第221話 美緒の合気道教室
一方ギルド。
大分人が増えてきて、第2拠点でも多くの人が入り込む状況になっていた。
「えっと。コホン。それでは身を守るための合気道教室を始めます。まず肩の力を抜いて自然体で目をつぶってください」
今私の前には、ギルドの地下一階にある修練所で道着のような物を着た天使族の女性数名と、子供6人、さらにはマイとサクラ、ルイミ、レリアーナに幸恵、コノハ、里奈がワクワクした表情を浮かべながら美緒の指示に従っていた。
「うん。みんな準備はいいかな」
「はい。美緒先生」
「はーい」
はうっ♡
可愛い子たちから先生って呼ばれるの…
なんか嬉しい。
コホン。
「じゃあ今から同期します。…たぶんこの世界に無い概念もあるから…すぐにできなくても問題はないからね」
当然だが合気道について、私は日本にいた時に少しかじった程度だ。
でもこの世界でカンストした武道系のジョブ、モンクと武闘家。
通ずるところのある技術。
私は既に修得していた。
目の前の女性と子供たち。
薄っすらと闘気がまとわり始める。
この時点ですでに防御力はかなり向上していた。
(よし…イメージと私の理解からくる同期…効率がメチャクチャいい)
「うん、皆上手だよ。…その状態がフラット、いわゆる準備が整った状態だね」
「…なんか体の中から温かいものが…」
「うん。僕なんか…フワフワしてる感じ…」
何しろこの子たち、メインキャラクターではないとはいえ今は私の大切な仲間たち。
ギルドの恩恵、当然この子たちにも適用されている。
「それでは…サモン『ミニウッドゴーレム×30』…さあ。次は模擬戦ね」
修練場に現れるミニウッドゴーレム30体。
僅かに魔力を纏い、女性や子供たちに向かい行動を始めた。
「ひいっ?!」
「こ、恐いよ…」
たじろぐ数人の女性と子供。
私はにっこり微笑み、アドバイスを送る。
「大丈夫だよ。動きをよく見て…全然遅いでしょ?」
「…あれ?ホントだ…よく見たら可愛いかも」
「うん。怖くない」
正直ウッドゴーレものレベルは10。
5~6歳くらいの子供と同レベルだ。
「じゃあね、よく見ていてね…お手本。同期しながらやるよ」
私は体内の気を巡らせ、攻撃してくるウッドゴーレムと同調し、その力のまま受け流した。
派手に転ぶゴーレム。
「一番の基本は力に抵抗しない事。流れを見てそれをそのまま返す。…今のは受け流したのだけれどね。…サクラ」
「っ!?は、はい」
「やってみてくれる?」
「う、うん…緊張する…っ!?…抵抗しないで…流れを…分かるよ美緒…えいっ!」
サクラに向かっていったウッドゴーレムが弾き飛ばされた。
弱いとはいえサクラよりの大きなウッドゴーレム。
今実際に技を使ったサクラが目をぱちくりさせていた。
「凄い。サクラ上手だよ」
「…ふ、ふわー。…私でも出来た」
みんなの拍手がサクラを祝福する。
天使族の少年、ジイギルドくんなんて…
熱い瞳でサクラを見つめているし?
…もしかして?
「さあみんなわかったよね?万が一怪我しても私がすぐに治すから。やってみてね」
「はい」
「うん」
そして始まる実践訓練。
その様子を私は優しい瞳で見ていたんだ。
※※※※※
第2拠点研究棟休憩室。
今ここではガザルト王国から我がギルドに来たバロッドさんと、一応お目付け役の意味を込めてノーウイックが二人でガザルト王国のことについて話し合っていた。
「…それじゃあ早晩、ガザルトは滅びるってか?」
「ああ。間違いない。…何しろガザルトは純輸入国だ。流通が断たれた今、あの国の余力はすぐに底をつくじゃろうて」
正直ガザルト王国の所有する金貨はとんでもない量に上る。
だがヤマイサークの策にはまった王国。
すでに金貨にほとんど意味がなくなっていた。
「ふん。経済力、ね。…恐ろしいな」
「うむ。…ヤマイサークと言ったか?奴は天才、いや…凄まじい執念を感じるの」
ヤマイサークの素性。
すでに遠慮する事をやめた美緒の同期により、今皆はその情報を共有していた。
恐らくすでに彼の策は嵌り、王国は泥沼の戦乱に突入するだろう。
正直美緒は渋い顔をしていたが。
ヤマイサークは頑として譲らなかった。
何より。
ガザルトにはおそらく数体の悪魔がいる事実。
かの国の国力を削ぐこと。
それは必須だった。
「ところで…この拠点の女性や子供たち…美緒が連れて行ったが…」
「うむ。何でも武術?その修練をするらしいぞ?ワシにはよくわからんが…」
「美緒なりの贖罪…なんだろうな」
「…深読みのしすぎじゃないのか?」
「…かもな」
大きく息を吐くノーウイック。
幾つものミッションを共にし、何より美緒の同期で情報を得た今。
そんな気配は『みじんもない事』は承知していた。
でもきっと。
このタイミングで力無き仲間に武術、身を守る方法を教えている事実。
ノーウイックは一人天を仰ぐ。
(ったく。…美緒、きっと自分でも気づいてねえ)
美緒は優しすぎる。
だから今回のヤマイサークの策については正直心を痛めていた。
「なあバロッド」
「なんじゃ?」
「…ザイルルドは動くのか?」
「…さあの。…だが」
バロッドは眉をしかめる。
「あの方の見ている先…ついにわしには分らんかった。…悪魔いるじゃろ?」
「…ああ」
「わしも直接は会ったことがない。じゃが奴らはとんでもなく強くそして無慈悲だ」
「…だろうな」
「その頭領であるグラコシニアが一度零したそうだ」
思わずごくりとつばを飲み込むノーウイック。
まるで値踏みする様なバロッドの瞳。
「『ザイルルドは絶対に殺せん。奴は既にヒューマンという枠を超えている』…そう言ったらしいぞ…おそらくこのまま素直には終わらんじゃろ」
バロッドの言葉。
ノーウイックはなぜか背中に嫌な汗をかいていた。
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