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第54話 そして彼は指名手配された

~ドレイクの話は続く~



――ダンジョンを攻略した二人。

マールデルダとミリナ。


彼らは“時の人”となっていた。


接触禁止となっていた天使族。

今回の功績はそんなことを吹き飛ばすくらい国中に衝撃を与えた。


何しろ誰も攻略できなかったダンジョンを、わずか二人で成し遂げたのだから。


だが報告を受けた魔導王ギリアム・ロールド・ザナンテス。

彼は言い知れぬ不安を抱えていた。


報告された最下層は70層。


そして――


『…実はまだ扉があったのだ。封印されていて我でも開けること敵わなかった。もしかすると、これらの宝のうち『カギとなるもの』があるやもしれぬ。取り敢えず魔物が発生するであろう魔力だまりは我が除去した。しばらくは落ち着くであろう』


普段良く判らない事を言うマールの真剣な表情に、口を閉ざした魔導王。

秘匿することを伝え、会見を終えていた。


そしてもたらされた数多くの宝。

鑑定不能な神話級、かつて神話に出てきた禁忌に触れるものまで。


下手をすれば争いの火種になる程の。



「これは……荒れるかもしれぬな」


思い起こされる100年前の騒動。

実は一度――不帰の大穴は“完全攻略”されていた。


ほかならぬ、魔導王ギリアムのパーティーによって。


そしてその事実。

禁忌事項としていたのだ。



(…ノーウイック…お前の力――世界が望む…か)


