第50話 動き出す世界
サロンで美緒のため息が響き渡る。
「ねえリンネ。……しょうがない事よね」
「うん。……美緒のせいじゃない。これはシナリオだよ?……気を落とさないで?」
「大丈夫だよ。何より全滅じゃない。数名とはいえ希望はつなぐ事が出来た。……私の知っているシナリオだと、彼らは英雄ミリナとその仲間2人しか存在していなかったんだもの。まあ5年後なのだけれどね……全然違うわ」
「……うん」
美緒たちは今、諜報部隊をフルに活用し世界の情報を集めていた。
各地で巻き起こる騒動。
以前のゲームとは違うそれは、まさにもう一人の美緒が経験した内容をなぞっていた。
だがその想定よりも早い世界の動き。
美緒は背中に嫌な汗が流れ落ちるのを感じていた。
「あの、美緒殿……あらためて感謝を」
そんなタイミングでサロンに天使族の英雄ミリナ・グキュートが麗しい衣服を纏い現れる。
二人の仲間を引き連れ3名が美緒の前で跪いた。
「あう、もう。……ミリナ?もうお礼はいいって言ったでしょ?……ほら立って。せっかくかわいい服着ているのだから……汚れちゃうわよ?あの、お二人も立ってください」
「う、うむ。……すまない。……こ、こういう格好は、慣れないんだ……そ、そもそも武骨な私には似合わないだろうに」
お付きの二人、天使族のカイとダリーズは立ち上がるとかぶりを振り、可哀そうなものを見るような瞳をミリナに向けた。
天使族の英雄ミリナ・グキュート。
現在22歳の美しい女性。
13歳の時にカイ達を伴って国を飛び出し、武者修行に明け暮れかなりの力を得た天使族の実力者だ。
メインキャラクターの一人で実は称号持ち。
称号『サムシングノーブラー』
高貴なるもの。
メインジョブ『姫騎士』
サブジョブ『下忍』
レベルは76。
彼女は生まれながら高貴なオーラを纏う。
身分を問わず誰とでもコミュニケーションのとれる能力を持つ。
そして創造神の眷属だ。
煌めく藍色の腰まで届く長い美しい髪。
意志の強そうなはっきりときりりとした眉。
大きな目には翡翠のような美しい緑色の瞳が輝いている。
はっきり言って神々しさを兼ね備えた超絶美女だ。
でも彼女は以前の美緒と同じで自分の魅力にこれっぽっちも気付いていない。
(まあ『師匠』の教育によるところがかなり影響しているみたいだけれどね……詳しくは知らないけれど、かなりのスパルタで人扱いされていなかったみたいだし…)
「はあ。あのね。……ミリナはとっても美人なの。ねえそうでしょダリーズ、カイ」
「ええ。おっしゃる通りです」
「あーまあね。ミリナは美人だ」
「っ!?なっ?何を言う、お前ら……」
あー。
私もこうだったんだね……
はは、確かに『嫌味』だね。
うん。
私はそっとミリナを抱きしめる。
かつてリンネが私にしたように。
「あうっ?!……み、美緒殿?」
「いいですか?ミリナ。あなたは美しいの。自覚してください。……もう、こんなに魅力的なのに」
「な、何を?み、美緒……うあ」
「命令です。今すぐ鏡をよーく見てください。そして自覚する事。……間違ってもまた下着姿でうろつかないでくださいね?あの時は本当に驚きました。……ここの男の人たち、純情なんですから」
「う、うあ……しょ、承知した……そ、その、離し…」
「お仕置きですよ?……言っときますけど私、そういう趣味はありませんから……勘違いしないでくださいね♡」
そういい、さらに密着。
魅了を全開にする。
少しわからせないとね!
