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第43話 無くなってしまう希望

どうして……

あんなことに――――



※※※※※



あの後微妙な空気感に入りにくかったらしい宰相がおそるおそる声をかけ、会談の準備が整ったと私たちに告げた。

それで何とか空気は霧散し、しばしの休息をはさむことに。


別室へ案内され、皆がソファーに腰を掛け大きなため息が漏れた。


準備されていた暖かい紅茶に高級なお菓子。

やっとほっとできた私はエルノールにジト目を向けていた。


「どうされました美緒さま?可愛い顔が、ますます可愛いですよ?ご褒美ですか?」


えっとエルノール?

もしかして壊れたのかな?

あなたそんな発言今までしてないよねっ!?


……何か……焦っている?!


「な、なにを?エ、エルノール?もしかして具合でも…ひいっ!?」


突然額を私のおでこに触れさせるエルノール。

目にはやばいくらい色気が乗っていた。


「熱はありませんよ?……すみません。……少し焦り過ぎたようです」

「っ!?????」


おでこから離れたものの、いまだ超至近距離でエルノールの奇麗なクリアブルーの瞳が私を見つめていた。


ち、ち、近いよ?!!!

頭が真っ白になっていく。


「はーい。そこまで。……あんた回り見てみなさい。戦争になるわよ?」


護衛で付いてきていたレルダン、カイマルク、スフォード、レイルイド、ファルカンの5人が殺気をほとばしらせ、エルノールを睨み付けていた。


「ふう。分かりました。……でも私は間違ってはいない。お前らの頭領には負けない」

「……それをここでいうか?」

「それこそ私の自由だろう?愛は戦いだ」


えっ?なに?

……分かんないよ?


突然場を埋め尽くす憎しみにも似た感情が美緒の心を刺激する。

かつて経験のないほどに強く不安定に揺さぶられ悲鳴を上げ始める美緒の心。


そもそも美緒は今日の事を本当に楽しみにしていた。


初めてのお出かけ。

しかも大切な友達と。


それなのに何の説明もなくいきなり皇帝に合わせられ、さらには不意打ちの告白。

美緒は今、まさに心のよりどころを失いつつあった。


事情を知らないものからすれば下らないことかもしれない。


でも美緒は。


覚悟を決めこの世界に挑んでいる。

それこそ最後にはすべてを背負い消える覚悟までして。


そんな中友達の優しさに触れ、諦めなくていい事を思い出し―――


心の底から望むことだった。


大好きな仲間も出来、道も確認した。


それなのに。

彼女が一番大切にする仲間たちが、まさに美緒が原因でいがみ合う。


大げさに言えば今美緒は。

消えてなくなりたいと思ってしまっていた。


だからこう思う―――


すごくぎすぎすしてる。

やだ。

私いやだよ。


………わたしの…せいなの?


私がいるから……


美緒の瞳から絶望の涙が零れ落ちた。


それに気づいたミネアとルルーナ、そしてレリアーナから恐ろしいほど濃密な怒気が放たれた。

彼女たちは知っている。

美緒がどんなに今日を楽しみに、大切に思っていたのかを。


「「「「「「ひぐっ?!」」」」」


「あのさ。……大の大人が6人寄ってたかって……美緒を悲しませるとか……美緒がどれだけ今日の事をっ!!……許さない……ちょん切るぞ、ごらあっ!!」

「軽蔑します兄さま。……可哀そうな美緒。美緒のこと好きとか言っておいて、全然美緒のこと考えてないじゃない。わたし兄さまなんか嫌いだ」

「うにゃー。見損なったにゃ。なんで説明しないにゃ?美緒がどれだけ歯を食いしばってきたか、お前ら本当に分からにゃいのか?うちは全面的に美緒の味方にゃ。お前ら全員嫌いだにゃ、フシャアアアアアアッッ!!!!」


私を背中に庇い、6人を威嚇する大切な友達。

私は思わず彼女たちに縋りつき声をあげて泣き始めてしまう。


その様子は、まるで小さな子供のようだった。

ポロポロと大粒の涙があとからあとからあふれ出す。

声を上げ、体は震え……

まるでこの世の終わりのような絶望をその顔に映して…


今まで見たことのない美緒の取り乱すさま。

気付いたリンネはまるで世界の終りのような顔をし立ち尽くす。


男たち6人も、ようやくその重大さに、絶望の表情を浮かべ立ち尽くしていた。



※※※※※



「「「「「「申し訳ありませんでした」」」」」」

「私に謝ってどうすんのよ」


今美緒は泣き疲れ憔悴しきり、まるで死んだかのようにベッドで身じろぎひとつせずに毛布に包まれていた。


在りえない憔悴ぶりにリンネが取り乱し、皇居が吹き飛ぶほどの魔力を放ちそうになるなど、シャレにならない状況に陥っていた。


アリアがリンネを宥めているが。

リンネも膝を抱え目を腫らしていた。


ルルーナは大きくため息をつく。


「エルノール」

「っ!?は、はい」

「あんたさ、美緒がどれだけ今日の事、楽しみにしていたか分かる?……あの子はさ、ずっと独りぼっちだった。そしてやっと私たちを友だとだと、そしてあんたたち全員を仲間だと認めていたの。……なのに何?いきなり皇居?はあっ?……どうしてあんた説明しなかったのよっ!!しかも不意打ちの告白って……あんた美緒の気持ち、全然考えてないじゃん」


「……うぐ、すま…ない」


「それからレルダン」

「う、うむ」

「どうして経験豊富なあんたまで乗せられてるのよ。バカ兄貴が盛ったのは知ってる。でもそれは兄貴自身の問題でしょ?今のあんたの役目は、兄さんの補佐じゃない。美緒の護衛、美緒の心を守ることじゃないの?」


「……返す言葉もない」


「もしこれで……美緒の心が壊れたら……」


リンネが飛び起き目を見開く。


美緒が壊れるかもしれない。

その言葉に今まで経験したことのない恐怖が彼女の心を覆いつくす。

ガタガタと震え、涙があふれる。


「私は絶対に許さない。……死んでもお前たち全員を殺す」


ルルーナからあり得ない濃密な魔力が吹き上がる。

主を守る、神の親衛隊であるヴァルュリアの覚悟の魔力だ。

心の底から湧き上がる怒りに彼女は覚醒していた。


今のルルーナの一撃。

おそらく城がなくなるほどの威力を齎すほどだろう。


ふいにルルーナの背中を温かい物が包み込んだ。


「っ!?……美緒?!」

「……ありがとう……でも、やだ。……私が悪いんでしょ?私がいるから……みんな……ぐすっ、ヒック…お願い……仲良く…して……私が……うう、消える…から……」


全員の心臓がまるで氷漬けにされたかのように、あり得ない悪寒に包まれる。

鳥肌が全身を覆い、空気をうまく吸う事が出来ない。


守るべき主。

大切な人。

尊敬する美緒。


大切な友達。

そして家族である美緒。


その美緒がいま宣言してしまう。


自分が消えると。


そしてあり得ないゲームマスターの力を、皆が思い知る。


「大好き……だよ?……さよう…な…ら………      」


美緒が消えた。

存在が掻き消えた。


「……………え?」


世界の希望が……


まさに今この瞬間―――


消えてなくなった。



「美緒おおおおおお―――――――――――――――」


リンネの叫び声が、いつまでも響いていた。


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