第241話 想いは力を超える――アマテラスの目覚め
死聖ゼギアノード。
痛みを感じず、そして無限に回復する悪夢――
かつての経験を凌駕する絶対的な存在。
それをミリナは苦々しく歯を食いしばり睨み付けていた。
「クハハハハア…そんなものですか?…ほおら、ご褒美です」
「っ!?」
耳をつんざく轟音と、肌を焼く灼熱の波動。
理屈は分からないが、突然ミリナの眼前に現れた少年が吹き飛ぶ。
熱風と破壊の暴力、巻き上げられた土砂がばらばらと地面をたたく。
「くうっ?!…貴様っっ!!!!」
「…おや?…レジストする?――興味深いですねえ」
まるで観察する様な冷めた、あまりにも異質な瞳。
沸騰しかけたミリナは、大きく息を吐き、間合いを確保する。
余りの怒りに、赤く染まりそうになる視界を――
ミリナは自身の唇をかみちぎり、どうにか平静を保ちながら。
※※※※※
対ゼギアノードのアタッカー。
伝説の忍、疾風のマールデルダ。
伝説の剣豪、柳生十兵衛。
そして天使族最後の英雄、ミリナ。
全員が超絶者、特にマールデルダはおそらく物理最強。
しかし。
ゼギアノードに、目の前の悪魔に。
ダメージが蓄積している様子は皆無だった。
背中に嫌な汗が流れる。
すでに数百の斬撃、そして上位魔法。
ゼギアノードに叩き込んでいるというのに。
そのたびに奴は『性質変化』の秘術により、信者の肉体で回復を試みていた。
人を駒として使用する。
まったく躊躇のないその行動。
吐き気がする。
同時に包まれる絶望感――
「…ミリナ、諦めることは許さん。…我が魔眼が言っている。――機は来る」
「っ!?は、はい…師匠…いや――マール」
「うむ」
一瞬の接触。
だがミリナの心は奥底からあふれ出す温かい想い…瞳の光が蘇る。
「クフ…折れませんねえ。…ん?」
吹き飛ぶゼギアノードの左腕。
本来心臓のある部位までをも切り飛ばした十兵衛の凄まじい斬撃。
切り飛ばされた腕は“妖刀ムラマサ”の魔力により、キラキラと青い光に分解されていく。
しかし――
「んー。学習能力、無いのですかねえ?…クフ、愚か――無駄ですよ?」
脳裏に響く無辜の民の絶望の声。
瞬間復元するゼギアノード。
ゼギアノードの冷めた瞳が3人を捉える。
刹那再度弾ける人間爆弾。
ミリナ達3人は、たまらず距離を取った。
「…マール殿、ミリナ殿…何か手はござらんか?」
「ふむ。…厄介極まりないな」
既にエンカウントして数分。
美緒のバフにミネアの戦勝祈願。
さらには超絶装備品。
それなのに――
届かない現実。
「だが…こやつを止めねば…世界は終わる。…マール殿。1分――妖刀との会話、させてくれ」
「ふむ。…心得た…ミリナ」
「は、はい」
「愛している…死ぬなよ?」
「っ!?……はい」
続く激戦――
しかし確実に。
マールデルダたち3人は、その限界が近づいていた。
※※※※※
ほぼ同時刻――王城前の広場。
数度の爆発により超高温に包まれ、草木は既に炭化している地獄――
そこでの任務に駆け付けたドルンとラムダス、ライネイトの3名は。
絶望的な戦いに身を投じていた。
「くそがっ!…なんだよ…何なんだよ?あの子供たちは…」
「…狂信者…しかも――死ぬことに躊躇がないようだな」
「…なんてことを…」
ドルンたち3人は『美緒渾身の魔道具』により、どうにかこの地獄の状況でも活動が出来ていた。
彼等の後方には――
美緒渾身の魔刻石に守られ、いまだ健在の新造飛空艇。
しかし。
目の前にいる数十人の少年たち。
既に皮膚は焼きただれ、体からは焦げた匂いとともに白煙が上がっていた。
「…この世界に浄化を――」
カッ!!!!
