第233話 秘密兵器
神聖ルギアナード帝国の陛下たちとの会談の後。
今二人をサロンへ案内し、食事を振舞っているところだ。
当然だがガザルトへの対応、それについては別室で我がギルドの頭脳であるレギエルデとコメイ、そして数人の仲間が作戦を練っている。
陛下も同席しようと進言してくれていたのだけれど。
何より陛下も、そしてハインまでが相当に疲労がたまっていたようで。
腹が減っては何とやら。
我がギルド自慢の料理を振舞い、少しでも英気を養ってもらいたい。
「…旨い…見たことの無い料理…ふうむ。美緒、これは秘匿事項なのだろうか?」
今回振舞ったのはこの世界では珍しい和食と、オロチの煮つけ料理だ。
きっと食べたことはないだろうとは思っていたのだけれど。
この世界に住む陛下たちには馴染みのない箸の使い方を教え。
おっかなびっくりしつつも上品に口をつけたドイラナード陛下が思わず口走っていた。
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
「ふふっ。秘匿とかではありませんよ?よろしければレシピと食材、お渡しいたしますが?」
「むむ。是非頼みたい。…心なしか力も漲ってくるようだ…」
まあね。
オロチのお肉は伝説級の食材。
しかも下調理はナナの超絶スキル『調理人S』での仕事だ。
間違いなく回復と、わずかではあるもののステータスは向上するだろう。
どうやらその効果がしっかりあるようで。
血色がよくなっていく陛下とハインに私は微笑んでいた。
※※※※※
先ほどの陛下と殿下との会談。
つい先日ファルカンの中に残っていた過去の英雄『グラコシニス』の想いを認識していた私は。
神聖ルギアナード帝国との共闘で悪魔を滅ぼす決意を固めていた。
私の異常な幸運値とロナンのスキル。
そしてファルカンに残された英雄の残滓が、悪魔の統率者である元イルア、今では『グラコシニア』を名乗っている悪魔の休眠状態と相まってもたらされた奇跡。
幾つかの事実を認識した私は勝負を急ぐことにしていた。
ガザルト王国にいるであろう4体の悪魔。
死聖ゼギアノード
破滅の魔女ノルノール
額に傷のある悪魔レイザルド
金色の瞳の妖艶な幼女ミュナルダーデ
ガザルトに革命を起こすべく潜入していたヤマイサークがもたらした情報。
きっと情報の確度は高い。
彼等の目的はこの世界を破滅に導くこと。
かつての甘い私は。
彼等とも話し合いを行おうとしていたのだけれど。
そのおかげで私はザナンクに殺されかけた。
もうそんな甘い事を言うつもりはない。
何より恐らく私よりも格上であろうグラコシニアがいない今の状況。
機は熟していたんだ。
※※※※※
「…陛下」
「む…なんだ?美緒」
食事を終え紅茶を楽しんでいる今の状況、私は陛下に視線を向ける。
「最新鋭の飛空艇…どうやらその試作機が完成したようです。…ご覧になりますか?」
「っ!?なんと?!…美緒、それは誠か?」
「ええ。…かの国の技術主任であったバロッド伯爵…彼は今、我がギルドの技術責任者です」
驚愕の瞳を向けるドイラナード陛下。
一緒に居るハインバッハもぽかんと口を開けてしまっていた。
そんな時、部屋に魔力があふれ出す。
レギエルデがバロッドを伴い転移してきた。
「おっと。これは失礼…お久しぶりですね、陛下、殿下」
跪き頭を下げるレギエルデとバロッド。
その様子にわたしはため息を吐く。
「…それでレギエルデ…完成したのね?」
「まったく。美緒も良い性格してるよね。…天使族の皆に後でちゃんとねぎらいなね。彼ら何日も徹夜したんだ」
「あうっ。…ごめんなさい。でも…必要なことだったの」
そんな私に優しい瞳を向けるレギエルデ。
彼の大きな手が優しく私の髪を撫でる。
