が違う。……でも、出来る。あなたなら、ロッドランドなら……最強の聖騎士になるあなたなら、絶対にできる。できないといけないのっ!!」
苦しみ悶えるロッドランド。
私は構わず魔力の圧を上げていく。
「……だって、私の聖属性の魔力では、彼女の呪いに干渉できない。……貴方しかいないの……絆を刻んだあなたの聖気でしか。……いくよっ、はあああああっ!!」
「ひぐっ??!!!うああ、あああっっ、うあああっっっ―――?!!」
部屋を光が包み込んだ――
※※※※※
遠い昔?
あれ?
ここは……
「……もう、話聞いているの?さっきから難しい顔しちゃってさ。私のお話、つまんないのかな?」
ああ、懐かしい……
街はずれの丘の上……
優しい風が僕らを包む、温かい場所…
「えっ?そ、そんなこと……僕は君と居れて、嬉しいよ?」
「ほんと?!ふふっ、嬉しい」
ああ、ティリがいる……
大切な……友達……
「ねえ、ロッド」
「ん?」
「目、つぶってくれる?」
「う、うん」
覚えている……
そして彼女は……
「ふがっ?!」
「ふっふーん。勘違いしたでしょ?もう、ロッドのエッチ♡」
僕の鼻をつまむんだ。
とっても可愛い顔で……
「な?!…そ、そんな事……」
「キスすると思った?ふふ、顔真っ赤よ?かっわいいー♡」
「も、もう。からかわないでよ」
そして僕は……
ああ、彼女の事が大好きだったんだ…
「ごめんね?……ねえ、ロッド」
「うん?」
……だめだ
まだ、聞きたくない…
「私を助けてくれる?」
ああ、終わっちゃう……
ティリが…
消えてしまう……
『あなたの聖気、それがあの子を救うカギになるの!!だから、目覚めてっ!あなたなら、ロッドランド・イシュタークなら、絶対にできる。……あなたは最強の聖騎士。信じて、そして怖がらないで……あなた自身をっ!!』
っ!?み、お…さん?
正直彼女、美緒さんの言う事は信じられない。
僕が最強の聖騎士?
在りえない。
でも……
心の底から願う僕の想い……
救いたい。
……違う。
僕は…
僕はただ……
ティリと一緒に……
笑っていたいんだ。
だから……
もう逃げない!!
もうあの時みたいに諦めるのは……絶対に嫌だっ!!
心の奥で渦巻いているすさまじい力。
ロッドランドはその深淵に意識を飛び込ませた。
※※※※※
どのくらいの時間が経過したのだろう。
私は魔力をほぼ使い果たし崩れ落ちた。
マールが優しく私を抱きとめてくれる。
「…凄まじい。美緒殿はまさに“奇蹟の女神”のようだな……ふむ。ロッドランド・イシュターク」
「………はい」
「貴様、覚醒したのだな?ふふん。貴様も又人外という訳か。……何ともたぎるな……美緒殿に感謝するといい。まあ彼女はそんなこと思いもしないだろうがな」
マールデルダは優しく美緒をベッドへ寝かせ、毛布を掛けた。
立ち上がるロッドランド。
その体は光輝く聖気に包まれていた。
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