ズドドドオオオ―――ン………
「ぐうっ?!…ぐあああああああああっっっ?!!」
「ちいっ?!『絶無結界!!』…くそおおおおおおおっっっ!??」
――1人、また一人…
彼等は目に“至福の表情”を浮かべ、その身を人間爆弾へと変化させていく。
顕現する巨大なクレーター。
身にまとっていたぼろきれが、爆風に巻き上げられる。
「っ!?おい、ライネイト!!…無事か?」
「ぐうっ…げほっ…畜生…ドジっちまった…」
脇腹に深い傷。
咄嗟にガードしたものの、少年の手にしていた十字架が爆風によりライネイトの脇腹をえぐっていた。
「くそがっ…あと何人いやがる…」
目を凝らし確認するラムダス。
黒煙がはれるとそこにはまだ。
数多くの少年たちが、見蕩れるようなうっとりとした微笑を浮かべていた。
恐らく仲間、少年たちは同じ信者なのだろう。
でも誰一人…
その死を嘆く者はいなかった。
止まらない歩み。
死へのカウントダウン。
「狂ってやがる…何なんだよ?…」
「…これが悪魔の所業…」
ドルンたちの任務。
“露払い”と可能であるならば非戦闘員の救助。
しかし。
想像を超えた悪意に、彼らは徐々に絶望に飲まれていく。
それはまさに悪魔にとっての福音。
彼等の絶望を糧とする悪魔たち。
この瞬間、ゼギアノードにはかつてない魔力が集中していた。
※※※※※
「クヒャハハハ。漲る…漲ります…クフ…今なら私…こんな事も出来ますよ?」
突如ゼギアノードに濃密な魔力がまとわりつく。
余りの魔力圧に、攻撃をしていた3人が弾き飛ばされる。
つぶやく言葉。
聞いたことの無い、恐らく違う次元のスペル。
刹那――
ミリナの全身から、突如青い高温の炎が吹き上がる。
「ぐうっ?!…き、キャアアアアアアアアアア―――――!!!??」
「なあっ?ミリナ殿っ!!」
美緒渾身の神話級の装備をあざ笑うかのような秘術。
レジストすらできぬ超高温。
一瞬で背中の羽は焼け落ち、美しいミリナの皮膚がグズグズにとける。
十兵衛とマールデルダの脳裏に、いやな感覚が突き抜けた。
即死――
ブチン――
瞬間――
ゼギアノードの全身が、細かく幾つにも切り裂かれた。
「…ほう?」
「ミリナ――――――!!?」
マールデルダ渾身の叫び。
その絶叫がむなしく戦場に響き渡った。
※※※※※
…熱い…
痛い…
ああ…私は…死んだのか…
感覚のない状況。
ミリナの脳裏に今までのことが鮮明によみがえる。
『…天使族の堕落
里を飛び出した日
修行の日々
マールデルダとの邂逅
そして――
心ときめく――愛されたあの日…』
(ああ…師匠…マール…マール……あいして…いま…す………)
とくん
……えっ…
とくん…とくん……とくん…
感覚のないミリナ。
でも確かに感じる鼓動…
闇に落ちていったミリナの精神に、何かが干渉を始める。
あふれ出す経験のない慈愛に溢れた波動。
『…ジジ……う者……ジジ…『適合者』…よ…ジジ……ジ…』
(…てき…ごうしゃ……イッタい……)
流れ来る意識。
深く閉ざされた禁断の力――
破壊と再生。
数千年――
未だ誰も到達できなかった狂信とも取れる圧倒的な愛
ミリナは今――
『再生の適合者』
アマテラスの保持者に選ばれていた。
最終忍術と謳われた伝説――
創世の神話
大いなる愛が、その胎動を始めた――
真の死…絶望
そして。
それを凌駕する、マールデルダへの一途な想い。
『愛』
世界の摂理が書き換えられる――
光が全てを飲み込んでいく――
最終忍術――
遂にその一端が紐解かれました
もし気に入っていただけたら。
感想など、お待ちしております。
感想いただけると作者、メチャクチャ喜びます!!




