第223話 革命騎士レストール
サッタに連れられ大きな邸宅のような場所に来たレストールとカナリナ。
恐らく彼らを呼んだ主であろう、異形の物が咀嚼音をあげながら何かを食べていた。
「マザーレナデル、連れてきたぞ」
「パリ…ゴリッ…くちゃくちゃ……ゴクン…うむ。すまぬな…」
「…っ!?な、お、お前!!」
突然腰の剣を抜き放つレストール。
そして自身に魔力を巡らすカナリナ。
二人の突然の豹変に、連れてきたホブゴブリンのサッタは腰を抜かしてしまう。
「な、な、なんだよ?レストール…カナリナ…は、話し合うんだろ?」
「…そのつもりだったさ…でも。……お前…何を喰っている!?」
ほぼブチギレているレストール。
むしろこうして話せることが奇跡に近い。
彼は今とんでもない怒りに包まれていた。
マザーレナデル。
彼女が今食していたモノ。
まごう事なき、ヒューマンの少女、そのものだった。
「…許さない…私が…私とレストールが…必ず倒す!!」
二人の激昂。
しかしその烈波のごとく激情を向けられたマザーレナデルは大きくため息をつき、二人に視線を向けた。
「…なんじゃ?…これはとうに死んで…半分腐りかけの物じゃ…わらわが食べて供養している所じゃ。…何が悪い?」
「っ!?死んで?供養?!…くっ、だがっ!」
マザーレナデルの瞳。
そこにあったのは…
嗜虐的な感情や嘲る類のものではない。
まさに哀悼。
そういう光が瞬いていた。
「…お主らが怒ること。分からなくもない。じゃが…打ち捨てたまま腐る…それも不憫ではないのか?」
当然ヒューマンと魔物は考え方と言うか感性が異なる。
彼等にとってヒューマンはまさに食糧。
しかし彼女は。
ヒューマンの提案を受け入れ、あまつさえ保護までしていたのだ。
そうでなければ。
魔物が蠢くダンジョンで鉱石の確保なぞ出来るわけがない。
「そうだよ。なんで怒るんだレストール…あの女の子は…病気で死んだんだ。…もう10日も前さ。…そしてあの子には親がいなかった。おいらあの子と遊んだこともある…死んでしまって、腐ってきて…だから…マザーは…グスッ…食べて…せめてもの供養だって…」
立ち尽くすレストール。
そして自分が思っていたのとは違う現実。
「……すまない…俺は知らなかった…そうか…」
「…レストール…」
そして同じく下を向くカナリナ。
彼女は知っていた。
亡くなったものを食べて供養する習慣。
とある地方にある『ヒューマン族』の供養方法だ。
そして。
カナリナは知っている。
遊び半分で同胞を殺すヒューマン族がいかに多いかという事を。
それに比べ。
彼女、マザーレナデルの行い。
まさに崇高なる行いだった。
「…すまない…俺は見た目で…自分の勝手な判断で…あなたに剣を向けた…」
「ふむ」
うなだれるレストール。
そんな様子にマザーレナデルは静かに口を開いた。
「まあ。誰にも間違いはある。じゃが…お前がそこまで落ちこむ。…過去にもあったのじゃな?同じようなことが…」
「…ああ。…俺は自分の思い込みで…罪のない魔族を…魔物に近いという理由で…」
うっすらと涙を浮かべるレストール。
なぜかその様子を『まるで幼い子供』に見えたカナリナは。
知らずに涙を流していた。
※※※※※
5年前。
レストールたちが暮らしていた辺境の村グビーザ。
人口の少ない村はまるで大きな家族。
全ての村民をそれぞれが認識していた。
狭いコミュニティ。
だからここでは、大きな声がその主導権を握る。
たとえ。
それが明らかに間違っていようとも。
そんな中。
小さな村に流れの行商一家が訪れた。
珍しい魔族の行商。
そして彼らは妖魔インプと魔族のハーフ、見た目はまさに魔物そのものだった。
ただでさえ人口が少なく、よそへ出る者が少ない村。
初めは物珍しさで色々取引をした者はいたものの。
やがて彼らに対し、不穏な噂が出始めた。
そして事件は起こってしまう。
きっかけは村唯一のパン屋の娘、マイノが怪我をした。
ただそれだけの事。
しかし。
※※※※※
もちろん村人は、女の子とはいえ山野で遊ぶ。
だから怪我など珍しくもない。
だが。
その怪我をしたとき。
たまたまその魔族の行商の子供が近くにいた。
マイノはこのとき12歳。
村の女の子たちのリーダー的存在だった。
そしてここで彼女は絶対についてはいけない嘘をついた。
恥ずかしかった。
もうお姉さんの自分が転んで…あまつさえ泣いてしまったことが。
子供のちょっとしたうしろめたさ。
そして羞恥心。
それが最悪の嘘をつかせた。
『あの魔物の子供に襲われた』
もちろんマイノが転んだ現場を見たほかの子供はいた。
だから彼女は『えー、マイノ自分で転んだじゃん』そういう声が上がると思っていた。
何よりあの魔族の子供は、ほとんどしゃべれないにもかかわらず、転んだマイノに優しく手を差し伸べてくれていたんだ。
少女から女性に変わる難しい年頃。
そんな言い訳も用意し、彼女は軽い気持ちで嘘をついていた。
しかし。
翌日彼女の元に最悪の知らせが届く。
一つ下の農家の男の子。
