第226話 龍姫エスピアと竜帝アラン
以前の世界線―――
失敗した美緒の最後のルートの時。
竜帝となったアランは悪魔たちに唆されたガザルド王国の飛空艇部隊との決戦で命を落としていた。
ヤマイサークがいない世界線。
その世界線ではガザルト王国はその力を伸ばし、神聖ルギアナード帝国すら凌ぐ軍事力を手に入れていた。
※※※※※
「アラン…あなたを信じます」
「任せてくれ。美緒…君も…死ぬなよ?」
※※※※※
帝国歴33年の春。
世界が絶望に包まれた日。
最期の希望である竜帝アラン率いる古龍の軍勢。
ガザルド王国の非人道的攻撃によってそのすべてを滅ぼされてしまう。
顛末は。
最期の古龍、フレイムエンシャントドラゴンのルデーイオがズタボロになりながらも、どうにかギルドに帰還。
アランの最後を語り、その命を散らしていた。
ガザルド王国の飛空艇部隊。
そのほとんどが特攻型、つまり人間爆弾による自爆兵器と化していた。
次々に極大の爆発に巻き込まれる古龍の軍勢。
そこには慈悲のひとかけらもないまさに地獄。
アランはガザルトの上空に達することなくその命を散らしてしまっていた。
※※※※※
重苦しい雰囲気に包まれる美緒のギルド。
すでに多くの仲間を失い、悲しみがその場を支配する。
美緒はうつむき、大粒の涙を流す。
その様子に、ファナンレイリですら声をかけることが出来なかった。
「美緒…しっかりしなさい。まだよ…まだ負けていない」
青い顔でつぶやくリンネ。
でもその瞳にはまだ闘志が灯っている。
「…グス…リンネ様……ヒック…うああ、…うああああああああっっっっ!!!」
※※※※※
悪魔たちの胎動。
それはまさにこの世界に地獄を顕現させていた。
本来のシナリオにはいない彼等。
だが最後の希望となるゲームマスターをとことん苦しめるために作られたシナリオ。
いわば予定調和。
敵となる虚無神の目的、そして。
絶対にあきらめていなかった創世神アークディーツの最後の賭けが同じ結論に至っていた。
なにより。
このシナリオを作ったのは間違いなく創世神であるアークディーツ。
その神本人だったのだから。
そしていくつもの齟齬。
何より真に覚醒していなかったアラン。
未だスキルの影響を受けていた龍姫エスピア。
明らかにおかしい設定は、すでに虚無神ブラグツリーに見破られていた。
簡単な嘘とそれを隠蔽する緻密なシナリオ。
最期に勝つために、一つの世界線、それを犠牲にしていた。
そして皆失念している。
誰よりも真摯に向き合い、とことん苦しんだ美緒の事を。
その疲弊し苦しみが蓄積していく彼女の心を。
産声を上げる。
第3の美緒。
隠されていた原神の欠片。
美緒は自覚していた。
(今回はいわば捨てゲーム…でも。…勝つための布石)
そして彼女は心の奥深くに自身を隠匿する。
再度訪れるであろう、『勝ち筋の見える』その時まで。
※※※※※
ギルドのサロン。
今ここではアランがエスピアと話し合いを行っていた。
「…エスピア…君は以前の事…そ、その。…300年前のことは記憶しているのか?」
アランの問いかけに、真直ぐに美しい瞳を向けるエスピア。
そして花がほころぶような魅惑的な笑みを浮かべた。
「もちろん。…あなたとのあの愛おしい日々…覚えているわ」
300年前。
二人は間違いなく恋人同士だった。
お互いが溶けてしまうほど濃厚に愛し合っていたし、何より既に体をも重ねていた。
「コホン。…だが…今の君は…お、俺のことをどう思っている?」
「…かわいい?」
途端に赤く染まるアランの顔。
その様子にエスピアは妖艶にほほ笑む。
「くっ。…なんだこの居た堪れなさは…」
今目の前にいるエスピア。
大精霊フィードフォートや精霊王であるファナンレイリ様よりアランは話を聞いている。
以前のエスピアはいわば作られた存在。
だからこそアランは竜帝になれなかったし、あの300年前の悲劇、いわゆる竜人族が滅んだ際に、アランが生き残るようにエスピアは存在をかけた究極の封印を施していた。
「…俺は竜帝になる。…そのためには…君の愛が必要なのだ」
創造神ルーダラルダが制定した摂理。
ロマンチストでもあった彼女の組んだ摂理にはどうしても色恋が付きまとう。
つまり。
アランが竜帝になるにはエスピアを惚れさせなければならない。
心の底から。
何より今目の前にいるエスピア。
とんでもなく美しい。
「ふふっ。焦っちゃだめよ?…私アランのこと好きよ?でも…今じゃない」
「…今ではない?どういうことだ」
目の前の紅茶を口に含み、アランはエスピアの瞳を見つめる。
ニコリとほほ笑む彼女。
「…今回のルート。…おそらくガザルトは自滅する。古龍の軍勢、その犠牲は必要ない」
「…ガザルトの自滅?…軍勢の…犠牲?」
優雅に紅茶を飲むエスピア。
そして彼女はじっとアランを見つめる。
「決戦は今ではないの。…エレリアーナ、分かるかしら」
「あ、ああ。…君の一部を封印されていた女性の事だな」
「ええ。彼女は真の覚醒を果たした。…だから今ここで無理をしてあなたが竜帝になる必要はないの」
いまいち話の見えないアラン。
何より今目の前にいるエスピア…すでにアランの認識できるレベルを超えてしまっていた。
「…まったく。…エスピア、それは酷いんじゃないのかしら」
そこに乱入してくる精霊王ファナンレイリ。
なぜか逃げ出したくなっていたアランはほっと息を吐きだした。
「アラン」
「はい。…ファナンレイリ様」
大きくため息をつき、なぜか可哀そうなものを見るような視線をアランに向ける。
「しばらく待ちなさい。今はその時ではない。…でもね?」
「…はい」
「あなたは美緒にとって重要なメインキャラクターなの。そしてそのトリガーであるエスピアもね。…いずれ分る時が来る…それまではせいぜいエスピアを口説きなさいな?」
「っ!?なあっ?……く、口説く?」
ファナンレイリの言葉に、目を白黒させるアランとにっこりと笑うエスピア。
「何より……っ!?…目覚めたわね」
突然ギルド全体を覆う、未だ感じたことの無い魔力。
思わずアランは立ち上がる。
「究極の召還術を復活させる…エレリアーナがね…行くわよ」
そう言い歩き始めるファナンレイリ。
なぜか席を立ち歩いていくエスピア。
「お、おい?!…ちっ…」
その二人の女性を追いかけるように歩き出すアラン。
訳の分からないアランだがこの後目にする真の覚醒。
それはトリガー。
最期のカギ。
物語は今だ誰も経験のしたことの無い、新たなステージへと進むのであった。
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