第63話 とある自治領の裏事情
「ひいっ?!か、勘弁してくれ……お、俺達は、頼まれただけなんだ。だから…」
「ふん。誰に頼まれたんだ?……もう一本行っとくか?」
「ひぎいいっ?!!や、やめ……ぐぎゃああああああああーーーーー!!!!!!」
あー。
どう見てもドレイク。
悪人顔よね。
なんかいい笑顔でボキボキ骨折りまくってるし。
襲ってきたガタイのいい男の人たち、みんな失禁しちゃってる……
ちょっと近づきたくない状況になっています。
「言うっ、言うから……もう、やめて……ください……」
「ふん、早く言え」
「こ、侯爵様、リッケル侯爵に頼まれたんだ……も、もう、勘弁してくれ」
どうやら先ほど私に『おイタ』をしたクズ男の御父上の差し金らしい。
まあ予想通り。
どおりでこんなに騒いでいても誰も出てこないわけだ。
余りにもテンプレすぎて思わず苦笑いをしてしまう。
そして気付く。
どうやらドレイクも気付いたようだ。
「おいっ!」
「ひ、ひい、な、何でしょう」
「男はどうした?」
「へ?………あ、えっと……」
ちらりと視線を泳がせる男。
私はそちらの方に走り出した。
30メートルほど先の路地裏に、数人の男に囲まれ血まみれで蹲っているロッドランドの姿があった。
利き腕を中心に狙ったのだろう。
彼の右腕がぐちゃぐちゃにめった刺しにされていた。
「ロッド?!……酷い、こんな……」
「う…あ……み、美緒さん……逃げ…て……」
絞り出すように声を出し、ロッドランドは気を失った。
彼の手のひらの感触を思い出し、一生懸命鍛錬する姿が脳裏に浮かぶ。
それを踏みにじる非道な行為……
さらにはネックレスが引きちぎられていた。
私の心が黒く染まる。
「おいおい、情けねえなあ?てめえ、それでも騎士様かよ?全く抵抗すらしねえし……てんで弱っちくて話になんねえ。おっと?へへっ、こりゃとんでもねえ上玉じゃねえか。ねえちゃん…」
「黙れ」
「はあ?お前誰に向かって…ひいっ!???」
「絶対に許さない」
私は全力で魔力を放出。
男たちはあまりの魔力圧に全員跪き、苦しみのたうち回る。
私はゆらりと立ち上がり、ボスであろう男を睨み付ける。
「お前か?ロッドに酷い事をしたのは……右手」
「ひぎゃあああああああああああああっっっっ!!!!??」
弾け飛ぶ男の右腕。
おびただしい量の血が噴き出す。
「それともお前か?」
隣で蹲る男を睨む。
「右手」
「ぐぎゃあああああああああああああーーーーー!!!!!??」
はじけ飛ぶ右腕。
左手で押さえのたうち回る男。
そしてもう一人も……
………
不思議だ……
何も感じない。
返り血の温かい感触にむしろ高揚感すら感じる。
まるで……
魔物を退治しているみたいだ。
私は魔力を練り上げ、呪文を紡ぎ始める。
突然肩を強くつかまれた。
「ダメだっ!美緒っっ!!それ以上はっ!!!」
「っ!?……あ、れ?……わ、わたし……」
気が付けば……
3人の男は気を失い、辺りはまるで池のようにおびただしい血で溢れかえっていた。
「あ…あ……わ、わたし………」
「しっかりしろ、美緒。大丈夫だ、死んじゃいねえ。……美緒、回復できるか?」
「っ!?う、うん。『エリアハイヒール!!』」
ドレイクに促され、私は慌てて回復魔法を紡ぐ。
緑色の魔力に包まれ、無くなった腕が逆再生するように治っていく男たち。
「ふう。流石だな。……美緒、大丈夫か?」
「……ごめんなさい」
「まあ……美緒のせいじゃねえ。俺だってぶち殺したくもなるさ。……気にすんな…って無理か。まあ、なんだ。……慣れることも必要だぞ」
「う、うん。………はっ?!ロッドは?」
「大丈夫だ。今の美緒の魔法で回復して傷はねえ。取り敢えず連れていくか」
「う、うん……転移!」
私とドレイク、そしてロッドランドの3人でギルド本部へと転移した。
そしてこれがさらに大きな騒動になることにこの時の私は気づいていなかった。
※※※※※
「滅ぼしましょう」
エルノールの目が据わっている。
「……全殺しだ。全員、行くぞ。いいなっ!」
「「「「「「「「「おうっ」」」」」」」」
ザッカートたちも気勢を上げる。
「許さない。ミネア」
「うにゃー、全員ぶっ飛ばすにゃ」
「ふん。わらわの可愛い美緒を穢すとは……久しぶりに本気を出すとするか」
えっと全員が、殺気立っています。
「ちょ、ちょっと待って?み、みんな、落ち着いて……リ、リンネ、助け…ひいっ!?」
リンネが怒りのあまり、20歳くらいに成長しあり得ない魔力を放っている??!!