魔導王のつぶやきは、静寂に溶けていった。



※※※※※



そして数日後。

達成したことのお披露目も兼ねた褒章授与式の日――


それは起こってしまう。


禁忌の品の中に、人を惑わせ狂わせる宝石があった。

封印を施してあったにもかかわらず突然不気味な光を放ち会場を包み込む。


「ぐうっ?!……うあ、ああ、ああああっっっ!!!???」


貴族院の代表を務める6大貴族の一人、ドルンド公爵が突然狂い――

あろうことか魔導王に向け上級魔法を放った。


魔導王は普段より薄い警護の中、大けがを負ってしまう。


追い打ちをかけるようにドルンド公爵から濃密な魔力が吹き上がる。


濁った瞳、ぶれる魔力。

完全に異質なそれは、見た目以上の恐怖となり会場を震わせる。


魔導王はこの国の象徴で皆の精神的支柱。

万が一でも失うわけにはいかない。


何より魔導王への反逆――


事情がどうあれ。

斬首刑――死罪だ。


刹那訪れた国家レベルの危機に近衛兵をはじめ、護衛達に緊張が走る。


そして即座に英雄マールが動いた。

幾つかの解呪の品。

そして術式。


しかし効果を発揮せず、公爵の圧は増していく。


「…これも定め…覚悟」


一閃。

ドルンド公爵の首が静かに地に落ちた。


魔導王を守る行為。


しかしこの国は議会制で決められた裁判制を用いていた。

私刑は禁固刑に相当する重罪だ。


マールはこの瞬間、英雄から犯罪者へとその身分を変えてしまっていた。


即座に集まりマールとミリナを囲む警備兵。


「マールデルダ殿……投降願えないだろうか」

「ふむ。この国の法ならそういう事になるな。承知した。従おう。……だが手を下したのは私だ。彼女は解放してほしいのだが?」


「し、師匠?」


国の重鎮を殺し、相容れないはずの天使族をかばうその姿に、理性を超えた感情が民衆からあふれ出す。


一部始終を見ていた民衆。

法律はともかく――皆はマールデルダの対応に実は感動していた。


皆が慕う魔導王に突然牙をむいた公爵。

さらに追い打ちをかけるように魔力を噴き上げさせていた。


そしてそれを成敗したマールデルダ。


きっと魔導王が目を覚ませば恩赦がある事だろうと皆が思っていた矢先――

英雄であるマールデルダがこともあろうに天使族を慮った。


そしてふいに零れた民衆の発言が場を凍らせる。


「……もしかしてあの女…何かしたんじゃないのか?」

「そうだ、大体二人だけであのダンジョン攻略なんて……そもそもおかしいだろ?」


疑念、

そして。


それを上回る嫉妬。


大衆の集団心理は恐ろしいものだ。

いつの間にか天使族であるミリナの陰謀と、操られたマールデルダの暴走という筋書きが瞬時に浸透してしまう。


「やっぱり天使族は……何かズルをしたんだ。…マール様は騙されたんだ」

「…殺せ……天使族を、殺せっ!!」


殺意が会場を覆いつくすのに、ほとんど時間はかからなかった。



※※※※※



きっと虚無神の陰謀。

或いは禁忌の宝石の力。

惑わせる光は会場を包み込んでいた。


だが確かめるすべはない。


真面目で謙虚な魔族。

しかしこの世は2面性。


彼らの心の中にも存在していた。


増幅され惑わされ表面に露見する不真面目で傲慢な感情。

そして自分たちがなしえなかった偉業への嫉妬。


それは必然だった。



※※※※※



「ふむ。雲行きが怪しいな。逃げるぞ」

「はっ?えっ?師匠?」

「火遁!!!」


突然立ち昇る灼熱の柱。

その余波で警備兵が怪我を負う。


「すまぬな。だがここで捕まるわけにはいかなくなった。さらばだ」

「うあ、も、もう、……『土遁』」


地面からいくつもの岩が生え視界を遮る。


「ふん、腕を上げたな……行くぞっ」

「は、はい」



会場から逃げ出した二人。



英雄マールデルダと天使族ミリナは指名手配された。



※※※※※



「うあ、最悪」


思わず漏らしてしまう。


この流れ、とても助力を願うどころではない。

むしろのこのこミリナが顔を出せば、処刑される未来しか見えない。


「…ちなみに魔導王は無事だったの?」


「ああ、見た目ほど酷い怪我ではなかったらしい」

「それは何よりだったね。……取り敢えず最悪な事態にはならなかったのね」


私は大きくため息をつく。

リンネもほっと大きく息を吐いた。


「まあそういう訳だ。しばらくミリナは魔導国に行かせない方が良いだろう」

「うん」


私は天を仰ぎ思考を巡らす。


実際のシナリオではミリナが魔族に交渉するのは帝国歴30年。

5年先だ。


まずは一度彼女抜きで話をした方がよさそうだ。


「ねえ、マールはどうしているの?……まさか一人でその封印された場所に行っているんじゃないでしょうね?」


「さすがにそれは行っていない。どうやら兄貴にも考えがあるようだからな。ひとまずは静観するらしい」


魔導国の内情も気になるけど、そのダンジョンも怪しいよね。

確かそれって……うん。


私が行く必要がありそうだ。


「じゃあ彼の所在は今わからないのね?マールの事だから問題はないのでしょうけれど」


「あー、あのな?驚かないでほしいんだが……兄貴」

「うむ。待ちくたびれたぞ?」


突然ドレイクの隣に出現するマールデルダ。

執務室が凍り付く。


「ほう、貴殿が噂のゲームマスターか。興味深い。……ん?どうなされた?……腹でも減ったか?」

「「はああああああああああっっっ??!!!!」」


私とリンネは同時に大声を上げてしまった。


「んあ?ふああああ……あれ?マールじゃん。おひさ」

「うむ、師匠。ずいぶんと成長されたようだ……息災か」

「まあね。マールは…聞くまでもないね」


私とリンネの大声で目覚めたアルディがにこやかに彼と話を始める。


「無論だ。私は無敵……『殺されたくらいで死ぬと思ったか?』」


ううっ、どこかで聞いたセリフ?!

ていうかさっきまでの緊迫した空気、どこ行った?!


「ははっ、最っ高!!……ちなみに今の君の戦闘力は?」

「うむ。私の戦闘力は“52万”だ」


アウトだよ?!

ドコのフ〇ーザさま?


ねえ、ねえってば!!


「ははっ、だよね」

「む、師匠。…ずいぶんと丸くなられたようだな。……古の魔神王の呪い、心の闇は浄化されたのだな」


「へえ、分かる?……美緒ちゃんのおかげでね」


「ほう、さすがは伝説のゲームマスター。月の女王すら凌ぐその実力。まさに月に代わってお仕置き、もとい百折不撓の極み」


月の女王って……

セーラー…はあ……


うう、完全に二人のペース?!


「いい表現だね。うん。美緒ちゃんは凄いんだよ。流石マールだ。良く解ってる」

「無論だ。我が魔眼、見えぬものはない」


「相変わらずだね。安心したよ。……実際美緒ちゃんは君より強いからね」


「ほう。興味深い…これはぜひ果たし合いたいものだな…美緒殿?!どうなされた?まるでハトが豆鉄砲を食らったような顔をして……ふむ。その顔も可愛いな。まるで可憐な魔法少女のようではないか」


うーあー。

もうヤダこの二人の会話。


何より空気感、返しなさいよねっ!!



あんたたち、怒られろっ!!!


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