第220話 革命のきっかけとガザルト王国の革命の始まり
まるでスラムのような壊れかけの建物が並ぶ地下第10層。
実は情報でも報告されていた内容だったが、実際に見ると思わず感嘆の声が漏れてしまう。
何よりエンシャントドラゴンのルデーイオがこのダンジョンを飛び出す前までは、多くのヒューマンがここに住む魔物たちと協力し、鉱石を採掘していた事実。
その残滓を感じられる街に、改めてレストールとカナリナはきょろきょろと視線をさまよわせていた。
サッタに案内されたレストールとカナリナ。
やがて一軒のある程度まともなたたずまいの住宅らしき前で待たされていた。
「…ねえ。レストール…大丈夫かな」
「うん?大丈夫だろ。…もしもの時にはカナリナだけは絶対に守る…安心しろ」
レストールの言葉に顔を赤らめ、そっぽを向くカナリナ。
耳まで赤い。
「…なあ」
「ひうっ?!」
「っ!?」
そんな中突然サッタに声をかけられた二人。
思わず飛び上がってしまう。
「…乳繰り合うのは後にしてくれよ…マザーレナデルが会いたいって…こっち」
「なあっ?!…ち、乳繰り合うって…コホン。…たのむ」
そして出会う。
レストールは知らない。
自身の葛藤そして傲慢な本性。
まさに彼は革命の兆しに触れることになる。
※※※※※
ガザルト王国中心部―――
まさに地獄が広がっていた。
「だ、誰か…食料を…子供が飢えて…頼む…」
「うちはもう下の子供が…助けて…」
阿鼻叫喚。
備蓄した食料は尽き、王都中心部ではすでに雑草まで食い尽くされていた。
「うあ…く……」
限界を迎え倒れる少年。
瞬間周囲の大人たちの目の色が変わる。
(死んだ?…ゴクリ…)
地獄の様相、最終段階。
共食い。
まさにガザルトは極限まで人民の心は疲弊していた。
※※※※※
「ひでえな…会長さんよ。これがお前の目指した先なのか…いくらなんでもこりゃあ…」
小高い丘の上。
そこから見下ろし、八咫烏の頭領ルザガードが思わずつぶやく。
「ええ。私はきっと地獄行きでしょう。しかし。やらなくてはならない事。これはそのための予定調和です」
「…ふん。俺には理解出来そうもねえ…本当にやるのか?」
「もちろんです。そのための準備ですよ?…すでに展開しているのですよね」
ルザガードに対しかつてないほど冷たい瞳を向けるヤマイサークに、彼は冷や汗を止めることが出来なかった。
今回のヤマイサークの策。
最終段階。
飢餓状態の人民を救い、そして。
ガザルト王国への謀反を画策していた。
「…頃合いですね…お願いしますよ?…これで多くの人民は救われます」
「けっ。確かにな。…わざわざ大金かけて…あり得ないような高品質の保存食を作り配るとはな。しかも無償で…守銭奴の名が泣くぞ?」
「これからの私は『希望の商人、ヤマイサーク』です。そして…」
大きくため息をつくルザガード。
「反乱の英雄ってか?…不器用なこった」
「…誉め言葉として受け取りますよ…決行です」
幾つもの魔力信号弾。
それがガザルト王国王都に鳴り響いた。
余りの事に人民たちは動きを止めた…そして…
『こちらは緊急救護団だ。食料を用意してある。…お前たちの主であるガザルトの王、ザイルルドはお前たちを見捨てた。今回の支給…救国の英雄『ヤマイサーク』によるものだ』
突然現れる大量の食糧を積んだ馬車の一団。
さらには無償での提供。
ガザルトの人民たちはもとより、国の軍部の物たちまでが協力し食料はいきわたっていく。
そして瞳に宿る国に対する憎しみ。
確かに今までガザルト王国は裕福な国だった。
そして軍事力に守られた安全な領地。
だが。
爆弾や数々の魔道具では。
人民の腹を、飢えをしのぐことが出来なかったのだ。
やがて皆の注目が一人の男性に注がれる。
今回の黒幕。
ヤマイサークがゆっくりと、用意された壇上に上がり皆を見渡した。
「皆さん…美味しかったですか?…ここに宣言します。ザイルルド国王はあなた達を守らない。それどころか見棄てた。でも」
その瞬間、さらに転移してくる食糧の数々。
皆から歓声が上がる。
「この国の人口を1年食つなぐことの出来る糧食を私は無償で提供します。…皆で、この国が堕落した元凶…ザイルルドを討とうではありませんか!!」
本来なら誰もがおかしいと思う話。
しかし飢えに飢え、大切な家族までをも失った多くの国民に、その言葉はまさに希望の光だった。
やがて膨れ上がっていく国と国王に向けられる憎しみと不満。
さらには多くの軍関係のものまでもがそれに賛同。
ガザルト王国はこの瞬間から。
泥沼の内紛に突入する。
ガザルト王国は実質。
存亡の危機に立たされた。
経済力と言う力。
ヤマイサークの執念が、この世界最大の軍事力を誇るガザルト王国に、力を信望する王が治めていた王国に。
絶大な楔を打ち込んだ瞬間だった。
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