小さいいも関わらず大人顔負けの強さを誇る彼。
レストールがあの魔族の子供を殺してしまったと。
「マイノ、大丈夫か?…やっぱり魔物は悪だ…全部殺そう」
思えば。
レストールは昔から英雄とかに憧れを抱く少年だった。
幼少の時、両親が魔物に襲われ死んだ。
きっとそれも彼の心の形成に多大な影響を与えて居たのだろう。
そして騒動はさらに大きくなる。
子供を殺されたその魔族の父親が、村長宅に押し入った。
「なぜ、息子が殺されなくちゃならない…誰だ、誰が…」
下を向き俯く村長。
その様子に魔族の男性は激昂し言ってはいけない事を言ってしまう。
「…わかった。俺の知り合いの審査官に来てもらう。そうすれば真実が分かる…覚悟しておけよ?こんな小さな村…つぶし…ぐあああっ?!!!」
気付けば。
村長の剣が魔族の男の喉を貫いていた。
「……許せ、とは言わん…だが…ワシには村長としてこの村を守る義務がある…」
そして。
残された魔族の男の妻までも。
誰に知られるもなく凌辱され殺されてしまっていた。
村に敷かれた戒厳令。
皆口をつぐむ。
やがて村人があの悍ましい事を忘れかけた時。
真実がもたらされた。
あの魔族の流れの商人。
実はグビーザ村と親交のあったほかの農村の救世主だった。
彼等がもたらした抗生物質に似た薬品。
それにより多くの村民が救われていた。
「なあ村長。お前さんの村にも行っただろ?…確かに見た目は魔物だったが。気さくないい人たちだったよな…そういや最近見かけねえが…もし会ったら俺たちの村に依るように言ってくれ」
恐ろしいまでの後悔が村を包み込む。
何より小さな村だ。
実はあの魔族の家族の最後。
もちろん細かい事までは子供たちは知らないが。
それでも全員に罪の意識はあったのだ。
何より。
直接魔族の子供を殺してしまったレストールは。
それからしばらく誰とも会わなくなってしまっていた。
※※※※※
「…俺はまた…繰り返すところだった…すまない…俺は…英雄になる資格のない…クズなんだ」
鮮明によみがえるあの時の後悔。
知らずにレストールは大粒の涙を流す。
「ふむ。若いな…じゃが…なんという美しい心」
マザーレナデルは感嘆の言葉を発した。
その言葉に反応するレストール。
自嘲気味に吐き捨てる。
「美しい?俺の心が?……あり得ないだろ?!」
激昂するレストール。
そして噛みしめる唇から鮮血が舞う。
そんな様子にマザーレナデルは優しい瞳を向けた。
「過去には戻れぬ…そうであろう?」
「……ああ」
「お前…凄まじい運命を、光を秘めているな…どれ…」
そう言い手をかざすマザーレナデル。
光が沸き立ち、レストールの体を包み込む。
「なっ?!…こ、これは…うぐ、ぐあああああああっっっっ??!!!!」
突然頭を抱え、苦しみだすレストール。
カナリナは慌ててレストールを抱きしめ、彼をかばいながらマザーレナデルを睨み付けた。
「あ、あなた。何をしたの?」
「秘術じゃ」
「…秘術?」
つぶやくようなマザーレナデルの言葉。
「そやつ…レストールと言ったか…そ奴には大きな運命が付与されておる。全てを真実の眼で見て判断する力…何物にも染まらぬ確固たる信念…ワシはその手助けをした…我が祖、ナーガの導きじゃ…じきに落ち着く」
「…ナーガの導き…」
そして。
やがて落ち着きを取り戻したレストールは。
その心に新たなる光をともしていた。
「…ありがとう。マザーレナデル。…そして…分かったよ。俺のやるべきこと」
「やるべきこと?あなた、レストール?…大丈夫なの?」
心配そうにレストールを見つめるカナリナ。
その瞳をレストールの新しい光をともした瞳が見つめ返した。
刹那。
カナリナの心にとんでもない安心感が沸き上がった。
(ああ…これは…なんという心地よい心…レストール……)
「ふむ。どうやら自己の心の革命…成功したようじゃな」
※※※※※
本来レストールは。
シナリオでは帝国歴27年に自分の村を魔物によって滅ぼされる。
幼少のころ両親を殺された恨み。
そして間違えた自分。
さらには滅ぼされたその事実によって彼は歪んだまま覚醒をはたしていた。
彼は称号を得る。
しかし。
それは十全たる力を発揮するに至っていなかった。
何より最終最後。
彼は狂ったハインバッハ皇帝と同士討ちとなる。
そう。
彼の望み…
全ての幸せ。
自身をその中に入れる力がかつての彼には無かった。
でも…
※※※※※
「マザーレナデル。…礼を言う」
「ふむ。かまわぬ。…それで何用じゃったかな?」
「お、おう。…実は…」
突然レストールの脳内に電子音が流れる。
『ピコン…条件をクリアしました…称号『伝説の革命騎士』取得しました…各ステータスに300のボーナスポイントを付与します…』
「なっ?!」
その様子を、目を細め眺めるマザーレナデル。
「ほう?覚醒、か。…ふふっ、良いものが見れた」
そのつぶやきには、あり得ないような歓喜が含まれていたんだ。
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