第234話 対悪魔2
美緒が陛下に新造飛空艇を見せる前―――
ギルドの修練場では対悪魔への作戦、その内容がギルドの皆に共有されていた。
「えっと。…今回は総力戦だ。出し惜しみはしない」
レギエルデの言葉。
皆が思わず背筋を伸ばす。
「皆も知っての通り…前の悪魔ザナンクとの決戦では美緒が死にかけた」
ピリッと空気が変わる。
誰一人あの時のこと忘れている者はいない。
命の危機も当然だが。
あの時美緒はその身体を精神上とはいえ穢されていた。
絶対に許せない事実。
すでに多くのギルドの皆は唇をかみしめる。
「…奴らは常識外の存在…おそらく一番弱いとされる死聖…ゼギアノードですらそのレベルは300を超えてくるだろう。正直ガチンコで勝てるのは、美緒以外だとナナとマキュベリアくらいだ」
静寂が包み込む。
怒りの波動はあるものの、厳然とある実力差。
もちろん美緒のギルドの皆は超絶者ぞろいだ。
元々のこの世界の強者であれば対応できるくらいにはみなその熟練度を上げていた。
「彼ら、悪魔は違う世界からの流入者…正直この世界において害悪でしかない」
徐々に光を無くすレギエルデの瞳。
「…今回一番の主力である、悪魔グラコシニア…奴は無理やり力を使ったことで休眠状態だ。…ここで仕留める。他の4体の悪魔…そしてグラコシニアを」
ごくりとつばを飲み込む音が響き渡る。
「…おそらく居城に、グラコシニアの次に強いであろう妖艶な幼女の悪魔『ミュナルダーデ』…ヤマイサークの鑑定のアーティーファクト…その数値は500を超えている。…マキュベリア、ナナ」
「…ふん。任せよ」
「ううう、マキュベリアと一緒なら…が、頑張るよ」
「もちろん補助としてアザーストとスフィナ。…それから城での戦闘になる。破壊させないためにも…サンテス、君の力を借りたい」
「へ、ヘイ。…任せてくれ…絶対にマキュベリアとナナ、皆を守る」
ダイヤモンドナイトと言うとんでもない防御特化になっているサンテス。
恐らく彼はこのギルドで最強の防御を誇る。
「もちろん居城なので、神聖ルギアナード帝国の精鋭の一緒に行くことになる。…悪魔ミュナルダーデ、おそらくほぼ最古の存在だ…多少の話し合いは期待できるかもね」
そううそぶくレギエルデ。
でも彼の瞳には決意の色が浮かぶ。
「…ふん。早いか遅いかであろう?…まあ。弱いヒューマン、彼奴等が撤退するまでは…引き延ばしてみようぞ?」
思わず魔力をたぎらせるマキュベリア。
今の時点で美緒に継ぐ実力者、その魔力はすでに想像を超えている。
「コホン。…マール」
「ふむ」
次は視線をマールデルダへと向けるレギエルデ。
「…君には死聖ゼギアノードをどうにかしてもらいたい。君の火力でもおそらく滅ぼすのは難しいだろう。…と言うか彼ら悪魔は殺せない。美緒の秘術、吸収しか道はないんだ。…無力化してからの拘束、それが作戦の礎だよ」
「…殺せぬ相手…しかもそいつ、人間爆弾を使うものだったな?」
「うん。…どうやら彼は元ヒューマンだったらしい…この世に浄化をもたらしたいらしいんだ…つまりはすべてを滅ぼす…許せないよね」
ひとしきり腕を組むマール。
そして口を開く。
「十兵衛と…ミリナを伴いたい」
名を呼ばれた十兵衛とミリナの瞳に闘志の灯る。
「…3人で良いのかい?…もしそうならむしろありがたいのだけれど」
「いや。メインは3人だ。…露払い、必要であろう?…ドルン…頼みたい。美緒錬成の魔刻石で」
「…分かった。任せろ…なら…ラムダス、ライネイト…お前らも来い」
「おう」
「わ、分かった」
最近ドルンの研究にも手を出し始めたラムダスとライネイト。
既に魔刻石の取り扱いにも慣れてきたころだ。
「…本当はレグを連れて行きたいところだが…彼女には違う役目、あるのだろう?」
思わず顔を伏せるガーダーレグト。
実は彼女、ものすごく嫌な予感と言うか…既視感に囚われていた。
