第213話 最後のメインキャラクター大精霊フィードフォート
幾つもの障壁。
私はそれを突き破り、大精霊フィードフォートの目の前に転移していた。
※※※※※
聖気に満ちた神秘的な空間。
意匠をこらされたクリスタルが共鳴、降り注ぐ陽光が複雑な陰影を作りし様はまさに神々の住処。
まるで神殿のような広大なホールには小精霊たちが色とりどりの魔力を放ち舞い踊る。
名もなき水の大神殿。
その主である水の大精霊フィードフォート。
古の伝説、まさに降臨す―――
息をのむ美しい情景。
私は思わず、近づいてくる女性に目を奪われたんだ。
※※※※※
「ようこそ。ゲームマスター…それに…」
凛とした声の主―――ファナンレイリの実の妹、ヒューマンと番い進化した大精霊フィードフォート。
彼女は静かに微笑んだ。
「お姉さま♡」
神々しい気配はいきなり霧散する。
突然ファナンレイリに抱き着く彼女。
何故かとんでもない勢いで匂いを嗅いでいる?
(ええ―――神々しさっ!どこ行った?!)
「ふわっ?!こ、こら、フィー?!!ちょ、ちょっと…こらあ!」
「はあはあはあ♡久しぶりのお姉さまの香り…あうっ、成長されたのね…ひぎいっ?!!」
ゴンッ!!!!
凄まじい衝撃とともに響く音。
頭にげんこつを落とされようやく離れたフィードフォート。
残念臭がとんでもないんですけれど?
※※※※※
「まったくこの馬鹿妹。…コホン。相変わらずね?…いつ目覚めたのかしら?」
玉座の間。
そこで腕を組み見下ろすファナンレイリ。
でもその顔には。
懐かしい再会に、薄っすらと上気している朗らかな表情を浮かべでいた。
「ううう、ひ、酷い…今日の朝…かな」
「今日の朝?…なるほど。ねえ、ウオロンは?」
「???ウオロン??」
四聖獣の一人、青龍のウオロン。
彼も又ギミックに組み込まれた一人のはずだ。
ファナンレイリはすでに彼の活動を把握していた。
壊された龍姫の欠片。
彼がすでに確保していることに。
なぜか『おまけ』まであるようなのだけれどね?
「あー。…っ!?…近くにいるわね」
「早く結界を解除しなさい。彼ではここの結界破れないでしょうに」
「う、うん…解呪したよ?」
突然膨れ上がる気配。
気付けば後方に、聖獣である青龍のウオロンが跪き頭を下げていた。
「お久しぶりですファナンレイリ様、フィードフォート様…そ、そちらは…っ!?ま、まさか…ゲームマスター様でございますか?!」
全身を覆う鱗。
青く輝く聖気に守られたその姿。
身長は2メートル50センチほど。
頭に種族特性の立派な角を覗かせた、メチャクチャイケメンの人竜族の末裔。
四聖獣の一人、青龍のウオロンだ。
「はじめまして。あなたがウオロンね。…ありがとう、龍姫の欠片保護してくれたのね」
「はっ、もったいないお言葉」
「さすがねウオロン。…元気でしたか?」
「おお、なんという…ファナンレイリ様――束縛は解除されたのですね」
これで希望がつながる。
揃うピース。
悪魔の策―――ぶち破った瞬間だった。
「ねえフィー。あなた束縛とかはないわよね?…その…レアニディーは…」
「…うん。彼は天寿を全うしたわ。でも。私は幸せよ姉さま」
「そっか。…改めて…コホン。大精霊フィードフォート。我は願う。数多の秘術を紬し英脈の彼方―――時は来た『極解呪:崩界』」
光に包まれる大精霊フィードフォート。
彼女とつながっていた秘境の楔。
美しい水色の粒子とともに霧散していった。
「ふう。これであなたは自由。…フィー?」
「…はい。お姉さま」
「一緒に暮らしましょ?我がギルドで」
「は、はい♡」
水を司る大精霊フィードフォート。
愛しあった人『レアニディー』と番い、その身を大精霊へと進化させた唯一の女性。
最後のメインキャラクター。