「うん。美緒は心配しなくていいよ?全部終わらせるから」
ダメだ。
あの国、滅んじゃう。
うああ、どうしよう?!
あうっ、ドルン?……それはダメな奴じゃ……
ドルンが私の錬成した重複付与の魔刻石を握りしめ、怪しくにやりと顔を歪ませている??!!!
「ふむ。まずは現状の把握が必要だぞ?……ザッカート、貴様このままいくつもりか?……美緒殿が悲しむが……良いのだな?」
「っ!?……マールさん?……美緒が…悲しむ…??!」
流石マール。
彼の一言でサロンは水を打ったように静けさに包まれた。
何故かミリナが目を輝かせているけど……
大きくため息をつくザッカート。
どうやら皆落ち着きを取り戻したようだ。
私はへなへなと膝から崩れ落ちた。
「美緒?大丈夫?」
「う、うん。……ありがとう、リア」
レリアーナに支えられどうにか立ち上がった私は改めて皆を見回した。
※※※※※
事の発端はギルド本部に戻った時の取り乱した私の様子だった。
初めて人を殺すところだった私。
自分でも分からないくらい大きなショックを受けていた。
思わず目に入ったルルーナに飛びつき泣きじゃくる。
全身に返り血を浴び、ぐしゃぐしゃに泣き崩れる私に驚いたルルーナが優しく問いかけてくれた。
「ど、どうしたの?美緒?……ああ、もう泣かないで?大丈夫、大丈夫だよ?……ドレイク、どういう事?」
「あー、なんだ。ちょっとひと悶着あってな…取り敢えずこの坊主、寝かせてやってくれねえか?」
「男の子?えっと、ああ、リア?いいかな」
「う、うん」
「ぐすっ、ヒック…うああ、うああああーーーーーんん」
「あうっ、もう、美緒?うう、可愛い…って、ちがーう」
しばらく続くカオス。
ようやく少し落ち着いたところで私は最悪の失言を零してしまう。
「こ、殺しそうになっちゃった……初めて、人を……それに……」
「っ!?美緒……う、うん。それに?」
実際たいしたことないと思っていた。
犬にかまれたと諦めていた。
でもルルーナのぬくもりに、つい弱い心が出てきてしまう。
「……男に……髪の毛の匂いかがれて……触られちゃった……」
「っ!?」
そしてサロン全体が凍り付く。
「美緒?」
「……ん?」
「どこを?」
「……え、えっと……………」
私はそっと自らのつつましいものに視線を投げる。
そしてその瞬間。
サロンに在りえない殺気が充満する。
「……ドレイク」
「うぐっ?!……お、おう」
「貴様……どういうことだ」
ドレイクの胸ぐらをつかみ上げ、レルダンの殺気が天元を超える。
「貴様が付いていながら……説明しろ」
「お、落ち着け?……話す、話すから……」
そしてドレイクが説明し冒頭のエルノールの発言に戻る。
※※※※※
「美緒さま、ちいとばかし面倒なことになってやす」
何とか落ち着いた私たちは今サロンで、あの後調査に行ってくれたロッジノとミルライナから報告を聞いているところだ。
もちろん服は着替えたよ。
返り血を浴びたまで居た私。
リアにメチャクチャ怒られたし。
何故か見たことのない、忍びの装束を纏っている女性もいるけど?……誰?
