第26話 バイステンダー(傍観者)
1時間ほど面会し、今は別室で休憩を取っているのだが…
「もうヤダ」
にこやかに、見た目可愛いアルディのセクハラ発言に美緒の心は限界だった。
当然知識としては美緒だってある。
そうはいっても彼女は現代日本で生活していた。
友達はいなくともスマホという物があれば。
ほとんどの情報は求めずとも自然に目や耳に入ってくるものだ。
しかしアルディの物言い。
まさに経験に基づいた具体的かつ一切オブラートに包まない素直な表現のため生々しさが半端ない。
嘘がつけないため、非常に素直なのだった。
当たり前だが美緒は男性とのお付き合い経験などない。
異性の手に触れるだけで顔を赤らめるほどの純情ちゃんだ。
そんな彼女にアルディのセクハラ発言はクリティカルなダメージとなって美緒の精神を削りまくっていた。
「うーん。でもね。…あいつ嘘は言ってないんだよね。ていうかスキル解除しちゃうと1ミリも本当の事話さないしねあいつ」
リンネがため息交じりに口にする。
「美緒さま、聞きたいことを記していただけませんか?私が代わりに聞いてまいります」
見かねたエルノールが助け船を出す。
正直彼も、恥ずかしがり目を回す美緒に若干の興奮を覚えているが…
さすがにそんな事は言えない。
そして美緒の精神にダメージを与えるアルディに対し怒りを覚えている事もまた事実だった。
「しょうがないね。そうしよっか。いいよ美緒。私たちに任せて」
リンネもエルノールの案に賛成する。
何より話が進まない。
「……ううん。頑張ってみる。何とか聞き流してみる。だってこれは私の役目だよ。解呪した責任もあるもん。……頑張ってみる……うん。頑張ってみる」
ブツブツ同じ言葉を繰り返す美緒。
すでに不安なのだが…
リンネとエルノールは顔を見合わせた。
※※※※※
「あっ、また来てくれたの?うっれしー。美緒ちゃん、はあ、かわいい」
美緒を見るなり、アルディは手をワキワキさせながら、さらに卑猥な言葉を口にする。
ニヤニヤと悪い表情を浮かべながら。
(っ!?…あれ……?)
「……あなたの目的は何?」
「えー。つまんなーい。お尻も可愛いね。興奮しちゃう」
やっぱりいやらしく顔を歪ませる。
(……おかしい)
嫌な予感がどんどん膨らんでいく。
私は心の中で、魔法を無詠唱で紡ぐ。
(…状態異常解除魔法、精神強化魔法……幻影魔法…)
「くっ、貴方の今の目的を教えて」
「……ふうっ。はいはい。分かったよ。ごめんね?からかって。……目的ねえ。世界を『惑わせる』ことかな」
(言霊!?くっ、強いっ)
「っ!?……ど、どうして?……ルーダラルダ様はそんなこと言ってないよ?!」
「……そっか。君は本当にゲームマスターなんだね。でもさ、知らないよね。どういういきさつで僕が『召喚』されたのか」
「えっ?……召喚?!」
美緒の表情が変わる。
リンネはなぜかうつむいたままだ。
(くうっ、だめっ……リンネ、気付いてっ!……うぐっ、圧が増した?!飲まれる!?)
「そこのロリババア、何も教えてないんだね。まあ、『言えない』よな。だって僕、日本でも美緒ちゃん知っているしね。僕は日本人だよ。美緒ちゃんより年上だけどね」
「っ!?」
(くっ……リンネ……っ!?…繋がった?)
(……美緒、コイツやばい。……でもこれ以上レジストするとバレる。私に任せて)
(……うん……おね…が…い)
薄っすらとリンネの形成する保護膜が私を包み込む……
私は歯を食いしばり、心にしがみつく。
「ふん。リンネ様、良い人ぶらないでくれるかな?あんたも、ルーダラルダ様も。そしてマナさん、マナレルナもさ。反吐が出る」
アルディの表情が変わる。
今までの顔が思い出せないくらいに、真剣でそして怖い顔で話し続ける。
その様子をエルノールは呆然と見ているしかできない。
彼もすでに飲まれてしまっていた。
「はあ。凄いな美緒の解呪。未完成なのにここまで効果を出すなんてさ。流石僕が見込んだ子だ。……ねえ美緒?初めて遊んだ、僕があげたゲーム覚えているかい」
「っ!?……えっ……まさか……」
美緒は驚愕してしまう。
もし本当にそうなら…
それはまさにゲームに目覚めたきっかけだった。
(……ちがう……コイツ、ゲームのタイトル言ってない……私の『表面』を読んだだけ……くうっ……)
「ったく。これだから神様は嫌いなんだよ。全部知ってるくせに勿体ぶりやがって。全部仕組んだくせによ。『美緒の両親まで殺しやがって』」
「っ!?あ…あああ…うあああ、あああああああああっっっ!!!!」
(違うっ、嘘だ、嘘だ……だめだ……うああっ)
「っ!?み、美緒さま?!お、おい、やめろっ!!……美緒さま?!…美緒さまああああっっ!!!」
私の錯乱に一瞬我を取り戻したエルノールが抱き起す。
私は白目をむき、がくがくと痙攣してしまっている―――
(……ああ、心配かけちゃうね……………)
※※※※※
……なんとなく、そうじゃないかとは思っていた。
だって。
きっとそうでなければ『ゲームマスターとなる私』は生まれなかった。
もしあのままお父さんとお母さんが生きていれば。
きっと私は普通の女の子のままだった。
当たり前だ。
未成年の女子が1日何時間もゲームをする。
それこそ徹夜までして。
親が居れば在りえない事だ。
当たり前だけどたしなめられるし叱られる。
※※※※※
私の心の中―――
まるで足元が崩れていくような感覚に囚われた。
大好きだったこのゲーム。
大好きだったこの世界。
でも。
そのために……
大好きだった両親を奪った。
許せない。
許せない。
ゆるせない……ユルセナイ……
絶対に許せない!!!!
