第37話 創世神の眷属3
沈黙が続く聖域。
そして放たれる大きなため息。
「あー、なんかごめんね?ハハ、ハハハ……ハ…」
――うん。
まあ。
今のアルディが悪い訳じゃないんだけど……
「…ねえ美緒?…おばあ様は、生きていたのね?――また会えるのよね?」
沈黙を破るリンネ。
その目には不安げな色が浮かんでいた。
――分かっていて聞いている顔だ。
私は軽く天井を見上げ、そしてリンネの瞳を見つめる。
「“思念体”、かな。……おばあちゃんはもういない。多分……こちらから会う事は出来ない。おばあちゃん、刻まれているの。虚無神の呪い」
「っ!?……そう、なんだ……」
一筋の涙が流れる。
「……でもね……きっと会える。だっておばあちゃん『また会えるさ』って言っていたよ?」
「っ!?……そう、だよね。……うん、また会えるよね」
突然私の頭の中におばあちゃんの声とイメージが浮かび上がった。
(おっと、忘れていたよ……美緒、いくつかあんたにイメージを送った。しっかりやるんだよ)
「うあ、あ……」
茫然と目を見開く私。
リンネとエルノールが慌てて私に近づいて肩を支えてくれる。
何故かあぶれたアルディは手持ち無沙汰に手をワキワキさせているけど……
「美緒?」
「美緒さま?!」
「……眷属?………!?……そっか……ハハ、ハ」
私は今のイメージを、同期スキルでリンネたち3人に送った。
「「「っ!?……ああっ……」」」
そのイメージは私たちの向かう方向性を教えてくれたんだ。
そしていくつもの疑問の答えも。
――難易度激高だけどね?
※※※※※
送られてきたイメージ。
整理するとこんな感じ。
全ての物には役割があって陰と陽の2面性。
そして中間で監視しつつ調整する調停役の三つ巴。
それが基本らしい。
もちろん制定し創り上げたのは創世神アークディーツ。
幾つも実験を経て、たどり着いた結果。
創世神様の願いはバランス重視。
彼はどうやら“永続”を望んでいた。
一方全てが反対の虚無神。
彼は全てを終わらせたいし“無”に帰したい。
だから当然反発したけど……
“世律神”の介入で取り敢えず抑えられ。
この“摂理”ですべてが始まった。
――三つの存在が絡み合い、紡ぐ世界が。
結果として同じような力量で陰と陽はすべてが反対。
惹かれ合うし、たびたび争いを起こす。
それを律し調整するのが調停役だ。
そういうルールがこの世界全てに浸透した。
――『三つ巴』のイメージと少し違うけど。
有名どころは蛇、ナメクジ、カエルよね。
まあこれも“おとぎ話”だったっけ。
あと『ジャンケン』とか?
……ん?
三つ巴じゃなくて――3竦み?
まあいいや。
コホン。
今回のケースだと陰が虚無神、陽が創世神、そして中間監視役で調停するのが世律神。
『三つ巴』となると世律神は少し意味合いが違うけど…
やっぱり“三つ巴”の形で存在している。
でもこの世界のルールは頂点である彼らは『お互いに不干渉』とされていた。
どれが欠けても“世の理”が崩壊してしまうからだ。
だけど突然世律神がその職務を放棄。
自身の眷属である“ミディエイター”に丸投げしてしまう。
その隙に虚無神がはっちゃけた。
そして出来上がったのが『大地』さん、『優斗』、世律神の使いである『調停者』。
でもおかしいのは。
大地さんは融合済み。
優斗は虚無神による傀儡状態。
調停者は虚無神の眷族化の上書きにより縛られている。
つまり“バランスが崩壊”している。
元々彼らは最上位の存在だ。
そこに格下の“ミディエイター”では太刀打ちできない。
要するに、世律神がいなくなったせいで、代理のミディエイターが代行中――でもそのミディエイターも眷属化されている、ってわけ。
……世律神、何やってんの?
