第42話 どこの王族?いえ、神様ご一行です
街のざわめきが広がっていく。
「お、おい、見ろよ……ふあー、どこぞの王族か?……お触れあったっけ?…すげー。純白のスレイプニル――初めて見た」
「ねえあの護衛の銀髪の方……はあ、なんて美しい……」
人が人を呼びますます注目を集めていく。
「馬車の女性たち……めっちゃ美人で可愛い……もしかしてハイン殿下の?」
「護衛のお兄さんたちも……カッコいいねえ♡」
「うわっ、あの黒髪の子……やべえ、可愛すぎる」
ううっ、本気で恥ずかしいんですけど?
「バカ、あの赤髪の子……すっげえ……ヤバ!」
「猫獣人の子も、すっごいな……スタイルとか……ふう」
「うわー、誰でも良いよ。みんな見たことないくらい可愛い」
美緒は事前にエルノールに言われていたことを実感してしまっていた。
街ゆく人たちの自分たちに向ける視線がとんでもない事になっており、もし本当に4人だけで来ていたらと思うと身震いしてしまう。
(それにしても……ちょっと馬車?……派手すぎなのではっ!?)
『歩く?いけません。どんな不埒なものが居る事か……心配ありません。とっておきのアーティーファクトがございます。美緒さまは些事に囚われずにお楽しみください』
胸を張りそう言ったエルノールが用意した馬車……
伝説級の純白のスレイプニル2頭立ての結界魔法を常時展開する超高級の馬車。
しかもやたらとキンキラキンに希少金属をふんだんに使い、何故かオープンタイプ。
護衛のエルノール達も立派な白馬って……
因みにスレイプニルは足が8本ある馬の上位種のこと。
この子たち賢くてとっても可愛いの♡
そんな状況に乘っている私たちも、リンネ以外顔が引きつっていた。
せっかくの景色も一切目に入ってきませんけどっ!?
「ね、ねえエルノール?……ちょ、ちょっと目立ちすぎじゃない?」
「うにゃー。これじゃ見世物にゃ」
「しかも私たち……なんでドレス?……うう、着慣れなくて落ち着かない」
もっと普通の感じが良かったのに……
何故か舞踏会に出るかのような装い。
……ファルマナさんがすっごく頑張ってくれたから…
文句いう訳ではないけど…
ちょっとね。
……さすがリンネは神様。
めっちゃ似合ってるし、堂々としてる。
アリアは……うん。
魂が抜けたようにさっきから青い顔で空を見上げているね。
リアはなぜか私をキラキラした目で見つめている?
「ね、ねえエルノール?どこかに向かっているの?……そ、その……お洋服とか、見たいのだけれど…」
「ご安心ください。一つ野暮用を済ませたら、お召し物を変え散策いたしますので。もうすぐ皇居へ到着いたします」
「はあ、皇居?……ええっ?!」
「ええ。いくら美緒さまが世界の希望でこの世で一番尊い方とはいえ、一応皇帝くらいにはお目通りの機会を与える必要があります。ご安心ください。美緒さまはただ微笑んでいていただければ後の些事はわたくしにお任せください」
聞いてないよっ!??
えっ?
ええっ??!
何?
今から皇帝に会うの?
嘘でしょ――――?!!!
私の心の叫びもむなしく、馬車は進んでいったんだ。
※※※※※
神聖ルギアナード帝国皇居。
謁見の間―――
ゲームではさんざん見たけど。
直接目にするのは当然だけど初めてだ。
スッゴク荘厳で豪華。
ついため息が漏れてしまう。
足を進ませつつ、ちらりと視線を動かせば、名だたる帝国貴族が両サイドに直立。
玉座には現皇帝ドイラナード・ルラ・ルギアナード陛下が座っている様子が目に入る。
その横には皇妃であるミリアムルナ皇妃と、次期皇帝がほぼ内定している第一皇子ハインバッハの姿も。
赤い絨毯の敷かれた荘厳なフロアに、私たち12人の足音だけが響き渡る。
近づくにつれ貴族が礼をとる。
そして皇妃と皇子が頭を垂れ――
皇帝までもが立ち上がり数歩前へ出て……
跪いた。
私はどうすればいいか全く分からず。
平気な顔をしながらもすでに頭の中はパニックだ。
そんな私にリンネの言葉が脳内に響く。
(美緒?心配はいらない。まずは私に任せなさい。あなたはニコニコしていればいいわ)
うん。
リンネ、かっこいい♡
惚れちゃいそう。
皇帝より10歩程度のところで私たちは足を止め、レリアーナ、ミネア、ルルーナにアリア、そして護衛であるレルダン以下5名はさすがに跪いた。
立っているのはリンネと私、そしてエルノールの3名だけだ。
一歩前に出て口上を述べるリンネ。
「頭を上げよ。我が名はリンネ。今世の創造神である。直答を許そう」
そしてリンネから凄まじい魔力が吹き上がる。
額に汗が浮かべる皇帝。
その言葉に、ゆっくり顔を上げるドイラナード皇帝陛下。
「ご尊顔拝謁の栄誉、至上の喜びにございます」
「うむ。苦しゅうない。では会談の用意を」
「はっ。仰せのままに。宰相、そのように」
「はっ」
あわただしく数名が謁見の間から退出していく。
……さすが神様。
「発言、よろしいでしょうか」
「うむ。かまわぬ」
「ありがたき幸せ。……そちらの黒髪の女性、伝説の“ゲームマスター”なのでしょうか」
「そうだ。お前たちヒューマン族の、そして世界の希望だ。伏して忠誠を誓うとよい」
いきなり多くの視線が私に向いてくる。
ひいっ。
こ、怖すぎるんですけど?
