第55話 師匠と弟子
あの後ドレイクがマールを改めて問い詰め。
彼の“許嫁”の件は解明した。
結果から言うと、完全なるドレイクの自爆。
どうやら若いころのドレイク。
ちょっとしたメリナさんの言葉を勝手に解釈し。
さらには優秀すぎる自分の兄たちに対し、激しい劣等感が相まって。
『こんな俺ではメリナを幸せにできない』とか勝手に一人で覚悟を決めちゃっていたらしい。
結果的にドレイクは逃げ出していた。
鬼の道具屋店主が好きな女性の真意すら聞けないとか…
やっぱり恋愛は難しい。
メリナエードさんはそんな彼を信じ抜いていたんだ。
そしてそれをアシストしたのがマールだ。
ていうかあなた今でもメリナエードさんの事、大好きなのよね?
まったく。
それにしてもマール……
まあ……いちおうグッジョブ?……なのかな?
顔を赤く染め照れるドレイク。
うん。
ご結婚おめでとうございます?
式を挙げるなら呼んでね?
でも就職先はウチだからね?
「…いっそのことお部屋あげるから、二人一緒にここで暮らせばいいのに」
「なっ?!……だ、だが…………良いのか?」
うん。
うあー、何故か胸やけが……
ごちそうさまです。
※※※※※
そんな微妙な空気が流れていた私の執務室。
慌てたミリナが飛び込んできた。
「し、師匠?なぜここに……はっ、師匠、報告が……天使族は…?!…」
スキル『同期』――正直距離は妨げにならない。
一応マールが来たことを私は全員に伝えた。
それを受けたミリナが、開口一番跪きマールへ伝えようとし、今彼女の口をふさぎ何故かうっとりとした顔でミリナを見つめるマールデルダ。
――嫌な予感しかしないのだけれど?
「ふむ。化けたなミリナ……『そなたは美しい』」
「っ!?う、うあ……師匠?!!……」
ううっ、またどこかで聞いたようなセリフ!?
普段のマールからは想像もつかない言葉に、ミリナは顔を赤く染め目を回す。
何より修行を続けた中で、名前を呼ばれたのは初めてだ。
ドキドキと鼓動が激しく脈を打ち、顔からは火が出そうなほど赤く染まる。
「ふむ。どれ、可愛い顔を見せてみろ……ほう、覚醒の兆しが表れているな……そうか…天使族は残念だったな……だがお前がいる。だから問題なかろう」
「っ!?」
うん。
マールにオンオフはないのよね。
だって彼は……いつでも真剣なのだから。
おかしな言動に囚われがちだけど、とても優秀な人。
そうじゃなければ実力主義の魔国でトップなど張れるわけがない。
「何人残った?まさか貴様だけではあるまい」
「は、はい。40人です。……美緒に、彼らに助けていただいたのです」
「そうか……その悔しさ、きっとお前を成長させるだろう。精進するといい」
「っ!?……必ずや」
マールの言葉を受けたミリナの表情が変わる。
そして目に新たな輝きがともっていく。
ああ、凄いな。
彼らはまさに師弟だ。
ミリナは何も言っていない。
にもかかわらずマールはすべて理解しているんだ。
彼女の悲しみ、そして悔しさを……
二人は10年近く一緒に修行をしていた。
そして他人には分からない絆を紡いでいたんだ。
……なんか、ちょっと羨ましい。
※※※※※
「さて、ザイ、いやドレイクよ。聞きたいことがあるのだろう?貴様の目がそう言っているぞ?……今私は機嫌がいい。何でも答えよう」
ミリナから離れソファーに座るマール。
おもむろに二人を見つめていたドレイクに問いかけた。
「ん?……そうだな…」
ドレイクの目が怪しく光る。
「なあ……兄貴は……今からでも俺を弟子にしてくれるか?」
「ふん。かまわぬぞ?……着いて来られるのならな」
「そうか……ミリナ、いや姉御」
「あ、姉御?!……な、何だろうか?」
未だ自身の使命に燃え、興奮冷めやらぬ様子のミリナにドレイクは問いかけ。
彼女の前に跪く。
突然の行動に執務室に緊張が走った。
「兄貴は弟子をとらねえで有名なんだ。それなのにあんたを弟子にした。……俺はあんたとは姉弟弟子になる。……よろしく頼む」
ドレイクは深々と頭を下げる。
まるで…土下座だ。
突然ドレイクの頭を踏みつけるマール。
「っ!?」
「ふん。良い覚悟だ。……作法は分かっているようだな。おい、豚」
はっ?!
……ぶ、豚?
「はっ、師匠」
ええっ?!!豚って言った?!
ミリナの事、ぶ、豚???
「コイツは今から『ゴミ』だ。分かったらさっさと森に連れていけ。ふむ。ここの森にはギガントベアーがいるようだ。明日の朝までに10体、ノルマだ。返事っ!!」
「サー、イエッサー!!」
いきなり直立し、敬礼をするミリナ。
そして跪いているドレイクの首根っこをわしづかみ、執務室から飛び出していった。
余りの展開に、理解の追いつかない私とリンネは呆然としてしまう。
「ぷっ、あはは、なんだよマール。おまえ、まだアレやっていたの?もうオワコンだぜ?…軍曹殿?」
「なに、効率の良い方法をとっているまでだ。……オワコン?とはなんだ?まあ師匠の事だ。その言葉、海より深い理由があるのだろう。敢えて聞かぬ」
「ははっ、本当に君、最っ高だよ♪」
「何よりの言葉だ」
見つめ合い、にやけるマールとアルディ。
なんであんたたち、そんなに満足気なの???
※※※※※
私今わかったことがある。
うん。
この二人の脳内と考え。
私には理解できないことがはっきりした。
……あれ?そういえばドレイク…『ロッドランドに会った』とか言っていたよね……
うう、聞きそびれた。
※※※※※
翌朝、ギルド本部の前に20体のギガントベアーの死体が積み上げられていた。
その横に、まるで一気に年を取ってしまったようなドレイクがうつろな目で座り込んでいたのだけれど……
一方。
なんか……ミリナ。
めっちゃハイテンションなんですけど!?
あの師匠にこの弟子。
納得です。
あっ、一応回復したドレイクにロッドランドの事は聞きました。
何でも、
「美緒が言っていた奴と同一人物とは思えねえんだが…まあ、場所は分かってるから今度一緒に行くか?」
とのこと。
ゲームだと最強の聖騎士だったロッドランド。
今はまだ帝国歴25年。
彼が覚醒する事件は26年に起こるはず。
そういえば私、覚醒前の彼の事知らないや。
近いうちに会いに行きますかね。
私は新たなメインキャラクターに想いを馳せ、取り敢えず寝不足なのでリンネと手をつなぎ自室へと向かった。
マールはとっても優秀。
でもね。
彼の相手……とっても疲れるのよっ!!
さすがは私の妹。
リンネもとっても眠そうです。
可愛い♡
一緒に寝よっ♡
※※※※※
可愛くて柔らかくてとってもいい匂いのリンネ。
スッゴク癒されました。
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