美緒の心が黒いものに塗り替えられていく―――
※※※※※
「うああああああああああっっっ!!!ああっ、あああああああああああああっっ!!?………」
錯乱する私。
朧気に一瞬脳裏に浮かぶレリアーナとルルーナとミネアの笑顔―――
(…あ?!…ああ……あ!!!…)
少しずつ感覚が戻っていく。
(初めての…友…だ……ち……)
そして立つ足にも力が戻り始めた。
(忘れ……たく……ないのっ!!!!)
パシン――――――
突然澄んだ音が響き渡る。
清廉な魔力を伴うそれは、徐々に私の精神を優しく包み込む。
闇に落ちそうだった。
でも大切な友達のことでギリギリとどまっていた美緒の心が修復されていく。
「……お前、誰だ?アルディをどうした?」
初めて聞くリンネの低い恐ろしい声。
柏手を打ったリンネが怒りに包まれている。
そして寂しそうな色を瞳に乗せ、呆然としている美緒に話しかけた。
「美緒、ごめんね。でも違うの。『魔法』みたいに思うかもだけど……信じて」
「………リン、ネ…?」
※※※※※
えっ?
私…
いま?
……あれっ?
さっきの記憶……
……ひっ!?この人……誰?!
……アルディじゃない!!
っ!?……魔法の効果が戻ってきた!?
リンネ……神の言霊?
……ありがとう。
……大丈夫、大丈夫だ……
意識をコントロール
……掌握できた。
でも、慎重に……
確実に……
※※※※※
違和感。
さっきまで私はアルディの言葉に囚われた。
だって彼は素直だった。
でも今のコイツ。
全然違う。
とんでもなく悪意に溢れている。
しかも『言霊』まで使って……
あの数分で、入れ替わったんだ。
コイツは、敵だっ。
私のお父さん、お母さんを穢した。
大切な思い出に土足で踏み込んだ。
ユルサナイ。
さっきの魔法がかろうじて効いていた。
そしてリンネのブースト。
ダメージは浅い。
飲まれそうだった。
私の心を取り込もうとした。
でも……
やっぱり私の友達、最高。
『深く見せた』だけだ。
幻影魔法で。
欺くコイツを欺けたっ!
冷静になれ。
魔力を練るんだ。
限界を超えて。
コイツはやばい。
絶対に倒す!!
(……すべての邪悪、悉く撃ち滅ぼせっ!!)
私は心の中で、しっかりとスペルを詠唱する。
「ホーリーフィールドっっ!!!!!」
刹那。
美緒の体から七色の光が爆発的に生成され尋問部屋を包み込む。
「なあっ!?……ひぐっ、ひぎゃああああああっっっ!!!!」
ホーリーフィールドはヒューマン族には効果が出ない。
効果が出るのは。
……魔物か別の世界の神様とその配下『悪魔の眷属』だけだ。
叫び声をあげ、のたうち回るアルディだったもの。
徐々に体の表面がはがれるようにパキパキと歪な音が鳴り響く。
「ハアアアアアアアアアっ!!リンネっ!!援護、お願い!!!」
「ナイス美緒。悪魔なら私の領分だ。;S<jflxamchlgmn;ap,f.ez」@・*JGpz、あx¥*>S/……無に帰せろ『神怒断罪』!!」
「グうっ、ギヤアアアアアアアああ、あああああああああ―――あああ―――あ… 」
アルディだったものから『剥がされた』それは、リンネの神代魔法により浄化され消滅していった。
意識を失っているアルディを残して。
「う…う、ん……!????あれ?……うあ………」
一瞬目を覚まし、そして再度気を失ってしまったアルディ。
おそらく消耗したのだろう。
ともかく生存が確認でき、リンネは胸をなでおろした。
アルディには役目がある。
コーディネーターに隠されたもう一つの役目が。
※※※※※
「勝った?……リンネ……」
「……うん。……ありがとう美緒」
「……い、いったい……何が???わ、私は……」
呆然と立ち尽くすエルノール。
突然私の頭にいつもの電子音が響く。
『ピコン……経験値を獲得しました……レベルが上がりました……美緒は称号『バイステンダー』を獲得します……各種ステータスにボーナスポイント300が付与されます……条件をクリアしました……解呪が『隔絶解呪』に進化、完全な効果を獲得しました……精神耐性(極)獲得しました……賢者ジョブ、カンストしました……各種魔法……習得しました…‥』
「うあっ!?」
「っ!?美緒!?」
思わず声を出した私をリンネが慌てて腕をつかむ。
そしてまじまじと私の瞳を見つめる。
「……ねえリンネ。………『バイステンダー』って何?…それから『隔絶解呪』って…」
「乗っ取られてない、よね……っ!?……え?……美緒?……まさか!?」
「獲得したみたい。……ええええっ!?賢者、カンストしてる!?」
「「はああああああ?!!!」」
※※※※※
どうやら最悪の危機は過ぎ去ったようだった。
しかし在りえない速度で成長する美緒にリンネは心がざわつくのを感じていた。
そして美緒が新たに獲得した称号とスキル。
どうやらその時はもう間もなく訪れる事に―――
リンネは気づいてしまっていた。
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