第58話 お姉さんと一緒
「あ、あのね?えっとレグ?……じ、自分でできるから…」
レグとの遭遇戦から3日後の夜。
ギルド本部大浴場。
なぜか私の体をせっせと洗いながらガーダーレグトはその凄まじいプロポーションをさらけ出し赤い顔でうっとりとしていた。
「遠慮はいらぬ。なに、美しく可愛いそなたに少しでも恩を返したいのだ。わらわは不器用ゆえ、このような事しかできぬ。すまぬな美緒」
そう言いつつ泡立てた手で直接私の体を洗い始める。
「やっ?!ちょ、ちょっと、まって……くすぐったい」
「ふむ。なんと可愛らしい体だ……張りもあり手触りも素晴らしい……」
「うーあー!!も、もう十分です!!」
私はたまらずガーダーレグト、レグから逃げ出し、お湯をかけ湯船に逃げ込んだ。
先に入浴していたリアがなぜかジト目で私を睨む。
「むう、ズルい。……私も美緒のこと洗いたかったのに」
「うにゃ、うちも美緒、洗いたいにゃ♡」
「はい?……うう、もう。……どうしてみんなそんな事……」
赤い顔がますます赤くなっていく。
「ふむ。美緒は可愛いのだ。そなたに惚れるのは何も男だけではないぞ?そなたの可愛らしさ、同姓でもうっとりとしてしまう。そうであろう?レリアーナよ」
「は、はい、レグお姉さま♡美緒は可愛いです♡」
「もう。…リア?何言ってんのよ」
私を追うように湯船に入ってきたレグ。
何故かリアと一緒に頷いているけど……
改めて……すっごいのよ彼女。
煌めくような紫色の艶々なロングヘア―。
今はお団子でまとめ白いうなじとおくれ毛が色っぽい。
長いまつ毛におおわれたルビーのような煌めく紅い瞳。
魔力が強すぎて揺らいでいて、まるでいつでも潤んでいるように怪しく光る。
大人びて見えるメチャクチャ美人さんの彼女。
左目の下の泣きぼくろが女性の色気をこれでもかと醸し出している。
でもこうしてお風呂に入っている様はとても可愛らしい。
何より凶器が二つ。
えっと……H?
やばすぎです。
「うにゃー、レグねえおっきいにゃ。何食べたらこんなになるのにゃ?」
しかも彼女、色々呪われていたので解呪したら、言葉遣いはともかく非常に面倒見がいいの。
瞬く間に私たち全員のお姉さんポジに落ち着きました。
「わらわはこう見えてすでに4000年は生きておる。なあに、ミネアとてまだまだ成長する。だが大きすぎるのは不便であるがな。何しろ肩がこる」
「んにゃー。確かに」
……ミネアもどんどん大きくなってる……Fより大きくない?
「アハハ。私もそう思うな。……美緒くらいがちょうどいいよね。可愛いし♡」
奥の方でゆっくり入っていたルルーナが参戦する。
うう、ルルーナもやっぱりFだ。
未だCの私はなぜか寂しさを感じていた。
(く、悔しくなんか、ないんだからね!!)
そんな様子に新たな刺客であるリンネが登場。
(むう貴様、けしからんぞ?どうして妹なのにG?)
「お姉ちゃんが最強。それが真理。レグ?美緒、強いでしょ?」
「む、今世の創造神殿か。確かにな。美緒は規格外だ。まさか魔力以外ですら、わらわが遅れを取るとはな。美緒、あれは何という技なのだ?」
決着を見せたあの瞬間。
実は今の私のステータスでは物理値や俊敏値など直接戦闘面はガーダーレグトにはかなわない。
なので小さいころ通っていた『合気道』の技を使ってみました。
地球の頃は全然ダメだったんだけど、きっと転移特典よね。
驚くほどスムーズに体が動かせるの。
だから彼女の力、そっくり利用して懲らしめちゃいました。
「合気道っていう、地球で使われていた武術だよ。相手の力を利用するのが極意らしいのよね」
「ほう。しかしあの時の美緒の体裁き、今思い出しても鳥肌が立つぞ?ふふ、ゲームマスターは伊達ではないのだな」
一瞬で間合いを詰められたとき、私は彼女の腕をとりその力のままねじり上げ、自分の体を半回転させ後頭部に手刀を叩き込んでいた。
もちろん熟練なんてしていないからちょっとよろめいちゃったけど、極めると全く影響されずに力を返せるらしい。
レグの力が強すぎて彼女の腕、とんでもない事になっちゃったけど……もちろん後で回復させました。
「えっ?凄い。ねえねえ、美緒?私とかアリアとかも使えるの?ほら、ルルーナやミネアと違って私達強くないから……」
「うん。元々力のない人向けの護身術なのよね。今度一緒に訓練しよっか」
「嬉しい。よろしくね、美緒」
「うん」
残念ながらアリアは今食事の後片付けをしていてここにはいない。
私の同志、C同盟なのに……
因みにリアはDです。
キレイな形♡
アリアにはあとで教えてあげよう。
そんな私たちの様子をガーダーレグトは優しい表情で見つめていた。
※※※※※
ガーダーレグト。
古の記号。
彼女の本当の名前はすでに失われてしまっていた。
シナリオでの彼女のルートでは皇帝であるハインバッハが狂い、力の代償として感情を失いながらも究極魔法を復活させ圧倒的な魔力で皇帝を倒す、まさしく救済の魔女として物語を進めていくものだった。
ハインルートの場合は逆に魔力覚醒を起こし、感情を全く失い世界に破滅をもたらす最強最悪の魔女としてハインバッハたちに討伐されるキャラクターだった。
でも今の彼女。
隔絶解呪前に鑑定したら、何故かおばあちゃん、創造神の眷属になっていたのよね。
なので解呪、色々調整してみました。
改めて虚無神。
アイツ絶対性格悪い。
この世は2面性。
それは色々な事に影響する。
良いとか悪いとか単純な事から、得る得ないなどまで。
彼女に刻まれた呪い。
強くなればなるほど感情が無くなっていくものだった。
これも大まかに見れば2面性。
当然解呪したよ?
