表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

256/257

第244話 原神――始まりの“美緒”の想い

絶望と驚愕。

経験のないその濃度に震え、精神が崩壊を始める美緒の脳裏に。


懐かしい情景が流れ来る。


それは遠い約束。

誓い。


(ああ…そうだったんだ……)


神話は紐解かれる――



※※※※※



遠い昔。

いやきっと。


違う次元でのプロローグ――




香る花の匂い。

優しい風に美しい髪をなびかせる。


美緒はにっこりとほほ笑んだ。


「ねえ。私とあなたは“同じ”なのでしょ?どうして分かれて…そして求めあうのかな?」

「ああ…君は美しい。…僕の物になっておくれ」


優しい指が、美緒の髪を掬う。

目の前の美しい男性。


溢れる激情の愛。

鳳乙那はうっとりとその瞳を揺らす。


ついに巡り合えた運命の女性。

同じ魂を内包し、惹かれ合う半身。


幾千の次元を超え、ついに彼はたどり着いた。



「『僕の物』?…ふふっ。おかしい」


妖艶に顔を染め、つぶやく美緒。

そしてくるりと身をかわし、彼の抱擁から逃れる。



「おい。…それはダメだ…お前だって納得しただろう?」


そんな美緒を優しく抱きしめ、キスを落とすもう一人の男性。

うっとりと顔を赤らめ、美緒はその男性に体を預ける。


「っ!?き、貴様…美緒を放せ。…美緒は…彼女は…僕の物だ!!」


激昂し、世界を破滅させるほどの魔力を纏う鳳乙那。

その様子に冷めた瞳でもう一人の男性。

まさに落ち着いた“平穏の愛”をにじみださせ、守山奏多はため息交じりにつぶやく。



「契約――忘れたのか?」

「っ!?う、うるさい…そんなもの…」


刹那、鳳の体はすさまじい圧に包まれる。

呼吸すらままならない圧倒的な圧。


神の圧。


「ったく。…これは俺たちで決めたことだ。お前だって納得していただろう?…なぜ今になって覆そうとする」


「う、うるさい…うるさい煩い煩い!!…いいから…美緒をよこせええええっっ!!!」


真直ぐな想い――

でもそれは。


鳳乙那の我儘。

許されない愚かな感情。


彼らは原初の存在。

元である原神の欠片。


仕組まれたプログラムは完璧だった。


でも。


彼らの呪いにも似た愛は――

全てを破滅へと導くものだった。


愛は一つではない。

でも既にそれは彼らの安定を蝕み――


すでに世界は音を立て崩れ始めていた。


美緒と奏多の愛。

それは確定事項だ。


でも。


鳳乙那の歪んだ愛。

愛は既に枯渇していた。



「――なら」


奏多は手をかざす。

そして空間が、次元が揺らぐ。


「もう一度、確かめよう。……美緒が誰を選ぶのか」

「っ!?」



男性二人の独占欲が、色をなし空間を埋め尽くす。

その様子に美緒はうっとりとほほを赤らめた。


「ふふっ。二人とも…私が欲しいの?それとも…」


全てを凌駕する、全ての始まりである原神の魔力。

宇宙開闢と同意の凄まじい力が全てを埋め尽くす。


「――いい加減にして?…わたしもう、待てないのだけれど?」


終わった話。

決まった未来。


美緒はうんざりと口を開く。


「新しい、私たちの知らない世界――その礎になる始まりの命」


そう言い自らを抱きしめ。

ありえないような色香が美緒からあふれ出す。


「私が産む、新たなヒューマン…違うのかな?」




※※※※※




想像すらつかない高次元の存在だった原神。

彼は悩み、一つの事を始める。


新たな創造。

そして自分の知らない領域での始まり――


彼は飽きていた。

どんなに望んでも、繰り返しても。

決して満たされない想い。


希望は、願いは。

やがて欲望に飲まれていく。


もう思い出せないくらいに紡がれ――

生まれ、滅び。


果てしなく繰り返される絶望に希望、そして後悔と願い。



うんざりだった。



だから――




※※※※※



王の間へと続く通路で、美緒はその力を震え立たせる。



(…う…あ……くうっ、ダメ…だめだよ)


美緒は自身に渾身の隔絶解呪を施す。

身体を纏う、懐かしい、それでいて本能が恐れる束縛。


それが音を立て消失していく。


乗っ取られる寸前。

きっと少し前の美緒なら抵抗すらできなかった今の現状。



でも。


美緒は幾つもの試練を乗り越え、思い出し――

覚悟を決めていた。


(……まだだ。…今あなたに…渡すわけにはいかないのっ!!)

(…ふうん。…そっか。……っ!?)


ガザルト王宮、王の間への広い通路。

大切な仲間が気を失い、倒れ伏す今の現状。


まるで時が止まり視認できない光に包まれる。

誰もが動けない中――


その男性は顕現し口を開いた。


「美緒ちゃん。…ふう、さすがだね」

「っ!?……ゆうと…さん?!」


神槍ブリューナクを手にし、こちらに視線を投げる黒木優斗。

ありえない光景――でも。


なぜか美緒は納得していた。


「まだだよ。早すぎる…美緒ちゃん?…まだあきらめちゃだめだ」

「…う、うん。…わたし、諦めないよ?…絶対にあきらめないっ!!」


爆発的に迸る美緒の魔力。

そして世界を干渉する異常な幸運値。


(…ふうん…いいよ?…………またね……ふふ…)


消える脳内の気配。

私は真直ぐ優斗さんを見つめた。


「…僕はさ、コイツに少しだけ力を隠していたんだ」


私は目を見張る。

だから…解呪の時…


「…ブリューナクに?」

「うん。…だから時間がない…美緒ちゃん」


覚悟に染まる優斗の瞳。

そしてその姿が揺らいでいく。


「…悪魔を吸収するんだ。そして力を…原神を凌駕する力を得るんだ」


何となく理解する。

きっとそれこそが最後の敵…いや。


願いを叶えるトリガーだという事を。


「…時渡…あと数秒。…今この世界を君の幸運値が再び支配した」

「……」

「勝てるよ?…信じて。……君を、そして仲間を」


「うん」


消える優斗と神槍ブリューナク。


吹き飛ばされ、気を失っていたリンネたちが目を覚ます。


「うぐ…はっ?!…美緒?」

「うん…大丈夫?」


先ほどの心をつぶされるほどの美緒の絶望。

それは既に霧散していたんだ。


「リンネ、勝つよ」

「っ!?…う、うん」


包み込む神聖な緑の波動。

回復した美緒の仲間たちはそれぞれ前を向く。



「ケリ、つけよう」



彼らは歩を進める。


ガザルト王国、王の間。



途切れた物語は――


新たなステージへと突入していた。




そして奇跡があふれ出す。


「面白かった」

「続きが気になる」

 と思ってくださったら。


下にある☆☆☆☆☆から作品への応援、お願いいたします!


面白いと思っていただけたら星5個、つまらないと思うなら星1つ、正直な感想で大丈夫です!


ブックマークもいただけると、本当に嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