もちろんエレリアーナの封印や、アランの覚醒はまだ終わっていない。
でもついに私は達成したんだ。
集めたメインキャラクター20人。
物語は静かに最終章へと進んでいく―――
※※※※※
一方残されたエルノールとザナーク。
ダンジョン攻略についてリュナイデル伯爵、そしてニアルデ国王と協議を続けていた。
「凄まじいな。あれが転移魔法と言うものか。…聞いた話ではサブマスターである貴方も使えると聞いているが。どうなのだ?」
「ああ。私も使える。だが…美緒さまの転移魔法は私の数段上の性能を秘めているんだ。彼女の転移は障壁を無視する。―――スルテッド王国の凋落、ご存じだろうか?」
200年前の悲劇。
それは物語としてこの世界では有名なものだった。
「話、と言うか『物語』では知っている。確か伝説の禁忌の魔女。『ガーダーレグト』によって結界を破壊されたことから滅んだ王国だと…っ!?スルテッド?…まさか!?」
「ああ。私は直系の子孫にあたる。だから私の血には転移魔法が付与されているのだ」
静寂に包まれる執務室。
紅茶から立ち上る湯気が揺蕩う。
やがてエルノールの小さなため息が漏れる。
「王国の結界。私の転移では弾かれてしまう。おそらく他の使い手の者でもだ。しかし…美緒さまの転移は違うんだ。すべての障壁を無視する」
ティーカップをソーサーに戻し、改めてニアルデに視線を投げる。
「…彼女は恐ろしく強い。だが―――脆いんだ。―――ニアルデ殿」
「…はい」
「どうか貴殿も、美緒さまを助けてやってはくれまいか。彼女の心を守ってほしい」
ニアルデとリュナイデルは息をのむ。
守る?
「だ、だが。申し訳ないが我らの力など…あなた方の前ではまさにちり芥。とても助けられるビジョンが浮かばないのだが…」
エルノールは紅茶でのどを湿らせる。
その様子をリュナイデルは興味深げに見つめていた。
「ああ。そう言う力ではないんだ。彼女は転生者。そして過去の世界で…彼女は空っぽだった。―――経験が著しく欠如している」
「っ!?それは…だが、具体的には?」
「友人になって欲しい。見たところ貴殿は彼女の魅了『レジスト』していたようなのでな」
「っ!?」
ふっと息を吐き、口を開くリュナイデル。
「コイツには特殊なスキルがいくつかある。その一つ、と言うか複合なのかは知らぬが…確かに適任だろう。他の男ではダメだ。スマンが俺もすでに心を奪われている」
美緒のスキルと言うか称号『超絶美女』
異性では抗う事の難しいスキルだ。
覚悟をもって『娘だ』と心に決めたザナーク。
そしてまだ年若いハイネ。
実にその二人しか抗う事が出来ない状況だった。
好意を寄せられることは悪い事ではない。
だが経験の少ない美緒。
そのわずかなズレが、彼女にどんな影響を及ぼすのか誰も分からない状況だった。
「同姓の友人は数多くいる。しかし異性となると実に皆無だ。…ニアルデ殿。どうか美緒さまの茶飲み友達、そしてあなたの限りない英知で――美緒さまと友人になって欲しい」
思わず天を仰ぐニアルデ。
そして口角を上げる。
「…惚れてもいいのか?」
「ダメだ」
「……ふう。分かったよ。その依頼、喜んで引き受けよう」
「…すまない。頼む」
くだらないことかもしれない。
でも。
強すぎるがゆえに脆い美緒には。
そういう経験、確実に不足していた。
以前の失敗したルート。
彼、ニアルデは登場していない。
幾つもの細かい新たな要素。
実はそれが全てを打ち破る礎になりうること。
誰も知らない事だったが着実に積み上げられていた。
まさに美緒の幸運値がなせる業。
神の想定をも上回る―――新しい物語は今確かに紡がれ始めていた。
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