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第51話 伝説の忍

数年前―――


「貴様の想いとやらはその程度か?だったら随分と“安い想い”だな」

「くっ、ま、まだできます。……ご指導お願いしますっ」


鼻をつままれても分からない真の闇の世界。

今ミリナは師匠と二人、真剣での模擬戦闘を行っていた。


「良い覚悟だ。死してなおその志は天に届くであろう。受けて見せよっ…はあっっ!!!」

「はいっ!!ぐうっ、うあああ――――」


「ふん、まだまだだ!安易にかわすな、受け止めろっ……貴様、『飛ばない豚はただの豚』だぞ?お前はただの豚なのか?」


「くうっ、ち、違いますっ…うあ?……わ、私は……」


「隙だらけだ」

「ぐはああっっ!??」


腹にめり込む拳。

悶絶しながらもどうにかバックステップを踏み、自身の感覚を研ぎ澄ます。


そして一閃――

微かな手ごたえを感じた。


「……ふっ!!!」

「ふん。今のは良かったぞ?……だがっ!!」


ガキイーーーン


「あうっ!?」


ミリナの後頭部に激しい衝撃が襲う。

彼女は前のめりに倒れ伏した。


「……倒れるなら前のめり……見事だ」



※※※※※



「ぷはあっ!?……ここ、は?」


顔に水をかけられ、飛び起きたミリナ。

体中に痛みが走る。

きっと痣だらけなのだろう。


「ふん。及第点だ。……覚悟とは、美しきものだな……我が右目に秘し魔眼も疼くという物よ」


何故かポーズをとり、自分の発言にうっとりとする師匠であるマールデルダ。


(……うん。師匠は凄い人だけど……何なのだろう、この居た堪れなさは…)


「あ、ありがとうございます」

「ふむ。今宵は良い月だ。貴様も休むといい。……伝説の月面都市、その英雄たちも貴様に祝福を送るであろう」


「は、はあ」


「む、今のは良いフレーズだとは思わんか?ふふ、たぎる。たぎってきたあああっ!!」


いうが早いが完全に一瞬で姿と気配を消す師匠。

これは『おやすみ』という事だった。


「………寝るか」


伝説の忍マールデルダ。

疾風のマール。


彼は重度の中二病を患っていた。


ただその実力は確かに飛び抜けており、他に並ぶものが居ない高みに到達している。

そして指導も出鱈目に見えるが何故か適切だった。


結果ミリナは力をつけ、彼に教えられたいくつかの忍術を取得し『下忍』のジョブを獲得していた。



※※※※※



伝説の忍、マールデルダ・ギアナニール。

現在87歳。

ギアナニール侯爵家の次男。

ドレイクより4歳年上だ。


メインジョブ忍

サブジョブ気象士


この世界でおそらく彼のみの特級魔法『スコールストーム』の使い手だ。

実は気象士、極めるととんでもなく強いジョブだった。


天候への干渉――


つまり雨を呼べる。


忍のスキル『忍術』その中の水遁の術。

そこに気象士のスキル『水呼び』との混合スキルだった。


そして驚くのは彼のレベル。

本来この世界の上限は99。


でも実は違う。


1~99までに到達するための必要な経験値。

その同じ経験値を得ることで上限が突破される。


もっともこの世界で上限を突破した実例はほとんどない。

それこそ四六時中格上との戦闘に明け暮れる必要があるからだ。


だが彼は突破した。

彼の想像力が効率を極め、他人より早くそして多くの経験値を得ていた。


魔法もスキルもそして経験値ですら――

この世界での想像力はすべてに影響を与えていたのだ。


そして今の彼、マールデルダのレベルは――152。


まさに人類には成し得ないほどの高みに到達していた。


国には“62”と嘘をついているのだが。


『ふん。力とは隠すものだ。その時が来るまではな。フフ、フハハ、フハハハハハハハ…』


如何にも彼らしい。

まあ、魔導王や親であるギアナニール侯爵は分かっているみたいだけれどね。


人外となった彼、その原動力となる少年の時の出会い。

今回初めて知るそれは、まさに『コーディネーター』による暇つぶしが原因だった。



※※※※※



およそ80年前。

マールがまだ10歳の少年の頃。


町に訪れていたエルフの少年が滞在する宿屋の一室。

まだ6歳の弟を伴いマールデルダは目を輝かせ、話に聞き入っていた。


「ふふん。僕の言う事信じるのかい?君は一応身分ある貴族の次男だろ?良いのかいこんな怪しい僕の話なんか信じて」


「うん。凄いよアルディ君のお話。ねえねえ、もっと教えて?その伝説のニンジャ?サスケとゴクウたちは空も飛べたの?」


彼はアルディの出鱈目な話に夢中になっていた。

自分より強い同年代のアルディに興味を惹かれ、話をするたびに彼は惹きこまれて行っていた。


「うん、そうだね。彼等はまさに伝説だよ。サスケの使う『火遁の術』今のこの世界の最上級魔法、ヘルフレイムなんて目じゃないのさ。何しろ城を一瞬で溶かしてしまうほどの威力なんだぜ。それにゴクウは何と…宇宙人なんだ。だけど真っすぐでさ、世界どころか宇宙の悪者だってどんどん強くなって最後には倒しちゃうんだ。もちろん彼は飛べる」


