第251話 終わりを告げるガザルト王国
ガザルト王国謁見の間――
今ここでは神聖ルギアナード帝国が誇る精鋭部隊50名に守られ、仁王立ちするドイラナード陛下が玉座に座っていたザイルルドを睨み付けていた。
「…久しいな、ザイルルドよ」
「ふん。…ご機嫌麗しゅう?…ドイラナード陛下」
先ほどから伝わる、まさに命の危機を感じるほどの膨大な魔力反応の数々。
戦々恐々としながらも、ヤマイサークの部下である影遣いオルデンの秘策、『シャドーリステイト』(影空間再生)に守られつつも、この世界最強の2国のトップは遂にお互いに言葉を交わしていた。
「…陛下、この男が」
「ハインは…直接言葉を交わすのは初めてか…そうだ。この男がザイルルド・ガルグ・ガザルト――ガザルト王国最期の王だ」
「…ふん。最期?…くくく、確かにな…わが命、ここで消すか?」
今回の訪問。
まさに強襲。
美緒のギルドの力を借りたとはいえ。
皇帝自らも含めた本丸への突撃。
今認識されている世界観だと――
まさに怒り狂った帝国による『過剰すぎる作戦』だった。
あきらめにも似た色を瞳に乗せるザイルルド。
広大な謁見の間にただ一人。
すでに国の重鎮たちは悉く退避済み。
事実としてザイルルドは。
見棄てられていた。
そんな中準備される魔道具の数々。
見たことの無い通信に特化した魔道具に、ザイルルドはちらと視線を向ける。
「ほう?通信の魔道具か?」
「左様。…貴様にはその口でもってけじめをつけてもらう」
※※※※※
悪魔ミュナルダーデ。
彼女の権能は実に厄介だ。
スキル『現状確定』
この世界の摂理に絡む、凄まじい権能。
それは事実を確定させる。
つまり今の世界の認識。
神聖ルギアナード帝国によるガザルト王国への経済的制裁。
そして報復のテロ。
そういう“歪んだ事実”がすでに浸透していた。
「貴様の口で、真実を述べよ…よもや今更『知らなかった』…そんな世迷言、言わぬよな?」
人を殺すほどの視線。
まさに今ドイラナード皇帝の眼光は、その圧を纏いザイルルドを射抜く。
「…無論だ。…だが現状は変わらぬぞ?“悪魔の権能”――貴殿とて承知であろう」
悪魔の権能。
知り尽くしているザイルルドはため息をつく。
当然だが彼は洗脳などの誘導を受けていない。
方法はともかく、彼もまたヒューマン族の、ひいてはこの世界の行く末。
それを見たいと熱望していた。
しかし悉くすべてを上回る悪魔たち。
彼は既に諦めていた。
「ふん。そんなことは承知や。なんや…貴様本当にケヴィンなんやな」
突然の横入り。
首を刎ねられても文句の言えぬ狼藉。
しかし同行していたコメイは、一切の迷いなく。
大国二人のトップの話に割り込んだ。
「勘弁やで陛下。せやけど時間が惜しい。コイツの言う悪魔の権能…すまんがワシなら無力化できる」
高速で指先を激しく動かすコメイ。
その指にはいまだ見たことの無い魔力がまとわり出す。
そして構築される立体的な、この世界では珍しい術式。
世界の摂理――それを凌駕する、まさに魔導科学の到達点。
ザイルルドは立ち上がり、思わず声を零す。
「っ!?…それは…まさか…」
「ふん。さすがは天才ケヴィン様や。そうや、駒であるワシ等、それが革命を起こす瞬間や…見たり!!」
その様子に、ザイルルドは目を細め、凄まじい笑みを浮かべた。
「…ふん。キサマも『あちら側』の人間…」
ザイルルドの瞳に、凄まじい力が灯る。
覚悟。
羨望。
そして嫉妬。
「…よかろう。全てを話そう」
「なんや。やけに素直やないかい。…拍子抜けじゃ」
「…時間が惜しいのだろう?減らず口は慎んだ方がいい」
※※※※※
帝国の精鋭50名。
まさに優秀な彼らの働きにより急遽会談の準備が整う。
そして発信される驚愕の事実。
それは世界の隠蔽、そして悪魔ミュナルダーデの権能を塗り替えていく。
悪魔の存在、そして――
※※※※※
「…本日、今をもって…ガザルトは無条件降伏を宣言する」
場を埋め尽くすルギアナード帝国の精鋭たちから、つばを飲み込む音が響く。
ドイラナード陛下とハインバッハ殿下が頷き合った。
ガザルト王国の終焉。
それは世界に激震をもたらした。
世界の最強国家と名高い国の終焉。
謹製の魔道具によりその情報――タイムラグなく多くの国へと伝えられていた。
「世界が変わる、か。…ふふ。私が見たかった景色…だが私はそこには入れない…これもまた呪い…」
宣言したザイルルドの独り言。
それは興奮冷めやらぬ、多くの近衛兵の声にかき消されていた。
※※※※※
対悪魔の作戦の最中。
凄まじい力を持つ悪魔、そして美緒達ギルドの皆の苦戦。
正直楽観視できる事態はどこにもない。
何よりもし悪魔たちが勝利すれば――今回のこの宣言、おそらく塗り替えられる。
しかし歴史は、世界は動いた。
その事実。
幾重にも絡んだこの世界の運命は。
新たな展開に突入していた。
それはこの世界のシナリオ――覆す激震となっていく。
もうすぐ年末ですね。
この物語も書き始めて1年以上経過しました。
来年の春――そのころには完結できるかな?
年内にもう1話、投稿予定です!
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