「面倒な事?でも私、あの人たち、悔しいけど……治したはずよ?」
「ええ、死人は出ていやせん。ただ……」
「???……ただ?」
「美緒さまとドレイク、それにさっきの坊主の似顔絵が街中に貼られています。何でもあの街の領主、リッケル侯爵に不敬を働いたとかで……スキル持ちがいるのかやけにそっくりな手配書……まあ、指名手配っすね」
「不敬?あり得ないよ?むしろこっちが被害者なのに……特にロッドランドなんか、酷い怪我を…」
ロッジノは言いにくそうに口を開く。
「へい。そのロッドランドの親、イシュターク伯爵なんですが……公開処刑に処される予定です」
「なっ?!」
どうやら同じ街で暮らす二人の爵位持ち。
権威を笠にやりたい放題のリッケル侯爵に対し、民のため常に意見していたイシュターク伯爵をいい機会とばかりに排除するつもりらしい。
そしてついて来た?女性がおそるおそる口を開いた。
「突然の訪問、失礼いたします。私からもよろしいでしょうか?」
「え、ええ。……あなたは?」
「っ!?こ、これは失礼しました。私はイシュターク伯爵様に仕えるミカと申します。ジョブは下忍です。以後お見知りおきを……あの、美緒さま?……坊ちゃん、ロッドランド様は……」
「そうなのね、よろしくミカさん。ロッドは今手当を済ませ別室で休んでいるわ……無事よ」
「っ!?ありがとうございます。……ぜひわたくしも協力させていただきたいのです……イシュタークさまは私の恩人。……力不足ですが…どうか…どうか……」
私は彼女に近づいて手を取る。
「ええ、もちろんです。私たち、あの町に詳しくないの。ミカさんが居れば心強いもの。……お願いいたします」
「っ!?ああ、なんという………このミカ、全力を持って美緒さまに協力させていただきます」
何故か顔を赤らめ、興奮気味に感動しているミカさん。
うーむ。
やっぱり私『人たらし』なんだね。
はは、は。
「とりあえず情報の共有をしたいの。ドレイクお願い」
「おう。ミカ?……こちらへ」
「は、はい」
※※※※※
どうやら思った以上にあの街は腐敗が進んでいたらしい。
大きくため息をつきエルノールを見やるレルダン。
「クズどもめ……しかしこれは武力のみでは解決できない案件だな。……エルノール、どうすべきだと思う」
「……そうですね。聖王を巻き込みましょう。彼にはすでに美緒さまがゲームマスターであることは通達済みです。権力に胡坐をかく輩には、より強い権力で黙らせるのが良策でしょう。まあ、まずは伯爵の保護、そして捕縛の際、そのバカ息子はぶっ飛ばしますが」
「どこにでもそういうクズがいるもんだ。捕縛の後は俺たち義賊団の仕事だ。ロッジノ、街の孤児院の様子もすでに把握しているな?」
「ああ。ひでえもんだ。どうやらろくに補助金とか出ていねえみてえだ。孤児たちは目が死んでいた。運営する大人たち、みんな侯爵の息がかかっていやがる」
ミルライナが一歩前に出てさらなる報告を行った。
「どうやら町の権力者、繋がってるな。……一部で富を独占していやがる。……誰も逆らえない。唯一イシュターク伯爵が抵抗していたようだが……もし侯爵のワンマン運営になってしまえば弱い貧民にはあの町は地獄だろう」
気付かなかった。
私は何も見えていない。
この世界は現実世界。
シナリオだけじゃない、みんな生活しているんだ。
つい俯いてしまう。
私の肩にやさしい手が乗せられる。
「レグ……」
「美緒が気に病む必要はない。どこにでもあることだ。それにお前は確かにゲームマスターという能力がある。でも一人ではなかろう?皆がいるのだ。全部背負う必要などない。お前は笑っていて欲しい」
そうだ。
私は何を烏滸がましい事を思っていたんだ。
一人では大したことはできないのは分かっていたはずだ。
「……うん。ありがとうレグ。……そうだよね、みんなでこの世界、救うんだよね」
「ふふっ、やっぱりお前にはかわいい笑顔がよく似合う。なあに、後でお姉ちゃんが念入りに洗ってやろう。消毒だ」
「うあっ?!そ、それは…大丈夫……かな」
「遠慮はいらぬぞ?なによりわらわがそうしたいのだ」
「だ、ダメっ!次は私!!」
何故かリアが立候補。
微笑ましいものを見るような目でルルーナとミネアが微笑んでいた。
うん。
皆の雰囲気、すっかりいつも通りだね。
ありがとう。
私は改めて大切な仲間を見渡した。
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