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第52話 お国騒動と深窓の令嬢の恋1

ザナンテス魔導国は魔導王を頂点に、貴族院という議会をカウンターにすることで清廉潔白な民主的な政治が確保されている国民にとって暮らしやすい国だ。


元々長寿で力ある種族。

しかし種族特性としての生真面目さ、そして謙虚さ故他種族との断絶を選んだ後も奢ることなく研鑽を重ねその実力を伸ばしていた。


まさに天使族とは正反対。

そしてそのことはこの国ではまさに教訓のように小さいころから教え込まれていた。


『頑張らないと天使族のようになる』


このフレーズを知らない者はいないほどだ。

当然国のトップである魔導王も貴族院も同じ認識だった。


ザナンテス魔導国は他種族との断絶を選んだ。

しかし自国ではどうにもならない食材やいくつかの魔石の類などは特例として今なお他種族との取引を続けている。


そもそも彼らは他種族が怖い訳でも嫌いなわけでもない。

力ゆえ恐れられ、迫害を受けた歴史があるため致し方なく断絶を選んだだけだ。


だから実は彼らは他種族に対し非常に寛容だった。


何しろいまだ世界中に彼らの同志は生活している。

他種族と契りを躱し、多くの子孫、ハーフは数多く存在していた。

ザッカートたち兄妹だって魔族とヒューマンのハーフだ。


そんなわけで。

国境付近で行き倒れが居れば即座に救出するし、国外へ行く事を希望する者にはいくつかの条件を付けるものの認めていた。


断絶が始まるその少し前、若き日のドレイクは――思い込みゆえに、ひとり国を飛び出していた。


そんな寛容で真面目なザナンテス魔導国の国民たち。

だが彼らにも譲れない事はある。


教訓にも登場する彼らが最も毛嫌いする種族。

“天使族”と関わることだ。


当然彼らも頭から否定したい訳ではない。


種族的にそうだとしても個々人までもが全てダメな訳ではないからだ。


ただプロパガンダとしてすでに浸透しきっている意味を考えれば。

今更方向を変えるメリットも、必要性も感じていないのが実情だった。


しかし自国の諜報部。

他種族と断絶することで情報の入りにくい立場にある彼らにとってそこはまさに生命線。


そこの隊長である国の英雄『疾風のマール』がやらかした。


天使族を弟子にし、あまつさえ国難ですらあった国内最大級のダンジョンを二人で攻略してしまったのだ。


そしていつもの彼らしいセリフを、恥ずかしげもなく魔導王に言い放った。


「力こそ正義。ひかぬ、媚びぬ、顧みぬ。……ふははは、良い時代になったものだ。そうは思われぬか?魔導王よ」


「……相変わらずだなマール。貴様が何を言っているかいまいち理解できん。……だが確かに今回の功績は、我が国にとっても喜ばしい事。認めよう、天使族ミリナの滞在を」



国に激震が走った。



※※※※※



国内最大級のダンジョン、不帰(かえらず)の大穴。


その奥には神話級と謳われる“ソーマ草”など多くのお宝が存在していると、まことしやかにささやかれていた。


立ちはだかる多くのトラップに凶悪な魔物たち。

そして定期的に起こる迷宮内からあふれ出す魔物のスタンピードにより、多くの被害を出している、まさに“災害級”のダンジョンだった。


力あるものは赴き様々な宝を獲得し、鍛錬の為通う者も居たが基本危険度が高く閑散としているダンジョンだ。


しかしある事情がきっかけでこのダンジョンは国内で知らぬものが居ないほど注目度が高くなっていた。


ゆえに今回のマールたちの功績は瞬く間に国内中に知れ渡っていたのだ。



※※※※※



注目を集めた事情は数年前の事がきっかけとなる。


2年ほど前、侯爵家のメリナエード・ドリュス令嬢が奇病に侵され、生死の狭間をさまようほど衰弱してしまう事があった。


多くの医者や神職者が治療を試みたが効果は芳しくなく、現状維持が精いっぱいだった。


ただわずかではあるものの希望はある。

不帰の大穴にあると言われている伝説の薬草ソーマ草だ。


娘を想う侯爵は莫大な懸賞金をかけ国中にお触れを出した。

そして未だ婚姻を結ばぬ娘を想い、


「もしソーマ草を手に入れ娘の病を治したものには金貨1万枚と身分を問わず我が娘との婚姻を認めよう」


そう宣言したのだ。


その時侯爵令嬢であるメリナエードは76歳。

だが長寿の魔族。

見た目は20歳程度でしかも非常に美しい女性だ。


実は彼女ファンクラブまで存在するほど多くの男性から人気を博していた。


侯爵のお触れは大きな反響を呼ぶ。


高貴な血筋ゆえ諦めていた国中の猛者が可能性を見出し、欲全開で名乗りを上げる。

そしてダンジョンへ殺到する冒険者たち。