「っ!?……わ、わかった……でも美緒殿?」
「ん?」
「貴女もたいがいだぞ……惚れてしまいそうだ……はあ、可愛い♡」
なぜか彼女、私の魅了をレジストしているようだけれど。
突然彼女から色気が吹き上がる。
さらに抱きしめあう私とミリナ。
その様子を真っ赤な顔で見つめるリンネとカイ、そしてため息を零すダリーズ。
あー、きっとエルノールがいたら、卒倒しちゃうかもね。
気付けばサロン全体を覆いつくす私の魅了の魔力。
遠巻きに見ている男性陣が蹲り赤い顔してるし……
やり過ぎちゃったね。
てへ♡
※※※※※
救出した天使族の民32名は神聖ルギアナード帝国で保護している。
今ギルド本部にいる天使族はミリナを含め8名。
皆戦う力を持っている勇士だ。
ミリナルートでは彼女を含め3人しか残っていなかった天使族。
シナリオでは彼らは足りない力を補うため、ミリナの交渉術で魔族の援助を取り付けていた。
ドレイクの故郷。
天使属と同じく他種族との断絶を選んでいるザナンテス魔導国の協力を。
今回は既に古龍は倒し一応町は奪還している。
でも出来れば魔導国の協力は別件もあるので取り付けておきたいところだ。
※※※※※
(……ドレイク………繋がった…ドレイク、今どこに居るの?)
(うおっ?!……美緒?!……お、おう。今俺とイニギアは聖王国フィリルスだ。……これは…念話?)
(うん。相談したいことがあるの……今夜良いかな)
(承知した……あー美緒?さっきロッドランドに会ったが…まあ詳しい事は夜で)
(分かったよ。気を付けてね)
「ふう」
私は執務室で自身に刻まれた同期スキルの新たな機能を試していた。
どうやら私がスキルで任命した人との念話が出来る様なのだ。
残念ながら“誰でも”という訳にはいかない。
今のところこれが可能なのはリンネとザッカート、それから先刻話をしたドレイクくらいだ。
親友であるルルーナとミネア、レリアーナも状況によるみたいだけど繋ぐ事が出来た。
あとは……エルノール。
うん。
きっとメインキャラが対象だと思っていた私なのだけれど、微妙に違うみたい。
「……私との関係の濃さなのかな……レルダンともつながらないのよね」
「ぐっ。私の修練が足りないのだろう。美緒が気に病むことではない」
じつはエルノールの代わりにサブにつくはずだったザッカートが、何故かルルーナにメチャクチャ睨まれ辞退。
代わりに今私のそばにはレルダンがいる状況になっていた。
そう言って下を向くレルダン。
……えっ?!涙目?!
「あ、えっと……ご、ごめんなさいレルダン。あなたのせいじゃないと思う。だから気にしないで?だってメインキャラであるはずのミリナとだって繋がらないの。だから、その…」
「……お気遣い感謝する……はあ……」
うぐっ、ダメだ。
言えば言うほどドツボにはまるパターンだ。
うん。
話題を変えよう。
「ね、ねえ、レルダン?……“アーツ”はもう慣れました?」
「…う、うむ。すでに3種は発動に成功した。……凄まじい力だ。仲間内でも数人は覚えたようだ。個人個人内容が異なるのも興味深い。これで美緒の守りも硬くなる。嬉しい限りだ」
!?……良かった。
機嫌治ったみたい。
最近レルダンの私に対する目線が変わった。
以前はまるで崇拝するような眼差しだったんだけど……今は…うあ。
「……美緒、どうした?……心配事なら私に言うといい」
………スッゴク優しい目なのよね。
しかも色気が半端ない。
「う、うん。ありがとう……レルダンは頼りになるね。…安心しちゃう」
「ぐうっ?!……そうありたいと願う」
私はレルダンから目線を切った。
顔が赤くなりそうなのを何とかごまかし、私はその様子をニヤニヤ見ていたリンネに顔を向ける。
「リンネ。あなたはどう思う?ザナンテス魔導国、交渉に乗るかしら」
「んーなあに美緒。……照れ隠し?」
「……リンネ。私真面目な話してるけど?」
思わず魔力を乗せ、リンネに向ける。
一瞬顔色を変え、リンネは慌てたように話を始めた。
「ひぐっ?!……う、うん?ど、どうかな?…………ごめんて」
「むう」
気を取り直すように紅茶でのどを湿らせるリンネ。
私も大きく息を吐く。
「ねえ美緒?……もう一人のあなたの世界線ではどうだったの?」
リンネは知っていた。
私が2度目だという事を。
だから私もそのことを織り込み済みで話を進めた。
「ミリナの師匠ね……ドレイクのお兄さん『マールデルダ』なんだよね」
「っ!?」
「でね。今マール……ザナンテス魔導国に指名手配されているはずなのよ」
「はあ?」
「うーん。やっぱり物理で言う事聞かせる方が早いかな……」
私の物騒な物言いに、リンネもレルダンも沈黙してしまっていた。
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