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第64話 イシュターク伯爵救出作戦

侯爵家地下牢。


基本領主邸やそれなりの地位にある者の屋敷には地下牢が存在する。

罪人の一時拘留や酔っ払いなどを保護するのが通例だ。


しかし侯爵家の地下牢。

おそらく拷問などを行っているのだろう。

明らかに人の物である血のシミが数多く残されていた。


石畳のそこはベッドなど必要最低限の物すら存在せず、侯爵の残虐性の一端が見受けられていた。


突然兵を伴いイシュターク家に押し入ってきた侯爵家の当主ゾルナル・リッケル侯爵。

捕らえられたラナント・イシュターク伯爵は殴られ腫れた顔を押さえつつ、隣で蹲る妻カナリーナの背を優しくさすっていた。


「カナリーナ、大丈夫か?……12月も半ばだ。ここは冷えるからな。女性である君には辛いだろう。…しかしまさか公衆の面前で手を上げるとは……」

「ありがとう、あなた。私は大丈夫です」


当然連行を拒否した伯爵。

しかし相手は効く耳もたずにいきなり暴力に訴えてきた。


「ふっ、しかし相変わらずカナリーナは強いな。まさか私をかばうとは。……ああ、君はとても素晴らしい女性だ」

「もう。おだてても何も出ませんよ?……ロッドはまだ見つかっていないのね」

「うむ。ミカからの連絡がないからな。無事だとは思うが……一緒に居た黒髪の女性……もしや『ゲームマスター』かもしれぬ」


数日前、聖王の勅命でこの世界に降臨されていることが公表されていた。

その時に伝えられた容姿が、息子と一緒に居たとされている女性と似ているのだ。


「もうこの街は限界だ。侯爵の横暴は日増しに酷くなってきている。まるで何かに憑かれたかのようだ。……いくら奴でも、ここまで直接的な手段はとらなかったはずだ」


そう言い座り込み、天を見上げるラナント伯爵。

少しでも妻を温めようと彼は彼女を膝の上に抱き優しく包み込んだ。

その様子にカナリーナは不安そうにしながらも、ラナントの手を握り締め頬を赤く染めていた。



※※※※※



「その救出任務、俺とモナークにやらせてほしい」


先ほど調査に赴いたミルライナがザッカートに懇願した。


よっぽど強く歯を食いしばったのだろう。

彼の口元からわずかに血が流れていた。

信望する美緒の、あまりの取り乱しように彼は行き場のない怒りを抱えていた。


「ああ、そうだな。……抜け忍の力、あてにさせてもらう。モナーク、場所は分かってるな?」

「おう。すでにミカの情報で把握済みだ。……ミルライナ、俺達はスキルで陰に隠れる事が出来るが……最悪の場合罠や扉の解除には手間取っちまう。スフォード」

「お、おう」

「おまえも来い。親方、良いっすよね?」

「もちろんだ。なあに、安心しろ。俺達が少し騒ぎを起こす。お前たちはその隙に確実に救出してくれ」


今すでに、美緒の指示でエルノールとリンネは聖王の居城であるシュルツヘルン城へと転移していた。

残されたザッカートが作戦の指揮を執る。


イシュターク伯爵夫妻の救出と、最悪の場合街の住民の避難を行うためだ。


「よし。案内役としてミカを連れていけ。ミカ、良いな?」

「はっ。勅命、必ずや」

「お、おう。まあなんだ、俺達はそこそこ戦える。お前は主人の身の安全を第一に考えてくれ」

「はい。……坊ちゃんの無念、私が責任をもって晴らして見せます」


使命に燃えるミカ。

その様子にザッカートは内心不安を感じていた。


この世の中で『忍』の文字のあるジョブはとてつもなく強い。

だがミカは、さすがにギルド本部にいる者たちとは比較にならないほど未熟だ。


(しょうがねえ。ここはマールさんに頼むか……万が一があれば美緒が悲しむ)


「ふっ、我は高みの見物としよう。なあに『豚』と『ゴミ』がいる。何も心配はあるまい。何より我は美緒殿を守ろう。この中で一番強いが一番脆いのでな。……異存はあるまい?」


(っ!?先手を打たれた?……まあ、大丈夫か……それにしても『豚』と『ゴミ』って……良かった俺。弟子に志願しなくて……)


ザッカートが内心安心していたことはともかく、速やかに決まっていく作戦の立案。

美緒は改めて、仲間の能力の高さに感嘆の念を抱いていた。


「ミルライナ」

「は、はい」

「……ありがとう、心配してくれて……口、見せて?……『ヒール』……うん。治った……ごめんなさい」

「っ!?い、いえ……絶対に成功させます。もちろん自分の安全も、です」

「うん。信じてる」


「美緒さま。俺っちも皆を守る。新たな力『アーツ』……俺っちの活躍、期待して下せえ」

「うん。サンテス。……怪我しないでね?」

「へい」


「ふふっ、美緒殿、大船に乗ったつもりでいるといい。何より師匠直々の命令だ。腕が鳴る。……天使族の力、見せつけてやる」

「……はあ、ミリナ?……ほどほどにしてくださいね?あなたが本気出したら全員殺しちゃうでしょうに」

「むう?そ、そんな事はないぞ?まったく、ダリーズは心配性だな」

「…いや、俺もそう思う。ミリナはイノシシみたいなところあるからな」

「っ!?カイ?……イノシシって……」


あはは。

ごめんミリナ。

私もそう思う。


因みに天使族のカイとダリーズ以外の勇士たちは最近建設された新たな拠点のほうで警戒に当たってもらっていた。

この作戦にはミリナとカイに参加してもらう。


「何はともあれ作戦を実行するぞ。転移門の許可があるのはドレイクとモナーク、イニギア、ロッジノ、ミルライナの5人だ。これで25人がいける。ダリーズは通信石での連絡役を頼む。美緒はマールさんと待機だ。何かあったら念話を。……先発隊の4人は伯爵の救出、10人は別れて事前に掴んでいる場所の掃除、残りの11人で侯爵邸前で抗議の声を上げる。みんな、腹くくれよっ!!」


「「「「「「「「「おうっ!」」」」」」」」

「「「「「はいっ!」」」」」

「んにゃ!!」


そして皆ギルド本部の地下4階から、フィリルス聖王国、第3の都市ウィリナークへと転移していった。


作戦が始まる。



※※※※※



「ふむ。美緒殿」

「ん?なあにマール」


見届けた私は不意にマールから問いかけられた。


「先ほどの若者……どうやら目覚めたようだ。説明が必要ではないのか?」

「っ!?……凄いねマール。あなたわかるんだ」

「ふむ。修練の賜物だ。我が魔眼が教えてくれる。美緒殿だってすぐに習得するさ。同行しよう」

「うん」



※※※※※



そして私とマールはロッドランドの覚醒に触れることになる。

彼の悲しみ、そして希望。


淡い恋物語。

シナリオとは違う方向で進んでいくのだった。


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