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SS ハインバッハの想い

ハインバッハのSSです。

呼びとばしていただいても本編には影響ありません。

皇居離れ、離塔ヤナークの塔。


突然帝国を訪れた伝説であるゲームマスターと創造神リンネ様ご一行が新たな伝説を刻まれた場所だ。


皇居の敷地は広い。

その南東の奥にヤナークの塔は建立されていた。


元々は父である陛下の兄上、ミッドレイ叔父上の研究施設だ。

叔父上は稀代の錬金術師。

皇帝よりも研究の道を選び、帝国に多大な貢献をなされた方だった。


叔父上が無くなられたのは確か陛下が大陸統一を全国民に宣言する直前。

陛下は臣下が人質にと仰っているが……

きっと叔父上の事も少なからず影響していたと考えてしまう。


父上と叔父上。

本来皇帝位を争う間柄にもかかわらずお二人の仲は非常に良好だった。


叔父上が亡くなられたあの日。

父上は一人泣いておられた。


塔を見やり思い浮かぶ情景。


笑顔の叔父上と難しそうな顔をした陛下が文句を言う。

ふふ、叔父上はいつも無理難題を父上に奏上していたものだ……



懐かしさに私はしばし佇んだ。



※※※※※



最近はほとんど使用されていなかった建物に、今は警備の者が交代で目を光らせている。

今では国宝をしのぐ重要な場所となっていた。


あの一瞬で転送ゲートというとんでもないアーティーファクトを設置されたゲームマスター美緒さま。


凄まじいの一言に尽きる。


何より彼女の周りに揺らめくすさまじい魔力。

レベル250というのも間違いないのだろう。



※※※※※



あの時。

私は愚かにもかの悪神の眷属に取りつかれてしまっていた。

内から湧き上がる嗜虐的な欲望に、何度飲み込まれそうになったことか。


日に日に心を蝕んでいく異常な欲望が全てを包み込みそうになる直前、あの女性ガーダーレグト殿よりいただいたペンダントに救われた。


きっととんでもないお宝なのだろう。

彼女は無表情でつまらなそうに私に投げてよこしてきたものだが…


彼女もまた、とんでもない魔力を放っていた。

不敬?

とんでもない。


きっと私と彼女では生物としての格が違う。


あの日から私の心は何か目に見えないような強い力で保護され、どうにか通常に過ごす事が出来たのだから。


そしてあの日。

私は運命に感謝した。


在りえない事だがおそらく鑑定を受けたのだろう。

不完全ながら私の中の何者かが激高した。


一瞬で飲まれる私の心。

どんなにあがいても奴の支配は強く私は絶望していた。


しかし美緒さまは涼しい顔で、


「陛下。御心配には及びません。すでに捕らえました。今この瞬間に解呪します…隔絶解呪!!」


まるで当たり前のようにあっさりと解呪してしまう。

悪夢のようなあの数か月の苦しみを一瞬で。


私は救われた。



別室で目覚めた私は執務室へと戻り、美緒さまをまじまじと見つめた。

目が覚めるほどの美貌、そしてあどけなさが残る美しい女性。


私は不覚にも、心を奪われてしまった。


そしてどうにかしてでも彼女のそばに居たいと、つい皇帝である父の前で懇願までしてしまっていたのだ。

その行動に自分でも驚いたのを覚えている。


美緒さまは同行は許さないものの、どうにか私を仲間とは認めてくれた。

そして使命があるとも。

心振るえる喜びが私の全身を駆け巡っていた。


彼女は言う。

民の為皇帝である父を助けよと。


美しいだけでなく限りなく崇高な心。


私は完全に彼女に囚われた。


あの日からまだわずか数日。

私の心は常にあの方を求めてしまう。


(会いたい…崇高な清廉な心、あの可愛らしい顔と声……ああっ、なんて可憐な……)


気が付けば漏れてしまう熱いため息。

私はここ数日連日のように転送ゲートへの侵入を試みていた。



※※※※※



「転送ゲートはもう稼働している……やはりここはある程度の地位の者が率先して試すべきだろう」


少しわざとらしく、私はそう大きな声で宣言し門を守る近衛騎士団の副長、シュレイヒに笑顔を向け近づいていった。


「殿下?……どうされました?異常はございませんが」

「うむ。任務ご苦労。……なに、問題なく稼働しているか確かめる必要を感じてな。私が率先してそれを行おうと思い訪れたのだ」

「……申し訳ありません。陛下より『誰一人通すな。例外はない』と言いつけられております。いかに殿下といえど……どうかお引き取りを」


うぐっ、まさか父上がそのようなことまで?

だ、だが……


「う、うむ。そうであったか……うむ、シュレイヒは職務に忠実だ。うむ。なれば安心であるな」

「……もったいないお言葉……殿下?」


そう言いつつも全く帰ろうとしないハインバッハについ訝しげな眼を向ける。


「そ、そうだ。疲れたであろう?少し休んではどうだ。なーに。この私ハインバッハがしっかりと見張って居よう。うむ。大切な近衛兵の副長であるそなたに、倒れられでもしたら帝国の損失だからな。さあ、遠慮はいらぬ。さあ、さあっ」


「いえ、お心遣いに感謝を。……ですが私はつい先ほど交代したばかりです。それに小隊長のエスカーもおりますので。……殿下に代わっていただく必要はございません」


シュレイヒのすぐ隣で直立しているエスカーが大きく頷く。


「そ、そうか?は、ははっ。うむ。流石は我が帝国の近衛。なれば私は失礼するとしよう」


何度も振り返りながらも渋々と離れていく殿下。

シュレイヒはため息を漏らしてしまう。


「……これで今日5度目らしい。……困ったものだ」

「……副長、あの会談の席におられたのですよね?ゲームマスターとはそれほどですか?」

「まあな。……殿下の行動が分からなくもない事が……何よりの証拠だよ」

「??はあ。……自分にはわかりかねます」

「忘れてくれ。……数日もすれば落ち着くだろうさ」



※※※※※



あの会談の日シュレイヒは警備のため同席していた。


神様だかゲームマスターだか知らないが、彼女らは皇帝陛下を散々待たせた挙句とんでもない発言をする。


2年後陛下が亡くなられハイン殿下が悪神ガナロ様により狂う―――――


首を刎ねられても文句の言えない在りえない不敬な発言だ。

私をはじめ近衛の皆は腰の剣に手をかけた。


しかし直後我々は思い知る。


あろうことかすでにハイン殿下が原因となる悪魔とやらに乗っ取られていたのだ。

ハイン殿下から吹き上がる悍ましい魔力。


我々は死を覚悟した。


「問題ありません」


ゲームマスターは、美緒さまはそうおっしゃられ、瞬く間に解呪してしまう。

そして信愛の籠った優しい目で私たちにまで微笑みかけてくださった。


ああ、もしこの世に女神がいるとすれば……

それはまさにこの方なのだろう。


そう思えるほど濃厚な魔力とそれを凌駕する美しさに包まれていた。


きっと全員が……

彼女の虜になっていた。



「……お前だってもしあの場に居れば……嫌でも理解したさ」

「……はあ。……そこまでですか」



※※※※※



そして1時間後。

再度訪れたハインバッハに彼らはため息を漏らしてしまうのだった。


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