(美緒、イモだと思うのよ。全然平気でしょ?)
平気じゃありませんっ!!
私は顔を引きつらせてしまう。
「おお、まさに、伝承の通り……美しき黒髪に可憐な姿。そして押さえてもなおすべてを凌駕するその魔力。――伝説は誠であったか」
うん?
ヒューマン族にも伝承?
伝説?
……わたし知らないけど。
そんなことを思っていると、すっとエルノールが一歩前へと進んだ。
「いつまで立たせておくつもりだ。マスターは疲弊している。この国はそんなことも配慮すらできないのか?まったく――無駄に勢力のみを伸ばした弊害という物か」
エ、エルノール!?
な、何でそんなに喧嘩腰なの?
ピクリと肩を揺らし、皇帝の顔に明らかに不機嫌なさまが浮かぶ。
「これは気づきませんで。はて、貴殿は?……いくら創造神様やゲームマスターと一緒に居ようと、ただ人にその口上は不遜であるぞ?――まずは名乗られよ」
その言葉にエルノールはつかつかと進み。
何と胸ぐらをつかみ皇帝を立たせた。
謁見の間がざわめきに包まれる。
近衛だろうか。
明らかな殺気を纏い、まさに一触即発の空気だ。
「ほう。ずいぶんな口を利く。高々一国の皇帝風情が。この瞳、忘れたとは言わせんぞ?ドイ爺」
「っ!?ま、まさか……エルノール坊ちゃん?」
「そうだ。10年ぶりか?……貴様に見棄てられ、結果命を落としたわが父ガザナークが嫡男、エルノールだ。……あの時の貴様の対応、私は永遠に忘れん。……美緒さまの御前だ。殺しはせん。だがその心に焼き付けよっ!わが父と母の、そして我が民たちの無念を」
およそ10年前のエルトリアへの襲撃。
いくら予定通りだったとはいえ。
もし帝国が“大陸統一”など行っていなければ間違いなく防げていた。
攻めてきたのはこの大陸の国ではない。
ここより西方の大陸の覇者、ガザルト王国だった。
かの国は魔導技術に長けていた。
飛空船団を保持し、その進行速度はまさに電光石火。
だが帝国もすでに飛空船は保持していた。
私は詳しい事情を知らない。
でも……
結果的に彼らは見棄てたのだ。
その証拠に襲撃の時。
彼らはギルド本部のある秘境リッドバレー付近、エルノールの一族の住んでいたエルトリアの直前に陣を敷いていたのだから。
蹂躙されるさまを、ただ静観していた。
数百年前から続く盟約を反故にして。
力なく崩れ落ちる皇帝。
周りはその様子に固唾を吞む。
「言い訳はせぬ。敢えてスルテッド当主と呼ばせてもらおう。当主よ。そなたとて使命ある身、この世界は蝕まれておる。……承知であろう」
「……」
「確かに裏切った。そうだ。私は静観した。それが罪というのなら、どのような報いも受けよう。だが我はこのルギアナードの皇帝。民4000万人の命を背負う者だ。我が言えるのはそれだけだ」
静寂が謁見の間を包む。
皇帝の側近と上位貴族たちだろうか。
唇をかみしめている。
悔しさ?
違う。
何もできなかったことに対する悔恨の念だ。
もしかして……
「エルノール、控えなさい。……今日は美緒のお披露目でしょ?」
リンネの言葉にエルノールが反応を示す。
そしてしゃがみ込み、まるで別人のような優しい声で皇帝に話しかけた。
「貴方の覚悟、しかと聞きました。すみません。言い過ぎました。……まだくすぶっているのは私も同じです。許すとは言えません。ですがこれからは美緒さまを敬愛しお守りする同志として――この手を取っては頂けまいか」
皇帝は真っすぐにエルノールを見つめる。
そしてその手を取り優しい表情を浮かべた。
「成長、されましたな。エルノール坊ちゃん。……これも“ゲームマスター”のおかげですかな?」
「ええ。彼女はまさに救済の女神です。そして私の大切なただ一人永遠を持って守り抜く心よりお慕い申し上げている女性です」
ええっ?!
な、何言ってるの?!
それって……こ、告白?!!!
私は状況を忘れ、顔を赤らめてしまう。
「まったく。兄さま公衆の面前でいけしゃあしゃあと。後でお仕置きだね、美緒」
「ほえ?……う、うん」
「あれー?なあに美緒?……もしかして?」
「ち、違うよ?……べ、別に私……エルノールの事……あう」
何故か微妙な空気がこの場を支配してしまう。
あうう、だ、誰か――
助けてええええええ―――――
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