第56話 美緒の婚約?!
何故かギルド本部に住み着いたマールデルダ。
意味が分からないのだけれどザッカートと馬が合うようで、今サロンで団員の育成について議論を交わしていた。
「流石は伝説のマールさんだ。まさに目からうろこが落ちた気分だぜ。……恩に着る」
「ふむ。ザッカートは若いのに良く解っている。まずは貴様が化けることだ。皆、背を見て育つという物よ」
そんなやり取りを団員たちは冷や汗を流しながら遠巻きに伺っていた。
そりゃあね。
あんな出鱈目な訓練方法……むしろただの拷問だ。
まあ、確かに……乗り越えれば強くはなるでしょうけど……
普通に死んじゃうからねっ!?
「いきなりとは言わん。はじめは自重と同じ程度の重量の岩を背負う事から始めるのだな。いずれ慣れれば3倍くらいまでは問題なく行けるであろう。豚、いやミリナもすでに3倍はクリアしている」
「ぶ、豚?……て、天使族のミリナ嬢か……確かに彼女もすさまじい力を持っている…やってみるか」
えっと……
それはアニメの話であって……
えっ?
ミリナ自分の3倍の岩背負うの??
凄っ!?
「ふむ。初めは素手で畑などを耕すことや森の開拓などをお勧めする。いきなり戦闘では相手はおろか自身まで大怪我を負うからな。まずは普段の生活に取り入れるんだ。なあに、私はすでに10倍まではクリアしている。この服だって……」
そう言いながらマールは自身の身に着けている鎖帷子のような物を脱ぎザッカートに手渡した。
「おうっ?!!な、なんだこの重さは…くっ、手が……」
そしてしばらく持っていたザッカートの手から落ちたそれは地響きを起こすほどの音とともに床に小さなひびを入れた。
「ははは、俺の知り合いに頼んだ特別製の服だ。貴様にも紹介するとしよう」
「お、おう……(コイツ…やべえ)と、取り敢えずはもう少し軽い物から頼む」
「心得た」
あー。
〇仙人の修行よね………
アルディ……
うん。
アイツにも最高に重い服作ってもらおう。
そうしよう。
※※※※※
皮肉にもここは元がゲームの、なぞ理論がまかり通る世界。
マールのもたらした在り得ないような修行。
死にそうになりながらも皆何とか対応していた。
うちの仲間たち、本当に強くなりました。
もちろん私はそんな修業しないよ?
力は欲しいけど…
マッチョになる気はないもんね。
わたしはおとなしくチートで力をつけよう。
うん。
※※※※※
数日後、私はガザルト王国の怪しい動きにアンテナを張っていた皇帝からの連絡を受け、レルダンとザッカートの二人を連れ皇居を訪れていた。
できれば私一人でと記されていたのだけれど……
リンネが最低でもレルダンは連れていきなさいって念押しされたのよね。
何だろ?
因みに通信石での通達ではなく書状によるもの。
転送ゲートから手紙が届いていた。
未だ向こうからギルド本部に人が訪れたことはない。
どうやら少しもめているみたいなの。
主にハインが、ね。
※※※※※
「すげえ。一瞬で皇居の敷地内……なあカシラ、その『設置』ってやつはどこにでも出来るものなのか?」
「んー?多分ね。でも維持するのに一応常時魔力必要だから。…まあ50か所くらいなら問題はないと思うけど」
「っ!?ははっ、相変わらずうちのカシラは規格外だ。……レルダン、なるべくカシラが暴走しないように見ていてやってくれ。……カシラは常識がねえからな」
「うむ。心得た」
「ひっどーい。そんなことないよ?私だってちゃんと考えるし」
思わずむくれ、ジト目をザッカートに向ける。
むう、笑ってるし?
むううっ。
「ははっ、すまんすまん。……もしかして怒っているつもりか?……可愛すぎるだけだぞ?」
「っ!?……も、もう。……ふんだ」
最近ザッカートも以前の険が取れ、なぜか私に対しとても柔らかく、いうなれば優しく接してくれるようになった。
そして私に対する好意を隠さなくなっていた。
さらっと私を褒めるようなこと自然に言うし…
私もあの良く判らない場所に行ったおかげで少しは成長できたけど……やっぱりドキドキしてしまう。
ザッカートとレルダン。
もちろん私は親愛以上の感情はないけど……
とってもカッコいいのよね。
心臓に悪いよ。
もう。
「おっと話が過ぎたな。カシラ、時間とかの約束は大丈夫なのか?」
「う、うん。特に決めてはいないよ?じゃあ早速行こうか」
「……美緒、もう少し近くに……手を……足元に気を付けるといい」
「う、うん。……ありがと、レルダン」
私はそっと差し出された手を握る。
うあ、なんか……
お姫様になった気分。
ザッカートが凄い顔でガン見している?