コホン。
本来彼らは直接相手に手出しができない。
そして矢面に立たされたのが“ルールブレイカー”である『ゲームマスターの称号持ち』。
私と優斗。
動ける私に対し、まだ覚醒を果たせず動けない優斗を傀儡化している虚無神は。
その力ゆえ何もできないはずだった。
だから調停者、“ミディエイター”を凋落――眷族に落とした。
自分の“手ゴマ”とするために。
そして完全に狂った状態で、眷族を使い創世神を封印。
好き勝手を始めてしまう。
虚無神の目的は……完全の無。
そしてそれを確かめたうえでの自らの消滅。
――意味が分からない。
しかも『すべての物が最上級の幸せを満喫した後の虚無』をお求めだ。
神様なのに――
ただの“性格破綻者”だ。
きっと虚無神……もう壊れている。
絶対的な神様が壊れるとか……
迷惑以外何物でもない。
創世神と虚無神は繋がっている。
リンネとガナロみたいにね。
だから一方が滅びると一緒に消滅してしまう。
創世神が滅ぶイコールこの世界全ての消滅だ。
……逆に虚無神、性格が破綻していて良かった?
だって本当にただ消したいだけなら自殺でジエンドだ。
まあ神様がそんなことできるのかは知らないけれどね。
ここでちょっと補足。
強い力には当然制限がある。
創世神は無から有を作れるけど、作ったものには干渉できない。
創造神は有から色々作れるけど……コホン。
うう、無茶苦茶こんがらがっているんだよね。
まあ何はともあれ。
状態や称号によりできることが事細かに設定されているという事なの。
そしてその法則に唯一縛られないのが『ゲームマスター』
黒木優斗と私、守山美緒。
あと完全不干渉だけど、それを調停する“ミディエイター”も私たちと同じレベルで存在している。
だから今回最悪なのは。
すべてのルールを無視できる黒木優斗が虚無神に乗っ取られてしまっている事。
そしてミディエイターを眷族化までして縛っている。
状況は果てしなく悪い。
本来ゲームマスターの称号持ちはその強権ゆえ。
幾つ平行世界があろうが絶対に“一人”しか存在できない。
黒木優斗は未覚醒状態で地球にいる。
優斗が動けない以上虚無神も地球にいる。
その縛りが今回の逆転への布石となる。
違う世界線で一人しかいない“私を殺したこと”で虚無神が勝利を確信した。
そして一瞬気が緩んだ。
その隙をつき創世神が新たに得た称号『ゲームクリエイター』で一部だけ摂理を書き換え、私を入れ替えた。
創世神の眷属が揃う世界線――
つまりリンネとアルディを私に合わせるために。
だから実は私……2回目だ。
やっと分かった。
私は今『強くてニューゲーム』状態だという事を。
だから私、ちぐはぐだったんだ。
そして創世神サイド、いわゆる私たちの目的。
一番の目的はミディエイターの隔絶解呪による正常化。
或いは世律神の探索。
これで創生神の目的である『バランスの取れた持続可能な真理』が動き出す。
或いは――虚無神の封印。
だけどたどり着くには条件がある。
この世界のイベントのフルコンプリート。
殺された別の世界線の私がフラグを立てていたからだ。
つまりすべてをハッピーエンドで締めくくる新たなルートの完成のみが。
虚無神のシナリオを崩す事が出来る唯一の方法。
まあ虚無神が色々と仕掛けをしているので。
簡単ではないんだけどね。
最終段階まで欺き、そしてその瞬間に全てを持って。
虚無神、黒木優斗を止める。
その上で虚無神の封印。
虚無神は創世神と同一の存在。
反転したモノ。
つまり消してしまうと対になる創世神も消える。
世界が無くなる。
『負ければ滅び、倒しても滅びる』
――すでに詰んでいるように見えちゃうよね。
勝負のカギを握るのが、優斗の持っていないもの。
つまり創世神の眷属であるリンネとアルディ。
そして……
実はお母さん、『マナレルナの創造神の眷属』として刻まれていたエルノール。
まったく。
複雑すぎるのだけれど?
私は思わず眉間にしわを寄せ大きくため息をついていた。
※※※※※
嘆き悲しんだもう一人の私が経験した平行世界。
すでにこの世界は大きく変わってしまっている。
「……シナリオが追加されていくとか…私の嫌いなタイプだ」
私は思わず口にしていた。
でも。
『今度こそ絶対にやり遂げる』
その意志はますます強くなっていたんだ。
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