それから彼女しばらく泣いていたんだ。
4000年前の事を思い出して。
残念ながら彼女の本当の名前は思い出せなかったみたいだけど……
彼女は実の父親からかなりエグイ虐待を受けいていたんだ。
それこそ精神が崩壊するレベルで。
そしてそんな中でも彼女を守ってくれていた大好きなお母さん。
彼女は夫であるその父親によって、儚くなっていた。
レグの目の前で。
悲しみ狂う中、彼女は覚醒する。
そしてあり得ない魔力を獲得したとき、彼女は出会ってしまった。
まだ黒木優斗を取り込む前の純粋な精神体であった虚無神に。
そして4000年というあまりにも長い間呪われ続けていた。
※※※※※
「はあ。……何はともあれこれでメインキャラクター6人か。認識しているのは後レストールと一応ロッドランド。……そろそろ本腰入れて集めなくちゃだね」
お風呂から上がり自室で私は今日までの事を振り返っていた。
今はまだ帝国歴25年の冬。
今集まっているメインキャラクター。
失われし三千世界の創造神リンネ。
義賊ザッカート。
反逆の皇帝ハインバッハ・ルラ・ルギアナード。
天使族の英雄ミリナ・グキュート。
伝説の忍マールデルダ・ギアナニール。
禁忌の魔女ガーダーレグト。
順番がメチャクチャだけれど……
まあ、ね。
私は大きく息を吐き出した。
※※※※※
私がここに来て8か月。
カレンダーを見る。
今日は12月11日だ。
創造神ルーダラルダ、おばあちゃんが創った世界。
地球と同じ暦を採用している。
もちろん四季もある。
もうすぐクリスマス―――
こっちの世界でもどうやらイベントはあるらしい。
どちらかと言えば収穫祭みたいらしいのだけれどね。
イベントの名前は流石に違う。
開催する日にちも12月15日だ。
残念ながら日本での私の青春では全く悲しいだけの1日だった。
一人ぼっちで食べるショートケーキ。
美味しかったけど……味が良く判らなかったことを思い出してしまう。
それもここ数年はまるで無視するかのように私は気にすることをあきらめていた。
ただひたすらにゲームだけに没頭していた。
ほんと……つまらない女だった。
※※※※※
ベッドに倒れ込みすでに見慣れた天井を見上げる。
最初にこの天井が目に入ったのは情報流入で倒れた後、転移してきたばかりの頃だった。
(……エルノール、凄く心配してくれてた…)
ここ数日エルノールとお話ししていない。
転送ゲートのことで忙しかったり、彼には色々押し付けていた。
もちろん私に説明しなかった罰としてだけど……
でもなんか……私も同じように罰を受けてるみたい。
それまでは彼が近くにいることが当たり前だった。
そこはかとない寂しさに所在なさげに心細くなってしまう。
部屋の静かさがやけに気になる。
何故か自己嫌悪感が増してしまっている。
(……会いたい………声が聞きたい………!?……涙?)
気付いた時私は涙を流していた。
クリスマスなんて恋人たちのイベントが頭によぎったせいなのだろう。
私は自分を抱きしめる。
(そういえば私……男の人に抱きしめられたのって……あの顔の分からない人だけだ……あとはうんと小さいときに……お父さん……)
落ち着かず私はベッドの上をゴロゴロ転げまわる。
心の中がモヤモヤする。
自分の感情が良く判らない。
なんか私……わがままで意地っ張りな子供みたい。
思わずため息が漏れる。
「いいのではないか?美緒はまだ18歳だ。何を焦ることがあるというのだ」
「っ!?……レグ?…どうして……」
「ふむ。お前の寂しそうな気配を感じたのでな……ほら、おいで」
「うあっ………ううっ…」
突然ベッドの上に現れたガーダーレグトは優しく私を抱きしめてくれる。
なんだか私、感情とか色々ぐちゃぐちゃになりしがみつき肩を震わせてしまった。
「良いんだ。我慢などするな。……理由なんてなくていい。泣きたいときには泣けばいいんだ。……お前はそうであってくれ。……わらわのようになってはいかんぞ?……皆が少しずつお前の心を背負ってくれる。大丈夫、大丈夫だ……すべてうまくいく。…そうだろ?可愛い美緒」
「……グスッ……うん……」
「私に兄弟姉妹はいない。でも……良いものだな。可愛い美緒、私はお前を可愛い妹と思っているよ」
「うあ……お、お姉ちゃん……ヒック……うあ、うあああああ……」
暖かい彼女の体。
私を思いやる気持ちが伝わってくる。
抱きしめてくれる腕がとっても心強くて……
いつの間にか私は彼女にしがみつき、寝息を立てていた。
「ふふ、可愛い。……だが美緒は……強すぎるがゆえに危うさが残っている。……4000年という永き呪縛から解放してくれたわらわの恩人……この命に代えても守って見せよう……ルーダラルダよ。誓う必要なぞない。……わらわは自分の意志で美緒を守ろう」
ガーダーレグトは美緒を抱きしめたまま静かに目を閉じた。
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