「ふわー凄いなあ。ねえねえ、それから?」


「あとは何といってもサスケには決め台詞があったんだ。誰にも切れない様なスッゴイ硬いものを、まるでバターを切るみたいに両断してさ。『ふっ、またつまらぬものを切ってしまった』とか言うんだ。格好いいだろ?」


かつてのアルディは、とにかく“退屈”していた。


たまたま暇つぶしで街のチンピラを叩きのめしたところをマールに目撃され、それから付きまとわれるようになっていた。


なので暇つぶし。


せっかくなので自身の脳に焼き付いている前世『篠崎琢磨』の情報を面白おかしくアレンジし、マールに教えていたのだ。


特に考えもせず。


そして彼、篠崎琢磨が大好きだったアニメの話をとにかく盛りまくった。


魔族は実はくそ真面目な種族特性を持つ。

質実剛健、そして謙虚。


そんな国の名だたる、英才教育でその精神を叩き込まれていた侯爵家の次男。

アルディの話はまさに“青天の霹靂”だった。


マールは素直で清く正しい少年だった。

そしてとてつもない才能を持っていた。


アルディの“たわごと”にあり得ないほどの衝撃を受けた彼はそれを実現してしまうほどに。


「……そうだね。強くなるには鍛えるのみだ。そしていつか限界を超えるのさ。サスケもゴクウもつるぴかマントそうやって強くなったんだ」


「ねえねえ、具体的にはどうするの?」


「まずは腕たて100回、腹筋100回、スクワット100回、そしてランニング10キロ。これを毎日欠かさず行うんだ。そうすればワンパンで全てを粉砕できる」


「凄い!僕もやるよ。そして……」


二人目を見合わせにやりと顔を歪める。


「「私の戦闘力は52万だ」」


……もうメチャクチャだった。



怒られろっ!!アルディ!!



何はともあれインチキ強化方法をアルディに教え込まれたマールは純真な心を中二に染めながらめきめきと力をつける。

『想いが体を為す』、まさにお手本のような成長を果たす。


もちろん木を植え、毎日飛び続けるという何故か古典に出てくるような修行もこなしていた。


今のマールは垂直飛びで20メートル行けるほどの脚力を身につけている。

もちろん魔術の応用なのだが。

無意識で。



※※※※※



マールデルダの日を追うごとに紡がれる謎のセリフに父であるレルガーノ・ギアナニール侯爵は頭を抱えていたが、強い事が正義の国だ。


そして実績が物を言う。


青年期に入ったマールはすでに並ぶものの居ない高みに到達していた。


伝説の忍、そのジョブを手に入れた彼を認めないわけにはいかなかった。

そしてそれは国も同じだ。


「ふっ、父上。今宵はいい月が出ている。……赤く染まる天の月。まるで月の女神の唇のようではありませんか」


「う、うむ。お前が何を言っているのかは理解できぬが……そもそも今外は雨なのだが…」


「ご心配なく。我が右目に封じられし魔眼にはすべてお見通し。父上、その任、しかと承った」


魔導王からの推薦状。

国の根幹、諜報部隊長の就任だ。


「くっくっく。これで世界は我が手中。だがまだだ。……オラはもっと強い奴と戦いてえ。オラ、ワクワクすっぞ」


――だめだこりゃ。


侯爵は激しい不安に駆られながらも、おかしな言動をする任務達成率100%の息子を取り敢えず信じることにした。



※※※※※



夜の執務室。


美緒は目の前のドレイクが語る兄であるマールの逸話を聞き、へなへなと崩れ落ちていた。

(うん知ってた。マールはそういう人なの。でも…まさかアルディのせいだったなんて!)


「まあ、なんだ。兄貴は確かにすごい力を持ってるんだが……少し虚言癖というか…良く判らない事をいつも言うんだ。……そうだ…なんで今まで忘れていたんだ、俺は。……アルディ、お前とんでもない事をしてくれたな」


同席しているアルディはなぜかへたくそな口笛を吹きそっぽを向いていた。

そして肩を震わせ笑っている?


「あははっ!でもよかったでしょ?おかげでマールは強くなったんだし」


「ねえアルディ。…変なこと吹き込んでないでしょうね?」

「んー。とりあえずアニメのセリフを適当に教えただけだよ。むしろ僕はただの暇つぶしだったしね。ああ、ドレイクが今まで忘れていたのは僕のスキルのせい。あの時君だって居たんだぜ?……美緒に解呪されたから効果が切れたんだよ」


悪びれないアルディ。

まあ……悪い事ではない?

……ううん、おかげで彼は重篤な中二病患者だ。


「ねえ、ところで私の記憶?っていうか今マール、どうしてザナンテス魔導国から指名手配されているの?」


その言葉にドレイクが固まる。

そして額から冷や汗が流れ落ちた。


「う、み、美緒?どうしてそれを……」

「私ゲームマスターだよ。でも理由知らないんだよね」


大きくため息をつくドレイク。

そして何故かちらりと天を見てゆっくりと語りだす。


中二病全開のマールの在りえない『やらかし』を……


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