第62話 導きの妖精ティリミーナ・ルニミアス
改めてこの世界、色々なロマンが詰まっている。
世界の元を創生した創世神アークディーツである黒木大地さん。
彼はクリエイターとしての才能も飛び抜けていた。
その想いを受け継ぎこの世界を創造したおばあちゃんも、あの年齢にしては頭の柔らかい人だ。
祈祷師としての職業柄――
多くの怪異、というか不思議なものに対する理解の多い人だったと、私は幼いころ両親から聞いていた。
そんなことを想ったせいなのだろう。
私は不意に小さいときにお父さんとお母さんと話したことを思い出していた。
※※※※※
おばあちゃんはお父さんが話をするだけで“真っ赤”になるほど強烈な恋愛をした人らしくて。
私が小さいとき、
『あー、お義母さん、美緒のおばあちゃんはさ、凄く情熱的というか……今時の人というか……うう、まだ小さい美緒にこんな話……な、何はともあれ、凄い人だったんだよ』
と言葉を濁しながら教えてくれた。
確か小学校2年生くらいの時の宿題『おじいちゃん、おばあちゃんの作文』とかいう物の時に私から聞いたはずだった。
「そうね、美緒のおばあちゃん、ママのお母さんね。とても真っすぐで……ねえ美緒?」
「なあに?おかあさん」
「絶対欲しいけどなかなか手に入らないものと、そんなに欲しくはないけど簡単に手に入るもの。あなたはどっちが欲しい?」
「ん――???……絶対欲しいもの……かな」
「どうして?」
「だって。……絶対欲しい物なんでしょ?美緒、頑張ってそれが良い。だってそんなに欲しくないもの――いらない」
そんな私に両親は目を丸くしていたことを思い出す。
「ははっ、さすが沙耶香さんの孫だな」
「はあ。本当にね……美緒、あなたのおばあちゃん、あなたと似ているのよ」
「……ふーん?」
そんな私にお母さん。
すっごく優しい目をしていたっけ…
「そうね。私のお母さん、自由な人だった。……そして今のあなたではわからないと思うけど、おじいちゃんを奪った人なのよね」
「お、おい真奈?それは……」
「奏多さん、いいの。美緒は小さいけど女なのよ?いつか分かるもの。これは必要な話よ」
「…奪った?誰から?」
「うん。昔はね、結婚って契約だったのよね。親が決めてその人と結婚するのが当たり前だったの。まあ最近ではそういう事は少ないのだけれど、おばあちゃんはそうだった」
「……好きじゃない人でも?」
「そうね」
ああ、なんだろ。
昔のことだけど、昨日の事のように鮮明に思い出せる。
……これも異世界転移特典なのかな?
「貴女のおばあちゃん、家族全員ぶっ飛ばして、大好きだったおじいちゃんと逃げたのよ」
「……怒られないの?」
「ふふっ。もう全員カンカン」
お父さんが呆れた顔でため息をついていたのを思い出す。
「そしておばあちゃんとおじいちゃん、みんなに追い詰められちゃったの」
「……ゴクリ」
「そしたらねおばあちゃん、『認めないのならこの場で死んでやる』って言って……本当に自分の手首をナイフで切り裂いたのよ」
「っ!?」
「……意味がないって。本当に大切なもの、しかも手が届く。諦めるくらいなら死ぬって」
そういえば……
あの時お母さん、なんかすごく寂しそうな顔してた。
きっと……
「おい、真奈……流石に……」
「う、うん。ごめんなさい……美緒?ごめんね?……うーん、でもあなたのおばあちゃん、それからはスッゴク幸せだったって、いつもお母さんに言っていたのよ?だからあなたのおばあちゃん、自分の信念を曲げない、凄い人なの」
「……うん。良く判んないけど……会いたかったな」
「ふふっ、そうね」
ああ、そうだ。
お母さんあの後……声を出さずに口だけを動かしていた。
『きっと会えるよ』
そう口を動かしていたんだ……
もう。
会えたよ?――お母さん……
※※※※※
話がそれちゃったけど、そんな人だったおばあちゃん。
沢山のロマンをこの世界に組み込んでいた。
その一つ。
――心清い少年と儚い妖精の淡い恋愛物語。
ロッドランドと妖精ティリミーナの物語を。
決して結ばれない二人。
でも思い合う心が奇跡を紡ぐ……