恐らく今回の肝である、ガザルト王国の国王ザイルルド。
どうしてもガーダーレグトは、何かに引っかかりを覚えていた。
「すまぬな…ドルンよ。わらわはザイルルドを見たいのじゃ…わが心がそう申して居る」
「かまわんさ…死ぬなよ?…まだ告白していないんだ」
「っ!?…ふふふっ。…言うではないか。…覚悟しておけよ?」
「ああ」
突然吹き上がるピンクのオーラ。
こんな時だというのに、ドルンとガーダーレグトには皆のジト目が突き刺さる。
「コホン。いいよ。でもレグは僕と美緒、それから現地で合流予定のヤマイサークとともに行動してもらうよ…いいね?」
「う、うむ」
今のところ健闘しているのは2体の悪魔だ。
残り2体。
「コホン。…額に傷のある悪魔『レイザルド』…こいつはどの悪魔よりも脳筋で話が通じない。遭遇即戦闘だ。…ランルガン、ザッカート…それからアルディ」
「ふん。待ちくたびれたぜ…即戦闘だと?…望むところだ」
大きな体を揺らし、立ち上がるランルガン。
その瞳には闘志が灯る。
「…前年ながら間違いなく格上だ…どうにか即死だけは避けてほしい……エルノール。君は転移兼回復に専念…間違えるなよ?」
「分かった。…ザッカートとアルディ?…どういう組み合わせだ?」
確かにこの3人は欲修練場で模擬戦闘を行っていた。
正直お互いの手の内をある程度はあくまでしている状況だ。
「…今恐らく連携が一番とれているのが今言った3人だ。対悪魔、しかも戦闘特化…考えてるうちに全滅させられてしまう可能性が高い。…何よりザッカートには…スキルあるだろ?起死回生の」
ザッカートのスキル。
『乾坤一擲』
いわゆる逆転一発の技だ。
「アルディのとんでもない深い魔法の技術でとことんサポート。そしてぶつかるのはランルガン、君だ。…ザッカートは戦闘を支配しつつ、最適のタイミングで一撃…これくらいしか勝つビジョンが見えない…そんな敵だよ。今回の相手はね」
思わず武者震いをする3人。
「へっ。俺は負けねえ。…絶対にだ……任せろ、レギエルデ」
決意を込めた瞳をするザッカート。
そこにはすでに恐怖の色はみじんもなかった。
「…本当にすごいギルドだよ…本来なら悪魔一体ですら…この世界全ての力で挑むべきだってのに…」
思わず遠い目をするレギエルデ。
ここまで来た。
美緒のあの苦悩の詰まったルート。
それを経た今だからこそ。
ここまでの勝率の高い作戦が練ることができる。
レギエルデは改めて、皆をじっくりと見渡していた。
※※※※※
一方第2拠点改め新造船開発工房―――
今ここでは、バロッド渾身の調整魔法、それにより最後の接続がなされようとしていた。
「……ここまで来ましたな…流石はバロッド殿だ」
「うぐっ…貴殿の…メラダーナ殿の慧眼のおかげよ…見よ…浮くぞ!!」
既に理論の構築と、各種接続部分の素材の調整は終えていた。
そして今紡いだ接続の魔術。
これにより新造船は目を覚ます。
幾重にも紡がれる浮遊魔法の術式。
巨大な新造船はその船体を地面から浮き上がらせた。
「おおっ!!」
「凄い…本当にこんな大きなものが…」
「うあー。マジでスゲー」
感嘆の声が上がる工房。
ついにバロッドは成し遂げた。
「……こうしちゃおれん…通信の魔刻石は…有った…」
おもむろに魔刻石に魔力を通すバロッド。
数日ろくに寝ていない彼だが、その目にはやり遂げた充実した色が瞳に瞬いていた。
「…レギエルデ殿?…完成じゃ…いつでも飛べる……」
そう言い通信を切るバロッド。
その様子に工房の皆は涙を浮かべ、膝から崩れ落ちた。
「…最高じゃ…本当にここは天国じゃ…」
バロッドのつぶやき…
それは誰の耳にも届かなかったが。
まさにこの瞬間、この世界に希望に光が灯っていた。
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