うう、恥ずかしい。
※※※※※
「ご足労感謝する。美緒、先日ぶりであるな。レルダン殿も。…ん?そちらは?」
「ご機嫌麗しく、陛下。えっと、こちらは私の大切な仲間のザッカートです。今日は同席させていただきます」
「…お初にお目にかかる。陛下。……すまんが口の利き方を知らねえんだ。ご勘弁を」
「ふふ、かまわぬさ。美緒は我が帝国、いや世界の希望だ。そのような些事、気にはせぬ。余が許す。普通に話してくれてかまわぬよ」
「ありがてえ。流石は大国の皇帝様、度量がでかい。感謝する」
一通り挨拶を済まし、私たちは陛下とともに彼の執務室でお茶を飲みながら報告を聞いていた。
「新しい飛空艇?」
「うむ。どうやら奴等、ドワーフを囲ったらしい。今までよりも魔力消費を抑え、どうやら新技術を搭載しておるようだ。つい先日我が帝国の辺境、アルーリャシャンの上空でそれらしきものを斥候が確認した」
そう言って数枚の紙を差し出す。
この世界一応写真はある。
そういうスキル持ちがいるのよね。
それを私がこの前、もう一段上、つまり現代日本のデジカメを何個か渡していた。
なぜか私の超元インベントリの中にあったので。
「これは……確かに。……今までにないタイプですね」
「うむ。警戒を強める必要がありそうだ。我が帝国にも航空戦力はあるが…ガザルトは飛び抜けておる。何とか牽制は出来ているが……あまりに戦力を引き離されれば良からぬことでも考えるという物よ……何しろあの国、突然大使を帰国させたからな。一応家族に不幸があったとか苦し紛れのような言い訳は申しておったが……きな臭いにもほどがある」
お互い大国だ。
互いの国に大使という役職を置き常に情報の交換は行っていた。
「っ!?もしかして向こうにいる大使も?」
「いや、向こうは特に変わっていない。町の様子も特に変化はないそうだ。ただ急にという訳ではないのだろうが、警戒は必要と思いご足労願ったのだ。それと……」
私たちが話をしていると突然執務室に人が飛び込んできた。
陛下の眉がピクリと反応し、ため息が漏れた。
「ハインだ……あれからコイツがおかしいのだ。まあ、理由は分かっているのだが」
「はあ。そうなのですね」
「はあ、はあっ、はあ、……み、美緒さま、ああ、なんて麗しい……っ!?」
「おっと、そこまでだ。……不用意にカシラに触るんじゃねえ。ぶっ殺すぞ」
部屋に飛び込み私の手を取ろうとするハインバッハをザッカートが遮った。
何故か火花が飛んでいる?
「た、確かに、これは失礼した……だが、その物言い、不敬であるぞ」
「ふん。皇子だか皇太子だか知らんが、すでに陛下の許可は貰っている。お前こそいきなりカシラの手を取るとか……頭沸いてんじゃねえのか?」
「な、なにを?」
「ああっ!?」
突然場にレルダンの研ぎ澄まされた殺気があふれ出す。
皆が一様にびくりとし動きを止めた。
「貴様ら、美緒と陛下の御前だ。少しは弁えろ。……どうしても遊びたいのなら……私が相手をしよう」
そしてにやりとすさまじい笑みを浮かべる。
「お、おう、すまん……殿下?そっちもすまなかった。謝罪する」
「い、いや、わたしの方こそ……申し訳ない」
「コホン。見ての通りだ美緒。ハインはそなたに惚れておる。……美緒、どうか息子の願い、聞いてやることは出来ぬか?」
「願い?ですか?」
陛下の真剣な表情に、思わずごくりとつばを飲み込む。
「うむ。取り敢えず婚約という形をとりたいのだ。……こやつはいい男だ。わしが保証しよう。それにそういう形にすれば美緒を守ることも大義名分が出来る。どうだろうか?」
陛下の言葉に何故かハインバッハ含めザッカートとレルダンもぴしりと固まり額からだらだらと汗が流れ落ちた。
そして突然猛烈に何か書類を書き始める宰相。
は?
惚れている?
婚約?!
……うーん。
称号のせい、よね。
流石に美緒は今になっては自身の美しさに、納得はいかない物のある程度は理解している。
だがそうはいっても全く男女間の事については素人だ。
しかもここは異世界。
そのことにも咄嗟には頭が追い付かない。
だから大国の皇帝である陛下の言葉の重さに全く気付いていなかった。
通常これはお願いではない。
決定事項、つまり命令だ。
もちろん聞く必要はない。
立場的に美緒の方が格上。
だがこの世界で生きているハインバッハとザッカート、レルダンは生きた心地がしなかった。
突然の婚約話。
戸惑う男たちは互いに考えをまとめようと、必死に頭を働かせていた。
そして着々と書類を作成していく宰相。
陛下がにやりと少し悪い顔をした。
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