第240話 無慈悲な決戦の開幕
閃光が包み込む―――
一瞬光が消え。
空気を振るわす、まさに一瞬で岩石までをも蒸発してしまうほどの熱量が王城を爆心地に。
その無慈悲な花を開花させていた。
大地は焼け焦げえぐり取られ、王城の城壁はまるで飴のように溶け―――
僅か残された木々は完全に炭と化していた。
濛々と黒煙が、まるで地獄のような情景を演出していた。
「っ?!…なんてひどい事を…」
唇をかみしめる美緒。
何より爆発の直前の光景。
それが美緒の心をかき乱していた。
まだ幼い少年3名。
彼等の体が膨張し、とんでもない魔力を放っていた。
そして。
ありえない、幸福そうな笑顔を浮かべ―――
彼等は爆弾と化し、その命を散らしていたんだ。
「…許さない…お前は…お前だけは!!!!」
空で異様な魔力を放つ、神官のような格好をした男。
美緒は睨み付ける。
その視線の先には満面の笑顔を浮かべる悪魔、ゼギアノードが恍惚の表情を浮かべていた。
※※※※※
時は少しさかのぼる。
決戦当日早朝―――
美緒はヤマイサークからの念話により、一人ノーウイック渾身の隠匿を施され。
新造飛空艇が到着する前に、すでに王城の中にある『秘匿された部屋』へと姿を現していた。
転移して現れた美緒。
その姿を確認した中年の男性がおもむろに声を発する。
「ふむ。…そなたは……守山奏多氏の娘…美緒か」
「っ!?…本当にあなたは転生者『ケヴィン・マクガイヤー』なのね」
齎された真実。
ガザルド王国のザイルルドは転生者、ケヴィン・マクガイヤー。
そして。
虚無神に囚われながらも、どうにかして世界を守ろうとしていた黒木優斗、その願いを思い出していた―――
それを伝えられていた。
「時間が惜しい。美緒、李衣菜はこの世界にいるのだな?」
「っ!?…ええ。…一ついいかな」
「うむ」
つかつかとザイルルドに近づく美緒。
いきなりビンタをかます。
ふきとび唇から血を流し、倒れるザイルルド。
部屋は緊張に包まれる。
「…今はこれで許してあげる。でもあなたのした事、ガザルド王国の非道。…私は許さない」
「…で、あるか。……ふふっ。美緒は善性が過ぎるな」
倒れたザイルルドの手を掴み、引き上げつつも回復魔法を発動する美緒。
その様子にホストであるヤマイサークは胸をなでおろしていた。
いよいよ核心に迫る秘密会談が始まる。
※※※※※
「悪魔、倒すわ。…問題ないのよね?」
「もちろんだ。…方法はあるのか?あいつらに死の概念はないぞ?」
どうにか落ち着き、簡素な椅子に腰を掛ける美緒とザイルルド、そしてヤマイサーク。
核心でもある悪魔殲滅を美緒がザイルルドに伝えたところだ。
そんな中、ヤマイサークが美緒を見つめる。
心苦しそうなその様子に、美緒は背筋に嫌な汗が流れた。
「…美緒。情報です。…隠匿している新造飛空艇。…すでに捉えられています。おそらく到着と同時に『人間爆弾』による集中砲火を浴びてしまうかと…」
ヤマイサークが苦虫をかみつぶしたような表情で声を絞り出す。
正直美緒は分かっていた。
だからこそ、しっかりとその準備を行っていた。
「うん。大丈夫だと思う。…例の『キズビット』…彼の爆弾よりはゼギアノードの爆弾、威力が低いもの」
以前神聖ルギアナード帝国を襲った、悪魔の眷属であるキズビットの齎した魔刻石による人間爆弾。
それに比べ『性質変化』と言うチートスキルで作られた、ゼギアノードの人間爆弾は明らかにその威力は低かった。
だが。
何よりゼギアノードの能力はいまだ未知数。
だからこそ美緒は、王城近辺のヒューマン族を避難させたかった。
爆弾に変化させないために。
「…ねえザイルルド…この国は奴隷を認めている。そうよね?」
「ああ」
美緒の懸念。
おそらく多くの奴隷が、すでに人間爆弾に変えられているであろう事実。
その数1000は下らないはずだった。
静寂が包む。
正直かなり絶望的な展開だ。
キズビットの爆弾より威力は低いとはいえ、あの爆弾の威力は半径数百メートルを悉く滅ぼす力を持っている。
それがおそらく1000以上。
まともに戦えば、被害は想像を絶するだろう。
「ふむ。…その瞳…既に対策はある…か。…凄まじいな」
「どうも…でも。…懸念はあるのよね」
「懸念?」
大きくため息をつく美緒。
「彼、聖職者なのでしょ?邪教を奉る教義の…そして少なくない狂信者がいる事実…」
頭をよぎる『以前の世界』での幾つもの戦争。
狂信者によるテロ行為。
それはとんでもない破壊をもたらすものだ。
「殺せばよいではないか。美緒たちなら容易いであろう?」
「……」
沈黙。
でも。
美緒の瞳には暗い覚悟がすでに灯っていたんだ。
※※※※※
「ひゃははははははあああ!!!!どうです?歓迎の爆弾の味は?」
黒煙に包まれる、美緒達ギルドの新造飛空艇。
ニヤリと顔を歪め、視線を向けるゼギアノード。
刹那―――
ゼギアノードの右腕が切り飛ばされる。
「うん?…死んでない?…痛いじゃないですかああ?!!!」
突然魔力を纏い、地上へと降下するゼギアノード。
すでにそこには魔力をたぎらせ、妖刀ムラマサを抜き放っている十兵衛が待ち構えていた。
「…無傷?…馬鹿な?!…貴様達……何を、なにをしたああああああああっっっ!!!!」
美緒渾身の結界術。
そしてダイヤモンドナイトであるサンテスのスキルを模倣した魔刻石。
それにより新造飛空艇団は無傷でやり過ごすことが出来ていた。
「ふむ。切り飛ばしてもほとんどダメージは無い…厄介だな」
マールの独白。
それはまさに、悪魔たちの異常さ、そして絶対強者である事実。
それを改めてかみしめていたんだ。
激戦が幕を開ける―――
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