しかし現実は非情だ。

攻略を目指すも、ほとんどの冒険者や腕に自信のある者たちは凶悪なダンジョンに返り討ちにあっていた。


不帰の大穴は当時確認されていた最下層は45階層。

そしてその45階層のボス部屋の『アークリッチ』の強さが異常だった。


この世界、魔物の正確なレベルの鑑定は殺した後でないとできないとされていた。

生物の鑑定は鑑定士のスキルでは弾かれるためだ。


まあ当然美緒なら問題なくできるのだが。


ともかくそんなチートを持つ者が美緒以外いるわけもなく、推測での発表でアークリッチの推定レベルは99。


魔導国の猛者と言われる近衛騎士団団長のミシェル・グーダランデ伯爵のレベルが87。

この世界の強者と呼ばれるレベルが50前後だと考えれば。


アークリッチのレベル99はまさに“悪夢”に他ならない。


――「ダメだ。あいつには敵わない。何しろ上級魔法をノータイムで連発してくるんだ。俺達は6人で奴と戦った。情報を集めポーション類や各種のバフをてんこ盛りにして準備は万端だった……でも奴はまるであざ笑うかのようにっ!!……と、とにかく、あいつには近づかない事だ。……メリナ嬢には申し訳ないが……」


国内最強の冒険者パーティーだった『翼竜の刃』のリーダー“絶封のダグラ”はそう言い残し冒険者ギルドを後にしていた。


彼のパーティー、6人のうち生き残ったのは彼ともう一人のみだったという。

全員がレベル60を超えていたにもかかわらず。


結果誰も攻略できず、ソーマ草は入手出来なかった。


しかし奇妙なことに令嬢メリナエードは回復を見せる。


実は情報を得た、もともと許嫁だったドレイクが世界中探し回り見つけて、兄であるマールに渡していたからなのだが。


そして彼女は、かつての恋慕に、あらためて深く沈み込むこととなる。



原因は当然だが……マールだ。



※※※※※



デイブス連邦国イリムグルド、ザイール道具店。

ドレイクは久しぶりに会う兄に、懐かしさを感じつつも願いを請う。


メリナエードの事情を知ったドレイクはありとあらゆる伝手と今まで貯めた金をほぼつぎ込み、どうにか神レベルのソーマ草の入手に成功していた。


「貴様はいい男だな……ザイ…いや今はドレイクか。ふむ。貴様もこの世の深淵に触れたらしい。我が魔眼はお見通しよ。なに、多くは語らぬともよい。ふふ、『兄より優れた弟などこの世には存在しない』のだからな」


「……相変わらずだな兄貴。……すまんが俺が渡したことは内密にしてくれ。今更伝えたところで……逃げ出した俺にはメリナに合わせる顔がねえ。何しろもう40年だ。頼む」


「ふっ。問題ない。……だが我が弟の頼み、しかと承った。すべては兄である私に任せるがよい。お前はただ吉報を待てばよいのだ」


「……恩に着る」



※※※※※



ドレイクからソーマ草を受け取ってから数日後の深夜。


ドリュス侯爵家、メリナエード自室――――


マールは、ソーマ草を煎じたものを飲み驚くほど回復し、可愛らしい寝息を立てているメリナエードを静かに見下ろしていた。



※※※※※



彼は一人、思いにふける―――

彼、マールは、とんでもない勘違いをしていた。


(ふふっ。これで良いのだろう?我が可愛い弟よ。素直に言えぬ()いやつよ。貴様の兄が整えてやろう。――40年の時を超えた『弟が逃げ出すほどの壮大な痴話喧嘩』の終止符をっ!!貴様は大船に乗ったつもりで吉報を待てばよい。フフ、フハハ、フハハハハハハハハハハハハハ)



※※※※※



40年前。


ドレイクは家を出る時兄であるマールデルダにこう言っていた。


「兄貴、俺は自分を試したい。メリナには申し訳ないが…そもそも俺では釣り合わん。彼女は美しい。もっといい男と結婚するべきだ。……兄さん、後は頼む。俺の事は死んだことにでもしてくれ……最後にメリナの幸せを遠くから願う……さよならだ」


そしてマールはドレイクの言葉を脳内変換しこう受け取っていた。


「偉大な兄よ。俺は貴方に近づくため武者修行の旅に出る。今の俺ではメリナが可哀そうだ。だから俺は死に物狂いで強くなる。そして彼女の危機の際は俺が必ず助ける。アディオス!!」


確かに微妙に間違ってはいない。

だが方向性は180度違う。


ドレイクは別れを告げていた。

マールはドレイクの意志をめちゃくちゃ深読みし曲解していた。


確かにドレイク、ザイドレイトはメリナエードの事を愛していたのは間違ってはいなかったのだから。



※※※※※



「ふふっ。ザイの嬉しがる姿が目に浮かぶ。……おっと、最後の仕上げの時が来たようだ」


目の前の美しい女性メリナエードの瞳が静かに開いた。


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