「ふふ。まあ、正直。誰一人文句は言ってなかったよ。美緒の為になれる…それが彼ら本当に嬉しいんだ」
私の今回のルート。
とんでもなく恵まれている。
ゲームの設定では3人しか残らなかった天使族の皆さん。
でもどうにか助けることのできた40名、その中にはすさまじい技術と知恵を持った人たちがいた。
もしも彼らが死んでいなくなってしまっていたら…
きっと今回のこの飛空艇、完成する事は無かっただろう。
「それで、あなたが来たってことは…作戦は練れたのね?」
「うん。ばっちりだよ。…今回の新型飛空艇、完全な隠匿を組み込んである」
「っ!?隠匿?…ま、まさか…」
レギエルデの言葉に激しく反応する陛下。
飛空艇の一番の特徴はその機動力にある。
何より防護壁のない上空からの襲撃。
相手からすれば溜まったものではないだろう。
だが弱点もある。
その移動に伴う轟音。
ある程度のスキル持ちなら警戒をしていれば相当事前に発見されてしまうものだった。
「ええ。今回の飛空艇、音もなく飛べるし、何より認識阻害と…世界最高峰の隠匿、伝説の義賊であるノーウイックのスキルを適応してある」
とんでもない技術。
きっとバロッドさんは興奮しすぎて何日も寝ていないのだろう。
…目に浮かぶ。
何しろ目の下にとんでもなく濃いクマを張り付け。
さらにはなぜか逝っちゃった目で斜め上を見つめているし?
コホン。
「バロッドさん、大丈夫?」
「おう、これは美緒殿…相変わらず麗しい………む?…ここはどこだ?」
えっと。
うん。
これ以上無理はさせられないかも。
取り敢えず私は状態異常と精神安定の魔法をこっそりバロッドさんにかけた。
見る見る目を閉じ、膝から崩れ落ちるバロッドさん。
レギエルデが慌てて彼を抱きとめた。
「それで?…新造飛空艇…何隻用意できたのかな」
「はあ。流石美緒だね。…すべてお見通しか。…今すぐ飛べるのは4隻。人員の収容はそれぞれ200名だ。合計で800名を送ることができる」
がたっと音を立て、思わず立ち上がるドイラナード陛下。
余りの驚愕に、口が開きっぱなしになっている。
「ば、馬鹿な…収容人員200名?…あ、あり得ん…そこまでの浮力を…どうやって…」
今の世界の常識。
魔力と親密性の高い飛竜の素材を使う事で、どうにか浮かすことはできていた。
しかし今回私が用意した素材。
かつてナナが討伐したエンシャントドラゴンの魔石と、海の大魔獣『ギガジュエルフィッシュ』の浮袋と言うとんでもない素材を使用していた。
「うん。決戦は3日後にしたいの。そこまでなら何隻できそうかな?」
「…7隻が限界かな。…美緒、バロッド殺す気かい?」
「あうっ」
えっと。
確かに今回私はかなり無茶な注文をしていた。
大量に収容する理由。
ガザルトの無辜の民を救うためだ。
恐らく今回の戦い。
過去に例のない大災害を引きおこすはず。
それこそガザルトの国土、特に首都のある場所はきっと…
何もなくなってしまうのだろう。
正直胸が痛いし…怖い。
でも。
「陛下。精鋭200名…ご用意できますか?」
「…うむ。任せよ。……その人数…制圧と言うよりも…対話をせよ…そういう事か」
「ええ。陛下にはザイルルドを抑えていただきます。…城の制圧を」
正直神聖ルギアナード帝国の剣がなくてもこれは最優先するべき問題だ。
でも今回のタイミング。
きっと虚をつける。
私は確信していたんだ。
※※※※※
転移して訪れた第二拠点改め秘密工場。
秘匿された広大な土地に、大きな新造船が4隻、その荘厳な威容を誇っていた。
「……美緒」
「はい。陛下」
「…勝つぞ…ここは絶対に勝たねばならん…助力、お願いする」
「はい」
こうして着々と準備が進む。
対悪魔。
ここで決着をつける。
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