おばあちゃん、意外に少女趣味よね。
うん。
すっごく判っちゃうけど……
何はともあれロッドランドは幼少の頃、死にかけていた妖精ティリミーナと出会う。
そして彼は美しい小さな妖精に恋に落ちていた。
だけど。
彼女は彼の前から忽然と姿を消す。
彼女、ティリミーナは呪いを受けていた。
『ねえロッド?いつか私を助けてくれる?』
『うん、絶対に助ける……どうすればいいの?』
『優しい心のまま強くなって……大好きなあなたのまま……きっとまた会える……バイバイ』
『っ!?ティリ?…えっ?何処?!……ティリ?ティリ――』
※※※※※
彼は誓う。
強くなる。
彼女の願い、“優しい心”を持ったまま……
だけど現実には難しい事だ。
優しすぎれば強くなるのは難しいのだから。
※※※※※
「はいよっ、お待たせ。うちの特製ミートパイだ。うん?なんだいロッド?すごくかわいい子じゃないか?あんたも隅に置けないねえ」
「うあっ、えっ?い、いや、そんなんじゃ……」
彼が遠い目をしているとお店の女将さんが料理を出してくれた。
恰幅の良い、朗らかなおかみさんだ。
私は頭を下げにっこりとほほ笑んだ。
「わあ、とってもおいしそう。おかみさん、いい匂いですね」
「うんうん。ほっぺた落ちちゃうからね。たんとおあがり。おや、そっちのあんたもいい男だね」
「お、おう。……ありがとう、いただくよ」
急に振られ、どもるドレイク。
なんか彼のそういうの新鮮。
おかみさんはロッドランドの背中をバンバン叩いて笑顔で厨房の方へと戻って行った。
「ううっ、相変わらず力が強い……痛いんだよね。ハハ、ハ」
取り敢えず中断された話。
私たちは美味しくミートパイに舌鼓を打った。
ふいにロッドランドは口を開く。
「ねえ、美緒さん?……あなたは……凄い人なの?」
「っ!?……ん?どういうこと?」
「ご、ごめんね。何となく……あと、似てるんだ」
「…似てる?」
ロッドランドは真っすぐに私を見つめる。
「僕、ある人を探しているんだ。もちろん美緒さんじゃないんだけど……笑わない?」
「うん。笑わないよ?」
彼は大きく息を吐いて遠い目をする。
「僕小さいころ……妖精に会ったんだ」
「……」
「凄くキレイで……でも儚くて……約束したんだ」
「……うん」
「“強くなる”って。……そしてまた会おうって」
そして首から下げている可愛らしいペンダントを握り薄っすらと顔を赤らめる。
「目が……似てるんだ。……あの子は髪の毛とかは銀色だったんだけど……瞳は美しい漆黒で……あと、雰囲気……かな」
「そう、なんだ」
そして途端に彼の目に涙が浮かぶ。
一筋の涙が零れ落ちた。
「っ!?ご、ごめんね?……ははっ、ちょっと思い出しちゃった……えっと、もう僕行かなくちゃ。お金は僕が払うから、ゆっくりしていって……じゃあね」
涙をぬぐいロッドランドはおかみさんにお金を払い、慌ててお店を出ていった。
その様子を見届けゆっくりとドレイクが私に問いかける。
「……美緒、実際どうなんだ?」
「間違いないよ。彼が最強の聖騎士、ロッドランドだよ。……彼は来年覚醒する」
「……ふう。お前がそういうのならそうなんだろうな。どうする?後追うか?」
「ううん。しばらく放置かな。とりあえず現状は理解した」
「うん?何かするのか?」
「特には。あー、でも……後始末はしないと。かな?」
私はちらっとロッドランドが出ていったドアを見る。
数人のガタイのいい男たちが店に入ってくるところだった。
「ふん。おとなしくしていればいいものを」
ドレイクから静かに魔力が吹き上がる。
第2ラウンドの開幕だ。
「面白かった」
「続きが気になる」
と思ってくださったら。
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援、お願いいたします!
面白いと思っていただけたら星5個、つまらないと思うなら星1つ、正直な感想で大丈夫です!
ブックマークもいただけると、本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。




